2016年からスタートしたメルカリが主催する「THE BUSINESS DAY」。「THE BUSINESS DAY」とは、経営やコーポレート部門に携わるビジネスパーソンが知見を共有し合うカンファレンス。第2回目となる今回も、ビジネスの第一線で活躍するキーマンが一同に集い、「IPO」「成長戦略」「組織マネジメント」など、多岐にわたるテーマについてディスカッションを交わしました。
本セッションのテーマは、「『メルカリの次』をつくる新規事業・海外事業経営」。スピーカーは、株式会社メルペイ取締役の横田淳、株式会社ソウゾウ取締役の掛川紗矢香、US版メルカリプロダクトマネージャーの片岡慎也、モデレーターは株式会社メルカリ執行役員 VP of People&Culture兼社長室長の唐澤俊輔です。
メルカリのプラットフォームを活かし新たな金融サービスに挑むメルペイ、「次のメルカリ級事業を創る」をミッションに掲げるソウゾウ(メルカリ100%子会社)、そしてメルカリの世界展開を託されたUS版メルカリ。同じメルカリグループでありながら、サービスやフェーズが異なる各社ですが、その全貌はあまり知られていません。本セッションでは新規事業、そして海外展開にチャレンジするメルカリグループの最前線、そしてこれからに迫ります。
スタートラインに立つ、メルカリグループ新規事業の今
唐澤:このセッションは「『メルカリの次』をつくる新規事業・海外事業経営」ということで、メルペイ、ソウゾウ、そしてUS版メルカリを牽引する3名に組織や事業の現状、そしてこれからについて伺っていこうと思います。まずはサービスの紹介を含め、それぞれの現状を聞かせていただけますでしょうか? では、メルペイの横田さんからお願いします。
横田:メルペイはまだ世の中に出ていないサービスなので、想像しにくいと思いますが、いわゆるスマホのペイメントサービスです。上海などでは既に日常生活に溶け込んでいるサービスですが、スマホひとつあれば何でも決済ができる世界をつくろうとしていて、私たちはそれを「なめらかな社会」と呼んでいます。いずれは決済サービスから派生し、さまざまな金融サービスをつくりたいと考えています。
唐澤:ありがとうございます。今は仕込み中という状況ですよね。では、次にUS版メルカリの慎也(片岡)お願いします。
片岡:はい。US版メルカリのローンチは2014年9月で、DLは約3,000万を超えました。ローンチ当初から、日本とアメリカ(以下、US)の両方でチームをつくり、開発・運用をしていましたが、去年6月には元Facebookのバイスプレジデントであるジョン・ラーゲリン(取締役CBO兼US CEO)が参画するなど、徐々に現地メンバーも増やしはじめた状況です。
唐澤:USオフィスはメンバーも増えて、今すごく盛り上がっていますよね。では次にソウゾウのかけちゃん(掛川)お願いします。現在は、メルカリやメルペイに次ぐ新しいサービスをつくっている状況でしょうか?
掛川:ソウゾウはメルカリの100%子会社として、さまざまな新規事業を手がけてきました。これまではメルカリの事業拡大に寄与するサービスをつくってきましたが、今年7月に新体制のソウゾウとなり、「次のメルカリ級事業を創る」というミッションに向けて再始動したところです。メルカリとはまったく異なる事業領域でゼロからビジネスをつくりはじめている状況ですね。
8か月で200名の採用に成功。メルペイ「予言の書」とは
唐澤:ありがとうございます。メルペイの設立は去年11月なので、まだスタートして8か月くらいですよね。現在の社員数はどのくらいですか?
横田:メルペイの社員は現在200人くらいいて、まだまだ採用を続けています。
唐澤:わずか8か月間で200人を採用するって、ものすごいスピードですよね。事業開発と採用活動を同時に進めること自体、難しいように思います。具体的にどのような採用基準を設けていたのでしょうか?
横田:メルペイというサービスはメルカリと密接に関わっているサービスなので、採用基準はメルカリと同様、3つのバリューにシンクロしています。でも、 今後はソウゾウの行動指針に「Move Fast」という言葉があったように、メルペイ独自の要素を少しずつ加えてもいいかもしれませんね。現状は、メルカリと同じバリューを大切にしながら採用を進めています。
唐澤:なるほど。日々のなかで会社のミッションなど、大きなテーマについて話し合う機会は多いんですか? メルペイは頻繁に合宿を開催していますよね。
横田:日々忙しいので、ゆっくり考える時間をあえて設けるように意識していますね。合宿については、代表の青柳(メルペイ代表取締役社長)が大好きで、「毎月やろう!」と(笑)。さすがに毎月は多いので、現在は2か月に1回のペースで開催しています。経営陣合宿、マネージャー合宿、そして全社員合宿など、いろんな切り口で開催していて、短期的なビジョンではなく中長期的なビジョンについて議論をする場として機能しています。
唐澤:会社を立ち上げた当初は、どのような議論が行われていたのでしょうか?
横田:メルペイの創業時は「どのような会社をつくっていうこうか?」と、組織や事業を含めた話を中心にしていましたね。5年くらい先の未来を考えながら、「予言の書」というものを書いたり。
唐澤:……「予言の書」ですか(笑)。
横田:事業や組織など、会社の未来予想図を書いたものです。まだ設立して8か月しか経っていませんが、一応「予言の書」通りに歩むことができていて(笑)。詳細は言えませんが、5年後には結構大きなサービスを実現させたいと思って取り組んでいます。
唐澤:まさに予言通りですね。ソウゾウは、人を最小限に絞って組織をつくっていますよね。そこにはどのような狙いや意図があるのでしょう?
掛川:ソウゾウには、現在10人のメンバーがいるんですが、今後採用するとしても最大で40人程度の組織までにしようと話をしています。なぜなら、ひとつの事業をマネジメントしていくには、 1クラス分(30〜40人)くらいを見るのが限度ではないかと思っていて。
唐澤:そもそも事業のフォーカスの仕方が違いますもんね。
掛川:そうなんです。メルペイは金融という大きい領域のなかでさまざまに派生していく事業ですが、ソウゾウが今チャレンジしているのはひとつの新規事業にフォーカスし、それを大きくしようとすることなんですね。なので単純に人を増やせば良いという問題ではない。きちんと目が行き届いた環境で、より成果の高いビジネスをつくることが重要だと思っています。
唐澤:では、メルカリUSはいかがでしょう? 日本とUSにオフィスがあると、チームや組織のカルチャーをどちらに合わせていくべきかなど、議論が起こりそうですよね。
片岡:まず私たちがやろうとしていることは「シリコンバレー級の組織をつくる」ということ。組織の制度等については、USオフィスを中心としてその議論に私などが関わりながら日本オフィスでUS事業に取り組んでいるチームにも適用させているようにしています。結果としては評価制度や給与体系など、日本からみても違和感がない内容になっています。
唐澤:グローバル化する際に難しいのは、日系企業特有の「日本らしさ」をどこまで世界にインストールするかという点。その一方で組織をシリコンバレー級にするとなると、どこまでローカライズすべきかという議論も出てくる……。
片岡:どうでしょう。特に「日本らしさ」を意識したことはないですね。私自身、海外留学のバックグラウンドがあるため感じるのですが、どれだけ私がUSに染まったとしても、USの人から見れば私は日本人なんですよね。どう足掻いても日本人であることは隠せないし、「日本らしさ」は自然と出てしまうもの。
掛川:あえて何も意識していなんですね。
片岡:そうですね。なのでUS版メルカリをUSと日本とで共同開発するなかで意識しているのは、純粋にシリコンバレーの文化を吸収して、それを解釈し、自らの言葉で日本のメンバーに伝えることのみ。そこには私らしさや日本らしさが含まれていると思いますし、逆に日本のメンバーの意見をUSメンバーに伝えるときも、同じように「日本らしさ」が出ていると思います。
「サービス名を変えるべきか?」US版メルカリに立ちはだかった文化の壁
唐澤:これまでは組織やチームづくりを中心に伺ってきましたが、これからは事業について伺っていきたい思います。メルペイは決済サービスに取り組んでいますが、大手企業をはじめ競合が多いと思います。それらを踏まえて、どのあたりに勝ち筋を見出しているのでしょうか?
横田:やはりメルカリがあることが一番強いですよね。モノを売り買いできるマーケットプレイスがグループ内にあって、そこには既にお財布機能が付いている。これは最大の優位性かなと思っています。「予言の書」では最終的にムテキングみたいになると書いてあるのですが(笑)、競合が多くひしめき合うなかで最後発のサービスです。「自分たちの強みは何なのか」と、常に自問自答しながら事業づくりをしています。
唐澤:ムテキング(笑)。決済サービスをつくるという意味では、営業機能も強化していかなければなりませんよね。メルカリはCtoCサービスなので営業機能はありません。その点は大きな違いですよね。
横田:その通りですね。最近、メルペイコネクトという会社(メルペイの法人利用基盤の拡大に向けたサービスの提供・コンサルティング)をつくりました。これはメルペイが使える加盟店を増やすために、どこに営業するべきかを戦略的に考える組織なのですが、サービスを拡大させるためには欠かせない重要な役割を担うポイントだと思っています。
唐澤:なるほど。ソウゾウは現在、新たなビジネスの種を探している状況でしょうか? 次は何を仕掛けるのか気になるのですが、まだ教えられないのでしょうか(笑)。
掛川:……そうですね(笑)。この2か月間は、どの事業領域でチャレンジするのかについて議論をしていました。つまり、メルカリ級のビジネスがつくれる事業領域はどこかと。実は先日、ようやく事業領域が決まったんです。この場では申し上げられないのですが、今後社外向けに発表する予定なので、これから一気にドライブしていきます。 (※イベント後日、「旅行業界」に参入することを正式に発表しました)
唐澤:ちなみに、本日はみなさん各社のロゴのTシャツを着てるんですけど、それはソウゾウのTシャツではないですよね??
掛川:いや、これソウゾウのTシャツなんですよ。「Jump from the edge」って書いてあるんですけど、背水の陣で頑張ろうという意味で。でもこの英語(「Jump from the edge」)では、既に崖からジャンプしちゃってますね(笑)。まぁ、でもそういう気持ちでやっています!
片岡:飛んじゃったらだめでしょ(笑)。
横田:ただオシャレなだけじゃない、気概が伝わるTシャツです(笑)。
唐澤:USはUIやロゴをはじめ、リブランディングに力を入れていますよね。
片岡:そうですね。アプリローンチ当初、JP版とUS版のUIやロゴはほとんど同じでしたが、今年の3月には大きなリブランディングを実施し、ロゴも刷新。それに合わせて、アプリ全体のデザインもつくり変えました。
唐澤:メルカリJP版のロゴとはまったく違うテイストですよね。赤いボックスがなかったり、色も違う。
片岡:そうですね。US版メルカリロゴは「覚えやすさ」と「遊び心」を意識しています。JPメルカリはマーク(赤いボックス)と文字(mercari)で構成しているのに対し、US版は文字だけ。その背景としては、マークが認識しづらいという課題がありました。赤いボックスが「箱」と認識しづらいとか、ボックスからでている青い丸の意味がわからないなど……。
唐澤:日本人とは異なる感覚ですね。
片岡:そう思います。JP版ロゴを否定をしているのではなく、USではそのような感覚を持っている人がいるという事実をまずは受け止めようと。USで勝ち切るための戦略として、サービス名をロゴのみにすることを決めました。
唐澤:そんな背景があったんですね。「メルカリ」というサービス名自体は、USに馴染めそうですか?
片岡:「メルカリ」ってラテン語で「マーケット」という意味なんですけど、実はUSでもその意味を理解している人はは少なく、ラテン語に近いスペイン語を知っている人でも何となく理解できる程度で。実際、リブランディングを検討している過程で、サービス名を変えようという議論もありましたが、一度覚えたら忘れないユニークさを活かすべく、このままでいこうと決まりました。
唐澤:やはりローカライズはとても重要なんですね。
片岡:かなり重要です。細かい話かもしれませんが、現地の人と同じ食事をとって、同じ電車に乗って、同じ空気を吸うこと。ライフスタイルを合わせることで「アプリのUI・UXってこうあるべきだよね」という議論がはじめてできるようになるんです。特にPM(プロダクトマネージャー)は、現地の文化や感覚を知らないと務まらないし、良いプロダクトはつくれないと思いますね。アプリ全体に影響を与えるとまでは言いませんが、一部には深く影響を与えると思います。特に決済や配送についてはローカライズの視点がないと務まりませんね。
唐澤:今後のUS版メルカリが楽しみですね。
片岡:組織的にもマーケティングのトップ、CSのトップ、プロダクトのトップ、エンジニアリングのトップなど、各セクションのリーダーが揃ってきて、リスタートを切れる準備が整ったという状態です。現状、まだ若い組織ですが、シリコンバレー級の組織になるためにしっかりとした評価制度をつくっている最中ですし、プロダクトも数字を中心に仮設を考えてプロトタイプをつくりA/Bテストなどをしながら開発をしています。本当に愚直な意思決定を積み重ねながら、走りはじめている状況です。ぜひ期待していてください。
唐澤:ありがとうございます。残念ながら、終了のお時間になってしまいました。メルペイ、ソウゾウ、US版メルカリ、いよいよ本番といった感じですね。これからどんなサービスとなり、どのように成長していくのか。同じメルカリグループととして、一緒にがんばっていきましょう。
登壇者プロフィール
横田淳(Jun Yokota)
株式会社エヌ・ティ・ティ・データを経て、創業間もないサイバーエージェントに入社。グループ全体のコーポレート業務に従事する傍ら、多数の新規事業やグループ会社の経営支援、特命案件業務に従事。経営本部長、執行役員を歴任。株式会社 AbemaTV取締役として動画事業の立ち上げ等に尽力。同社を退社後、2017年6月にメルカリ/ソウゾウに入社、執行役員に就任。また、2017年11月に設立したメルペイの取締役に就任。趣味はマグロ釣り。
掛川紗矢香(Sayaka Kakegawa)
株式会社ソウゾウ取締役兼株式会社メルカリ執行役員。東京女子大学英米文学科卒業後、エンタメ系の会社を経て2009年6月グリー株式会社に入社し、海外子会社立ち上げ、グローバルアカウンティングマネジャー等を担当。 2013年10月より株式会社メルカリに参画。米国子会社設立、コーポレート基盤及び体制の確立等を手がけ、2015年2月執行役員就任。
片岡慎也(Shinya Kataoka)
メルカリUSチームのプロダクトマネージャー。オハイオ州立大学を卒業後、コンサルタントとして従事。アスクル株式会社、グリー株式会社、株式会社フリークアクト・ホールディングスを経て、2014年7月にメルカリにジョイン。現在US版メルカリ東京オフィスのプロダクトチームのマネジメントを務める。
唐澤俊輔(Shunsuke Karasawa)
株式会社メルカリ執行役員VPofPeople&Culture兼社長室長。慶應義塾大学法学部卒業。グロービス経営大学院経営学修士(MBA)修了。大学卒業後、日本マクドナルドへ入社。28歳にして史上最年少で部長に抜擢され、社長室長やマーケティング部長を歴任。その後、2017年9月よりメルカリへ入社。4月より執行役員VP of People & Culture 兼 社長室長として、人や組織の観点から急成長するメルカリのさらなる拡大やグローバル化を推進している。