メルカリが大切にする「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One(全ては成功のために)」「Be Professional(プロフェッショナルであれ)」という3つバリュー。すべてのメンバーがこれらのバリューを胸に、ミッションを進めるなか、とくにエンジニアリングでは「Be Professional」にこだわっています。
メルカリのエンジニアメンバーを牽引するCTO(chief technology officer)、名村卓。日々、彼がエンジニアに問うているのは「メルカリエンジニアにとってのBe Professionalとは何か?」ということ。なぜ、彼がプロフェッショナルにこだわり、あえてエンジニアの行動指針を示したのか。メルカリエンジニアとしての流儀、そしてCTOが考える組織論について伺いました。
メルカリ入社時に抱いた「この組織は個の力で成り立っている」という危機感
ーまず名村さんが入社した当時の組織状況について教えてください。
名村:ぼくがメルカリにジョインしたのは2016年。当時感じたのは「この組織は個の力で成り立っている」でした。というのも、メンバーそれぞれの得意分野を発揮して仕事しているため、「この人がレビューしてくれるから大丈夫」「あの人がいるから、このプロジェクトを進められる」などとなっていて、組織としてワークしていなかったんです。
ーなぜ、そのようなことになっていたのでしょうか?
名村:背景を調べてみると、メルカリには3つのバリューがありますが、そのうちの1つである「Be Professional」が各メンバーによって捉え方が違っていたという事実があったんです。個の力に頼っているとはいえ、当時からメルカリはエンジニア組織としての技術力がとても高い状態でした。しかしこの状態のまま、組織が2倍、そして3倍へと大きくなっていったとしたらどうなるのか……。当然ですが、組織としてワークしていないところへエンジニアを増やしても、その先にあるのは破綻だけだと危機感を抱きはじめたんです。
ー単にメンバーが増えることは、チームのパフォーマンスがあがることではないと。
名村:そもそも、どんな企業でも組織が大きくなっていくにつれて個人のパフォーマンスが落ちていく傾向にあります。10人から20人に増えると純粋にパワーは2倍になりますが、20人から100人に増えるとなるとそうはいきません。ぼくのCTOとしてのミッションは、メルカリの開発組織が大きくなっても、個々の力が衰えない状態をつくり続けること。メンバーが増えても、パフォーマンスやクオリティ、技術力が高まっていく組織をつくりたいんです。
ーなるほど。
名村:では、そうするためにはどうすればいいのか。そこで考えたのが、各メンバーでバラバラだった目線を揃えることでした。そのため、メルカリの3つのバリューを土台に「メルカリエンジニアにとってのBe Professionalとは何か?」を定義したんです。
良い決断をするためにオーナーシップを持つ
ーどのように定義したのでしょうか?
名村:まず定義したのは「オーナーシップを持つ」ということでした。エンジニアとして大事な能力の1つに「決断力」があります。システム環境やスケジュールがあるなかで進められていくエンジニアリングは、まさに決断の連続です。データベースや技術選択などで「今回はこれを取り入れない」「これは新しいけれど、あえて取り入れる」など、何度も決断を重ねていく。その結果、クオリティの高いシステムが完成します。
ー良い決断は、オーナーシップがないとできないと。
名村:そのとおりです。これには各メンバーはもちろん、組織側としてもオーナーシップを持ってもらえる環境をつくる必要があります。「経営側で判断するから、あなたたちは決めなくていい」といった状況があると、オーナーシップは一気に失われる。これは各メンバーが言われたことをやるだけじゃなく、自分で考えて実践・改善していくためにも必要な要素です。誰しもが歯車になりたくないし、経営に関わるぼくとしてもメンバーたちにそうなってほしくありません。みんなが裁量を持ってやりたいことができるように、改めて定義しました。
「新しい技術挑戦をやめない」「失敗を仕組みのせいにする」
ー組織の成長を止めないために、あえて定義したことはありますか?
名村:メルカリは「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションに向けて、サービスや組織、そしてメンバーにも成長が求められます。その成長を止めないために定義したのが「新しい技術挑戦をやめない」「失敗を人のせいにしない、仕組みのせいにする」です。
ーというと?
名村:「新しい技術挑戦をやめない」は言葉のとおりですが、「古い技術にとらわれて、新しい技術選択ができなかった」という状況を避ける意図があります。テクノロジーには、常に新しいものが登場しています。そういったものに順応できず、衰退した企業やサービスはいくつもある。当時からメルカリは技術力が高い開発組織でしたが、一方で現状に満足し、技術的な停滞に陥りはじめていたタイミングでもありました。もちろん、新しい技術選択が絶対に正しいとは限りません。それに「これは取り入れた方がいい!」とすぐに決断できるものでもありません。非常に難しいのですが、「今のままでいいよね」に留まってほしくないんです。これを打破し、新しいものにトライしていく姿勢を保つために定義しました。
ー「失敗を人のせいにしない、仕組みのせいにする」というのは?
名村:これはエンジニアに限ったことではないですが、何かしら問題や失敗があると、メンバー間の心理として「誰のせいでこうなった」となってしまうことがよくあります。問題が起きる原因をがんばっている個人ではなく、「仕組みができていなかったチームや組織にある」としたい。そこで定義したのが「失敗を人のせいにしない、仕組みのせいにする」でした。何かあれば「では、どういった仕組みだと問題が起きないのか」と前向きなコミュニケーションができるんですよね。何より、みんながGo Boldになれる効果がありますし。
「お客さまにとってどうなのか」を考え抜くホスピタリティを持つ
ーメルカリが世界展開を目指すうえで、エンジニアはどんなことを意識するべきだと思いますか?
名村:「ホスピタリティを持つ」ことでしょうか。日本には「おもてなし」という言葉もあるくらい、他者に対する想像を働かせることが文化として根付いています。日本生まれであるメルカリが世界で戦っていくうえでも、「ホスピタリティ(おもてなし)」は欠かせません。サービスのなかには「つくり手にとっての違和感はないけれど、他の人には使い方がいまいちわからない」というものもよく見かけます。これこそホスピタリティの問題です。つくり手であるエンジニアが想像力をフル活用して「このサービスをお客さまにとってどうなのか」を考え抜けば、そういった事態は起こりにくいはずです。
ー「つくり手(エンジニア)として、どれだけお客さまのことを考えられているのか」ということなのでしょうか。
名村:たとえば、画面をタップする位置のほか、動画がスタートするまでの速度1つとってもそうです。エンジニアにとって「この位置でタップできればいい」「これくらいのスピードで再生を開始できればいい」ではなく「本当にこの位置でいいのか?」「お客さまはこのスピード感で本当に満足しているのか?」「毎日メルカリを使っているお客さまが見てどう思うのか?」を考えられているかどうか。この考え方があれば、自分の価値観だけに終わらず「もっと快適にできる」といった議論が起こるはずです。また、先ほど「日本には他者に対する想像を働かせることが文化として根付いている」とお話ししましたが、近年では海外のUX文化のほうが一歩先を進んでいる印象を受けます。
ー日本は遅れをとりつつあるのですね。
名村:メルカリのエンジニアは、ホスピタリティの根底にある想像力を発揮して「お客さまにとってどうなのか」を考え抜き、決断してチャレンジし続けてほしい。それは、ぼくのメルカリCTOとして今後も開発組織のなかで大事にしていきたい価値観のひとつでもあります。
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名村卓(Suguru Namura)
2004年株式会社サイバーエージェントに入社後、アメーバピグ、AWA、AbemaTVなどの新規サービスの立ち上げに従事。2016年7月、株式会社メルカリに参画。US版メルカリの開発を担当、2017年4月、執行役員CTOに就任。