メルカリの創業者、といえばよく知られるのは山田進太郎ですが、メルカリには3人の創業者がおり、うち2人は現在USに拠点を置いています。1人はUSのCEOを務めるRyo。そしてもう1人が、メルカリ最初期からプロダクトの責任者を務める富島です。
mercanでは昨年も、富島のインタビューを行いました。
プロデューサーとして、プロダクト全体の設計から細かい部分までを一手に見てきた富島。
富島 「大変だったことは……サーバーが頻繁に落ちたり、カスタマーサポートの体制構築が追いつかないとかたくさんありました。なにしろ会社設立から1年半の間に、アプリのリリース、USの子会社設立、CM展開によるユーザー急増、そしてUS版アプリリリースまで一気に進みましたからね。当時はエンジニアが10人もいなかったので大変な状況でしたが、ある程度は順調にきたんじゃないかと思います」 (上記記事より)
前回のインタビューから1年。全力でメルカリUSに捧げたその間には、全米Appstoreランキング3位獲得やポートランドのオフィス開設もありました。
この間、富島は一体何を考え、どんな経験してきたのか、そして今の挑戦は?
サンフランシスコのメルカリUSオフィスで、話を聞いてきました。
富島寛(Tommy Tomishima)
早稲田大学第一文学部卒。在学中、株式会社エルテスでベトナムでのオフショア開発事業の立ち上げ、卒業後に株式会社バンク・オブ・イノベーション立ち上げ、その後社長を務める。2013年2月、株式会社メルカリ創業に取締役として参画。
USが成功しなければ、日本に帰る場所があるとは思っていない
-この1年を振り返ってみてどうですか?
ひとことで言えば、目指していた結果ではありません。
もちろんこの一年でメルカリUSのサービス自体は改善してきました。1年前は、誰がどう見ても「これはだめだ」という点がたくさんありました。ユーザーエクスペリエンス上の課題を一つずつ潰してきて、昔に比べたら、格段に体験は良くなったと思います。
ただ、日本のメルカリのように、ユーザーに刺さっていない。だから日本のように流行っている状態にはもっていけていないと思っています。
-進太郎さん(※代表の山田進太郎)が今年は「背水の陣で挑む」とインタビューやイベントで発言していました。
今僕らがUSで挑戦しているのって、日本の人からは「メルカリって日本の会社だけど、海外でも頑張ってるよね」というふうに見えるかもしれません。たしかにメルカリは日本での事業の方が大きいですが、僕らにとっては、「日本がメインで海外も頑張る」というレベルの話じゃないんです。ゼロからUSで挑戦するスタートアップと同じ戦いをしている。これで成功しなかったら、自分も会社も終わりという覚悟です。日本のメルカリに、自分の帰る場所があるとは思っていません。
だから、なにがなんでも成功させなきゃいけないんです。
-どういう状態になったら成功だと考えていますか?
日本のように、メルカリが人々の生活の中に溶け込んでいる、たとえば電車の中でメルカリを見ている人がたくさんいる、みたいな状態が理想だと思います。日本に帰ったとき、家族やその友達なんかから「メルカリ使ってるよ」と言われたり、使い方の相談をされたりすると、本当に一般の人に広まっているなあと思いますよね。そこまで持っていきたいですね。
-昨年の8月には「招待爆発(※詳しくはこちら)」があり、ダウンロード数が劇的に伸びました。
招待機能というのは、メルカリの本質ではありません。ただ、ユーザーが自らある機能に気づき、シェアすることから自然発生的に、そして爆発的に広がるということが、USでも起こりうる、ということの象徴ではありました。その意味では、得たものはありましたね。あれを僕ら運営側が狙ってやったとしても、できなかっただろうと思うので。
USのデザイナーとアプリのデザインについてディスカッション中。
「ものを売る」という面倒な過程を、いかに「簡単」と思わせるか
-USに腰を据えてサービス改善をしてきた中で、USならではの難しさを感じる部分はどこでしょうか。
2つあると思います。
ひとつ目で大きいのは、市場環境。日本では、「フリマアプリ」というキーワードが、手元に使わないものがあって売りたい、というユーザーに対して上手く刺さりました。例えばこれが「売買アプリ」という名前だったら、微妙だったかもしれない。コンセプトをすっきりシンプルに、そして明確に伝えることは重要です。
一方、USでは、なにかものを売ろうというときに、まず「Craigslist」などクラシファイドのサービスを思い浮かべるひとが多い。手渡しではなく配送を介する「フリマアプリ」に上手く当たるキーワードがまだないので上手く伝えられてない状態だと思います。
もうひとつは、配送の問題ですね。USは配送料が高い。これはメルカリでも競合のサービスでも直面する課題で、それを克服できている事業者は今のところありません。メルカリでも、いろいろな方法を試行錯誤しているところです。
ただ実際、現時点においても、Craigslistようなクラシファイド型サービスよりも、メルカリのような配送を介する取引の方が便利なシーンもかなり多いんです。US全土と取引できる方が、商品のバラエティは圧倒的に多いですから、欲しいものは見つかりやすい。ただ、そのメリットが、ユーザーにまだ明確に伝えきれていないのだと思います。これは同じ形のサービスをやっている競合も同じですね。
-次に取り組みたいと思っていることを教えてください。
メルカリがいかに便利で楽しいサービスなのか、というその価値を、既に使ってくれているユーザーにもそれ以外の人にも、もっと伝えたいですね。
僕は、人の感覚って、すごく大事だと思うんです。たとえばオークションサイトってやることが多くて難しいとみんな言うけど、実際、本当に難しいのかというと、嘘だと思うんですよ。1回やってみれば本当は簡単かもしれない。ただ、ぱっと見で難しそうだから、やる気が起きなくて、やめてしまうユーザーが多いんですよね。
結局、「ものを売る」って、どこまでいっても面倒なものなんです。でも、それを簡単に見せるのは、心理的な問題がめちゃくちゃ大きい。例えば、出品にかかる時間は短いけれど複雑で難しい印象を与えるサービスより、出品にかかる時間は長くてもわかりやすくて「楽しい」と思えるサービスの方が、ユーザーは「簡単」と感じてくれる。
出品したいものの写真を撮って、売れたら発送してという面倒なことを、「作業」ではなく、「楽しい経験」と感じてもらう。それが重要なんだと思います。
-心理的な問題が大きい、ということなんですね。では、心理的な面で、USと日本のユーザーの違いを感じることはありますか?
似ている点は多いと思います。
USでも日本のメルカリのように価格交渉を楽しんだり、「専用出品で取り置き」や「プロフィール見てね」、「給料入ったら買います」のようなやり取りもありますし、商品を買ったらメッセージカードが入っていたことだって何度もあります。それから、トイレットペーパーの芯やどんぐりのような面白い出品もUSにだってありますよ(笑)
日本の方が見知らぬ人同士のやり取りで丁寧だったり、USの方がメッセージ内容や評価がドライだったり、という違いはある気はしますが、それって例えば日本の職場は「お疲れ様です」が挨拶である、みたいな社会のルールに等しいので、そこまで大きい違いはないんじゃないかと思います。
ユーザーにとって便利なものをつくる。当たり前だけど一番大事
-この1年を振り返って、富島さん自身が学んだと思うことはありますか?
当たり前ですが、やっぱりユーザーにとって便利なものを作って、それが便利なものだよとしっかり伝える、ということが大事だなと改めて思いました。
会社の体制が整って、人も増えて、データもたくさんとれるようになったので、普段は「どこのKPIの数字が上がった」とか見ているんですけれど、だからといって特定の画面や数字だけを見ていても駄目なんですよね。実際にサービスを最初から最後まで使ってみて、本当に便利なのか。お客様の視点で、改めて全体を見ることが事だと思います。
-1月に開催した「Mercari Day」のセッションで、取締役の濱田さんから「(プロデューサーとして)富島は、考えて考えて精度をすごく上げて、やることを絞るから打率は9割くらい」と言われていました。ご自身ではどう思いますか?
うーん、慎重な方だとは思いますね。「なんでだろう?」というのはかなり気になるタイプです。メルカリではA/Bテストをやることが多いのですが、自分は良さそうだと思ったものが結果は悪かった、なんでだろう?とか、よく考えます。納得がいかないのと、そこで理由がわからないと、次につながらないので。
ただ、会社にはいろんなタイプの人がいることが重要だと思うので、みんなが自分のようなタイプでいてほしいわけではないですけどね。
メンバーからはいじられキャラの富島。ポートレートを撮ろうとしたら、なぜかバナナを持たされています…
-最後に一言お願いします。
日本でメルカリを立ち上げたときは、全くゼロの状態で、先行していたフリマアプリの規模もはるか先に見えていました。一方で、いまのメルカリUSは、既に2,000万ダウンロードあり、ユーザーもついている。日本でやってきたノウハウもある。普通に考えれば、日本で成功したときのほうが、100倍くらい大変だったはずなんですよね。それに比べたらいまの方が、圧倒的に成功の近くにいる。
だから、僕は成功できると確信している。皆が無理じゃない?って思ったら、終わりですから。
成功を信じて、やるのみです。