メルペイにはさまざまなバックグラウンドを持つメンバーが集まっています。それはエンジニアだけではなく、プロダクトをリードするプロダクトマネージャー(以下、PM)も然り。メルカン連載「メルペイPMってこんな人」は、そんな彼らの思考の原点、その視線の先を、メルペイPMの川嶋一矢が追求していく対談企画です。
今回は、メルペイのIDプラットフォームでPMを務めるKanwipa Lertsumruaypun(カンウィパー・ラートサムルアイパン/以下、Kung)が登場します。メルカリが「売り手と買い手のプラットフォームになる」という思いからスタートさせた共通ID。メルペイの前身とも言える共通IDの開発を手がけ続けてきた彼女の胸の内とは? そこには、彼女が実現したい「理想のプラットフォーム」への想いがありました。
「いつかこの国で働きたい!」と思い、17歳で日本へ
川嶋:Kungさんはタイ出身ですが、そもそもなぜ日本に興味を持ったのでしょうか?
Kung:小学生のころにサマーキャンプで日本へ来たことがあり、人の優しさや文化に興味を持ち「いつかこの国で働きたい」と思いました。そして、17歳になったときに日本の高専(高等専門学校)に合格し、来日しました。
川嶋:17歳! 単身で来日したんですか?
Kung:そうなんです。しばらくして高専から大学へ編入し、卒業後は新卒として楽天に入社しました。最初の2年間はフロントエンドエンジニアとして中国版・楽天市場の検索機能や商品ページを開発、その後はプラットフォーム開発チームでプロジェクトマネジメントをしていました。
メルペイIDプラットフォームのPM Kanwipa Lertsumruaypun
川嶋:キャリアスタートはエンジニアだったんですね。では、いつごろからPMの仕事をするようになったのでしょうか?
Kung:当時はタイに関係するプロジェクトがありました。私はまったく別チームにいたのですが「現地の決済システムを調査しに行きたいから、協力してくれない?」と、タイ出張の通訳として声をかけられたんです。気軽な気持ちで同行していたのですが、タイを巡りながら決済システムに触れていくうちにどんどん興味を持っていって……。帰国してから「Kungさん、決済チームで一緒に働かない?」と誘われ、二つ返事しました(笑)。
川嶋:まさかのきっかけですね(笑)。
Kung:実は私の父が銀行に勤めていたこともあり、お金周りの話はわりと身近なものでした。そのせいか、決済関連のサービスに触れているときも、その仕組みがすっと頭に入ってきましたし、おもしろかった。そして決済チームへ異動し、APIプラットフォーム開発をすることになったんです。ここでPMとしてのキャリアがスタートしました。
メルカリ入社時に担当したのは、メルペイの前身「共通ID」
川嶋:PMとしてのKungさんが誕生したわけですが、そこからなぜメルカリへ?
Kung:楽天のフリマアプリ事業にあった決済周りを担当することになり、「そういえば、ほかのフリマアプリはどういう仕組みになっているんだろう?」と思ってメルカリについて調べ始めました。そこで感じたのは、メルカリは本気で世界中にローカライズしようとしていて、その動きがとてもスムーズで速いということ。調べていくうちにどんどんメルカリに興味を持ち始め、気がついたら選考を受けていました。そして2017年4月に入社し、今に至ります。
川嶋:ちょうどメルカリにとって3か国目での展開となるUK版メルカリがリリースされたころですね。最近では、Kungさんのような海外から来たメンバーが増えていてうれしいです。メルカリでの最初のプロジェクトは?
メルペイPM 川嶋一矢
Kung:当時のメルカリでは、一度作成した個人IDデータをメルカリグループが開発する他のサービスでも共有し、「個人情報などを入れる手間なく新たなサービスを使える」「メルカリでの評価情報が他のサービスでも適応される」という体験を最大化する共通IDの開発が進められていました。私は入社してすぐにソウゾウへ異動し、当時の上司である山本久智さん(現:メルペイPM)とともに、共通IDの開発の1つとしてメルカリ月イチ払いを担当しました。
川嶋:共通IDはメルカリが目指すプラットフォームの第一歩であり、メルペイがつくろうとしている決済プラットフォーム構想にもつながっています。そして、Kungさんが入社当初から一緒に仕事している山本さんは、メルペイの決済事業立ち上げメンバーでもあります。そう考えると、すべてが今のKungさんにつながっているようで、運命を感じますね!
Kung:2017年11月の全社定例で、メルペイが決済事業をスタートさせる発表がありました。そのとき、山本さんから「Kungさんに1つだけ託したいものがある」と言われたんです。それが今私のチームが担当しているKnow Your Customer(顧客確認/以下、KYC)でした。
川嶋:決済プラットフォームをつくろうとしているメルペイにとっては、個人IDやKYCはサービスすべての土台になります。重要なプロジェクトを任されましたね。
Kung:メルペイが挑む決済事業では、これまで以上に法律が密に関わってきます。だからこそ、お客さま一人ひとりによる本人確認を確実に実行し、情報を一元管理する必要がありました。それまでのメルカリでは、月イチ払いやメルカリNOWなど、機能やサービスごとにKYCを行っていたんです。それはつまり、同じグループ内だけどKYCのやり方も情報もバラバラだったということ。それから私がいるメルペイIDプラットフォームチームでは、メルカリグループでバラバラだったKYCを1つにすることも大事なミッションとして掲げるようになりました。
川嶋:ミッションには、そのような背景があったんですね。
Kung:はい。本人確認によって得られたお客さま情報は、とても貴重なものです。スクリーニング(特定条件に合致したものを抽出するシステム)はもちろん、それ以前に注力して進めるべきはお客さま情報を大事に受け取り、正しく整理して安心安全に扱うこと。お客さま同士が安心してメルカリやメルペイを使えるようにするためにも、KYCの情報整備や管理は欠かせません。
「不快に感じさせない本人確認を目指したい」
川嶋:プラットフォームづくりに対するKungさんの熱量、とても高いですよね。メルペイを通じて、どういったプラットフォームを目指したいですか?
Kung:メルカリのいいところは、お客さまがすぐにサービスを使い始められるくらいに簡単であることです。私が今やろうとしているのは、そんなお客さまたちに個人情報を登録してもらうこと。つまり、これまで簡単だった手順に加えて「少し手間がかかること」をお願いしようとしています。これはとても大事な手続きなのですが、手間がかかってしまうことでメルカリの良さである簡単さを失う可能性もあるのです。
川嶋:「簡単にできる」ことと、決済事業をするために必要な情報を登録していただく「少しの手間」、そこには気持ちのせめぎ合いがありますね。
Kung:ありますね。そんな「少しの手間」を、お客さまにとっていかに違和感なく、または不快に感じさせずに「安心安全に使うためにやっている」と思ってもらえるようにすることが、私のミッションだと思っています。そのために、まずはお客さま側で行われる手続きのUXをもっと良くしていくことから始めています。
川嶋:さすが、長年プラットフォームづくりに関わっているだけのことはありますね!
Kung:いえ、これまでほぼプラットフォームづくりにしか携わっていないから、こんな話しかできないんですよ! できれば、もっとファンタジーなプロジェクトをやりたいと思っていたりします。でも、日本で社会人としてのキャリアをスタートさせてからずっとプラットフォームづくりや決済周りの開発、そして資金移動業(銀行以外の会社が事業として100万円以下に相当する金額の為替取引を営む事業を指す)やKYCなど、かたいものばかりなんです。今の仕事は楽しいですが、「まただ!」と思ってしまうことも正直ありますね(笑)。
川嶋:Kungさんが信頼されているからこそ、今のような仕事を任されているんですよね。
Kung:ありがたいですね。だからこそ、メルカリ・メルペイではもっと安心安全なプラットフォームを提供できるようにしたいです。そのためには簡単に使っていただくことはもちろん、本人確認などもしっかり整備する必要があります。そしていつか、タイに進出したいですね。
川嶋:いいですね! それはやりたい!
Kung:タイでは、今や老若男女がスマホを持っていて、買い物もオンラインがほとんどです。なにより、私の両親が「メルカリはまだタイに来ないの?」と言っているので(笑)。進出したい気持ちはとても強いですね。
プロフィール
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川嶋一矢(Kazuya Kawashima)
カリフォルニア州立大学ノースリッジ校卒業後、電通国際情報サービスを経て2006年株式会社エニグモへ参画。VP of EngineeringとしてBUYMAや数多くの新規事業立ち上げを経験し、2012年7月マザーズ上場。2014年より株式会社stulioの代表取締役に就任。2016年3月よりメルカリに参画後、ロンドンへ渡りメルカリUK版を立ち上げる。2018年春に帰国し、メルペイにプロダクトマネージャーとして参画。
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Kanwipa Lertsumruaypun(カンウィパー・ラートサムルアイパン)
2003年春タイで高校卒業後に来日。2011年お茶の水女子大学大学院を卒業後、楽天株式会社の国際市場開発部でアプリケーションエンジニエアとして勤務。2014年同社で決済プラットフォーム開発部にプロダクトマネージャーとして異動。2016年春にソウゾウプラットフォームチームのプロダクトマネージャーとして参画。