AIをいかに業務で活用するか?
これは現在最も注目されているトピックの一つではないでしょうか。
私たちメルカリも例に漏れず、これまで社内での生成AIの活用はごく限定的でした。
しかし、社内生成AIツール(Ellie)の登場やサービスへのAI機能実装といった経験を通して、状況は大きく変わりつつあります。Ellieの利用率はこの半年間で61%から75%に増えるなど、徐々に社内で活用されている場面を見かける機会が増えはじめました。
では生成AIは、メルカリにどのような変化をもたらしたのか?
2024年下半期で起きた変化をハヤカワ五味(@gomichan)が振り返ります。
この記事を書いた人
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ハヤカワ五味(@gomichan)
2015年頭に株式会社ウツワを創業後、ランジェリーブランド『feast』、フェムテック事業『ILLUMINATE』など、複数の事業を展開。2022年3月にはユーグレナグループに参画し、はたらく女性向けの新規事業開発に取り組む。24年4月に退職後、2024年7月にメルカリにジョイン。生成AIの利活用に関してSNSでも積極的に発信している。
2024年7月時点のメルカリにおける生成AI活用の状況と課題
冒頭にも述べたように、私が入社した2024年7月を振り返ると、当時の生成AIの社内利用は限定的でした。
というのも、数値上での利用率は低くないものの、主な用途は翻訳やコーディングといった限定的なものでした。多くの社員にとって生成AIは「翻訳に便利なもの」であり、本来的な生成AIの持つチカラはまだまだ引き出しきれていなかったと思います。
当時の課題としては、まず、社内において生成AIやLLM自体の認知度が低かったことが挙げられます。生成AIの活用に関して、翻訳とコーディング以外で日々の業務への活用イメージが持てず、社内でも活用事例が限られる状況でした。その一方で、生成AIについて詳しく知らないからこそ、期待値が実態を上回ってしまい、使用した際に「嘘つくじゃん」「使えないじゃん」と、期待通りの結果を得られていないように感じました。
数値で見る変化
ですが、この半年間で、状況は大きく変わりました。
まず、生成AIの利用率が大幅に向上しました。社内生成AIツール(Ellie)の月次利用率は、7月時点のおよそ61%から11月末時点で75%まで増加しています。また、30日間でのリテンション率(=再訪率)は80%強を維持しており、一度使うだけではなく繰り返し利用されているということがわかります。利用されているトークン総数も増えている(=より多い分量でインプット・アウトプットをしている)ため、以前と比べ、データなどを掛け合わせて活用するなど具体的な業務への利用が増えているということだといえます。
また、メルカリでは社内生成AIツールに加え、最近では「Gemini for Google Workspace」の活用も進めているため、実際の生成AI利用率はさらに高くなっています。
組織における生成AIで解決できる課題
この半年間の活動を通して、社内業務において生成AIで解決できる課題は、以下のように整理ができると考えました。
そしてこの半年の取り組みは、下段の潜在的な課題を、上段2つの顕在的な課題へと持ち上げることに繋がったと考えています。
左上の「顕在化している組織的課題」については、社内のしかるべきチームで、順次問題解決が進められています。
一方、右上の個人的かつ顕在的な課題は、極めて個別性が高く数も多いため、個々人が生成AIを理解し活用するというアプローチが効果的でしょう。そこで、個々人をエンパワーメントし右上の課題を解決に繋げるのが、私、そして12月に組成された私たちチームの仕事です。1つひとつは小さなものですが、メルカリのように2000人規模の組織であれば1人あたりが月1時間の業務効率化を行うと年2.4万時間の削減に繋がり、その時間はよりお客さまのことを考え、会社を成長させるための時間に繋がると考えています。
また、業務への導入にあたって、以下のような段階が必要だと考えています。
第一に、経営が生成AI活用にコミットし、次に利用環境を整えブロッカーを排除する、そして認知を広め活用事例を増やすといったプロセスです。生成AIを取り巻く環境は刻々と変化していくため、この流れを何度も繰り返し進め、高めていく必要もあるかもしれません。
具体的な取り組み
この半年間での取り組みも、この流れに合わせてまとめました。
まず、経営層が強いコミットメントを示しました。グループ全体の戦略ロードマップには、AIプロダクトの活用と、AIを業務に取り込んで生産性を向上させることが明記されています。このロードマップを実現するため、各部門のOKRなどの目標にもAI活用が組み込まれています。
また、AIの浸透において経営レイヤーが率先して活用することも重要です。そのため、経営会議ではAI/LLMに関するアジェンダを定期的に設置したり、経営会議に関わる情報のキャッチアップスピードを上げるための生成AI要約やフォロー、これまでは人が行っていた文字起こしに生成AIを活用する準備を進めるなど、経営層も積極的にAIを活用しています。
次に、AIを使える環境の整備を行いました。この際に意識したのは、ツールや情報を準備するだけではなく、社員の利活用を妨げる、ありとあらゆるブロッカーを排除することでした。例えば、「この情報は入力していいかわからないからやめておこう」といった「よくわからない」という状況も大きなブロッカーなので、そうならないような明瞭なガイドラインを目指しました。この際、社内の生成AI/LLM専門チームの協力は勿論ですが、通常であればガイドラインアップデートの妨げになりうるリスク、セキュリティ、コンプライアンス、倫理、法務など関連チームが、積極的に社員の利活用を考え試行錯誤した結果、とても良い形になったと思います。生成AIを取り巻く環境は日々変わっていくので、定期的なアップデートを欠かさず、ブロッカーとならないガイドラインを目指しています。
そして、AI活用を広く浸透させるための施策も積極的に実施しました。その過程で最も効果的だったのは、カッコいいものではなく、日々の地道な草の根運動でした。
全社All handsミーティングや、Slackのオープンチャンネルで生成AIに関する情報や活用事例を積極的に発信。よりカジュアルな形では、私の雑談チャンネルを作り、SNSで拾ってきた生成AI情報を随時共有していました。今では、350人近くがチャンネルに参加しています。また、メルカリが大事にしているカルチャーでもある「Lunch & Learn」と呼ばれる社内ランチ勉強会を積極的に開催しました。9月から12月にかけて、計19回の勉強会を開催し、累計参加者数はおよそ1700人でした。
これらの取り組みにより、社内では「AI当たり前文化」が形成されつつあります。業務における選択肢の1つとして、自然と「生成AI」が挙がり始めました。
この先に、個々人がチームで生成AIを活用し、業務効率化はもちろん、プロダクトの先にいらっしゃるお客さまへの価値提供へと繋がっていくのが来年の展望なのではないかと思います。次回、私がメルカンを更新する際には、個別の具体的な事例をご紹介したいと思っています。
今後の展望
個別の課題解決にはまだまだ伸びしろがあり、メルカリでは、今後も生成AIの活用をさらに推進していきます。そのために私たちのチームでは、「生成AIの可能性を最大限に活かし、提供価値を最大化する」というビジョンを掲げています。生成AIの可能性を、お客さまやメルカリに関係する全ての人へ還元しながら、活動の中で得た知見は惜しみなく社会に共有していくことで「日本全体が生成AIの恩恵を享受できる社会」を目指したいと思います。
生成AIの業務活用というと、どうしてもコストカットに注目が集まりがちです。ただ、生成AIの本領はその先にある余白の活用、つまり新しく生まれた時間で何を生み出すかにあると私は信じています。
ガラケーがスマホに変わっていったように、生成AIによって、様々な価値観が根底から変わっていくのではないかと思います。そんな中でもメルカリが変化に耐える会社であれるよう、お客さま体験が今後もより良い形になっていくよう、社員全員が生成AIを理解し自分のものにできる未来のため尽力していきます。
執筆:ハヤカワ五味
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