メルカリのブランド価値を高めるためのプロジェクトを社内の各部署と連携しながら、ブランディング、広告、映像、Web、ノベルティーなど、さまざまなお客さまとのタッチポイントのクリエティブ全般を担うCreativeチームを少し前にメルカンで紹介しました。
今回は「プロダクト(サービス)」ではなく、「コーポレート」という領域において、お客さまも含むステークーホルダー、それは社内メンバーだったり、採用候補者だったり、投資家だったり、有識者だったり、行政や地方自治体だったり、と幅広い領域のコミュニケーションにおけるクリエティブを担うCommunication Design チームにおいて、新たに募集するArt Directorの役割についてフォーカスしたいと思います。
「ことばとデザインでメルカリと世界を動かす」ことをミッションとするCommunication Design チームにおけるアートディレクターの役割は、サステナビリティ、I&D、循環型社会実現のための研究開発、採用、IRなど、会社の取り組みをメルカリらしく伝えるためのコミュニケーションを広くデザインしていくことが求められ、言うなればコーポレートブランディングをデザインから担っていく存在です。
同チームのマネジャー・宮川直実(@naomi)が聞き手となり、これまで多くのコーポレート領域のクリエティブ制作をしてきた松本琢朗(@Takuro)に、メルカリでアートディレクターとして働くこと、メルカリという「人格」、クリエイティブジャンプのさせ方など、徒然に語ってもらいました!
この記事に登場する人
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松本琢朗(Takuro Matsumoto)Creativeチーム/アートディレクター。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業後、デザインスタジオgroovisionsを経て、2021年にメルカリに入社。今、興味があるものはペペロンチーノ。 -
宮川直実(Naomi Miyakawa)Communication Design チーム・マネジャー。慶應義塾大学文学部卒業後、出版社で文芸編集やコンテンツ企画に従事し、2018年メルカリに入社。好きなものは、猫、海外文学、お買い物。
幅広い領域でデザイン制作を行う、メルカリのアートディレクターの仕事
@naomi:Takuroさんのキャリアはアートディレクターから始まったんですか?
@Takuro:キャリアのスタートはグラフィックデザイナーからです。新卒でgroovisionsというデザインスタジオに入社して、6年間ほど勤務しました。グラフィックデザインを中心に、ブランディング、パッケージ、展覧会など、幅広い領域を担当させていただきました。
@naomi:クライアントワークで様々な領域のデザインを経験されてたんですね。そこからどうしてメルカリに?
@Takuro:リファラル入社です。同じCreative チームに所属しているテニス(@tennis)さんに誘っていただきました。僕は、元々彼の仕事をリスペクトしていたんです。彼は時折、冗談なのか本当なのか分からないことを言うような飄々とした人柄ですが、つくるモノはすごく良くて。
そんな人と仕事できる環境に身をおきたいと思ったことと、メルカリにはおもしろいモノをつくったり、いいモノをつくることができる土壌があると感じて入社しました。
松本琢朗(@Takuro)
@naomi:私も入社して初めての会議でテニスさんにお会いして、「こんなふざけた人がいるメルカリはきっといい会社だ」と思った記憶が(笑)。クリエイティブ領域の人が自由度高く、楽しそうにしているってすごく重要ですよね。実際に入社して、モノを作る環境という意味でギャップを感じたことは?
@Takuro:ギャップは感じなかったかな。企画が固まりきる前から参加することも多く、想像以上にCreative チームがプロジェクトに入り込んでいる。また、チーム全体にいいモノをつくろうという空気があると感じています。
@naomi:Takuroさんは各プロダクトやマーケ施策のアートディレクションだけでなく、メルカリグループを横断したコーポレート機能(人事・法務・政策企画・PR・IRなど)の様々な領域でクリエイティブを制作していますね。
@Takuro:プロダクトの文脈では、キャンペーンや新機能のビジュアルのデザインをはじめ、メルカリらしい体験づくりの指針となる「Brand Definition」をもとにプロダクト内のグラフィックやアイコンをアップデートするプロジェクトなどに携わっています。最近だと『メルカリ ハロ』の立ち上げから参加し、ロゴデザインから配布するスターターキットや発表会見まで全体のアートディレクションを担当しました。
コーポレートの文脈では、コーポレートサイトやプレスリリースのビジュアル、社外に向けての資料デザイン、東京オフィスのリニューアルに伴う壁紙まで幅広い領域を担当してます。
「mercari Hallo」
「あなたのメルカリ歴」Art Direction: @Takuro / Motion Design: @gu-megu
@naomi:これまで制作してきたもののなかで、「これは忘れられないな」っていう仕事はなんですか?
@Takuro:メルカリ創業10周年記念のプロジェクトかなあ。新しく策定された「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」というグループミッションを社内に浸透させつつ、これからのメルカリにメンバーがワクワクできるようなクリエイティブをつくることを目標にスタートしたプロジェクトで、キービジュアルをはじめ、これまでの10年の歴史を振り返るインフォグラフィックスなど、全体のアートディレクションを担当しました。
Unleash | Mercari’s 10th Anniversary
@naomi:これ、本当にいいクリエイティブですよね。スタートアップ時代からのカオスやワクワクといった「知っている」メルカリらしさもありながら、いまの時代のコンテクストやムードに接続して表現された「まだ知らなかった」メルカリらしさもある。プロダクトはもちろんですが、コーポレート領域のクリエイティブはメンバーのパーセプションにも大きく関係します。私自身このクリエイティブで、会社が歩んできた10年間の熱狂を追体験できて、すごく楽しかった。
@Takuro:本当ですか、嬉しいですねー。これまで関わってくれた人たちや今のメンバーたちのことを考えながら、誰かにシェアしたくなるようなクリエイティブを目指しました。実は、最初はコラージュではなくイラストのみで制作するつもりだったんです。
でも、ふと社内にいい写真素材がたくさんアーカイブされていることに気づいて、「これを使わないと!」と思ったのが地獄の始まりでした(笑)。各年のテーマに沿ってレイアウトしながら素材を切り抜いたり、自分で手タレをしつつiPhoneで撮影したり、関係者への写真素材の許可取りなど想像以上に大変で…。作業量も考えることも多くて、時間も限られていましたがギリギリまで粘りました。
@naomi:締切ギリギリまで攻めるのも、Takuroさんの信頼できるところです(笑)。
宮川直実(@naomi)
基本となる考えは「メルカリをもっと好きになってもらう」こと
@naomi:Takuroさんのおもしろいところは、デザインするものの幅広さ。ターゲット、トーン&マナーの異なる、コーポレート/プロダクトの領域を跨いだ制作ができる。ふたつの異なる領域を行き来しながら、どのような考え方でデザインに繋げているのかなって、ずっと気になってました。
@Takuro:最初は「メルカリの顔をつくる」ような考え方だったんですが、最近は顔ではなく「人格」だと考えるようになりました。
@naomi:顔ではなく人格をつくる?
@Takuro:はい。「メルカリ」という人格は、「コーポレート」の真面目な話をするときにどんな声でどんな話し方をするのか?「プロダクト」のワクワクするような話をするときにはどんな表情でどんなテンポで話すのか?というようなことを考えています。「メルカリ」という同一人物の表情の捉え方を変えるだけで、クリエイティブで幅を出せるというか…。
プロダクト側は、「Brand Definition」の存在によって方向性が固まってきた感覚があり、大きな範囲の中で自由に動けるのですが、コーポレート側のブランドの方向性はまだ整理段階だと思っています。コーポレート側のクリエイティブは、メルカリのこれまでのクリエイティブを抽出する意識でやっていますね。
@naomi:プロダクト側は制約があるからこそ、逆に自由に動けるんですね。
@Takuro:そうですね。コーポレート側はまだ軸が決まっていないから、クリエイティブでは大きなジャンプをしづらいんです。
@naomi:その感覚はリアルですね。まさに今、私たちのCommunication Design チームではジャンプするための地盤ともいえる、クリエイティブのブランド方針をつくっています。アートディレクターから見て、コーポレート領域の表現はどのように整理していくのが良さそうですか?
「FY2022 Sustainability Report」
@Takuro:ひとことで言うのは難しいけど…ギリギリを探る作業が必要になると考えています。これまでつくってきたクリエイティブの延長だと、小さくまとまってしまう可能性がある。なので、チーム全員が「これだ!」というギリギリのラインを探りながら、遊べる範囲を広げるための可能性を模索しているところですね。
@naomi:コミュニケーションやデザインにおけるメルカリらしさを言語化するのが、私たちチームの重要な仕事でもあるのですが、Takuroさんの過去の仕事を見ていると、すでに言語化しがたいレベルでそれが表現ができていて参考になるんですよね。
@Takuro:大切にしているのは、メルカリ自身を「どう見てもらいたいか」だと思うんですね。サービス側でいうと遊び心があってフレンドリーな印象で、コーポレート側は、ちょっと真面目に見えたり、ちょっと頭が良さそうに見える……みたいな。語彙がなくてすいません(笑)。
@naomi:逆に私は言語的思考に偏りがちな人間なので、デザイナーの人のアウトプットまでのプロセスがブラックボックスみたいで興味深い(笑)。でも自分たちが「何を言いたいか」ではなく、受け取る側に「どう感じてほしいか」、これはブランドの基本的な考え方だと思います。
@Takuro:そうですね。ただ、「メルカリ」という人格で、コーポレート/プロダクトに共通するのは「メルカリに接してくれる人に好きになってもらう」ことです。これは、Creative チームの大きなミッションであり、僕らの仕事だと思っています。だから、コーポレートであっても基本的な考え方は同じで、伝え方が違うだけなのかもしれないですね。
@naomi:なるほど。「好きになってもらう」というのは感覚的だけど、クリエイティブディレクションやコミュニケーションデザインの本質かもしれないですね。Takuroさんとの初めての仕事が、たしか2021年のマーケ施策「#メルカリでハロウィン」のクリエイティブ制作だったんですよ。それがまさにメルカリが無自覚だった“らしさ”に気づけるような、驚きのあるクリエイティブで。
「#メルカリでハロウィン」
みんなが見たいものの半歩先を行ってる感覚があって、「こんなメルカリ見たことない」という違和感にもなりそうなところを、ちゃんと斬新でおもしろいものになっている。そういう感覚が「好きになる」につながるんだと思います。コーポレート領域はどうしても「信頼」や「守り」のイメージを持たれがちだけど、新しい表現をこれからコーポレートでもどんどん探っていきたい。
@Takuro:「見たいものの半歩先」って、めちゃくちゃかっこいいですね!すごく褒めていただいてますけど、大丈夫ですか(笑)?
@naomi:いつもいい意味で裏切ってくるんですよ。まさにジャンプ。ときに、私とっては延髄斬りみたいな(笑)。言葉だけではディレクションできなかった、イメージの斜め上を見せてくれるアートディレクターと仕事するのは楽しいですね。
コーポレート領域のクリエイティブの可能性をさらに探求し、新しい表現をつくる
@naomi:メルカリにおける、クリエイティブディレクターとアートディレクターの役割の違いについては、どう思いますか?
@Takuro:クリエイティブディレクターは「どう見せるべきか」みたいな、コンセプトを立てアイディアを具現化する道筋を考える人だと思っています。一方、アートディレクターは、そのコンセプトやアイディアをもとにビジュアルに特化してモノづくりをする現場監督ですかね。
僕の仕事はアートディレクターに分類されると思うんですけど、仕事を進めていくなかで「ブランドをこう見せたほうがいいんじゃないか?」という気持ちは常に持っていて、クリエイティブディレクターの職域とは切り離せないと思っています。
@naomi:コンセプトもつくっていますしね。
@Takuro:そうですね。僕は一応アートディレクターという肩書きですが、意識的に分けて考えていないのかもしれません。「ブランドをどう見せるか/どう見てほしいか」は、職域関係なく、Creative チームのみんなは常に考えてることだと思います。
特にコーポレートのクリエイティブ制作は、お客さまだけでなく、株主や投資家などのステークホルダーに向けたクリエイティブでありながら、社内の共通理解を促すクリエイティブの側面を持ちます。社内メンバーにブランドの“らしさ”を浸透させつつ、「メルカリで働いてよかった」と思ってもらうことも、コーポレートのクリエイティブの役割だと思っています。
メルカリ10周年記念のプロジェクトは特にそうで、外部のデザイン会社や代理店に依頼することが難しい仕事だったと感じます。コーポレートブランディングは、いつもそばにいる人たちを活気づけるようなところにやりがいがあるんじゃないかな。
@naomi:クライアントワークのデザイナーから、事業会社でインハウスのアートディレクターになって、どんなところに面白さを感じていますか?
@Takuro:意思決定を求められるところだと思います。クライアントワークの場合、外部のパートナーとして関わるので、クライアントに意思決定を委ねることがどうしても必要ですよね。対してインハウスにおいては、戦略を立て「どうするべきか、どうしていきたいのか」を意思を持って決めていかなければいけない。そこが一番違う点であり、面白いところだと思います。「Takuroさんはどうしたほうがいいと思う?」という問いに、最近やっと慣れてきた気がします(笑)。
@naomi:ブランドは中長期で作られていくものですし、ミッションへの理解や共感、そしてやっぱり愛があるのとないのでは、出てくるアウトプットが全然違う。インハウスのCreative チームだからこそ実現できる仕事は確実にありますよね。メルカリはプロダクトを中心にクリエイティブがつくられてきた歴史がありますが、11年目を迎え新しいミッションもできて、お客さま以外のステークホルダー…先ほども話に出た株主や投資家、採用候補者、同業他社や行政関係者とか、そういう方々にも「メルカリを(もっと)好きになってもらう」こと、メルカリの応援者や仲間になっていただくことが私たちの目指すことだと思っています。
@Takuro:コーポレートブランディングに関してはまだ未整理な部分があり、これからつくっていけるチャンスが多いと思います。メルカリのような企業規模の会社で、コーポレートブランディングを新たに形にしていける機会はなかなかないはず。そんな状況を楽しめる人と、ぜひ新しい「メルカリらしさ」をつくっていきたいですね。
また、個人的にはいろいろなクリエイターとコラボしてみたいなと思っています。コンセプトやアイディアは僕らが強く持って、メルカリを外の目を借りることでおもしろく見せる。そんなジャンプした表現を僕自身見てみたいし、そうすることで新しいメルカリのオリジナリティにも繋がってくる気がしてます。
執筆:石川優太 編集・撮影:瀬尾陽(メルカン編集部)