『事業運営を担う皆さんが出会い、学び、実行していくヒントのあふれる場』を目指した「THE BUSINESS DAY presented by Mercari」。
レポート第六回目となる本稿では、岩本 有平さん(TechCrunch Japan)、平野 武士さん(THE BRIDGE)、中澤 理香(メルカリ)をスピーカーにお届けした「Techメディアから見る急成長スタートアップのPR戦略」の様子をご紹介します。
平野 武士(THE BRIDGE 代表取締役)
TechCrunch Japan、CNET JAPANなどでテクノロジー系スタートアップの取材を続け、2010年にスタートアップ・デイティング(現THE BRIDGE)を共同創業。1977年生。(株)THE BRIDGE代表取締役
岩本 有平(TechCrunch Japan 副編集長)
メーカー系SIerを経てインプレスに入社。月刊誌「INTERNET MAGAZINE」の編集に携わる。2005年よりシーネットネットワークスジャパン(現:朝日インタラクティブ)に入社。オンラインメディア「CNET Japan」の編集記者としてスタートアップから上場企業まで幅広く取材、記事執筆をこなす。2014年2月に同社を退社。2014年3月より「TechCrunch Japan」の編集記者を務める。2016年11月より副編集長。
中澤 理香(株式会社メルカリ PRグループ)
2011年、ミクシィに新卒入社し、新規事業に携わりwebやアプリのディレクター等を務める。退社後、留学などを経て2014年よりYelpにて東京のコミュニティマネージャーとして活動。2016年1月よりメルカリの広報に従事。
Techメディアの編集者が語る、急成長企業の共通点
Web系スタートアップが成長していくうえで、TechメディアでのPR戦略は無視できません。しかし当然、どの企業もすべからく取り上げれるということは不可能。
スタートアップのPRはTechメディアとどのように付き合っていけばよいのでしょうか。どうすれば、Techメディアが取り上げたくなる企業になれるのでしょうか。
日本を代表するTechメディア、『TechCrunch Japan』『THE BRIDGE』の編集者を招いて行なわれたトークセッションの様子をレポートします。
中澤(メルカリ):
お二人はいろんなスタートアップを取材されていると思うのですが、急成長している企業の共通項ってありますか?
岩本さん(TechCrunch Japan):
大前提として、プロダクト自体が良いことが挙げられます。その上で、プロダクトとPRで発信しているメッセージ、社員の働き方や行動に一本筋が通っていることですね。
メディアに取り上げられたいと考えるPRの立場で考えると、露出の目的が明確であることも大きな特徴です。企業がメディアで露出する目的って、3つに絞り込めるんですよね。具体的には…
- プロダクトを流行らせたい
- 資金調達先や提携先を見つけたい
- 人材を集めたい
3つのなかでどれがゴールなのかが明確で、メディアにとって“お土産”(読者に提供すべき新しい情報)があって、数字が揃っていれば、取り上げる確率はぐっと高くなります。
平野さん(THE BRIDGE):
PR戦略の目的が明確という意味では、私は今回のTHE BUSINESS DAYを企画したメルカリやソラコムなどがこれからの日本を代表する企業になっていくんだろうな、と思っています。
いつも事前準備は完璧ですし、数字を出すタイミングも設計されている。さらに、メディアとして「使いたくなるなぁ」という情報が必ずと言っていいほど盛り込まれているんです。
私たちTechメディアは別に読み物としておもしろい記事を書きたいわけではありません。一定数いる読者の人たちに、第三者として企業のメッセージを届ける。それだけなんです。
だから、何かを勘違いして「PRって記者の人と話す仕事なんだよね」くらいのノリで会いにこられて、さらに全く準備されていないとなると、取材しても「なんだこりゃ」ってなってしまうわけです。
中澤:
その流れでお聞きしたいんですけど、「これはやめてほしい」ということってありますか?
平野さん:
プレスリリースの配信を大切にしない会社はイヤですね。PR会社にまるごと代行している会社もありますが、ほとんどの場合“残念感満載”だと感じます。
別に、無理にメディアに合わせようとしなくていいんですよ。
当然ビジネス誌とテクノロジー誌、担当レベルでもテクノロジーで世の中が変わっていくのが好きなタイプの編集と、テクノロジー自体が好きな編集がいるから攻め方は違うと思いますが、基本的には自分たちの言葉で伝えるべきです。
リリースは会社の声でありメッセージ、プロダクトは自分の子どものようなものじゃないですか。
あと、コミュニケーションのなかで「先に◯◯新聞に載せたいので……」みたいなことを言われるとショックですね。新聞のようなメジャーなメディアと新興メディアの役割って、まったく別物じゃないですか。
岩本さん:
他のメディアとどうやり取りするかは好きにすればいいと思うんですけど、メディア側の圧力に屈してしまうとこちらとしてはいい気はしないですよね。
私たちメディアの編集側としては、どの企業やプロダクトであろうと、えこひいきせずにお付き合いしたいと思っているので。
ここで平野さん、岩本さんが共通して「避けるべき」と発言していたのが、『メディアに掲載されることをKPIに置く』『広告費換算で価値を測る』ことでした。
岩本さんに至っては、「どういうKPIを設定すべきか相談されることがありますが、広告費換算だけはやめておきましょう、と伝えています」というほど。
岩本さん:
メルカリはどういうKPIを設定しているんですか?
中澤:
広報では、明確なKPIは設定していません。露出件数や広告費換算にはこだわらないようにしています。しいていえば、インパクト重視ですね。
件数を増やすだけなら取材を増やせばいいですが、経営陣も忙しいので取材だけに時間をとるわけにはいかないし。
全社の目標にあわせて露出も考えるようにしています。たとえば「こういう人材を採用したいから、業界の人が読んでいるこのあたりのメディアを狙おうか」という感じです。
平野さん:
メディアに記事が載るときに、ソーシャル流入とSEO流入はどっちを重視しているとかはありますか?
中澤:
周りから「あの記事読んだよ」と言われるのは、やはりソーシャルが多いですよね。とはいえ、ソーシャルってひとつの小さな村でしかないので、ベンチャー界隈向けだということは意識しています。
露出によってターゲットは明確に分けていて、「メルカリ」というサービスに関することであれば、ベンチャー界隈ではなく一般のユーザーに届いてほしいと思っています。一方、「メルカリという会社」についての露出は、狭くても深く伝わればいい場合もある。サービス広報なのか採用広報なのか、目的によって切り分けるイメージですね。
自分たちの言葉で、自分たちらしく伝えよう
目的を明確に持つこと。Techメディアと付き合っていくためには、そこが大きなポイントだといえそうです。
では、PRをうまくやりたいと考えている人にとってTechメディア側が”応援したくなる企業”の特徴とは何なのでしょう?
平野さん:
私はベンチャーとか新興の企業が好きなんですよ。次の世代のために、仕事とお金を生んでくれている人や企業だと思っていて。そういう意味では、誰であろうと応援したいと思っています。
市場をつくって、ときには規制ギリギリのところを攻めながらビジネスを進めることの面倒くささを知っているつもりですし、仮に死んでも「好きでやってんだろ?」と言われるわけです。そこまで使命感を持ってやられているからこそ、私たちメディア側は応援したいですよね。
ですからベンチャー企業の広報、PRの皆さんは、遠慮なく自社のことやプロダクトについてアピールしてきてください。それぞれのメディア特性を理解したうえで、その時々で最適な選択と売り込みをしていただきたいですね。
そのときは、ぜひとも自分の言葉で。自分の子どもであるプロダクトのことを、他人が紹介するなんておかしいじゃないですか。「こういう言い方をしたら乗ってくれるんじゃないか」とか小細工はなしで、思いの丈を熱っぽく伝えてくれたら、自然とコミュニケーションが生まれます。
そうなると、応援するかしないかを考えるような関係ではなくなりますよね。
岩本さん:
「プロダクトに集中してください」というひと言に尽きますよね。
ゴールは、我々に伝えることではないし、メディアに出ることでもない。メディアはあくまで、企業と世の中をつなぐ媒体、ツールでしかないわけです。
だから、広報の皆さんはメディアに載ることをゴールにしないことが大事ですね。
また、我々メディアは応援すると同時に客観性が求められます。仮に毎晩楽しく飲みに行くような仲だったとしても、ネガティブなことがあったらきちんと教えてほしいですね。
「仲良しだから応援したい」というわけではないので。試行錯誤しながらでも、愚直にチャレンジしている企業を応援したいと思っています。
プレスキットを揃えるなど、最低限のテクニックから始めよう
セッションの最後に会場からの質問を受けて、PRが上手な企業について紹介。TechCrunch Japanの岩本さんは、あるスタートアップとその代表の名前を挙げて、その露出戦略について紹介しました。
岩本さん:
自身のブランディングを上手に考えていて「どういうときに自分が出る」ということをきちんと設計しています。
とあるイベントにその代表が参加していたんですが、会場で別のスタートアップが自社のTシャツを配っていたんですね。でもその代表はTシャツを着なかった。自分たちのブランドを守りたいからです。そこまで信念持ってやれているのはすごいですよね。
あと、ビジュアル面の戦略も徹底しています。普通取材に行ったら、自分たちで撮影までしたいんですけどそれを断って、宣材写真的なものが送られてくるんです。そして、(よく見かける公式の宣材写真でなく)メディアに合わせてきちんとカスタマイズしてくれています。露出の仕方を考えているな、と。
平野さん:
細かいテクニックを抑えておくのは大事ですね。
プレスキット一式を揃えておく、リリースはペラ2枚くらいに抑える、動画はエンベッドできるようにYouTubeにアップしておく……。
基本的なことですが、きちんと積み上げていくことで、あとからボディーブローのように効いてきますから。
そして誰もが真似できる小手先のテクニックではありませんが、他人を巻き込むのが上手い広報・PRの人がいますよね。
CAMPFIREとBASEなどがそうですけど、家入一真さんのように巻き込み力がとんでもない人がいるところは別格ですね。PR戦略がノープランだとしても、飛び道具的に人を巻き込む方法というのも、上手いところは成功している印象です。
「プロダクトに集中してほしい」「企業にとってプロダクトは自分の子どもみたいなもの」。そんな言葉が多く飛び出した今回のセッション。
目的意識をもって、自分たちの言葉でまっすぐに伝えるということが重要になるといえそうですね。
PR戦略に“銀の弾丸”はない。今回のイベントを通じて、今後のPR戦略を考えるヒントになれば幸いです。