2016年からスタートしたメルカリが主催する「THE BUSINESS DAY」。「THE BUSINESS DAY」とは、経営やコーポレートを担うビジネスパーソンが学び、出会い、実行するためのカンファレンスです。第2回目となる今回も、ビジネスの第一線で活躍するキーマンが一同に集い、「IPO」「成長戦略」「組織マネジメント」など、多岐にわたるテーマについてディスカッションを交わしました。
今回レポートするセッションのテーマは「メンバーが振り返る『メルカリ上場』までの日々」です。ゲストには執行役員CFOの長澤啓、Accounting/Taxグループの李裕満、Corporate Legalグループの岡本杏莉、IRグループの小池綾が登壇。2018年6月に東証マザーズ上場を果たしたメルカリですが、その裏側には多くのドラマがあったようです。IPO準備を振り返りながら、メルカリの企業文化や今後の展望に迫ります。
メルカリ流IPO準備のポイント
長澤:IPO準備と一口に言っても、具体的な業務のイメージはなかなか湧きづらいですよね。そこでまずは、IPO準備のために結成されたチームを統括した岡本に、どのような準備をしてきたのかについて聞きたいと思います。
岡本:IPOに必要な業務は大きく分けて、「審査対応」「開示書類作成」「マーケティング戦略」の3つです。審査対応とは、東京証券取所(以下、東証)や証券会社によって行われる審査で、上場できる準備がきちんと整っているかを確認するためのもの。さまざまな項目について審査が行われますが、たとえば「予実管理の体制が整っているか」については、予算の合理性やそれに従った事業運営が正しく行われているか厳しくチェックされます。審査方法は書面回答やインタビューなど多岐にわたるため、メンバーで手分けして対応を行いました。
長澤:審査においては非常に細かい質問も数多く受けたので、対応が結構大変で……多岐に渡るチームメンバーに協力してもらって進めましたね。「開示書類の作成」と「マーケティング戦略」についてはいかがですか?
岡本:開示書類に関しては、目論見書やプレスリリース、パンフレットなど、書類全体の整合性が取れているかを細かく確認することに膨大な時間がかかりました。しかも、今回のIPOはグローバルオファリングでしたので、日本語と英語の2か国語展開。これにより負担は倍以上になったと思います。また、マーケティング戦略として行ったことは2つ。1つが会社の魅力を投資家に説明・アピールするためのエクイティストーリーの作成です。メルカリの概要やサービスの魅力についてまとめたロードショーマテリアル等のコンテンツをつくり、投資家にプレゼンを行いました。2つ目は投資家との関係を構築するためのIR活動。実は、IR活動については非上場の頃から力を入れて取り組んできました。当時は上場の具体的な計画がなかったので、当然IPOに関する話はしていませんでしたが、長い時間をかけてメルカリのサービスやビジネスモデルの強みを投資家に伝えてきたので、より深い理解や信頼を得ることにつながったと思います。
「実はIPO未経験者揃いのチームだった」手探りの準備期間を振り返る
長澤:今日はIPO準備に携わったコアメンバーに集まってもらったので、それぞれが担当業務で大変だったことや印象に残っていることについて教えていただきたいのですが、いかがですか?
李:私が驚いたのは審査対応ですね。別会社でIPOに携わった経験のある友人から、事前に「東証からの質問は3回くらいだよ」と聞いていたので、そのつもりでいたんです。そうしたら、3回どころか何度も質問状が届いて……。それにはさすがに驚きましたね。でも、それは東証がメルカリという企業やサービスについてもっと知りたいと思っている証でもある。株式市場からも高い注目を集めたメルカリで、IPOに携われたことはとてもいい経験になりましたね。
小池:私が担当していた分野において一番大変だったのは、先ほど岡本も話していたロードショーで利用するマテリアルや動画等(日本語・英語)でのコンテンツ制作です。メルカリという企業やサービスをより理解していただくために、日本だけでなく海外の投資家にも向けて「どのような情報」を「どのように見せる」ことがベストなのか、「動画という特徴をどう活かす」かなど、お客さまではなく投資家に適した情報設計が必要になるため、非常に試行錯誤しましたね。他社の事例を調べたり、周囲から客観的な意見を聞いたりして、なんとか納得のいく動画をつくることができました。
岡本:私は元々弁護士ですが専門はM&Aなので、IPOに関わった経験はゼロでした。なので、IPO準備に関わるチームのプロジェクトオーナーにアサインされたときは、正直かなり不安な気持ちでしたね。ほかのメンバーも未経験者ばかりだったので、まさに手探りな状況からスタートしました。でも今回、チーム全体をマネジメントすることができたのは、とてもいい経験になったと思っていて。「IPO準備室」のような特別なチームが立ち上がるわけではなかったため、メンバーには通常業務に加えてコミットしてもらう必要がありました。コアメンバーは約20名。上場のタイミングが近づくに連れ作業量も多くなり、最終的には40〜50名ほどのメンバーが関わっていました。それだけのメンバーに指示を出したり、細かなタスク管理もしなければならなかったので、デイリーベースでスケジュールを引き、毎日「○○さんは○○をよろしくお願いします」と連絡を入れて。東証から上場が承認されたときは、心からホッとしましたね。
長澤:ここにいるメンバーはメルカリの在籍年数がバラバラですよね。小池に関しては、まだ入社1年くらい。IPO準備を経験して、改めてメルカリにどのような印象を抱きましたか?
小池:メルカリは、発信力や行動力のある個人が集まっている企業だと思います。それぞれが専門性を持っていて、きちんと自立しているというか。その一方で、会社として未整備な部分もまだまだあるとも感じました。メルカリは、創業してまだ5年目の会社です。サービスや事業の成長スピードに対して、会社としてあるべき姿になれていない部分も多い。でも、だからこそやりがいが生まれますよね。ミッションやバリューを大切にするメルカリらしさを残しながら、0から1を創り、新しいことにどんどんチャレンジできる環境で働けることは、ここでしか味わえない醍醐味だと思っています。
経営戦略と資本戦略は表裏一体。メルカリのミッション達成への道のり
長澤:もっといろんなことを話したいのですが、お時間が限られていますので、会場にお越しのみなさまからのご質問にお答えできればと思います。いかがでしょうか?
質問者A:投資家にプレゼンする際、刺さりやすいメッセージなどはありましたか?
長澤:メルカリには大きく分けて3つの成長戦略があるということを説明しました。1つ目は「メルカリ自体が日本でまだまだ成長できる」ということ。そもそもフリマ市場に伸びしろがあるので、メルカリの月間アクティブユーザー数を1,000万人から数倍に引き上げるための戦略を伝えました。2つ目は「メルカリグループの新しいサービス『メルペイ』を広げていく」ということ。これはメルカリというマーケットプレイスを活かした決済・金融サービスであるため、投資家も今後の展開や成長を想像しやすい施策だと思います。そして最後は「海外展開」です。USやUKが軌道に乗るといまの5倍から10倍といった規模にまで成長できるということを説明しました。投資家に会社の将来的な成長を見込んでいただけるようなストーリーをつくることは、強く意識しましたね。
質問者B:メルカリの代表取締役会長兼CEOの山田(進太郎)さんが考える経営戦略や資本戦略の特徴について教えていただけますでしょうか?
長澤:手前味噌な表現をしてしまいますが、山田は目線の高い人間です。目の前の時価総額に執着せず、それよりも10兆円、20兆円になるためにはどうすべきかを常に考えている人間なんです。なので、短期的な利益よりも長期的な利益を優先するため、同じようなマインドや視点に立って事業を考えてくれる投資家を求めていました。先ほど述べた3つの成長戦略も短期的に大きな利益を得られるかと言われたら不可能です。上場が承認された日に、山田から投資家をはじめとしたみなさまへ「創業者からの手紙」を公開しましたが、そこには今後も人とテクノロジーに投資を続け、よりよいプロダクトをつくるというメルカリの明確なメッセージが綴られています。目先の利益にとらわれず、長期的な視点に立った成長戦略は山田だけではなく、メルカリのメンバー全員が大切にしているマインドです。これからも投資家をはじめ、社会全体に伝えていきたいと考えています。
登壇者プロフィール
長澤啓(Kei Nagasawa)
メルカリ執行役員CFO。三菱商事において金属資源分野における投資及び主にエネルギー、リテール、食品分野等の領域におけるM&Aを担当。2007年にシカゴ大学経営大学院を卒業の後、ゴールドマン・サックス証券に入社し、東京及びサンフランシスコにおいて主にテクノロジー領域におけるM&AやIPOを含む資金調達業務を担当。2015年6月にメルカリへ入社。
李裕満(Yuman Li)
メルカリAccounting/Taxグループマネージャー。株式会社ファーストリテイリングで経理・財務・経理計画業務を担当。日本、ニューヨーク、上海、香港をわたりながら、ユニクロのグローバル化に尽力。2017年6月にメルカリへ入社。
岡本杏莉(Anri Okamoto)
メルカリCorporate Legalグループマネージャー。大学在学中、司法試験に合格。西村あさひ法律事務所に入所しCorporate/M&Aを担当する。その後アメリカのスタンフォード・ロー・スクールに留学し、現地でニューヨーク州の司法試験に合格。帰国後、2015年にメルカリへ入社。リーガルやファイナンスを担当する。
小池綾(Aya Koike)
メルカリIRグループ。2017年6月にメルカリに入社。株式会社サイバーエージェントでIRを担当した経験を活かし、メルカリでもIR業務を担当する。