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中国のモバイル決済に見る「その先の未来」メルペイCPO×PM対談

2018-10-12

中国のモバイル決済に見る「その先の未来」メルペイCPO×PM対談

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財布を出さず、スマホ1つであらゆる決済ができる「モバイル決済」。それによってAmazon Goや無人コンビニなど、商品を持ったままレジを通り抜けるだけで決済が完了する新たな購買体験も誕生しています。そんなモバイル決済をリードするアリババやテンセントが手がける決済サービスの「その次」にあるものとは、いったい何なのでしょうか。

2018年9月7日、メルペイ主催イベント「【決済の次に来ること】メルペイCPO/PM公開対談〜ChinaとUSを題材に〜」が開催されました。モバイル決済や無人コンビニが積極的に展開されている中国とアメリカそれぞれのトレンドをリサーチしてきたメルペイCPO(Chief Product Officer)松本龍祐、PM(Product Manager)家田昇悟が登壇。中国の2強であるアリババとテンセントがどういった戦いをしているのか、その一方でアメリカではAmazon Goによってどのような購買体験が生まれているのか。実際に現地でサービスに触れてきた松本と家田が「決済のその次」を語り合います。

「誰が支払ったか」を残すことで実現した、なめらかな信用

家田:今日は中国とアメリカの事例から「決済のその次」について、「信用」「消費」「意思決定」の3つをテーマにお話ししていきたいと思います。まずは中国のモバイル決済をリードするアリババとテンセントがどういった戦いをしているのかについて、簡単に説明します。2社ともにスタート地点は違えど、現在アリババはAlipay、テンセントはWeChat Payの決済サービスを展開しています。

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アリババとテンセントの初期から現在をまとめたもの

松本:そうですね。アリババとテンセントは、今も決済サービスとして急速な成長を遂げていますね。

家田:ではまず、最初のテーマである「信用」について話していきましょう。中国では2017年上半期、レンタルバイクとレンタルモバイルバッテリーに4,500億円もの投資が集まったと言われています。レンタルバイクで話題の中国ですが、実はモバイルバッテリーを借りられるスタンドも街のところどころにあるんですよ。利用料は30分20円。日本にも据え置きのモバイル用充電器がありますが、利用料は20分200円。あきらかに価格帯が違います。しかし、中国ではこの価格でも、数か月でちゃんと黒字化できている。

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中国のモバイルバッテリーと日本の据え置き型モバイル用充電器のレンタル料を比較したもの

松本:なぜ10分の1の価格で提供できているのでしょうか?

家田:決済方法の違いが大きな要因ですね。日本での決済は、そのほとんどが現金です。そうすると「誰が支払ったのか」という情報は残りません。中国では、決済時にAlipayやWeChat Payなどのモバイル決済を使う人が多く、支払った本人の情報が残ります。例えばAlipayで支払った場合、Zhima Credit(個人の行動データなどがスコアリングされるAlipayの付帯機能)に情報が蓄積されていきます。そのため「ちゃんと返却している人かどうか」も可視化され、優良なユーザーに対して価格を低めに設定することも可能になる。逆も然りで、返却されなかったモバイルバッテリーは「買い取り」になり、モバイル決済経由でお金が引き落とされます。

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支払った本人の情報が残ることで信用情報が蓄積されていく図

松本:うまくいっているように見えますよね。

家田:ただ、現実はそれほど甘くはありません。中国のレンタルバイクはZhima Creditと連携したアプリで借りることができ、レンタルモバイルバッテリー同様に情報が蓄積されていきます。しかし、ちゃんと返却されずに自転車の山ができているのが現状です。では、レンタルモバイルバッテリーは管理できているのに、自転車はきちんと返却されていないのはなぜか。レンタルバイクはどこに停めてもいい設計になっているため、明確な返却基準がありません。そうすると、人は怠けてしまい、放置してしまう。この状況を打破するため、中国では誰かが怠けた分、他の人がカバーする仕組みがあります。これは人件費などの格差がある中国だからできる仕組みなので、日本でまったく同じ方法を適用するのは難しい。ですが、逆に日本ではそうした部分をテクノロジーで解決することで、よりよいプラットフォームをつくれるのではないかと考えています。

松本:なるほど。

家田:松本さんは2018年2月にメルチャリというシェアサイクル事業をスタートさせました。中国などの状況を踏まえて、何か考えたことはありますか?

松本:メルチャリは提携いただいているコンビニやビルに駐輪ポートがあり、その間を行き来するかたちで自転車をご利用いただいています。ポートに停めなければペナルティがあるというわけではなく、自転車に鍵をかければライド終了です。ただ、放置自転車を防ぐためにトラックで回収をしたり、お客さま自身でポートに戻していただくために「ポート外にある自転車を戻してくれた人にはインセンティブ付与」という仕組みもあります。このあたりは中国のレンタル自転車事業に近いルールですね。

家田:中国のレンタルバイクとの違いを感じることはありますか?

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メルペイPM 家田昇悟

松本:メルチャリには、ポート外に停まっている自転車を戻してくれる人は一定数います。しかし、お問い合わせのなかには「今日もあそこに停められていたんだけれど」といったものもあり、中国に比べて日本は周囲の目が厳しいように感じています。国によってサービスに求められるものが異なるせいかもしれません。

家田:そのうえで、メルチャリのサービス設計で工夫したことなどは?

松本:日本の交通事情は自転車中心ではないので、中国と同じことをやろうとすれば当然ながら反発が起きます。中国のサービスを参考にしつつ「ポート外に停まっている自転車を戻すことが楽しい」と思ってもらえる考え方を取り入れるなど、メルカリらしいオリジナリティを出せるように意識しましたね。

オンラインとオフラインの垣根をなくす「ミニプログラム」

家田:では続いて「消費」についてです。ここでのキーワードはOMO(Online Merges Offline)。OMOとは「これからはオンラインとオフラインの融合するところに起業チャンスがある」という考え方で中国の著名ベンチャーキャピタリストである李开复(カイフーリー)さんなどがこの言葉を使い、起業を後押ししています。中国の投資動向ではOMO領域がメインになりつつあり、オフラインは集客の要になっています。

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松本:OMOの流行は、中国だけではありません。オフラインでの動きをオンラインにマージする、またその逆の動きは日本でもすでに行われています。そもそも決済とは「何か欲しい人」「それを提供する人」の接点であり、物々交換するタイミングです。これまでの決済では、紙幣や硬貨を通じて、お互いのニーズが同期したときに行われていました。しかし、これからはモバイル決済を通じて事前決済するなど、非同期で行われようとしています。最近ではスマホで映画館を検索し座席を予約、事前決済してから映画を見る……なんてことが普通に行われていますよね? これこそまさに、OMOを象徴するオフラインとオンラインの融合です。

家田:OMOの動きで特徴的なのが、ミニプログラムです。これはインストール不要で使える、いわば「アプリ内にあるアプリ」のことです。例えばWeChatにもミニプログラムがあり、連携しているアプリはQRコードなどを読み取ればインストールせず、そのまま使えます。

松本:ミニプログラムの存在が中国での決済をシームレスにし、OMOを広めました。OMOが普及するには3つの要素が必要です。1つ目は、QRコードをスキャンすれば、検索ブラウザにテキストを入力せずとも、サービスが立ち上がること。2つ目は、いちいちインストールせずにWeChat内でアプリを使えること。3つ目は、銀行口座などがすでに紐付けられているので、ワンタップで決済ができること。

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ミニプログラムの存在が中国でOMOを広めた3つの要素

家田:それは感じますね。

松本:決済情報だけでなく住所入力も楽になっていくのはいいポイントですよね。日本では「専用アプリが便利!」と言われても、個人情報をわざわざ登録するのは手間じゃないですか。それを2、3回のタップでクリアできることが、中国の生活を一気に変化させた要因だと思っています。消費者だけでなく、いくつもの店舗がこの流れに同乗していることも大きく影響しています。

家田:決済がシームレスになり、消費行動にも大きく影響しています。その具体例が、無人コンビニです。アメリカはAmazon GO、中国ではさまざまな無人コンビニが登場していますよね。

松本:無人コンビニでの体験はAmazon GOが圧倒的に素晴らしいケースですね。事前に専用アプリをインストールする必要はありますが、その後は自分のアカウントを紐付けるだけで自由に買い物ができます。お店の商品をどれだけ買い物バッグに入れても記録されているので、専用レジを通ると「〇〇と〇〇を購入しましたね」と通知が来て、Amazonアカウント経由で決済されるんですよ。

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メルペイCPO 松本龍祐

家田:中国の無人コンビニはどうですか?

松本:中国の無人コンビニでも、画像認識が活用されています。しかし、Amazon Goに比べると精度は低く無人コンビニの主流ではないです。RFID(ID情報を埋め込んだRFタグから、近距離の無線通信によって情報をやりとりするもの)が無人コンビニ内の商品に取り付けられていて、計算用の棚に置くと、そのサービスに紐づいているWeChatかAlipayで決済されるものが主流です。

信用と消費がなめらかになった先にある世界

家田:これまで「信用」と「消費」の変化についてお話ししました。最後のテーマは「意思決定」です。

松本:「意思決定」は次の未来を指すテーマになっていくと思っています。モバイル決済によって信用や消費行動がどんどんなめらかになると、「何か買いたい」と「決済する」のタイミングはどんどんズレていくように感じます。この動きは、Amazon Dash Buttonのニーズに近いかもしれません。今は定期便しかありませんが、もっと発展すれば日々の行動データから「最近暑いので、いつもより多めに水を注文しましょう」「出張が多いので注文品を減らしましょう」といったことも実現できるはずです。

家田:この世界観を実現するには「何を買ったのか」という購入データが必要です。すでにアリババでは大型量販店などに出資して、場合によっては過半数以上の株を取得して経営権を持ち、在庫情報などを統合しようとしています。さらに中国に600万店舗あると言われる家族経営のお店をフランチャイズ化し、業態を超えたサプライチェーンをつくる動きも見せています。

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大型量販店などに出資し、経営権を持つことで在庫情報を統合しようとするアリババ

松本:アリババがここまで大胆な投資をする背景には何があるのでしょうか?

家田:これまで中国ではEC化がスピーディーに進んでいました。しかし、近年では鈍化し、市場としても飽和し始めています。その証拠に、モバイルインターネットユーザー数は積み上がっているけれど、成長率は下がっています。これにはアリババ代表である馬 雲(ジャック・マー)も「これからは新しい小売をやらなければならない」と話しています。

松本:だからこそ、オフラインへの進出を図る動きが強まっているわけですね。

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ユーザー数は積み上がっているものの、成長率が下がっていることがわかるグラフ

家田:さて、今回のイベントでは「信用」「消費」「意思決定」をテーマに、決済の「その次」についてお話ししました。松本さん、いかがでしたか?

松本:では最後に1つだけ。大事なのは、決済という手段が自由になることだと思っています。これまでの決済で取り切れていなかった「何を買ったのか」という情報を集めることで、購入体験はガラッと変わる。繰り返しになりますが、決済とは、あくまでも物々交換をするタイミングなんです。また、決済はFinTech領域の話に限られた印象が強いですが、実はそれ意外のサービスや事業にも大きな影響を与えます。そういった意味では、本当におもしろいのは決済ではなく、その情報を駆使した「その先」だと僕は思っています。

プロフィール

松本龍祐(Ryosuke Matsumoto)

中央大学在学中より出版系ベンチャーの立ち上げやカフェ経営などを行う。 2004年より中国企業のSNS立ち上げに参画、2006年にコミュニティ企画・運営に特化したコミュニティファクトリーを設立。2009年以降はソーシャルアプリ開発に特化し、写真をデコってシェアできるスマートフォンアプリ『DECOPIC』が2,800万ダウンロードを記録。2012年9月にヤフー株式会社へ会社を売却。その後同社アプリ開発室本部長を担当後、2015年5月よりメルカリにジョイン。ソウゾウの代表取締役を経て、現在は株式会社メルペイの取締役CPO。


家田昇悟(Shogo Ieda)

上海の日本酒コンサルティング会社で営業やイベント企画を担当。その後、株式会社メルカリにて、ID連携やアプリUX改善のプロジェクトにPMとして従事する。新規事業立案のための調査活動を中国で行った後、株式会社メルペイに出向。 株式会社メルペイでは、Product Management Officeにて顧客調査や業界分析、全社のドメイン知識強化施策を主に担当。 個人では、大学在学中から中国のインターネットの動向を追い続け、中国インターネット企業に関わる執筆、リサーチ、講演や中国進出コンサルティングを受託。

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