2024年3月、「置き配」専用の配送サービスとして『エコメルカリ便』がスタートしました。100サイズまでが一律730円、自宅の指定場所に置き配するため、利用者だけでなく環境にも配送ドライバーにもやさしいサービスになっています。
今回は『エコメルカリ便』のサービス開発に携わった、バックエンドエンジニアの萩原豪(@oklahomer)、ロジスティックスクライアントチームのAndy Chen(@andyjchen)、PdMの辰巳憲太朗(@tatsuken)による鼎談を実施。プロジェクト立ち上げから、パートナー企業と協業するうえで心掛けたこと、同プロジェクトのこれからの展望などを語ってもらいました。
この記事に登場する人
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辰巳憲太朗(Kentaro Tatsumi)新卒でメルカリに入社。メルペイNetpayment/Credit diesignのプロダクトマネージャー担当、SouzohではメルカリShopsの立ち上げ後、メルカリで配送プロダクトの立ち上げ・改善に従事。現TnS Product Management Team Manager。 -
萩原豪(Go Hagiwara)LINE で様々なファミリーアプリの立ち上げや、コンテンツ・広告のレコメンデーションエンジン開発に従事。2022年3月にメルカリに入社後は、トランザクションチームで開発を担当。2023年1月からはLogistics Backend Teamにジョイン。 -
Andy Chen(@andyjchen)2024年2月にiOSエンジニアとしてメルカリに入社。購入者の顧客体験を改善するため、マイページやアイテム詳細などの分野を担当。2023年3月にはエンジニアリングマネージャー(EM)に役職を変更し、同年7月より新規設立されたLogistics Clientチームを率いる。
お客さまに新たなメリットを提示するサービスを模索した一年
――まずはプロジェクトにおけるそれぞれの役割を教えてください。
@tatsuken:PdMとして本プロジェクトを推進しています。私はこれまで、メルペイ、ソウゾウで『メルカリShops』の立ち上げに関わってきました。ロジスティクスチームにおいても同じく新規サービス開発や、そこでのUX改善を担当しています。
@oklahomer:私は協業企業であるSBS即配サポート株式会社(以下、SBS即配)とのインターフェースの策定をメインに、ロジスティクスの開発チームのメンバーと、SBS即配さんとの間に立って、組織やチームを超えたコミュニケーションに注力する役割を担っています。
@andyjchen:Logistics ClientチームはAndroid、iOS、Webアプリケーションの物流関連機能の実装やメンテナンスを担当しています。私はEMとしてこのプロジェクトのクライアント開発スケジュールの作成と管理を行い、tatsukenさんや、oklahomerさんをはじめとするバックエンドチームのメンバーと仕様や依存関係についてすり合わせて必要な情報を収集し、進行を妨げる障害を取り除くことでリリースに向けてチームが前進し続けられるようにする役割を担っています。
Andy Chen(@andyjchen)
――みなさんは本プロジェクトにいつごろから、どのように関わっていったのでしょうか?
@tatsuken:そもそもメルカリのビジネスメンバーが、SBS即配のみなさまと「何か取り組みができないか」と検討していた下地がありました。そこで「置き配」に限り、送料一律価格でお客さまにメリットを提示するサービスという大枠のコンセプトが決まっていきました。2023年5月~6月ぐらいから、僕とoklahomerさんで具体的にどうやってサービスを実現していくかの検討を始めました。
@oklahomer:2023年6月のキックオフミーティングでは、先方のシステム内部の状況についてのヒアリングや、どういうアーキテクチャを作っていくかなどを話し合いましたね。その後は、SBS即配内の複数配送ネットワークの前面に立つシステムを作っていただく上でインターフェースをどうすべきかなど、一つひとつ組み立てていきました。秋ごろにはインターフェースをFIXできて、andyさんなどのクライアントメンバーにも入ってもらってから開発が加速していきました。
@andyjchen:私たちが関わり始めたのは、2023年7月にLogistics Client チームが結成された後でした。私を含めチームメンバーの多くはロジスティクス分野での経験やこの領域のコードベースを扱った経験がなかったため、迅速に知識を構築する必要がありました。ですが、幸いこの分野での知識と経験が豊富なrozenmoonさんが強い味方となってくれました。クライアント側の開発という観点から、何が実現可能か、どういった複雑さが発生し得るのか、というフィードバックを提供してプロジェクトをさらに改善し、2023年10月に実装を開始しました。
協業で重要なのはお互いのナレッジの共有。そして組織を超えた密なコミュニケーション
――大枠が決まっている中でプロジェクトに入っていったということですが、具体的にどのように議論して、課題やタスクを整理して進められたんですか?
@tatsuken:協業企業であるSBS即配さんは、もともとB向けメインの配送キャリアでした。そのため、C向けサービスの知識やドメインのナレッジはメルカリ側でサポートしながら『エコメルカリ便』というC向けサービスを一緒に実現してきました。従来の『らくらくメルカリ便』や『ゆうゆうメルカリ便』で提携いただいた配送キャリアは、C向けのナレッジがすでにある状態だったので、システムのつなぎこみだけで済みましたが、今回のプロジェクトはもっと手前の段階から一緒に考えていく必要がありました。
例えばEnd to Endでどうやって荷物が運ばれていくのか、それをシステムに落とし込むにはどうしたらいいのか、加えて荷物の受け渡しをどうするかを、オペレーションのメンバーやビジネスメンバーを含めて話し合い、整理していきました。まず、オペレーションが決まらないことには、システムをどうしていくかが決まらないので、そこの優先順位を明確にましたね。
並行して先方とエンジニアのメンバーも巻き込んで、毎週SBS即配さんの倉庫に通い、具体的に倉庫のオペレーションはどうなっているのかを見させてもらいました。かなり密にコミュニケーションをとっていきながら、それぞれ課題や不明点を解消していきました。
オペレーションが決まった後は、その先のAPIインターフェースを決めていくフェーズとなり、エンジニアにも入ってもらって弊社側のナレッジもお伝えしながら、APIを決定して行きましたさらに今回のプロジェクトはかなり制約の多いサービスにはなるので、そこをお客さまにどう伝えていくかを整理していくことも重要でした。
辰巳憲太朗(@tatsuken)
@oklahomer:SBS即配さん側はWebをベースにしたシステムづくりの知見があまりなく、システムベンダーの選定から行う必要があったため、定例MTGの最初の2〜3回の内部のネットワークがどうなっているかのヒアリングに徹しましたし、我々が持っている知見をできる限り提供するようにしました。全体のアーキテクチャに関しても全体像を弊社で書いて、お互いが同じ認識を持てるような提案していきました。
今回、メルカリと『Smari(スマリ)』を提供する株式会社ダイアログとSBS即配という3つのパーティーがどう関わるべきか、それぞれの役割をどうすべきかを、我々の視点で整理して議論を加速させるのが大変でしたね。
@andyjchen:当時、Logistics Client チームはこのプロジェクトだけでなく他のプロジェクトも同時に進めており、その中には『エコメルカリ便』と依存関係のあるものもありました。そのため、プロジェクトをまたがってのスケジュール管理やチームのリソース配分が難しく、依存関係を常に把握していくのも一苦労でした。
もうひとつの難題は、このプロジェクトがかなり大規模で複雑だったことです。自らで想定しなければならないシナリオが数多くあり、ユースケースの組み合わせも多種多様でした。でも、私たちは工夫を凝らしてそれらの課題を解決してきました。「マイルストーン」と呼ばれる手法を活用しプロジェクトを小さな作業単位に分けることで、チームの集中力を高め、プロジェクトの前進に役立てました。
一例でいうと、『エコメルカリ便』の機能をまずは「ゆうゆうメルカリ便」で発送される商品に使用できるようにし、その次に「らくらくメルカリ便」でも使用できるように実装しました。そしてその後、全体的なユーザーエクスペリエンスの改善を行いました。マイルストーンには優先順位を付けていたので、スケジュールやスコープに変更が必要な場合にも柔軟に対応することができました。
低価格だが置き配のみ。そこに価値を感じてもらうには…?
――プロジェクトの中で重要視したポイント、こだわった部分はありますか?
@tatsuken:このサービスはお客さまにとってメリットがありつつも、「置き配」という制約のあるサービスなので、どのようにサービスの価値を感じてもらって、持続的に使ってもらえるようにするかは一番考えた部分です。これはリリース当初だけでなく、中長期的な伸ばし方を含めて言えることですね。
配送料が730円一律で、60サイズから100サイズまで利用できるというのは、どこの配送サービスと比べても安い金額でお客さまにメリットのあるサービスになっています。ただ、置き配が必須となり時間帯の指定はできないので、お客さまがデメリットをこうむってしまうサービスでもある。このようなメリット・デメリットをバイヤーさん・セラーさんにどう理解して、価値提供していけるとより使ってもらえるサービスになるのかは、かなり注力して考えたポイントです。ともすればセラーさんにはメリットがあって、バイヤーさんにはメリットがないサービスに見えてしまうというのは、かなり懸念していたポイントになっています。
そのため「バイヤーさんにインセンティブをお支払いしよう」とか「セラーさんも送料が安くなるWin-Winな関係を作ろう」という話も出ました。けれど僕たちは、金銭的なメリットでのみ使ってほしいわけではないですし、お金以外の部分に価値を見出して利用してほしいと考えています。
置き配しかないので配送事業者が再配達しなくても良いのは、バイヤーさんにとっても良いことをしていると感じてもらえるポイントです。このサービスを使っていること自体が、前向きな意味合いになるようサービス設計を進め、『エコメルカリ便」というネーミングにもその考えを反映させています。実際、ユーザーインタビューをしてみると、「置き配」への抵抗がない方が多く、むしろ「置き配」の方が嬉しいという方も多くいらっしゃったので、最終的にはお客さまの声も参考にしながら決めました。
ゼロからサービスを作っていくという意味でも、今回は難易度の高いプロジェクトだったと思っています。メルカリは基本的にC向けのお客さま同士のサービスで、ほとんどがオンラインで解決する。その中で唯一オフラインとタッチポイントを持つところが、ロジスティクスのドメインです。このドメインで新たな取り組みをはじめようとしたときに、メルカリ社内においてもナレッジが多くあるわけではなく、外部の事業者とのコラボレーションメインでのサービス開発だったため、通常のメルカリのプロダクト開発と比較て特殊性の高いプロジェクトでした。かつ、メルカリにおいて新たなパートナーを交えての配送手段の開発は、おそらく『ゆうゆうメルカリ便」』以来だったんじゃないでしょうか。
@andyjchen:私としては、特にチーム間のコラボレーションに注力をしました。さまざまなステークホルダーが関わったプロジェクトなので、クライアントチーム、バックエンドチームやtatsukenさんたち、あるいはQAなど、本当にさまざまなメンバーが一丸となる必要がありました。
また、今回初めて一緒に仕事をするメンバーも多かったので、できるだけ「つながり」をつくることを意識しました。お互いをよく知ることはもちろん、できるだけいろいろな議論の「場」を持つこと、一緒に課題を解決できるようにスペックについても相談しあったり、質問があればそれがクリアになるように動きました。これらがプラスに働き、誰も孤立することなく同じゴールに向かっていくことができたと感じています。
@oklahomer:今回は協業する他社とのコミュニケーション、もしくはチームや言語の壁を越えたコミュニケーションが多く存在したので、自分としてはシステム的なインターフェースと同じくらい、人と人とのインターフェースにこだわりました。
具体的には、パートナー企業との連携フローの共有時に利用される用語集をつくって、ドメイン知識をみんなで共有していきました。その上でシステム的なインターフェースで何か改善したいところがあったとしたら、弊社からただリクエストするだけではなく、「Webのスタンダードとしてはこういうやり方があって、標準的なライブラリの実装もこうなってるから、こっちに合わせた方が長期的に見ていいかもしれないですよね」というようにお互い納得できるような形で知識を共有して、コミュニケーションをとっていくよう心がけました。
萩原豪(@oklahomer)
業界に革命を起こす「置き発送」も視野に
――『エコメルカリ便』が一都三県でサービスがスタートし、これから全国に展開していく中で、今後何をアップデートしていきますか?
@oklahomer:東名阪のエリア拡大が控えていますが、その先では「置き発送」という新しい取り組みを進めたいと思っています。過去に『らくらくメルカリ便』や『ゆうゆうメルカリ便』の実装に関わったメンバーたちは違うチームに異動したり、すでに退職されていたりするので、今回の実装に関しては一回紐解きながらリバースエンジニアリングをしていくことからはじめました。新しいシステムはどうあるべきか、すでにある仕組みを共通化するためにはどうしたらいいのかを試行錯誤しながら進めてきました。これからはその答え合わせのフェーズに入ってくるし、実はまだまだやることはたくさんあると思います。いろいろな配送キャリアと関わって、ロジスティクスの知識を深めていき、より最適なものをつくっていくというのは、とてもやりがいのある仕事だと感じています。
@andyjchen:最初の立ち上げには一都三県という制約があり、お客さま体験はどうしても複雑になりました。それに伴い基盤となるコードベースの技術も複雑になったので、私たちとしては『エコメルカリ便』の全国展開を心待ちにしているところです。ユーザーからのフィードバックをより多く受け取り、『エコメルカリ便』のユーザー体験とそれを支える技術インフラの両方を改善していきたいと考えています。
@tatsuken:個人的には『エコメルカリ便』で実現したいことの数分の一ぐらいしかまだ実現できていません。まず配送場所に関しても足りてないですし、発送場所に関しても足りていない。いまは100サイズまでしか発送できないのですが、それを160サイズまで発送できるようにできたら、よりお得にサービスを利用してもらえることになります。今後、詳細にデータを取ってUXをどう改善していくかPDCAを回していく段階なので、ここも取り組みたい部分です。
先ほど話にあった「置き発送」は、匿名配送のような革命的な体験となるものですしして、業界を引っ張っていくような新たな取り組みです。自分たちでゲームチェンジすることができるのは、このチームならではの面白さです。
私たちの仕事は、オンラインで完結するものではなく、オフラインも含めて多くのステークホルダーがいます。IT畑ではない人たちも含めて、どう取りまとめてサービスをつくっていくかが大きな鍵です。僕も1年前にロジスティクチームに来たばかりですが、オフラインとオンラインの体験を統合して、より良いお客さま体験をどう届けるかに向き合っていきたいですね。
執筆: 中森りほ 編集・撮影:瀬尾陽(メルカン編集部)