組織の課題をエンジニアリングで解決したいーー。
メルカリには、組織づくりを技術で解決する「Corporate Engineering Team」が存在します。
Corporate Engineering Teamが発足したのは2018年1月。マネージャーは、メルカリのVP of Engineeringも務めていた柄沢聡太郎さんです。かつてプロダクト開発のトップだった柄沢さんが組織にフォーカスした開発チームをつくった理由、そして集まったメンバーたちが解決したい問題を聞きました。
柄沢聡太郎(Sotaro Karasawa)※写真左
在学中である2007年末からエンジニアグループ「nequal」を立ち上げ、サービスなどを運営。2010年中央大学大学院卒業後、グリー株式会社に入社。退社後2011年2月株式会社クロコスを立ち上げ。2012年8月、クロコスをヤフー株式会社へ売却。2015年5月から、株式会社メルカリに参画。CTO、VP of Engineering経て、現在はCorporate Engineering Teamマネージャー。
小川雄大(Katsuhiro Ogawa)※写真中央左
2008年にアシアルにエンジニアとして入社。2011年には柄沢と共にクロコスを設立し、翌2012年にヤフーに売却。ヤフーではメディアプラットフォーム開発および技術戦略室にて技術選定などを担う。2015年よりAncarにてCTOを務める。2018年1月よりメルカリに入社、Corporate Engineering Team所属。
衣川憲治(Kenji Kinukawa)※写真中央右
バンダイでロボットの研究開発後、IPA未踏IT人材発掘・育成事業に採択。その後、ミクシィ、ヤフーにてスマートフォンアプリケーションの開発、新規事業立ち上げを担当。2015年に株式会社Subotを設立、スケジュール調整サービス、人事業務効率化サービスの開発を行う。2018年にメルカリに入社、Corporate Engineering Team所属。
鈴木則夫(Norio Suzuki)※写真右
トライコーンにエンジニアとして入社し、サービス開発・運用に携わったのちに取締役 技術担当へ就任。組織運営に注力していたが、クロコスに転職しエンジニアに復帰。ヤフーを経て2016年1月にメルカリに入社。当初はプロダクトチームに所属し、主にUS向けのサービス開発に従事。2018年1月よりCorporate Engineering Teamに所属。
「組織の課題をエンジニアリングで解決する体制を作れないか?」
柄沢:話は2017年秋頃までさかのぼります。当時のメルカリは企業としてもサービスとしても急成長し、メンバーも急激に増えたタイミングでした。
当然ながら、プロジェクトも組織も流動的に変化し続けていました。そうするとメンバー間で「自分は適切に評価されているのか?」「自分の評価はきちんと引き継がれているのか?」といった声があがり始めたんです。もちろん、メルカリでも勤怠や人事評価などの管理ツールを活用して、抜け漏れないように業務効率化を図っていました。しかし、そういったツールの管理も肥大化しつつあり、全体的に最適ではない状況ができつつあったのです。
ミッションである「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」ための仲間を集めたい。けれど、このままメンバーが増えていくと、組織として良くない状態になってしまう。
組織のきしみは、メンバーの生産性を下げることに直結します。この状況には小泉(文明)も、当時VP of Engineeringだった僕も「このままいくと、組織は破綻する」と何度も話し合っていました。その中で「そもそもメルカリはプロダクトをつくってきた会社だ」「ならば、エンジニアの力で組織の課題を解決したり運用したりする体制はつくれないか?」となったんです。
そしてCorporate Engineering Teamが誕生し、僕自身の役割もプロダクト組織に属するエンジニアを統括するVP of Engineeringからこのチームのマネージャーに変わりました。開発のフォーカスエリアもプロダクトから社内へと変わったわけですが、組織づくりへの目線は同じです。マネジメントから関わるか、それとも組織の基盤づくりから関わるか。アプローチが変化しただけなんですよね。
チームに集まったのは「経営経験あり」「組織体制に疑問あり」なエンジニアたち
小川:Corporate Engineering Teamで最も特徴的なのは、メンバーそれぞれに経営経験があることです。
というのも、僕自身にはもともと組織の課題解決に興味があったのですが前職で経営側を経験したことにより、メルカリのような成長著しい企業の組織を支えることにチャレンジしたい気持ちがありました。そういったこともあり、柄沢からCorporate Engineering Teamの構想を聞いたときはすぐにピンときたんですよね。
衣川:私の場合は「働く人の生産性を上げたい」をミッションに、人事システムを提供するスタートアップを起業していました。実際に人事評価ツール「UPSTACK」もクローズドβ版としてリリースしていて、メルカリは導入先企業でもありました。そのため、当時からやりとりがあったんです。
スタートアップをやってみてわかったのは「外側からでは、プロダクトでしか影響を与えられない」でした。つまり、本質的な欲求である「組織全体をよくしたい」に対して、労務や勤怠といった特定の領域しか最適化できないわけです。根本的な解決には、社内メンバーの1人として同じ問題を見つめ、特定の領域だけでなく組織構造やワークフローから手を入れていく必要がありました。
その後、紆余曲折あり、導入先企業でもあったメルカリにジョインし、内側からの改善に挑むことにしたんです。
鈴木:僕の場合は少し違っていて、2016年からメルカリのプロダクト開発をしていました。そして、まさに先ほど柄沢が話していたメルカリ内での「組織の問題」に直面した1人でもありました。
当時は本当に流動的かつスピードが速く、プロジェクトもチームも変更されることが多かったんです。チームが変わるということは、自分の評価者が変わるということです。しかし、このときはまだメンバーそれぞれの評価情報をマネージャー間で連携できるシステムがありませんでした。
そういう状況下で、メルカリUSの開発チームに所属が変わったことがありました。このチームは、自分以外のメンバーは全員USにいるという、社内でも少し特殊な構成でした。このときに「自分のこれまでの評価は正しく伝わっているのか、今後の評価は正しくしてもらえるのか?」という不安を覚えました。
しばらく後にその不安は解決したものの「今度も同じような人が続く可能性があるのでなんとかしたい」と思っていたところで、柄沢による全社定例でのCorporate Engineering Teamについての発表を聞きました。
僕にも経営や組織管理の経験があり、その難しさは知っているつもりです。なにより、メルカリのリアルな問題を肌で感じた1人でもあります。「この知見は活かせる」「組織の問題を技術で解決するっておもしろそうじゃん!」となり、異動を希望しました。
基盤となるデータベースをつくり、より本質的な問題と向き合う状態をつくる
柄沢:僕らがまず目指しているのは、人事や労務、経理などが横軸で活用できる人事データベースの確立です。ところが、これがとても難しい。
そもそも、人事で必要なデータと労務で必要なデータは違います。さらにいうと、管理方法も取得方法も違う。これをシンプルにひとまとめにしても、各チームで「ほしいデータじゃない!」となるわけですね。
衣川:1プロダクトでバックオフィスの全てを解決できるサービスの難易度が高い理由は、まさにこれです。社内だけでなく、企業によっても活用データが違います。それを外部から改善しようとすると、どうしても局所局所で切り出していくことになるんです。
小川:また、先ほどもお話ししましたが、メルカリは企業としても急拡大しています。ということは、それによって組織のあり方や最適な評価方法も変わります。組織の成長とともに、僕らが開発しようとしているツールも姿を変えていかなければなりません。
衣川:属性がバラバラで、管理方法もバラバラ。そしてさらに組織は変化していく。これが原因で、コーポレート全体はもちろん、各チームのマネージャーのコストが増えるのは本末転倒です。Corporate Engineering Teamはそういった業務をなくし、メンバーがより本質的な課題と向き合える状態をつくりたいのです。
柄沢:横軸で活用できる人事データベースにするには、1つにまとまっていると同時に属性が分かれている状態にする必要があります。しかし、その属性が複雑&多岐にわたる。
そこでまずは各チームと連携し、なにが必要なのかをヒアリングなどしながら進めました。そして、現段階で大きな問題になりつつあった人とチームのデータにフォーカスを当てたツールをリリースしました。それが評価システムとなる「Reviews」と、後々の人事ベータベース基盤に発展させる予定の「Teams」です。
まずはこの2つをミニマムでスタートさせ、PDCAを回しながら改善を進めていきます。そして、ほかに必要なツール開発も検討していく予定です。
「組織として破綻せずに存在していることが僕らにとっての成功」
鈴木:僕らは直接フリマアプリ「メルカリ」を開発しているわけではありませんが、その組織づくりに関わることでよりよいものを世界に出していきます。メルカリは企業としても成長をやめることはありません。これが1,000人規模のエンジニアたちが働く企業になったとき、組織として破綻せずに存在していることが僕らにとっての成功です。
柄沢:そうですね。まだまだやるべきことも多いですが、課題そのものの複雑さを解決し、いかにシンプルに使ってもらえるツールを作るかはエンジニアとしての腕の見せどころです。
小川:そういった意味で言うと、僕らがやっていることも「プロダクト開発」の1つですよね。大きく違うのは、僕らにとってのお客さまは「メルカリ全メンバー」であるということです。開発したツールでなにか1つ解決するたびに、メンバーから「ありがとう」と言ってもらえるのはやっぱりうれしいですよね。
柄沢:今はメルカリがぶつかっている課題を解決するためのツール開発などをしていますが、僕らとしては「1社だけでしか使えないツール」をつくる気はありません。組織の課題を解決するツールを汎用性あるかたちで完成させることで、他の企業にも、そして業界全体でも知見をシェアすることができます。そして、世の中全体の「本質的なものを生み出す力」が強まります。なにより、そういった思想で開発したほうが楽しいですよね。
衣川:私がCorporate Engineering Teamにジョインした裏目的もまさにそれです(笑)。そもそも、組織づくりといったところでエンジニアリングを活用しようと考える日本企業はまだまだ少ないです。私としては、まずはメルカリで成功させ、それをどんどん世の中に広げていきたい。
メルカリはこれからもどんどん拡大していきます。そんなタイミングでCorporate Engineering Teamのようなチャレンジができることは、すごくアドバンテージがあります。課題は山積み、でもやれることもたくさんある。これって、エンジニアにとってこの上なく価値ある状況だと思うんですよね。
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