メルカリの中で働くメンバーが、日々どのようなことを考え、どのようにチャレンジしているのかを紹介する場として初めて開催した『Mercari day 2017』。
本稿では、日本向け、アメリカ向けのプロダクトの企画者とデータサイエンティストが企画と分析の裏側を語ったセッション「メルカリのプロダクト企画と分析の裏側 ~ 数字に逃げるは恥だが、役に立つ ~」の模様をお届けします。
個人の裁量が大きく、承認プロセスが少ないからこそのスピード感
メルカリの現場において、企画者は日々何を考えて企画を立て、どのように分析結果を生かしてPDCAを回しているのか、またその背景にはメルカリならではのどのような文化があるのか。
JP版とUS版のプロダクトの企画者とそれを支えるデータサイエンティストが、自分が携わった実際の企画の例を交えて、赤裸々に語りました。
片岡:
まずは自己紹介からさせてください。モデレーターを務めます片岡です。2014年に入社し、メルカリの中では古株となります。入社直後はJP版とUS版、両方のプロダクトマネジャーをやっていました。その後はUSのプロダクトマネジャーに専念しUSと日本を行ったり来たりしていました。先日からはJPのプロダクトオーナーを務めています。
小山:
小山です。入社以来、JPのメルカリのプロデューサーとして、企画を担当しています。現在はJPのメルカリを成長させるグロースチームのリーダーをやっています。メルカリには昨年4月に中途入社しました。
高橋:
高橋です。僕はUS向けのプロダクトマネジャーとして企画をしています。あと、プロジェクトマネジャーとしてiOS、Androidアプリのリリース管理もしています。前職ではソーシャルゲームの開発運用をやっていて、メルカリには昨年8月にジョインしました。
樫田:
樫田です。メルカリに入ったのは昨年5月です。データサイエンティストとして、定量的な分析を通した企画の支援をしています。メルカリでは分析チームのことをBIチーム(Business Intelligence)と呼びますが、そこのリーダーをしながら、プロダクトとしてはUSとJPの両方に関わっています。
片岡:
私以外は入社1年未満ということで、一般的には社歴が浅いとされる3人かと思います。まずはメルカリに来て驚いたこと、今までの会社と違うところなど、生の声をざっくばらんに聞かせてください。
小山:
自己紹介でも申し上げましたが、入社以来ずっとJPの担当をしています。その中でキャンペーンの企画をすることがあるんですが、その予算が数億円単位にもかかわらず、私と上長の2人だけの企画会議でサクサク進められるんです。
メルカリに入る前から「一人一人の裁量がめちゃくちゃ大きい」とは聞いていたものの、その裁量の大きさと承認フローの少なさには驚きました。しかも最初に予算数億円規模のキャンペーンをやった時は、自分はまだ試用期間中だったので、何かの罠ではないかとさえ思いました(笑)
樫田:
小山さんの裁量の話にも通じる点ですが、入ってみて思ったのは、個人の役割が過度に限定されずに、柔軟でオープンなところです。それが面白いし、仕事がしやすいと思っています。
立場上はデータ分析がメイン業務ですが、それとは関係なく、数字的な根拠がない定性的・感覚的な意見もプロデューサーにぶつけるようにしています。また、そうした提案が柔軟に受け止められる雰囲気があります。実際にアプリのデザインを詰める会議やプロモーションの企画会議などにも呼んでもらって、定性的な意見をバンバン言うこともありました。
逆に、プロデューサーの人も自分で分析を回して、「こんな分析したんだけどどう?」みたいなアイデアをぶつけてくれます。企画屋だから企画だけ、分析屋だから分析だけではなく、個々がやるべきことを判断して柔軟に仕事をしているというのは、メルカリのユニークであり面白い点かと思います。
高橋:
私も柔軟性があるなと思っています。それが要因の一つだと思うんですが、物事の進みがすごく速いと思いました。それが開発体制にも表れていて、ワンチームが小さく、その中で物事をどんどん決断して進めていけます。
もちろん後から数字を振り返るのですが、まずやってみよう、行動しようという精神があります。極端な話、役員陣に対しても共有はしますけど、承認を取りに行くというプロセス自体がないです。プロダクト改善の権限や責任を移譲してもらえているので、その場の即断即決で改善サイクルを素早く回していける。そこには驚きましたね。
数字と感性をバランスよく使い分けるのがメルカリの企画者
片岡:
今の中で出てきたポイントとしては、2点あって、
1点目は「プロセスが少なく権限委譲が進んでいるので、進むスピードが早い」
2点目は「各個人に求められる役割の柔軟性が高く、自由に動ける」と言った点かと思います。
それらの環境がある結果、最後に高橋さんが話してくれたような、「即断即決、まずは行動する文化」みたいなものが出来てきているのかと思います。
会社の文化って作るのは難しく、文化は行動規範の延長線上に結果として現れるものなんだろうなと思っています。行動規範の事をメルカリではバリューと呼んでいるのですが、それについては後半で話せればと思います。
それでは、先程の話は比較的抽象度が高い話でしたが、次はより具体的な企画、プロジェクトを進める際にどのように始まるのか、メルカリでの企画の立て方等について教えて頂けますか。
小山:
セッションのタイトルに「数字に逃げるは恥だが役に立つ」とありますが、私の場合はまさに数字を起点に企画を考えることが多いです。具体的には、チームごとに目標数値を持っているんですが、それをブレイクダウンしたKPIというものがあり、これをどう達成するかという視点で施策を考えています。
また、設定したKPI以外に、BIチームが「実はこんな面白い数字もあるんだよ」という分析を上げてくれることがあるので、それを元に企画を進めるパターンもあります。これが意外といい結果に繋がったりしています。
片岡:
その話、いいですね! どんな数字がBIチームから出てきて、それに対してどんな企画を立てたか、言える範囲で教えてください。
小山:
「複数の商品カテゴリをまたいで物を購入してくださるユーザーさんは、メルカリへのロイヤリティーが高い」という分析結果が出まして、これは面白いと思って企画しました。それを形にしたのが、ちょうど今やっているカテゴリスタンプラリーです。
片岡:
ちょうど開催しているんですね!ちなみに今日いらっしゃっている方の中でメルカリダウンロードしているぞ。という方、手を上げて頂いてよろしいですか?
(ほぼ全員手を上げる)
小山:
ありがとうございます!嬉しいですねー。
カテゴリースタンプラリーは、すごくお得なキャンペーンなので、ぜひ参加してみてください。
片岡:
はい。突然の宣伝ありがとうございます(笑)話を戻すと小山さんは数字に逃げるプロデューサーということですね?
小山:
数字に逃げまくっていると思います。とはいえ、一方ではユーザーインタビューも重視していますよ。ユーザーの生の声を拾ってみたり、目の前でアプリを触ってもらったり。そういうことをしてユーザーの気持ち的なところをキャッチアップして、企画に生かすこともしています。
片岡:
ユーザーインタビューをしていて面白い発見がありましたか?
小山:
最近、メルカリ初心者の方に「出品してみてください」とテストしたことがありました。私はすんなり出品ボタンを押してくれるものと思い込んでいたんですが、ユーザーにはボタンの存在に気付いていただけず、結果的にアプリの中を彷徨わせることになってしまったんです。
これは数字だけ見ても気付けなかったところです。作り手にとっての当たり前は、必ずしもユーザーにとっての当たり前ではないと感じたので、数字以外のところも見ていくことが大事と思いました。
片岡:
そうですね。高橋さんはどんな企画の立て方をしていますか?
高橋:
私はストーリーを重視した立て方をしています。ストーリーというのは、ユーザーさんにとってもらいたい行動を、実際にしてもらうまでの流れのことです。そこには大きく3つのステップがあります。まず、BIチームが経営陣と連携して一番重要な指標を一つ決めます。次に、企画側がユーザーさんにとってほしい行動、ストーリーを考えます。ただ、同じ数字上げるにしても改善ポイントは複数存在するので、どれを選ぶと成果が出やすくて、かつ大きいのかを考えることが重要です。そのためにやるのが3つめのステップで、再びBIチームに連携して、どの数字を選ぶと成果が出やすいのかを定量分析してもらい、決めていきます。
片岡:
具体的に話せるストーリーの例はありますか?
高橋:
ちょうどこの前やった施策にこういうものがありました。まずステップ1で、ユーザの活性化のためには「検索を実行させること」が重要だという分析結果が出ました。それを受けてステップ2として、私の方で検索させるまでのプロセスをどうするかを考えました。
具体的には、まずメルカリを登録してもらうというところから始まり、アプリを開き商品一覧を見てもらい、その中に「私のほしいものがありそう」と思ってもらい、かつ「検索はどこだろう」と検索機能に気付いてもらう。さらに、それが使いやすいかどうか、使った結果ちゃんと自分の欲しいものが出てくるかどうか。こういった段階毎のユーザ行動からなるストーリーを考えました。そしてステップ3でBIチームと連携して定量的に調べて、検索の機能をホーム画面全面に打ち出していくことを決めました。
片岡:
なるほど。樫田さんは彼らを支援する立場ですが、彼らの企画立案のスタイルをどのようにみていますか?
樫田:
メルカリには、数字と感性、右脳と左脳をうまくスイッチしながら企画を作る、バランス感覚に優れたプロデューサーが多い気がしています。小山さんも自分では「数字に逃げてばっかり」と言っていましたが、僕から見るとその実態は、感性とか直感も重視したタイプに映ります。
データサイエンティストの立場からすると、自分たちが分析した数字をうまく企画に落とし込んでくれたりとか、効果測定で頼ってもらったりというのは、やりがいがあるし、仕事のやりやすさも感じます。いかに直感が優れている企画者でも、たまには間違うことはある訳で、そういう時にちゃんと数字を見て、直感は必ずしも当たっていないというメッセージを理解してくれるというのが、メルカリのプロデューサーのいいところと私は思います。
その一方で、数字に逃げてばかりではなくて、さっきの小山さんのように、ユーザーインタビューなどをうまく使って定性的な判断もできる人が多いです。また、たとえ数字的な根拠が完全でない場合でも、メルカリのバリューの一つである「Go Bold」の精神に基づいて、「えいやっ」と大胆な施策を打ち出したりすることもよくあります。
このように、数字を生かしつつも、頼ったり逃げたりしている一方ではないというスタンスは、メルカリの企画者に共通しているところかと思います。
Go Boldな企画と、それを支えるデータ分析
片岡:
企画の進め方においても特に決まったものはなく、そういったルールが少なく柔軟な点もメルカリの特色の一つといえるかと思います。 ところで、先程樫田さんの話しの中で出た、「Go Bold」なのですが、メルカリの3つあるバリューの中でも最も上位に位置づけられるものです。メルカリのミッションである「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」を実現するためには、普通のことをやっているだけではダメ。「Go Bold」というバリューには、失敗してもいいから大胆にいこう!という思いが込められています。このバリューは当然、企画者のマインドにも刷り込まれています。
それでは次に、3人がこれまでに実施した施策・プロジェクトの中で、最もGo Boldだったと思うものを紹介してください。
高橋:
先ほどちらっとお話しした、ホーム画面を変えたことはGo Boldかなと思います。ホーム画面は、USアプリが出てから2年間、細かく改善を続けてきた画面なんですが、それを大胆に変えました。日本のメルカリの画面も同じですが、アプリを立ち上げて左右にスワイプスしていただくと、「メンズ」「レディース」「ベビー・キッズ」と切り替わります。これをカテゴリタブと呼んでいるんですが、このタブの機能を廃止しました。「目標としている数字を達成するために必要ないのでは?」という仮説があり、それを調べてもらい、万が一失敗しても大怪我しないということを証明してもらった上で、実行しました。
余談ですが、この話、プロセスも Go Boldでした。当時片岡さんが上長で一緒のチームだったのですが、企画が決まった翌日には、「来週からアメリカいける?」みたいな(笑) そんなスピード感で物事が進みました。本当にGo Boldに決まっていくなーと思いつつ、このときは、まだ2-3ヶ月目で試用期間中だったので、僕も何かの罠なんじゃないかと思いましたね(笑)
片岡:
2つ目の罠! みなさん、罠とかはないですからね(笑)ちなみにサンフランシスコにはどんな目的で、どれくらいの期間行ったんですか?
高橋:
現地にアメリカ人デザイナーがいるので、彼らと仕様を詰めるために同期入社のiOSエンジニアと一緒にドキドキしながら2週間ほど行きました。
小山:
私のGo Boldな話はつい先日の話なんですが、JPの数千万というユーザーさんに対して、お年玉と題してクーポンを配りました。それがなぜGo Boldかというと、動く金額が一つの企業を吹っ飛ばしかねない規模だったからです。例年、メルカリは元旦の取引が減少する傾向にありました。
一方で、メルカリの外では初売りセールが活発です。そこではものすごく大きなチャンスを取りこぼしていると思ったので、それを勝ち取りにいきたいということでやりました。結果、多くのお客様にご利用いただけたんですけど、コスト管理的な面では、三が日は全く休んだ気がしなかったですね。
樫田:
僕は分析が専門分野なので、僕自身がGo Boldに行くというのはあまりないですかね…、というか、どちらかというと自分がそっちへ行ったらまずい立場だと思ってはいるんですけど(笑)ただその一方で、プロデューサーの人たちがちゃんとGo Boldに行けるような支援をしようとはいつも心掛けています。
僕から見るとメルカリのプロデューサーって心臓に毛が生えているんじゃないかと思うようなタフな人が多いんですが、とはいえメルカリもかなり大きなサービスになってきていて、動いているユーザーさんの数も金額も大きいので、大胆な施策を打つ時は誰しも心が震える瞬間はあると思うんですね。
僕の役割は、例えば大きな変更をする時に事前に分析をしておいて、それがどれくらいのリスクを生むかというのを定量化して、「それだったらいけるよね」というのを証明しておくこと。もしくは、具体策を打った後にそれが効いているかどうかという効果測定をすぐにできるようにしておいて、万が一ネガティブな結果が出ている場合に、すぐにアラートを上げられるような体制を作っておくこと。さらには、万が一ネガティブな結果に終わってしまった施策があったとしても、何が良くなかったのかをちゃんと分析して、そこからユーザー行動についてちゃんと学びを得るということもあります。
そうした全てを含めて、バックアップ体制をちゃんとやるとメッセージングすることで、企画者の人に勇気を持ってもらったり、Go Boldに足を踏み出しやすいような支援をするということは、常に意識しながら仕事をしています。
あと、 蛇足なんですけど、僕も入社2ヶ月くらいで「来月から暫くアメリカ行っとく?」みたいになって、え?って思ってるうちにトントン拍子に出張決まったのは高橋さんとおなじでしたね。本当にメルカリは、「罠か?」みたいな出来事が多い会社ですね(笑)
片岡:
また出た罠(笑)チャンスのことですね。メルカリには罠はないです。チャンスが多くあります(笑)
単純なプロセス上にも、できることはまだ山ほどある
メルカリが大事にしているGo Boldというバリューを実践するために、全員がそれぞれの立場から、どうしたらそれが実践できるかというのを日々意識していることが伝わったのではないでしょうか。
最後に、それぞれの領域で今後やっていきたいことについて聞きました。
小山:
JPのメルカリは非常に順調に成長していて、外から見ると完璧なんじゃないかと見られることもあるんですが、まだまだそんなことはなくて。価値創造できる領域はたくさんあると思っています。
例えば、昨年出品を解禁した車の車体。このあたりの領域はメルカリの外の市場を見ても、伸びしろが凄まじいと思っています。
一方で、私自身メルカリで車を売った経験があるですが、使いにくいところだったり、もっとこうだったらいいのにと思ったりしたところがありました。今後はそういうものを一つ一つ、大きいところも小さいところも関係なく改善し、メルカリを使いやすく、もっと価値を創造していきたいと思っています。
高橋:
USとしては、まだJPのように受け入れられてはいないと思っているので、そこが課題だと思います。昨年のAppストアDL3位という数字から順風満帆に見えるかもしれないんですが、全然そんなことはなくて。アメリカの人々が物が欲しい、売りたいと思った瞬間に真っ先に開いてもらえるアプリにしていきたいと思っています。
そのためにも先日、アメリカ出張中にユーザーインタビューをしてきて、目の前のユーザーさんがアプリを触っているところを観察させてもらって、数字に頼っているだけだと見えてこない問題点を洗い出してきました。このアプリの使い勝手上の問題点をキチンと改善していって、本当の意味でUSで受け入れられるようなプロダクトを作り上げるというところを愚直に頑張っていきたいと思っています。
樫田:
分析チームも人が増えてきていて、やれることも増えてきているんですが、それでもメルカリ上にはまだまだ分析・解明しきれていないような未知の部分がすごく沢山眠っていると思っています。
僕らがやっているのはこれまで世界にあまりなかったタイプのサービスです。一人のユーザーさんが出品もするし購買もする、複雑なプラットフォームです。その上でユーザーさんがどんな行動をとるか、どういうステップでファンになってくださるのかなどのメカニズムには、まだまだ未知な部分が大きいと思っています。
特にJPだと、ユーザーさんもかなり増えてきて、拾ってきたどんぐりや海に流れている流木など、僕たちが思いもしないものを売ったりしていて。最近だと仏壇とか位牌なんかが思ったより多く流通されていることに気付きました。そういうのって単純に分析していると分からなかったことだし、これからもそういうものがいっぱい生まれてくると思っています。
世界的にも新しいサービスという未知の世界を作っていける、さらにそれを解明していけるという点がメルカリのすごく楽しいところだと思います。これからも感性と数字の両方を生かしてその世界を作っていきたいと思っていますし、そういうことに興味がある仲間をどんどん作っていきたいと思います。
片岡:
本日のセッションを通して、メルカリの企画の立て方や、環境や企業文化について理解いただけたのではないでしょうか。最後の課題の話にありましたが、単純にものを探す・買う・売るっていうプロセスの上でもまだまだできることはあって、そういった意味でも、全方位で仲間を募集しているところです。