メルペイにはさまざまなバックグラウンドを持つメンバーが集まっています。それはエンジニアだけではなく、プロダクトをリードするプロダクトマネージャー(以下、PM)も然り。メルカン連載「メルペイPMってこんな人」は、そんな彼らの思考の原点、その視線の先を追求していく対談企画です。
今回は、メルペイPMでありながら、個人ブログでさまざまな企業のPMをインタビューするなど、日本におけるプロダクトマネジメントの普及活動も行っている丹野瑞紀が登場。これまでインタビューを担当していた川嶋一矢に、PMとしての原点を直球質問しました。SI(System Integration:多種多様なハードウェアやソフトウェアなどのなかから適切なものを組み合わせながらシステムを構築する職務)業界からエニグモ、そしてメルカリUKへ。そのなかで川嶋が導き出した「PMの役割」とは?
PMとしてのキャリアスタートは「BUYMA」
丹野:川嶋さんは2016年のメルカリUK立ち上げから参画し、2018年3月からは東京でメルペイ立ち上げに関わっています。一方で、PMとしての自己発信も積極的ですよね。僕個人としても、いろいろお話を聞きたいと思っていました! さっそくですが、幼少期からプログラミングなどをしていたタイプだったのでしょうか?
川嶋:いや、そういうタイプではありませんでした。初めてのPCは父親が当時のWindows95ブームに乗って買ったものでしたし。IT関連に触れたのも、高校卒業後に入学した海外の大学で、コンピューターサイエンスを副専攻にしたタイミングでした。それも「大学が西海岸にあるから、コンピューター関連の勉強をしておいたほうが生き残れるだろう」という不純な動機で(笑)。卒業後は日本に戻り、SIを行う企業に就職しました。
メルペイPM 川嶋一矢
丹野:ファーストキャリアがSI業界だったんですね。そこからなぜWeb業界へ?
川嶋:規模の大きな仕事が多くて楽しかったのですが、「自分は何をしたいのか」がはっきりしないまま就職していたこともあり、頭の片隅に「ここは自分の居場所じゃないかもしれない」という考えがずっとありました。そんなある日、気になる存在だった会社の先輩が退職することになったんです。退職後に何をするのかと聞いたら「起業する」と言っていて。その後しばらく飲み仲間として付き合いがあり、1年くらい経つ頃に「一緒に働かないか?」と誘われました。それが海外ファッション通販サイト「BUYMA」を運営するエニグモだったんです。
丹野:BUYMAではどんなことをされていたんですか?
川嶋:僕はエニグモにとって初めてのプロダクト系メンバーで、VP of Engineeringとして入社しました。当時のBUYMAはまだ立ち上がったばかりで、開発も外部の会社にアウトソースしていました。僕のミッションは、イケてなかったシステムを改善し、開発を内製化してサービスを立て直すこと。小さなベンチャーだったので企画、開発、運用まで広範囲にすべて自分でやるしかない状態でした。今思えば、これがPMとしてのキャリアスタートでしたね。エニグモの須田社長や経営陣の姿から「どうやってチームやプロジェクトをリードするか」を学べたことは大きな財産です。
「とあるサービス」が紡いだ予想外の人脈
丹野:PMとして、ずっとBUYMAを担当していたんですか?
川嶋:いろいろやっていましたね。実はBUYMAがヒットするまでの間、さまざまな新サービスをリリースし、そこで売上をつくっていた時代がありました。今でこそ新規事業の立ち上げなどでよく用いられるMVP(Minimum Valuable Product:最小限の力で結果を出す手法)は、ここでの経験がとても大きいように思います。
丹野:まさに、「いかにつくり込みすぎず、かつ市場にフィットするものを生み出していくか」を実践し続けた日々だったんですね。それからしばらくしてメルカリにジョインするわけですが、きっかけは何だったのでしょうか?
メルペイPM 丹野瑞紀
川嶋:きっかけになったのは、とある新サービスの失敗だったかもしれません。
丹野:失敗?
川嶋:先ほどお話ししたように、エニグモはさまざまな新サービスを展開している時代がありました。当然ですが、そのなかにはうまくいかなかったものもあったわけです。僕が事業責任者をしていたある新サービスは、当時なかった概念をかたちにしたものだったので、リリースまで困難を極めました。それでもなんとかして、大々的にリリースするはずだったんです。しかし、リリース直後に欠陥が見つかり、すぐにサービスを閉じることになりました。
丹野:それはショックですね……。
川嶋:僕も一時は落ち込みましたが、このサービスのおかげで予想外の人脈ができました。それが、進太郎さん(代表取締役会長兼CEO)との出会いです。結果的にはリリースしてすぐに閉じることになりましたが、それが当時のネット業界では話題になっていたんです(笑)。
丹野:意外な展開になりましたね(笑)。
川嶋:そうでしょう?(笑)。進太郎さんに初めて会ったとき「あのサービスをつくった人? どうやってつくったの?」といろいろ質問されたことは今でも覚えています。成功はしませんでしたが、世の中にプロダクトを出すことで次に繋がったんです。その後、進太郎さんと交流するようになり、僕がエニグモを退職してフリーになったころに「UK版メルカリの立ち上げをやらないか?」を声をかけてもらいました。そして、メルカリUKへのジョインを決めたんです。
メルカリUKで再定義した、PMの役割
丹野:当時はJP版メルカリはもちろん、US版もありました。UK版メルカリの立ち上げに惹かれた理由はなんだったのですか?
川嶋:理由は2つあります。1つは、自分でもフリマアプリをやってみたいと思っていたこと。実はエニグモ時代に挑戦したことがあったのですが、うまくいかなかったんです。それもあり、できればもう一度イチから挑戦できる環境に身を投じたい想いがありました。もう1つは、新規事業の立ち上げを海外で挑戦できることがとても魅力的だったからです。大学時代に身に着けた英語力や過去のキャリアを活かせると考えました。UK版メルカリと同時に会社としてのメルカリUKを立ち上げる必要もあったので「めちゃくちゃ大変だろうな!」と予想していましたが、実際には新鮮な経験ばかりで。このタイミングでジョインし、海外での事業立ち上げを経験できたことにとても感謝しています。
丹野:そこから約2年、どうやって事業にコミットしていたのですか?
川嶋:僕はメルカリUKの執行役員でもありましたので、現地で事業をはじめるためのライセンスを取得したり、法人向け銀行口座をつくったり、さまざまな業務を大小問わず進めていました。一方で、サービスをローカライズさせるため、PMやエンジニアなど、現地での採用活動もしていました。日本に比べて、イギリスでは採用活動においてポジションや職務内容を明確に定義しなければなりません。そのため、このタイミングで改めて「どんなスキルセットを持つ人をPMと呼ぶのか」「駆け出しとシニアPMの違い」などを洗い出しました。メルカリUKは、自分のなかにあった「PMの役割」をよりクリアにできた良い機会だったと思いますね。
丹野:そして現在のメルペイに至ります。
川嶋:そうですね。メルペイ設立からしばらくして、青柳さん(株式会社メルペイ代表取締役)と話す機会がありました。青柳さん自身が、前職であるグリー時代に海外事業をやっていた経験もあり、「海外で新規事業をしていた者同士、その経験をサービスや会社に活かしたい」という共通の意志があることを知りました。また、メルカリUKで働いて2年経とうとしていた頃だったこともあり、PMとしての新たなチャレンジになりそうだと思ったんです。
PMとは「検証サイクルを回して結果を出す人」
丹野:先ほど、メルカリUKをきっかけに「PMの役割」を再定義したと話していました。PMと言えど、フェーズや立ち位置によって求められる役割やミッションが異なります。川嶋さんがメルカリUKを通じて感じた「PMの役割」とは、どんなものだったのですか?
川嶋:すべてのフェーズにおいて言えるのは、僕にとってPMとは「結果を出す人」です。PMは「企画をつくり、プロダクトをつくることがミッション」というイメージも強いです。しかし、最近ではプロダクトをつくってリリースするのはもはや当たり前ですよね。PMはさらに一歩前へ踏み込み、何らかの仮説をもってプロダクトをつくり、検証していくサイクルの精度を高めながらPMF(Product Market Fit)させていく必要があります。
丹野:仮説からひと通りの検証サイクルを回し、PMFさせていくための精度を高める役割、ですね。
川嶋:おっしゃるとおりです。PMにとって「検証サイクルの打席に何回立ったか」は重要だと思います。納得できるKPIを定め、優先順位やロードマップをつくっていく。もちろん、簡単にできることではありません。だからこそ、権限と責任を持って結果を出すことが、PMの役割だと思うんですよね。プロダクトをリリースするとは、その存在意義を市場に問うことを意味します。市場からのフィードバックは、PMとして成長するための唯一の近道。検証サイクルを回せば回すほど、PMとしての成長角度を上がっていくのです。
丹野:たしかに、「いくつ検証サイクルを回してきたか?」という経験値はPMの成長に大きく影響します。そしてシニアと呼ばれるレベルになっていくのですが、その立場になると「PMの役割」もまた変わると思いますか?
川嶋:変わりますし、意識して変えたほうがいいと思っています。シニアレベルのPMのミッションは、プロダクトのビジョンを語り、そのためのロードマップを描くこと。日々の細かなプロダクトマネジメント業務ではなく、プロダクト全体の方向性を理解して「いつまでにどういった価値を提供するか」をまず定義するべきです。どんなにいいサービスでも、ヒットするかどうかは誰にもわからない。だからこそ明確なビジョンを持って検証し、実践し続けることが大事ではないかと。
丹野:メルペイはまさに立ち上げ期ですが、これからのフェーズはPMにとってどんなものになりそうですか?
川嶋:メルペイでは、立ち上げまでにやることはすでにある程度決まっています。リリース後は今の体制にこだわらず、変化に対してフレキシブルに対応していくことになります。PMとして担当サービスの検証サイクルを回しつつ、明確なビジョンを語ってチームをスケールさせていく。これからのメルペイは、PMとしてさらにキャリアアップしたい人にはいいかもしれませんね。
丹野:これから検証サイクルが加速していくフェーズ、ということですね。
川嶋:はい、どんどんおもしろくなっていくと思います。メルペイを含む、メルカリグループの武器は、全社バリューに基づいて行動できるところです。ミッションやバリューがないと、万が一サービスが落ち込んだときにチームがバラバラになってしまいます。共通のビジョンやバリューがあることで、大きな壁を乗り越えられる良い組織になります。メルペイは決済事業なので一筋縄ではいきませんが、性善説をベースに「メルペイらしさ」「メルカリらしさ」をメンバー同士でより意識し、サービスを成功に導きたいと思っています。
プロフィール
川嶋一矢(Kazuya Kawashima)
カリフォルニア州立大学ノースリッジ校卒業後、電通国際情報サービスを経て2006年株式会社エニグモへ参画。VP of EngineeringとしてBUYMAや数多くの新規事業立ち上げを経験し、2012年7月マザーズ上場。2014年より株式会社stulioの代表取締役に就任。2016年3月よりメルカリに参画後、ロンドンへ渡りメルカリUK版を立ち上げる。2018年春に帰国し、メルペイにプロダクトマネージャーとして参画。
丹野瑞紀(Mizuki Tannno)
NTTアクセス網研究所でロボットを制御するソフトウェアに関する研究開発に従事し、その後バーチャレクス・コンサルティング、サイボウズを経てビズリーチに入社。インターネットサービスのプロダクトマネジメントに10年以上携わる。2018年より、メルペイにPMとしてジョイン。個人としてあらゆる企業のPMをインタビューやイベント開催など、日本におけるプロダクトマネジメントの普及活動も行っている。