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特許は転ばぬ先の杖。メルペイが仕掛ける「スタートアップ×知財」戦略

2019-1-9

特許は転ばぬ先の杖。メルペイが仕掛ける「スタートアップ×知財」戦略

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「特許は転ばぬ先の杖」。そう言ったのは、メルペイの知的財産権担当・有定裕晶(ありさだひろあき)でした。

実は、メルペイにとって有定はたった一人の知的財産(以下、知財)専属担当者。入社直後から社内向けに特許勉強会を開始するほか、プロダクトチームに自らのデスクを置いて特許の可能性を探るなど、「特許出願が当たり前なカルチャーづくり」をスピーディーに手がけています。

事業だけでなく、いち企業としても特許は必要不可欠。そんな特許を「転ばぬ先の杖」と言い切る有定は、知財でどのような戦略を描いているのでしょうか。また、彼が特許にこだわる理由とは?

知財キャリアのきっかけは職場見学

ー有定さんは、学生時代から知財に興味があったのですか?

有定:いえ、大学は工学専攻だったので法律を専門的に学んでいたわけではありません。きっかけは、就職活動でした。当時はすでに証券会社から内定をもらっていたのですが、たまたま半導体企業の職場見学をする機会があったんですよ。そこで、特許係争を担当する知財部の仕事に触れ、とても興味を持ちました。もともと交渉事が大好きだったので、そのままその企業の知財部で働くことにしたんです。

ーなかなか興味を持ちにくい印象もある知財分野ですが、有定さんはどのような点に惹かれたのでしょうか?

有定:特許で動く金額規模や背景を知り、そのインパクトの大きさに魅了されました。特許は、パテント・トロール(ライセンス料や和解金などを目的に特許権侵害を主張する、実事業を持たない個人や団体)がビジネスモデルになっているくらいです。アメリカで特許に関する訴訟をした場合、勝敗に関わらず第一審判決までに数億円が必要。経済的合理性を優先して和解したとしても数千万円が一般的でしょうか。このように、特許では億単位のお金が動きます。もはや資金調達と言っていい金額ですよね。知財での仕事が企業に大きな影響を与えると思うとやりがいがありそうだなと。その後LINEを経て、現在のメルペイに至ります。

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メルペイ 有定裕晶

ーどういった経緯があったのでしょうか?

有定:最初の企業では、米国企業との係争担当として特許ライセンス交渉や特許侵害訴訟などを担当していました。しかし、メーカー系企業にある多くの知財部は、交渉部門や権利化部門など、役割が細分化されています。当時の私は知財の交渉事ならわかるけれど、権利化や分析に関する業務に触れる機会がなく、知識もほとんどない状態でした。もちろん、交渉事が好きだったので願ったり叶ったりな部署ではありましたが、知財としてのキャリアを考えると不十分。そこで、スピード感を持って権利化から係争まで、一貫して経験できるスタートアップへの転職を決めました。それが上場前のLINEでした。

ーLINEではどんな業務を?

有定:当時のLINEは日米での上場を見据え、社内外問わず知財への意識や関心が高まっていたタイミングでした。なので、私は知財チーム立ち上げの初期メンバーとして入社し、その後、特許周りはすべて担当するようになっていきました。

特許でプロダクトの勝率を上げる

ーLINEの知財ではどのような業務を?

有定:どの企業の知財でも言えますが、基本的なミッションは特許出願で資産を構築しながら、侵害回避や係争対応でリスクを下げることです。LINEでもこの考えをベースに、優先順位をつけながら業務を行っていました。とくに私が一番やりたかったのは、特許出願に対するイメージを変え、社内のプレゼンスを上げること。なので、当時から開発チームの近くに席を置き、相談を受けるだけでなく「それは出願できるかもしれない」と提案し、関係性を構築していきました。

ーお話を聞いていると、すでにLINEで知財としての経験やスキルをじゅうぶんに得られた印象もあるのですが、次のキャリアとしてメルペイを選んだ理由は?

有定:一つは、メルペイの事業構想を聞いたとき、「自分に何ができるか」を明確に想像できたこと。フィンテック業界は、各社がシェア獲得を目指し、日々しのぎを削っている状況です。そのなかで、メルペイは後発として、モバイル決済事業をスタートさせようとしています。フィンテック関連の特許は他分野に比べてそこまで多くありません。特許を上手く活用することで、プロダクトの勝率を押し上げる可能性を高められると考えました。

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ー特許で、プロダクトの勝率が高まるということですね。

有定:そうです。そしてもう一つは、経営メンバーの知財に対する強い関心と理解があること。特許は「実施予定があるかどうか」が要件ではないため、アイデアベースでも出願できます。毎日のように新しいサービスが生まれるIT業界では、特許に関してもスピードを要求される場面が多くあります。そうすると、経営メンバーの関心や理解は非常に重要です。メルペイには、知財としての力を思う存分発揮できる下地があるように感じました。それと、メルカリの全社バリュー(Go Bold、All for One 、Be Professional)を聞き、自分のなかにスッと落とし込めたことも決め手でしたね。

実現したいのは「メルペイをなめらかに仕上げること」

ー「特許でプロダクトの勝率を押し上げる」ための施策などがあれば教えてください。

有定:メルペイのミッションは「信用を創造して、なめらかな社会を創る」。私が知財で実現したいこともメルペイと一緒なんです。

ーどういうことですか?

有定:私ができるのは、メルペイで特許権という資産を構築すること。そして、他社の特許を侵害するリスクを事前に回避すること。この2つを実現できれば、メルペイで事業をなめらかに進められるだけでなく優位性も確保できるはず。そうすれば、今後新しい機能やサービスをリリースする際にも、なめらかに進められます。まさにメルペイらしい、なめらかな知財を……!

ーミッションに絡めた、見事な回答ですね(笑)。特許出願までには「メンバーから相談がくる」「自ら発明を探しにいく」の2つあると思うのですが、メルペイではどちらの割合が多いのでしょうか?

有定:入社当時はよく見積もっても「メンバーから相談がくる」が2割、「自ら発明を探しにいく」が8割でしたが、最近は半々になってきたかなという肌感です。メルペイメンバーの積極性が為せる技だと思います。

ー特許出願は協力してもらいやすいものなのでしょうか?

有定:特許出願に関してよくあるパターンが「忙しいから対応できない」「それは私の仕事じゃないです」となり、現場メンバーと対立構造に陥りがちということ。その点、メルペイでは代表である青柳直樹をはじめとした経営メンバーの知財に対する関心と理解があるおかげで、発明者が特許出願に時間を割いて指摘されるような事態は耳にしていません。なので、そういった対立構造もありません。メンバー全員が目指しているのは、メルペイの成功です。アプローチが異なるだけで、とてもバランスの良い関係を築けているように感じます。メルペイメンバーが最低限の知識を持ち、自分の業務を遂行しながらも特許を出願できるカルチャーがあれば、企業として最強ですよね。

ー有定さんは特許勉強会を開催するなど、社内のカルチャーづくりにも積極的です。すでに「特許といえば、有定さんに相談しよう」という空気がつくられているように思います。

有定:特許のニオイがしたら、すぐに駆けつけるようにしているからですかね(笑)。技術的な発明はもちろんですが、発想次第ではサービスや機能そのものを特許出願できることも多くあります。私はアプリを開発した経験もあり、技術の概要部分は把握しているつもりです。そのため、知財側でアイデアの骨子を出し、プロダクトメンバーにサポートしてもらいながら特許出願をするパターンもあります。でも、やはり重要なのは特許に対するメンバー全員の意識づくりですね。一人が死ぬ気で頑張るより、全員がちょっと気に掛ける状態の方が質の高い特許を増せます。

「特許は転ばぬ先の杖」と語る理由

ーメルペイを含むメルカリグループは、グローバルテックカンパニーを目指しています。そのなかで有定さんが考える「グローバルテックカンパニーとしての知財」とは、いったい何なのでしょう?

有定:私は最終的に、グローバルで優位に立てる知財体制を創り上げることを目指しています。そのためにも、今は特許出願するカルチャーを根付かせることがミッションですね。

ーそれはグローバルテックカンパニーに限らないことですよね?

有定:そうです。特許は「転ばぬ先の杖」。どの企業でも特許は取得しておくべきです。技術を資産にするために、特許は必要不可欠。何もしなければ他社の特許を侵害して売上が飛ぶような係争対応費用を支払うことになったり、苦労の末に生み出した独自技術を他社に模倣されたりすることもあり得ます。いわば特許とは「独占できる権利」です。実際に独占するしないは、特許権者が決められます。その判断をする立場にいるためには、特許を取得しておいたほうがいいんです。

ー特許出願によって、市場で戦うための選択肢が増えるんですね。

有定:そうなんです。さらに優位性を高めるために必要な「質の高い特許を確保する」「他社の特許を侵害しない」の2つを成立させるには、メルペイメンバーの知財に関する感度を上げることが肝です。特許の権利化に関する費用は、日本だと1件あたり約百万円。これは、サービスをゼロからつくりあげていく過程でかかるお金、さらに言うと係争になったときの費用よりもはるかに安いコストです。そして、技術やサービスを独占できる権利が得られる。ならば、出願しない手はありません。「特許は転ばぬ先の杖」と表現しましたが、杖は投げれば武器にもなります(笑)。

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ーまさに、すべてを立ち上げて次のフェーズへ移ろうとしているメルペイにとって、このうえないカルチャーになりそうですね。今はまだ有定さん一人体制ですが、今後どのようなチームに変化していくのか、とても楽しみです。ズバリ、どんな方と一緒に働きたいですか?

有定:高い専門知識やミッション・バリューへの共感は当然ですが、それに加えて社内を柔軟に動ける方にジョインしてほしいです。まだまだ出願の質も上げていきますし、これから発生するであろう係争の下準備も始めているのですが、現状では人手が足りていない状態です。今のメルペイは、社内を柔軟に動き回れるので、自発的に発明を発掘できる方にジョインしてもらえるとうれしいですね。もちろん、その先に見据えているビジョンもありますが……他社の方もこの記事を見られていると思うのでまだ内緒です(笑)。

プロフィール

有定裕晶(Hiroaki Arisada)

九州大学大学院工学修士修了。ルネサスエレクトロニクスで米国特許係争を担当後、LINEの知財チーム立ち上げメンバーとして特許全般や国内外子会社の知財活動立ち上げを担当。2018年5月よりメルペイで知財全般を担当。Twitterアカウントはこちら

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