いま、メルカリの営業組織が拡張進化しています。ですが、メルカリグループに「営業」のイメージをあまり持たれていない方も多いかもしれません。実はかなり独自の事業ポートフォリオを展開をしているが故に、営業力を最大化して事業成長させる可能性を大きく秘めています。今回はその可能性についてフォーカスしていきます。
では、どのような戦略で挑もうとしているのか?メルカリの営業体制強化や広告事業の立ち上げなどを牽引してきた、執行役員 General Manager Shops/Adsの江川嗣政(@tsugu)にたっぷり1時間にわたって話を聞いていきました。
この記事に登場する人
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江川嗣政(Tsugumasa Egawa)楽天株式会社にて支社の立ち上げやファッション領域における事業戦略の責任者を歴任し、グリー株式会社に入社。ゲーム事業やマーケティング事業の責任者を経て、グリーライフスタイル株式会社の代表取締役社長に就任。各種メディア事業やSNSマーケティング支援事業を経験したのち、2024年メルカリ入社。執行役員 General Manager Shops/Adsとして主に法人向けの営業強化を担当。
「磨き込まれたプロダクト」×「事業の“幅”」で営業力を最大化する
――2024年の入社以降、執行役員 General Manager Shops/Adsとして、メルカリの営業体制強化や広告事業の立ち上げなどを牽引されてきましたが、改めてtsuguさんの視点からメルカリのビジネスの可能性や独自性、見えてきた課題などを教えてください。
@tsugu:メルカリのビジネスで一番の大きな可能性を感じているのは、やはりプロダクトが一番のビジネスの軸になっていることです。この素晴らしいプロダクトを磨ききる技術力があり、そこにCtoC、BtoC、Fintech、人材という事業が展開されています。
こうした事業ポートフォリオの企業は、国内では他にないと思います。Fintechとコマース、コマースと広告のような組み合わせは結構あると思うんですけど、ここに「人材」が加わった事業ポートフォリオはかなりユニークです。このユニークネスこそが強みでもあります。なぜなら人材事業がカバーしている領域が一番広いからです。ビジネスをする以上、ほぼすべての業種で人を採用しないといけないので、ターゲットの「幅」という意味では、この人材事業があることの強みは大きいです。人材事業の次に幅が広いのが決済です。その上に、BtoCの『メルカリShops』が乗る構造になっています。
江川嗣政(@tsugu)
現在、国内には177万の法人がありますが、人材事業である『メルカリハロ』は多くの領域をカバーできます。BtoCの『メルカリShops』は、卸・小売りがメインになってくるので、177万の法人のうちの大体25%ぐらいです。産業構造から考えても、この人材事業があることで、BtoCだけでなくFintechの営業の効率化ができ、アップセル、クロスセルでサービスをしっかりつなぐ構造ができ上がります。加えて、ここに広告事業が合わさってくるので、トップラインの押し上げ効果が出てきて1人当たりの生産性が最大化されていく、これは自社の事業ながら本当に素晴らしいなと思っています(笑)。
――産業構造的な観点で考えると、自社の強みをかなり最大化できる可能性がありますね!では、ここからは営業組織の現在地を聞いていきたいと思います。
先ほどもお話ししたように、素晴らしいプロダクトと、カバーされている産業の幅、この掛け算がすごく重要になってきます。
メルカリグループのサービスを利用されるお客さまと、小売、メーカー、サービス業などの企業、その2つをつなぐ形で真ん中にプラットフォームとしてのメルカリアプリがあります。このプラットフォームの中には、CtoCのマーケットプレイスだけでなく、『メルカリShops』やクロスボーダーもある。ここで企業がモノを売ることはもちろん、広告を出すことができます。
また、このプラットフォーム外でお客さまの利便性を高めていくという意味では、メルペイでアウターの決済ができるというところと、『メルカリハロ』で仕事ができる、この内外でさまざまなお金の入り口と出口がある循環構造がとてもユニークであると。
また、CtoCのユニークなところは、セラーとバイヤーが表裏一体になっているところです。『メルカリ』でモノを売ったお客さまはプラットフォーム内で売上金が貯まっていく、その売上金やメルペイを使って購入したものが、また『メルカリ』で売られていくという循環がある。この循環構造によって、プラットフォームの内外をカバーするシナジーがすでにつくられている。このシナジーを最大化すること、つまりよりお客さまにアクティブに利用いただくことで、企業に対して提供できるソリューションが大きくなります。EC(メルカリShops)でモノを売れますし、『メルカリ ハロ』ではクルー(利用者)を探すこともできる、また『メルカリShops』に出店していなくても、メルペイの決済を導入をしていただければ、メルカリの多くのお客さまにリーチをかけられます。ここで重要なのは、プラットフォーム内外でしっかりと循環されてるということ。プラットフォーム中のサービスはこれまで以上に強化していきますし、プラットフォーム外にもしっかり広げていく、この両方から事業を加速できることに可能性を感じています。
――なるほど。こうしたグループのアセットの最大限活用によるシナジーには、すでに手応えを感じているところですか?
@tsugu:正直なところ、まだ走りながら最適化しているところ。やっぱり事業がすごいスピードで成長しているので、本当に走りながら整えていくるところではあります。
ですが、メガエンタープライズの企業さまには、我々の複数サービスをソリューションとして提供できることにはすでに魅力を感じていただいています。例えば大手の家電量販店さんとかであれば、メルペイの決済も入れていただけますし、BtoCの『メルカリ Shops』への出店も検討していただき、さらに倉庫などで働くアルバイトの方々を『メルカリ ハロ』で募集もできる。加えて広告事業では、特に『メルカリ Shops』に出店するかどうかの見極めをテストをして、自社サイトに流入して売れるようだったら出店する、というような使い方もある。まだまだ、多分僕も気づいていないアセットの組み合わせによるソリューション営業の方法はあると思います。
――先ほど、プラットフォーム内外でしっかりと循環されてるということが重要というお話しをされていましたが、BtoCとCtoCのそれぞれの品揃えが充実することはお客さまにとってはメリットが多い一方で、セラーでもあるお客さまにとってバッティングのようなものは起きてこないのでしょうか?
@tsugu:バッティングする部分はいずれ出てくる可能性もあると思いますが、食い合いにならない領域もたくさんあると思います。CtoCで売ることが難しい、企業じゃないと売れないものというのは一定数以上存在しています。例えば、食品や高級食材を個人を売るということはあまりなく、むしろ企業だから安定して供給することができる。
また、仮に同じ商品で新品とリユースが出たときはバッティングしているとも言えますが、これはむしろお客さまの選択肢を広げていると考えています。もともとは中古で探したんですけど、たまたま新品も出ていた。これはこれでお客さまにとってはのメリットもあるし、最終的にどちらを選ぶかはお客さま次第なので、BtoBで販売してる事業者にとってもメリットにもなるので、上手く共存していけるのではないかなと思っています。カテゴリーによっては、どう「住み分け」していくかは考えていく必要はあります。
――「住み分け」というのは?
@tsugu:僕のイメージでは、マーケットプレイスは「棚」だと思っていて。お客さまの選択肢をできる限り広げていくため、その棚の品揃えの幅と深さを強化していくことを考えています。例えば、去年『メルカリ Shops』では、カニがすごい売れました。「メルカリでカニがお得に買える」ということがパーセプションとしてしっかりと浸透していくと、お客さまの利用頻度はまだまだ高まっていくと思います。
とは言え、もう一つ考えなければいけないのは、お客さまからしたらAmazonさんや楽天さんのような大手のECで買えばいいじゃんという商品もやっぱりあると思うんですね。もちろん、メルカリのコアファンでいてくれるお客さまはすべてメルカリで買えたほうが嬉しいかもしれないですが、少しでもお買い得にとか、少しでも早く届くとか、それぞれのプラットフォームの強みがあると思います。そうしたときに、我々は大手ECではあまり扱っていない商品が揃ってる状態をつくれると、そのカテゴリーにおけるパーセプションが強化されるんじゃないかと。
そこで可能性を感じているのは流通チャネルが制限されているカテゴリーです。例えば、美容室でしか売っていないシャンプーとか、メルカリと相性の非常に良い推し活の文脈でアイドルのグッズとか、そういった他のECサイトでであまり売られていないものを取り揃えていければ、我々にとって非常にプラスになるなと思ってます。普通にセグメントを切るだけだと差別化が難しいんですけど、流通チャネルでセグメントを切れたら、新たな勝ち筋が見えるんじゃないかと考えています。
Boldな目標に挑戦し、「勝ち筋の方程式」をつくる
――では、目下なにを最優先で取り組んでいますか?
@tsugu:そうですね…先ほど勝ち筋という話をしましたが、いかに再現性をつくっていくかというのが最も重要。やはり、1回で終わってしまうと意味がないんですよね。たまたま狙いどおりのカテゴリーが当たることもあると思うんですけど、そこで戦略の再現性をもたせていかないといけない。
――戦略に再現性を持たせていくというのはすなわち、「勝ち筋の方程式」をつくるということだと思うんですけど、その戦略を実行するために組織づくりも重要ですよね?
@tsugu:「勝ち筋の方程式」はまさにその通りですね。戦略を実行する組織においては、Boldな目標に挑戦したいとか、新規事業に挑戦したい、そういうチャレンジ精神旺盛であってほしい。いかにベンチャーらしく非連続な成長を成し遂げられるか?そのためには、いかに本質的なユーザーニーズを探し当てられるかが一番の肝だなと。その時に大きな目標にチャレンジすることがすごく重要。大きな目標を掲げることで発想が変わって、戦略の精度を増していくと僕は強く思っています。
どんなに素晴らしい戦略があったとしても、チャレンジ精神がないと強い推進力は生まれない。逆にそういうマインドがある人にとっては、多分めちゃくちゃ楽しめる環境だと思うんですよね。いまはまだ、すべて自分たちでつくっていこうというフェーズですが、これからは明確な勝ち筋をつくり、それを力強く実行していくタイミングです。もちろん戦略が上手く当たらず、やり直さなきゃいけないこともあるかもしれませんが、そこも含めてチャレンジだと捉えていただきたい。
少し暗い話をすると、今の日本の経済は停滞していて踊り場だと僕は思うんです。1人当たりのGDPや成長率を見ても、他国と比べて鈍化しているのは明らかです。それはIT業界においても同様で、踊り場に差し掛かりつつある。
そんな中で、基幹事業がしっかりしていて、ここまで積み重ねてきたブランド力もあって、かつ潤沢なリソースもある。加えて、ここからさらに多角化を進めていくこうという野心的な会社はそうそうないです。さらにメルカリには2,300万人のアクティブユーザーがいます。これだけグループ全体のアセットがあって、Boldな目標に向かってチャレンジできるのは、実はめちゃくちゃ恵まれていることなんですよね。やっぱりベンチャーってしんどいじゃないすか、お金も人も足りてないことが多いので…(笑)。
停滞する日本の経済成長を加速できるような事業にしていきたい
――では、営業組織としてのこれからのビジョンをうかがいたいです。
@tsugu:これからは、BtoC、Fintech、人材、広告、それぞれの事業の営業体制を共通化して、営業の生産性を上げるためのシナジーを設計していきます。
いまは4つの事業がそれぞれで動いていますが、アプローチからリード獲得、案件化、商談、成約までを全て共通化を目指しています。SMB(スモールビジネス)のところはインバウンド・BPOで効率的に獲得し、ミドル層のところはアウトバウンドで『メルペイ』も売れば、『メルカリ ハロ』も売れば、『メルカリ Shops』も売れる状態にしていく。そして、ENT(メガエンタープライズ)のところはスペシャリストがしっかりと対応していきます。
ここまで来てはじめて、4つの事業に対するフォーマットが構築されて、次は商材の幅を広げていくというフェーズに入っていきます。クライアントのニーズを捉えて、そこに合わせて各事業で売れる商材をまた作っていき、アップセルのソリューションを構築していく。最終的にはメルカリのグループアセットを一つの“塊”だと捉えて、新しいソリューションを提供していければ、もうかなりの勝ち筋がつくれたと言えます。まあでも、言うのは簡単なんですけど、実現するのはめちゃくちゃ難しいです(笑)。なぜなら、歴史を振り返ってみてもそんなことを実現した会社はありません。一つひとつカスタマイズして、サービスを組み合わせてクライアントに提供することは、やはり生産性が悪すぎるんですよね…。本当に難しいチャレンジだということは自明なのですが、でもそれこそが面白いなとは僕は思うんです。
やっぱりやるから一番になりたい。でも、それは規模だけを追っていくわけではなく、できるだけ多くのクライアントに対してサービス提供ができて、お客さまの体験や満足度が上がるようにしていく、それによって日本の停滞する経済成長をもう一段階加速できるような事業にしていきたいですね。完全に妄想レベルなんですけど(笑)。
そのための土台は僕らがいま作っているので、これから仲間になる方たちには新しいチャレンジをどんどんしていってほしい。「プロダクト×営業」でさらに新しい仕組みを入れて、もう一段階上の成長をつくっていける、エキサイティングなタイミングを一緒に楽しんでいきたいですね。
僕らがチャレンジして得たアセットを、さらに活用して次のチャレンジをしていただける、そういう方々が増えてくるといいなと切に思います。次の次を見据えて、ぜひBoldなチャレンジをしましょう!