『事業運営を担う皆さんが出会い、学び、実行していくヒントのあふれる場』を目指した「THE BUSINESS DAY presented by Mercari」。
レポート第五回目となる本稿では、村上 未来さん(ユーザベース)、掛川 紗矢香(メルカリ)をスピーカーにお届けした「急成長事業を支える管理部門の裏側」の様子をご紹介します。
村上未来(株式会社ユーザベース 管理担当 執行役員)
大手監査法人、投資銀行での勤務の後、KPMGヘルスケアジャパンに入社。ヘルスケア業界に特化して、M&AのFA業務や、M&A時のビジネスデューディリジェンス、財務デューディリジェンス、クライアントに対する戦略コンサルティング等、手広いサービスを提供。2012年に株式会社ユーザベースに入社。2016年、同社をマザーズ上場に導く。
掛川紗矢香(株式会社メルカリ 執行役員)
東京女子大学英米文学科卒業後、株式会社GDH(現ゴンゾ)を経て2009年6月グリー株式会社に入社し、海外子会社立ち上げ、グローバルアカウンティングマネジャー等を担当。2013年10月より株式会社メルカリに参画。米国子会社設立、コーポレート基盤及び体制の確立等を手がけ、2015年2月執行役員就任。
ユーザベースに学ぶ、企業の規模と管理部門の関係性
企業の成長を語る際に、管理部門がフォーカスされることは多くありません。プロダクトを開発することもなければ、営業活動に取り組むこともない。間接部門といわれる部署です。
しかし、管理部門の存在なくして企業が成長を続けていくことは不可能。IPOひとつを切り取ってみても、上場準備業務を手がけるのは管理部門でしょう。
スピーカーにお迎えしたのは、2016年10月に上場したばかりの『株式会社ユーザベース』で管理部門を牽引する村上未来さん。
立ち上げ期から管理部門を牽引した村上さんから、設立当初の業務内容とそのポイントを語っていただきました。
掛川(メルカリ):
ステージによって管理部門の役割は変わると思うのですが、最も初期段階でやるべきこととは何なのでしょう?ユーザベースの事例を交えて教えてください。
村上さん(ユーザベース):
ほかの何を差し置いても、従業員の給与を支払うことと、毎月の決算を締めること。これだけはどんなに少数でもやらなくてはいけませんし、逆にいうと最低限これだけやっていれば会社がまわると思ってます。
スタートアップの場合は、なかなか間接部門に大きな投資をできないのが実情ですよね。ユーザベースの場合も、最初は私を含めた3人だけ。特定の業務だけでなく、ありとあらゆる仕事を引き受けるような状況でした。
そこから成長段階に合わせて、必要なポジションを採用していまに至ります。
採用したポジションと役割を時系列でお話すると、経理が最初です。組織としては50名くらいの頃ですね。
きちんと月次決算を締めなければならないので、経理部門はここから徐々に増やしていきました。
続いて採用したのが労務です。もともと上場を目指していたので、勤怠管理を徹底する必要があって。新入社員を受け入れることになったので、労務を専任で任せる人材が必要でした。
その次が70名くらいのときに総務庶務のメンバーが加入しました。3〜4人でやっているときは、全員がありとあらゆる業務を担っていたので、それこそ代表電話の対応から、壁紙が剥がれたときの処理もこなします。その状況では今やっている作業が頻繁に中断します。後から入った作業を終えて、15分後に席に戻ってきたら、「あれ、何やってたんだっけ?」となって、他の業務の生産性が落ちるんですよね。この状況を変えるために、総務庶務の専任者を採用しました。
100人を超えたときに法務を採用して、120人くらいのときに広報を採用しました。BtoCサービスであるNewsPicksがスタートしたので、契約書の数も更に増加し、必須のポジションだったんです。
順調に組織が拡大して、150人規模になったときに給与計算の専任者を採用しましたね。給与計算はそれまではアウトソーシングしていたんですが、社内に専任者がいたほうが、その規模になると効率面でも組織強化という面でも必要だった。
という感じで、その時々に必要なポジションの人材を採用して、次のフェーズに進める組織体制をつくっていきました。
掛川:
50人で経理を採用されたとのことでしたが、似てますね。メルカリでは、50人くらいになるまで管理部門はほぼわたし一人でした。
入社初日に監査法人とのミーティングがあったのですが、半年間くらい月次決算が締まっていないことを知らされて……。「これヤバくない?」と(笑)。
アウトソーシングするという選択もあったのですが、IPOを目指す会社であれば数年分過去に遡って中身をみられますから、会社への理解を深めるためにも社内でやることが重要だと思い、一ヶ月半くらいかけて対応していきました。
村上さん:
うちも一緒です。私が入社したときにも会計が半分締まっていなくて(笑)外部の会計事務書に段ボール3箱くらいの書類をそのままお渡しして、突貫で決算を締めて、ぎりぎりその年の決算ができたのを覚えています。
掛川:
どこも似たようなものですね(笑)
上場準備に関わる、管理部門のリアル
業務アウトソーシングの話題が出たところで、テーマは「監査法人や証券会社との付き合い方」へ。
信頼できる監査法人/証券会社はどのように見つけているのでしょうか? 話は上場準備業務の具体的な内容にまで及びました。
村上さん:
監査法人や証券会社って、単なるアドバイザーではなく一緒にビジネスを成長させていくパートナーであると思えるくらいの関係性を築けると、よりよいアドバイスをもらえると思っています。私たちが主幹事を選んだ要因に「この人たちと一緒にやりたい」と思えたことが大きな理由として挙げられます。
上場準備を進めてプロセスを経ていくと、困難な局面はやってくるんですよね。私たちも例外ではなかったんですけど、信頼できる監査法人や主幹事とタッグを組めたので、無事に乗り越えることができました。上場準備前の監査法人や主幹事の選定は、特に大事ですね。
掛川:
わかります。実は私も一番最初に会った監査法人とは別の監査法人と契約を結んだことがあります。長期的に一緒に働く仲間のような存在だからこそ、相性は非常に重要だと思います。
さて、上場準備の話が出ましたが、ユーザベースさんは9月に上場されたばかりということで、最近まで準備をされていたかと思いますが、何名体制で、どのくらいの期間、実際どのようなことをされていたんですか?
村上さん:
一言で上場準備といっても、フェーズは3つに分かれます。具体的には、自社で準備する期間、証券会社の準備期間が5〜6ヶ月、最後に取引所の審査期間3ヶ月を経て上場していきます。
ユーザベースの場合、証券会社の準備期間の終盤までは約2名という体制でした。私ともう一人です。進めていく過程で経理財務や総務のチームの力を借りていたのですが、経験者がいなかったので結構ハードでしたね。
監査法人や証券会社など相談できる人たちはたくさんいたので、どんどん質問しました。「こんな基本的なことも聞いちゃっていいのかな」と思いながら(笑)。証券会社向け準備期間の終盤にようやく経験者を採用できたので、そこからは3名体制になりました。
掛川:
経験がないのに外注しなかったのは、なにか明確な理由があったんですか?
村上さん:
当初は「規定づくりやワークフローの構築をまるごと外注しちゃえ」みたいな声もあったのですが、自社でやるという選択をしました。外注したのは、本当に一部の業務のみ。
規定づくりやワークフローの構築って、自社の実態に合わせないと浸透しないじゃないですか。むしろ合わせてつくっても浸透しないほうが多いので。
上場に必要だからって、やっつけでつくっても、浸透しないのが目に見えてますよね。だから内部の人が、実態を理解しながら進めていくことを選びました。
掛川:
何事も社内で理解して進めるって大事ですよね。弊社もIPOについては意識して業務を進めているのですが、IPOの過程で、予算をシビアに見られるという話を聞いたことがあります。そもそも予算ってどのように策定しているんですか?
村上さん:
上場前はトップダウンの要素が強かったですね。今は各事業別にそれぞれにP/L責任をもたせた執行役員を置いて、ボトムアップでつくっています。
売上に現場の状況を無視したWillを反映し過ぎると、達成できないものになっていく。「達成可能かどうか」という、現場でのガバナンスを効かせながら予算をつくっていますね。
でもどんなに工夫をしても、人件費については苦労がなくなりません。年間30人くらいが入社する状況で、策定段階では何月に何名入社という計画があるんですけど、実際の採用タイミングのズレによって差異が生まれてしまうことは往々にしてあって。他社に聞いてみても、「そこは苦労するよね」という話になることが多いです。
掛川:
うちもそうですね。成長している企業だと事業の伸びが速すぎて予測が追いつかないという現象がおきますよね。嬉しい悲鳴ですが。予算の話がでたので実績についても伺いたいと思いますが、上場すると決算の早期化が求められるという話もありますが、そのあたりはいかがでしょう?
村上さん:
上場準備をしている過程で「決算早期化やりましょう」という話になるわけです。結果、今は単体を4営業日、連結を6営業日でやってます。何をやったのかというと、ひたすら業務の標準化ですね。
地道な活動を続けて、「いついつまでに単体●営業日、連結●営業日」とマイルストーンをおいて、それをひとつずつ達成していきました。
管理部門の採用は、市場価値を語れ
最後のテーマは、管理部門の人材採用について。採用を成功させるために工夫していることについて語られました。
村上さん:
ユーザベースでは採用活動を成功させるために、大きく2つ工夫していることがあります。
ひとつは、管理部門の仕事を前向きにとらえてもらうためのコミュニケーション。「人材としての市場価値がものすごい上がるよ」という話をして、前向きにとらえてもらうようにしています。
入社してから4年くらい経ちますが、その間に手がけたコーポレートイベントってたくさんあるんです。銀行やVCからの資金調達、資本提携、ストックオプション設計、会社分割、さらには引越しまで。多くのコーポレートイベントを短期間に経験できるのは、スタートアップの管理部門ならではです。
もうひとつは、働き方の話です。ユーザベースの場合、フレックス勤務でコアタイムがないんですよね。場所も自由で。管理部門15人のうち、11人が女性でワーキングマザーの方も活躍できるんですよね。優秀な方に入社していただける仕組みなのかな、と思っています。
掛川:
業務をたくさん経験できるというのは、管理部門の魅力ですよね。仕事内容や働いている人に対して、地味で保守的なイメージを抱かれがちですが、実際にはそんなことなくて。
以前、労務担当者向けのイベントを開催したことがありまして、大盛況だったんですよ。管理部門で働いている人のなかには、新しいことや情報に飢えている人が大勢いると実感しました。
「みんなやってないからやらない」じゃなくて「みんなやってないからやる」という選択肢をしているところを発信することで、興味をもってもらえるのかな、と思っています。
村上さん:
スタートアップでは、「それ、やってみよう」というのが当たり前なんですよね。
大手はオペレーションどおりにこなしていくことが求められますが、スタートアップではオペレーションを回すのは当たり前で、むしろ仕組みをつくっていくことが求められる。
だから、充実していて、おもしろいんですよね。
エキサイティングな部署。それが、今回のトークセッションに参加して、管理部門に抱いた感想でした。
特に上場準備段階から関わることができれば、キャリアの幅を広げる大きなチャンスだと言えるでしょう。
管理部門=地味なんてとんでもない。「THE BUSINESS DAY presented by Mercari」の開催意図にもあるように、事業運営を担う管理部門だからこそ、学びを得て新しいことにチャレンジする大切さがわかりました。