2016年からスタートしたメルカリが主催する「THE BUSINESS DAY」。「THE BUSINESS DAY」とは、経営やコーポレート部門に携わるビジネスパーソンが知見を共有し合うカンファレンス。第2回目となる今回も、ビジネスの第一線で活躍するキーマンが一同に集い、「IPO」「成長戦略」「組織マネジメント」など、多岐にわたるテーマについてディスカッションを交わしました。
本セッションのテーマは、「成長し続ける最強組織のつくり方」。世界を代表する企業グーグルと、東証マザーズ上場という大きなターニングポイントを経て新たなステージへ突入したメルカリの組織について語られました。スピーカーはグーグル合同会社人事部長の谷本美穂さん、株式会社メルカリ 執行役員 VP of People&Culture兼社長室長の唐澤俊輔、モデレーターは一般社団法人at Will Work 代表理事・Plug and Play Japan株式会社の藤本あゆみさん。社団法人を通じて「働きやすい社会づくり」を目指す傍ら、自らも二足のわらじを履きこなす藤本さんは、人事キャリア17年の谷本さん、メルカリの人事制度設計や組織開発を統括する唐澤からどんな言葉を引き出すのでしょうか。組織という観点から語られたグーグルとメルカリの現状、そしてこれからとは。
「メルカリは『性善説』で組織をつくっています(メルカリ唐澤)」
藤本:早速なんですが、先ほど控え室で「お二人が参考にしている会社はどこですか?」って聞いたところ、おもしろい答えが返ってきたんです。もう一度いいですか?
唐澤:「グーグルです」と答えました(笑)。
谷本:わたしは「メルカリです」と(笑)。
藤本:いかがですか? この出来レースぶり(笑)。ということなので、今日はお二人から「なぜお互いの会社をすごいと思ったのか」、そして「実際はどうなのか」などについて伺っていきたいと思います。前提として、組織を成長させ続けることって大変だと思うんです。しかも、両社の場合、グローバルという競争環境にある。これからどのようにして成長を加速させていこうと考えているのかについてもお聞きしたいと思います。まず、お互いの会社をすごいと思ったポイントを教えてください。
一般社団法人at Will Work 代表理事・Plug and Play Japan株式会社 藤本あゆみさん
唐澤:グーグルのすごいところは、やはり何をするにしても先を行っているという点です。事業としても世界的なプラットフォームを生み出していますし、組織としてもグーグルが何か新しいことをはじめたら他社も真似してみるみたいな風習がある。さまざまな会社がグーグルのような組織をつくりたいと思っていていますし、事業の面でも組織の面でもベンチマークされている存在ですよね。ぼくらも日本発でグーグルのように世界でベンチマークされるような存在や役割を担っていきたいと考えています。
谷本:ありがとうございます(笑)。わたしが思うメルカリの良さは、ビジネス戦略と人事戦略をリンクさせているところです。誰にでもわかりやすいミッションと会社の大事にするバリューがあって、それを人材育成や人材マネジメントにリンクさせている点が素晴らしいと思います。前職のGE、そしてグーグルと、グローバルカンパニーを経験して思うのは、強い組織には共通項があるということ。ビジネス戦略に基づいた人材戦略を実践しようとしている点は、3社とも一緒だと思います。
藤本:なるほど。
谷本:もうひとつは、小泉さん(取締役社長兼COO)や唐澤さんといったリーダーのみなさんが、「人への投資」を非常に真面目に考えている。人材を育てていくことこそグローバルで勝ち続けていくためのカギだということを心得ているんですよね。リーダー自身が人に一番時間を使う、このあたりのリーダーシップも素晴らしいと思います。
藤本:カルチャーという点ではいかがでしょう?
唐澤:ぼくがメルカリに来て最初に驚いたのは、カルチャーを大事にしている点ですね。「性善説」で組織をつくっていると断言していて、経営陣はメンバーを信じています。「悪いことする人はメルカリには1人もいない」と。そうすると、現場も経営陣を信じ合うので、自然と信頼関係が生まれる。だから、ルールはつくらずに現場の判断に任せようという発想になり、一人ひとりが考えて決められる組織ができるんですよね。経営陣が現場を信頼するって、すごく良いカルチャーだと思います。
谷本:グーグルに来て素晴らしいと思ったのが、トランスペアレンシー(透明性)の高さと風通しの良さですね。社員を全面的に信頼して会社の情報はタイムリーにオープンに共有されます。また役職に関係なく、物事をより良くするためのフィードバックは反対意見でも安心して言える。社員同士が本音で語り合える風土を大事にしていることが、新しいイノベーションが生まれるひとつの要因だと思います。
グーグル合同会社人事部長 谷本美穂さん
組織拡大におけるミッション、バリューのあり方とは?
藤本:グーグルはもちろん、メルカリもメンバーがものすごく増えたと思うんですが、熱量を保って、組織を強くしていくためにはどんな工夫をされているんですか?
唐澤:正直、これから直面する課題だと思っています。採用時にカルチャーフィットを最優先しているとはいえ、グローバルで1,000人を超える規模になってくると熱量に差が生まれる確率は高くなってしまう。そうならないために、いまはカルチャーの大切さを入社初日から伝え続けています。言語化して、経営陣を筆頭に全社員で。カルチャーの浸透は一部のメンバーや部門だけでやることではありませんからね。
メルカリ執行役員VPofPeople&Culture兼社長室長 唐澤俊輔
藤本:グーグルの場合はいかがでしょう? たとえば、ミッション、バリューなどを刷新するといったことは考えているのでしょうか。それともずっといまのもので続けていくのか。
谷本:組織が大きくなったときに、グローバル規模で共有できる共通のカルチャーやバリューを保っていくのは大事なポイントだと思っています。先日、まったく同じ質問をグーグルのアジアリーダーにしたんですが、彼の回答は「いつでもミッションを大事にする。そのミッションを共有できる優秀な人材を採用する」と一貫していて。ミッションとは会社の存在意義、何を成し遂げようとしているのかを示すものですからね。また、会社が大事にするバリュー(行動規範)をわかりやすく明確にすることは、社員にとって「何をすれば評価されるか」がわかりやすくなるのでパフォーマンスもあげやすくなるし、より公平な人事マネジメントを実現できると思います。
藤本:メルカリは今後、より組織を拡大していくうえでどのようなことを考えているのでしょう?
唐澤:ぼくたちは、ミッションとバリューは変えていっていいと思っています。実際、日々そういった議論もしていますし、社会が変化していくなかで勝ち続けていくためには、慎重さは持ちつつも、主体的にミッションとバリューを変えていくべきと考えています。むしろ、同じ考えを持つ人たちだけが集まって「仲良しクラブ」になるほうが逆に問題だと思っていて。たとえば、グローバルで戦っていくとなると、いろいろな考えを持つ人がいたほうがいい。そういう人たちがカルチャーに染まっていきつつも、似たり寄ったりにならずに化学反応していけるように、ぼくらから準備していきたいと思っています。
藤本:ダイバーシティを受け入れながら、進化をしていくって感じですね。実際のところ、社内で戸惑いは生まれていませんか?
唐澤:ありました。特にメルカリはエンジニアを中心に外国人採用を進めているところでして、もちろん言語やカルチャーの問題は出てくるわけです。そのなかでよく話しているのは、グローバル化を推進するためには「日本対海外」という視点で考えないということ。結局、日本も含めてグローバルですし、海外でも仕事をするのだから、「日本対海外」という構図で考えるのではなく、全員が同じグローバルの土壌だと認識できるように変えていきたいと思っています。
藤本:いいですね。確かに日本の会社って「国内でちゃんとビジネスをやって、ゆくゆく世界へ」、もしくは「他とは異なるビジネスで世界へ」と考えがちですが、メルカリってはじめからグローバルに照準を合わせていましたよね。どうしたら日本の企業は、「日本対海外」ではなく「そもそもグローバル」みたいな感じになれるんでしょうか? 今後日本の人口は減少し、市場自体も小さくなっていく可能性があると思うんですが、はじめからグローバルを見据えた人材を育てていくべきなのか。それとも、日本で戦うだけの人材を育てるのか。そのあたりの考えを聞かせてください。
谷本:グーグルもGEも一緒で、ジョブ型の組織なんですよね。たとえばグーグルの社員は、どの国からも世界中のポジションに応募できるし、同じように昇進のチャンスがあリます。そうしたオープンで公平な仕組みでもって多様な人材が混ざり合い、ダイバーシティある考え方を自然と組織に取り入れることができるわけです。これはグーグルの大きな強みだと思います。「いまのロールをやったら、次はあのロールにチャレンジしたい」と手を挙げてアプライしていく。グーグルでは、ジョブへの応募だけでなく、3か月や6か月などの短期間アサインメントや、プロジェクト単位で応募できたり……自らのキャリアと成長を自分自身でデザインできる多様な選択肢が用意されています。
藤本:メルカリはいかがですか?
唐澤:ぼくらはまだまだこれからなので、グローバルに統一するというよりも社内の人材交流や異動などの仕組みをひとつずつ整えていかなきゃいけないという気持ちですね。ただ、グローバル展開に関してはどの段階でそれを意思決定できるかが重要だと思っています。特にスタートアップは公募みたいなスキームをつくるよりも、グローバルを狙うかどうかをまず決めなければいけない。藤本さんがおっしゃっていたとおり、メルカリは最初からグローバルに照準を合わせていました。国内は市場がシュリンクしている以上、前年と同じことをしていたらマイナスし続けて終わるだけなので。自分が知っている世界で安心しているのか、知らない世界だけど新しい大きなものを獲りに行くか、そこの意思決定を早くして攻めるしか選択肢はないと思っています。
「やる気こそ、最大の生産性(グーグル谷本)」
藤本:では、お互いの組織について何か聞いてみたいことはありますか?
谷本:では、わたしから。メルカリは日本発スタートアップのひとつのロールモデル的な存在になったと思うんですよね。社内にいるからこそ感じる成長の要因、あとは今後の課題について教えていただきたいです。
唐澤:組織のハード面、ソフト面、仕組みやカルチャー……要因は正直たくさんあると思っています。そのなかで成長要因を強いて挙げるとしたら、やはり採用ですかね。5年で1,000人というスピードで拡大するなか、一度も手を抜いたり、妥協したりしたことはなかった。事業の成長スピードが速すぎるので、人材面は正直辛いんですけど、一体感のある強い組織がつくれている実感はあります。その一方で、これから先は若いメンバーがマネージャーとして活躍していきます。人を育てていくフェーズに入っていき、成長し続ける個人や組織をどのようにつくっていくかは課題ですね。逆に谷本さんには「人に投資する」ってどういうことかお聞きしたいです。べつに給料をたくさん出すということじゃないですもんね(笑)。
谷本:人への投資……そうですね。わたしの個人的な意見なんですが、人事の価値はどれだけ社員をやる気にできて、組織を元気にできるかだと思うんですね。やる気こそ、最大の生産性という言葉が大好きなんです。そう思って社員に働きかけています。ただ、人事以上に、社員に影響あるのは近くの上司やチームなんですよ。だからチーム、特にリーダーの皆さんには、自分が周りにポジティブな影響を与えているか、周囲の成長に役立っているかといったことを自問自答して、謙虚に学び続けてリーダーシップを磨いていってほしい。自分を見つめることを刺激する機会をたくさんつくっていくのは人材投資において大事なことだと思っています。
藤本:結局、組織って人の集まりなので、どんなに良い仕組みをつくったところで人によって変わってきますもんね。採用を通じていかに文化を醸成させていくかが、今後のポイントだと思います。それでは、最後に一言ずつ感想をいただいてもいいでしょうか。
谷本:ありがとうございました。すごく楽しかったです。組織を強くしたい、元気にしたいと考える人事やリーダーは、まずは自分自身が元気になる。自らがリーダーシップを発揮して自分の影響力の輪を広げていただきたいと思います。
唐澤:本当にありがとうございました。まだまだメルカリはチャレンジャーで、課題だらけです。世界的なテックカンパニーになり、目指したい社会を実現するためには、もっともっと頑張らなければいけない。ですので、いろいろなみなさんに勉強、相談させていただきたいですし、日本のスタートアップシーンに世界を獲りに行く仲間が増えればいいなと思っています。ぜひこれからもよろしくお願いします。
登壇者プロフィール
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谷本美穂(Miho Tanimoto)
グーグル合同会社 人事部長。慶應義塾大学卒業後、人材サービス会社を経て2000年GEに入社。その後17年間にわたり、GE人事リーダーシップ・プログラム、金融部門人事担当、日本GE本社部門の採用、組織開発マネージャーなどを歴任し、グローバルリーダーシップと組織開発に携わる。2011年、日本人で初めて米国のGEグローバル本社人事部門に異動、次世代グローバル人事リーダー開発を担当。2016年よりGEジャパン人事部長。2018年5月より現職。
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藤本あゆみ(Ayumi Fujimoto)
一般社団法人at Will Work / Plug and Play Japan株式会社代表理事。大学卒業後、株式会社キャリアデザインセンターに入社。入社3年目で、当時最年少かつ女性で唯一の営業マネジャーに。結婚を機に退職し、2007年4月にグーグル株式会社へ。アカウントエグゼクティブを務め、同社初の営業部女性マネジャー、人材業界担当統括部長を歴任。2015年12月にグーグルを退職後、一般社団法人at Will Workを立ち上げる。現在はPlug and Play Japan株式会社でマーケティングとPRの仕事と2つの仕事を通して、at Will Workが提唱する「選択肢のある働き方」を自ら実践中。
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唐澤俊輔(Shunsuke Karasawa)
株式会社メルカリ執行役員VPofPeople&Culture兼社長室長。慶應義塾大学法学部卒業。グロービス経営大学院経営学修士(MBA)修了。大学卒業後、日本マクドナルドへ入社。28歳にして史上最年少で部長に抜擢され、社長室長やマーケティング部長を歴任。その後、2017年9月よりメルカリへ入社。4月より執行役員VP of People & Culture 兼 社長室長として、人や組織の観点から急成長するメルカリのさらなる拡大やグローバル化を推進している。