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「メディアに載ればOK」だけじゃない、スタートアップが考えるべきPRの本質『THE BUSINESS DAY 02』レポ

2018-8-23

「メディアに載ればOK」だけじゃない、スタートアップが考えるべきPRの本質『THE BUSINESS DAY 02』レポ

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    2016年に初開催されたメルカリが主催する「THE BUSINESS DAY」。「THE BUSINESS DAY」とは、経営やコーポレートを担うビジネスパーソンが学び、出会い、実行するためのカンファレンスです。第2回目となる今回も、ビジネスの第一線で活躍するキーマンが一同に集い、「IPO」「成長戦略」「組織マネジメント」など、多岐にわたるテーマについてディスカッションを交わしました。

    本セッションのテーマは「成長期のPRに求められる社会との向き合い方」。スピーカーは株式会社井之上パブリックリレーションズ執行役員の尾上玲円奈さん、NEWPEACE代表の高木新平さん、株式会社メルカリPRグループマネージャーの矢嶋聡、そしてモデレーターは日経FinTech編集長の原隆さんです。

    「PRとは何か」の一言からスタートした本セッション。事業会社やメディア、PR会社などさまざまな角度から世の中の流れやコミュニケーションを見てきた4名は、いまの社会に求められる「PR」をどのように捉えているのでしょうか?

    PRとは双方向のコミュニケーション活動

    :「PRとは何か」。この答えは時代や人によって異なります。矢嶋さんは、この問いにどう答えますか?

    矢嶋:教科書的に答えると「ステークホルダーとの関係構築」ですね。これは「リレーションシップマネジメント」とも呼び、会社やサービスの価値をメディアを介して情報発信し、共感者を増やすことを意味します。その一方で、メディアを「世の中を映す鏡」とするならば、メディアの論調や記者のダイレクトな意見から透けて見える社会からの要請や声に耳を傾け、それを社内に対してフィードバックしていく意味や役割もある。PRとは、そういった双方向のコミュニケーション活動だと思っています。

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    メルカリPRグループマネージャー 矢嶋聡

    :矢嶋さんはPR会社、LINE、メルカリとわたり歩いてきたわけですが、そのなかで感じていることはありますか?

    矢嶋:わたし自身、LINEとメルカリの2社でPRを経験して思うのは、ベンチャー企業の存在意義は「新しい価値やイノベーションを創造し、社会に問うていく」ということです。当然ながら、世の中に新しいものが登場するときは、社会に摩擦が起こります。それでも自分たちが目指している世界を実現するために、PR活動を通じて、社会に対してしっかり対話し、適切に合意形成を図ることが大切。単に知ってもらうだけでなく、ステークホルダーと中長期的な関係を築き、ファンになってもらうことがPRの本質だと考えています。

    :高木さんはいかがですか?

    高木:ぼくはPRをこちらの図(下図)のように捉えています。これまでの企業のコミュニケーションというのは左の図のようにはっきりと分かれており、個別で最適化されていました。しかしいまは、企業を取り巻く関係者間のコミュニケーションの境界線がすごく溶け合っているイメージです。そんななかでビジョンを同心円状に広げていくのがPRかなと。

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    企業とステークホルダーの関係図(出典:NEWPEACE)

    :境界線が溶け合っている?

    高木:明確な境界線があった時代は、広告1つとっても社外から見た印象と社内で感じる印象が違うといったことが許されていたんですよね。バレないというか……。でもいまは境界線が溶け合っているので、社員がユーザーとして本当に使っているか、商品を愛しているかはSNSから全部出てしまうし、うまくやれば社員以上にシェアしてくれる顧客も生まれる。そのなかから株主になる顧客も増える気がします。

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    NEWPEACE代表 高木新平さん

    :そうなることで、具体的にどうなっていくのでしょう?

    高木:つまり、いまは「顧客」「株主」「社員」のそれぞれに個別でコミュニケーションしていくことが長期的に見ると有効ではなくなっているんです。むしろ、企業のビジョンを一気通貫して、社内外関係なく、ビジネスと社会貢献を分けず広げていく必要がある。そうすることで初めて「この企業はどこから見てもこうだよね」という評判が浸透し、良いサイクルが生まれていくのではないかと。

    PRパーソンとは「企業の真ん中に立ち、社会全体の循環をマネタイズする人」

    高木:ぼくの思うPRの好事例はアメリカのアウトドアメーカー「REI」のキャンペーンですね。アメリカには「ブラックセール」と呼ばれる、アパレルアイテムが70〜80%OFFになる超安売りセールがあるんですが、「REI」は2年前のブラックセールのときに「わたしたちはセールをしません。むしろみんなで休んで、外に出ます!」というメッセージを込めたキャンペーン「#OPTOUTSIDE」を打ち出したんです。

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    :すごい事例ですね。それでどうなったんですか?

    高木:当初は「休みましょう」という発信は社員に対するコミュニケーションでした。しかし、それが顧客やアウトドア好きの人たちをも巻き込みんでいって。結果として100以上のアウトドア施設が無料開放となり「ブラックフライデーはみんなでアウトドアへ行こう」というムーブメントをつくりあげたんです。これを見て「PRってこういうことなのかな」と思ったんです。これまでのPRは「広告をやる人」「IRをやる人」といった定義でしたが、いまでは「企業の真ん中に立ち、社会全体の循環をマネタイズする人」に変化していると思いますね。

    :尾上さんはいかがですか?

    尾上:「PRとはパブリック・リレーションズのことなのに、みんなプロモーションの何かだと勘違いしている」と弊社現会長である井之上(喬)からよく言われていました。ぼくは大学でPRの講義もしていますが、いまの学生のほとんどは「パブリック・リレーションズの略ですよね?」とすぐ回答が出てきます。「PRはどこまでやるか」は別として、ぼくらの世代が捉えていた「PR=宣伝活動や広告をすること」といった誤った理解が徐々に薄れている気がしますね。

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    株式会社井之上パブリックリレーションズ執行役員 尾上玲円奈さん

    目指すべきパーセプションイメージから逆算し、スタートさせたメルカリの広報活動

    :スタートアップ企業と歴史ある大企業では、必要なPR手法が変わります。成長スピードが速いメルカリですが、PRの捉え方に変化はありましたか?

    矢嶋:2017年当時、メルカリが急成長企業としてIT業界から注目を受けている一方で、不正出品問題などによってご批判を浴びていた時期がありました。ネット業界と世間からの見え方に大きな乖離が生まれはじめていたんです。その頃から、PRチームとして、世の中と適切な関係を築き、対話しながら合意形成していくことを強く意識しはじめましたね。単なる「ネット業界のイケてる企業」からの脱却が求められていたんです。

    :どういったコミュニケーションからはじめたのですか?

    矢嶋:まずは「ネット業界ではイケていると言われているかもしれないけれど、世間的にはそうでもない」という現状を社内に知ってもらうことからはじめました。そこからはメルカリとして目指すべきパーセプションイメージを規定し、どういった広報活動を行うべきかというロードマップを逆算的に作成したんです。当然ながら、当初はメルカリという企業に対して良くない印象を持たれている記者も少なからずいたので、個別のレクチャーや勉強会、懇親会などを通じて少しずつ関係を築いていきました。

    :地道な活動を通して信頼を獲得したんですね。矢嶋さんがいたLINEやメルカリを見ていると、PRの重要性に理解がある経営陣の多い会社だと感じます。「経営陣がPRの重要性を理解してくれない」と悩む担当者も多いなか、きちんと社内からの理解や信頼を得ている。先ほど高木さんが話していた「境目がなくなってきている」としても、今後のPRはより経営陣を巻き込んでいく必要がありますよね?

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    日経BP社・日経FinTech編集長 原隆さん

    高木:そうですね。PRは経営と連動するので、どのステークホルダーにコミュニケーションの穴があるかを認識するのは重要です。たとえば、今回のセッションテーマである「成長期」ですと、メルカリの場合はお客さまから圧倒的な支持を得ていながら、一部のメディアや行政とはぶつかり合うというか、同じ視点を共有できていない状況がありますよね。

    :というと?

    高木:アメリカ的な比喩でたとえるなら東西の対立です。西海岸(SF)と東海岸(NY)には、西のリベラル、東の保守という構造があります。そして東側に、既存のルールを担っている金融や政治の機能がある。これは東京でも同じで、メルカリはベンチャーが多く集まる西を代表する企業でしたが、いまはマザーズという境界を飛び超えて、東証一部企業が集まる東へと移動していくイメージです。そこは財閥的な世界ですから、変革だけでは足りず、むしろ歴史や権威をどのように身にまとうかが鍵になります。

    :どういった手段が有効になるのでしょう?

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    高木:たとえば、スポーツ団体のスポンサーになったり、財団や美術館をつくることです。もちろんほかの大企業と同じことをするだけでは西側から嫌われますから(笑)、アイデアやクリエイティブが重要になってきます。そういった非連続的な成長を、どのタイミングでどのようなコミュニケーションとともに仕掛けるかが、意外と企業の明暗を分けてしまうと思います。PRは経営のイシューなんです。

    「メディアに載ればOK」となっていないか?

    :尾上さんはお仕事柄、いろんな企業の実情を見てきたと思います。メルカリにはどのようなイメージを持っていますか?

    尾上:原さんもおっしゃっていましたが、経営陣が素晴らしいですよね。というのも、本質的なパブリック・リレーションを通じて、社会とどのような関係を築いていくべきかを経営陣自らが意識している。メルカリのPR文化を真似する企業が増えている印象を受けます。

    :本当にそうですね。逆に間違ったPRをしている企業の特徴って何なのでしょうか。

    尾上:旧来のコミュニケーション手法をただ続けている企業ですね。広報という矮小されたパブリック・リレーションや、メディア対応のオンリーに留まりがちな企業。それこそ「日経に載せておけばOK」といったような、本質的じゃないやり方をしたり(笑)。

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    :まさか壇上で責められるとは…。

    会場:(笑)

    尾上:もちろん日経はとても良いメディアだと思っていますし、社会からの信用も得ていると理解しています(笑)。ぼくが言いたいのは、日経に載ることが悪いということではなく、「それで本来の目的を達成できるのか?」ということです。

    高木:先ほどの「西から東へ」という話と同じで、経営戦略として「誰の共感を集めていくのか」という地図を持ってないと、PRという手段が目的化してしまう。SNSも同じように、目的なくはじめてしまう企業が多いですよね。でもSNSはもっと複雑でリアルなコミュニケーションなので、「どういった人に使ってもらうべきか」「どういった人を巻き込でいくべきか」がわかっていないと効果的な運用なんてできないですよ。

    尾上:わかります。そういった企業で起こりがちなのが「SNSによって炎上するんじゃないか」などの無駄な議論です。当然ながら、サービスのコンセプトや顧客対応を間違えれば炎上しますが……本質的じゃないところで炎上を恐れる傾向があるんですよね。

    高木:それは、スタンスの問題だと思いますね。まずは発信する側が「どういったスタンスでやっていくのか」を決めなければいけません。

    :スタンスの問題……。

    高木:まずは企業として「こういったスタンスで、こういったことを伝えるためのもの」という指針を持つべきなんですよ。それがないままに「ユーザーからいかに良いリアクションを集めるか」を議論しはじめると、すべて的外れなアクションになってしまうし、少しでも批判要素があると身動きが取れなくなってしまいます。

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    矢嶋:おっしゃる通りです。ビジョンやスタンスがはっきりしていない企業のSNS運用は正直つらいと思います。でも、そこさえ明確になればお客さまと深いコミュニケーションを図ることができるはず。広告などの一方通行のコミュニケーションは足し算でしか関係性が積みあがっていきません。SNSも含めたPR活動を通じて、きちんと顧客やステークホルダーと「対話」し、企業としてのビジョンやスタンスを発信することで、その関係性は掛け算され「共感の輪」となって広がっていくものだと思います。

    :残念ながら、終了のお時間になってしまいました。広告といった露出を増やすこともPRの役割ですが、何か起こったときに体制を立て直せるのもPRにしかできない役割だと思います。また適切なPRをするためのビジョンを明確にすること、ステークホルダーをどう設定するのかなど、今後より重要になっていくのだと確信しました。本日はありがとうございました。

    登壇者プロフィール

    尾上玲円奈(Reona Onoue)

    株式会社井之上パブリックリレーションズ執行役員。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、NHK(日本放送協会)の記者としてニュース原稿の出稿や特集の制作、番組内のリポートや記者解説などを行う。現在は執行役員として事業の推進にあたるほか、農業から運輸業、製造業や小売業、観光業や学校法人、政党、ITに至るまで幅広い分野のクライアントを担当。2014年から早稲田大学の非常勤講師として、PRに関する講義を行っている。


    高木新平(Shinpei Takagi)

    NEWPEACE代表。早稲田大学卒業後、株式会社博報堂に入社。SNSなどを活用した総合クリエイティブに携わった後、独立。「よるヒルズ」や「リバ邸」などコンセプト型シェアハウスを全国各地に立ち上げ、シェアハウスブームを起こす。2014年、VISIONING COMPANY「NEWPEACE」を創業。社会文脈を起点としたビジョンづくりを武器として、世の中に新たなムーブメントを仕掛けている。


    原隆(Takashi Hara)

    日経BP社・日経FinTech編集長。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。日経BP社入社後、日経パソコンに約7年勤務。2006年に日経パソコンのWebサイト「PC Online」を立ち上げる。2007年に『日経マーケティング』を創刊し、2010年から日経ビジネス記者でIT・流通業界を担当。2016年1月、現職に就任。


    矢嶋聡(Satoshi Yajima)

    株式会社メルカリPRグループマネージャー。ネットベンチャー2社でマーケティングを担当した後にNYへ留学。帰国後、日経・外資系PR会社勤務を経て、2008年、ネイバージャパン(現:LINE株式会社)に入社。検索サービス「NAVER」のPR・マーケティング活動に従事。2011年6月より「LINE」および周辺サービスの対外コミュニケーションを担当し、2014年1月にLINE株式会社マーケティングコミュニケーション室室長に就任。2017年8月に退社し、2017年10月から現職を務めている。

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