『事業運営を担う皆さんが出会い、学び、実行していくヒントのあふれる場』を目指した「THE BUSINESS DAY presented by Mercari」。
レポート第二回目となる本稿では、宮原 崇さん(マネーフォワード)、福島 良典さん(Gunosy)、小野 直人(メルカリ)をスピーカーにお届けした「『初モノ提携』を実現するBizDevの戦い方」についてご紹介します。
福島 良典(株式会社Gunosy 代表取締役 最高経営責任者(CEO))
東京大学大学院工学系研究科修了。大学院在学中に「Gunosy(グノシー)」のサービスを開発し、2012年11月に株式会社Gunosyを創業、代表取締役に就任。2013年11月代表取締役最高経営責任者に就任。2012年度IPA未踏スーパークリエータ。
宮原 崇(株式会社マネーフォワード 執行役員 MFクラウド本部長)
北海道大学経済学部を卒業後、伊藤忠商事に入社。約8年間、水産物トレーダーおよび関連会社取締役として勤務。2年間の欧州駐在を経た後、IBMビジネスコンサルティングサービスにて、大手金融機関や大手メーカーのM&Aの統合計画策定および実行支援やチェンジマネジメントを推進。その後、グリーのマーケティング事業本部にて営業企画や新規事業企画をリードした後、マネーフォワードにMFクラウド本部長として参画。
小野 直人(株式会社メルカリ 事業開発グループ マネージャー)
NTTドコモで、海外携帯キャリアとのアライアンス、商品企画を手がけた後、米国ビジネススクールへ留学。帰国後、経営企画部で中期事業計画・新規事業パートナー開拓、IR部で機関投資家対応業務に従事。その後、Amazon Japanにおいて学生向けサービス Amazon Studentの立ち上げ、書籍事業部の事業企画とPMにコミット。2014年、株式会社メルカリに参画。BizDevのマネージャーとして、外部パートナーとの提携・協業を通じ、プロダクトと事業の成長を担う。(米国MBAホルダー:企業戦略論、科学的意思決定論。)
マネーフォワード・Gunosy・メルカリ、三者三様のBizDev
新しい概念ともいえるBizDev。単一の概念がまだないと思われるBizDevについて、三者三様の考え方をご紹介いただくところからセッションがスタートしました。
小野(メルカリ):
プロデューサーとエンジニア、デザイナーたちがプロダクトを作る。それを支えるCS部門、財務/経理、法務、総務、人事/労務というコーポレート部門もいる。ミニマム、バイアブルなプロダクト、事業が回っている。が、何か足りないものが出てくる。
そういう足りない部分を見つけてそれを補うために、外部のリソースを引っ張ってきて、内部のそれと噛み合わせてプロダクトや事業を成長させるのがBizDevの役割だと思います。
もうちょっと具体的に言うと、メルカリの場合は、大きく2つ。配送と決済ですね。この2つの部分で、プロダクトと事業を成長させるためにアライアンス、パートナーシップを結ぶ。
福島さん(Gunosy):
基本的にベンチャーというのは、ビジョンやミッションを達成するために、いかにしてリソースを調達するかの戦いになります。手段としては自社で抱えるか、協業するか。
他社と組む場合には、自社だけでコントロールできない課題やコンフリクトが発生しますが、上手に解消しながらお互いの課題を解決する必要があります。そこがBizDevの仕事。Gunosyの場合だと、パブリッシャーとの提携がBizDevの事例のひとつです。
宮原さん(マネーフォワード):
マネーフォワードが提供する自動家計簿・資産管理サービス「マネーフォワード」やビジネス向けクラウドサービス「MFクラウドシリーズ」をより多くの方に広めていきたいのですが、Webでの集客にはやはり限界があります。そこでBizDevの役割として、一緒に課題を解決するパートナーという軸でアライアンスや提携を進めていきます。具体的には、金融機関や会計事務所が重要なパートナーとなります。
企業が持つお金の課題を一番共有されているのが、税理士の先生たちです。「MFクラウドシリーズ」の場合、会計事務所を開拓して、一緒に中小企業の課題を解決するのが第一義と考えています。さらに多くのユーザーにアプローチしていくために、アスクルやヤマト運輸とも連携を進めています。
3社ともにBizDevの役割として挙げられていたのが、アライアンスやパートナーシップでした。BizDevを語る上でのキーワードとなります。
メルカリの場合は、配送であればヤマト運輸、決済ならクレディセゾンやセブンイレブン、携帯キャリア各社。つい最近ではJCBとの連携も発表しました。
他の2社においては、どのような相手を、どんな狙いでパートナーに選ぶのでしょうか。
福島さん:
パブリッシャーのほかにも、広告事業においてはアドネットワークサービスを提供する各社がアライアンス先となります。
他のアライアンス先としては、携帯キャリアも挙げられます。ニュースアプリは、いかにアプリをユーザーにインストールしてもらうかが重要な指標です。
一見、相関関係はないようにみえますが、「お互いのアセットを持ち寄ることでこんな課題解決ができるんです」というふうに、パートナーシップの本質部分で協力関係を築くことができます。
宮原さん:
「MFクラウドシリーズ」の場合、会計事務所が重要なパートナーではありますが、インプット部分にも注力しています。いかにデータを素早く取り込むかがビジネス上の重要な要素になっているんです。
金融機関とAPI接続をおこなって入出金データやクレジット会社の利用明細データを連携する、と言ったことですね。また、飲食店に特化する形で、トレタやUSENもアライアンス先になります。
トレタが持つ優れた予約台帳の予約情報がUSENのレジに繋がって、決済部分が「MFクラウドシリーズ」に繋がる…と言った取組みを実施しています。バックオフィスのデータをシームレスに連携することを、パートナーシップのなかで重要視しています。
失敗要因となる温度差は、事前の根回しで解消
BizDevの概念として共通のキーワード、アライアンス・パートナーシップが導き出されたところで、気になるのは実際のBizdev案件の進め方。
提携プロセスやその中で苦労するポイントなどについて、ケーススタディが展開されました。
福島さん:
ニュースパスの例だと、Gunosy側は、自分たちではリーチできないユーザー層の獲得につなげたい。このウォンツを包み隠さず、率直に伝えました。スタート段階で重要なのは、アライアンスを組むことによってどんな課題を解決したいのかを握っておくことだと思います。
実際にプロジェクトが動き始めると、小さなところでは、バックログはどっちが責任持って作るのかとか、そもそもサービスの名前どうするのかといった調整事が発生します。
ここで大事なのは、最初の目的に立ち返り、「こういう理念のもとでアライアンスを組むんですよね」「だから名前はこう決めましょう」という粘り強いコミュニケーションをしていくことです。
宮原さん:
アライアンス先に金融機関が複数あるんですが、伝統的な産業でもあるため、いちベンチャーと組むなんて、想像したこともないというお声をいただくこともありました。
そういった相手にお話をさせていただく際には、こちらのミッション、ビジョン、バリューをお伝えし、共感していただくことが大前提となります。
その上で、当社には優秀なエンジニアが多くいますので、テクノロジードリブンでスピード感を持って開発を進めていくということをお伝えし、提携の交渉を進めていくようなケースがあります。大企業が持っていない価値を提供することで、互いに調整していくことが必要だと考えています。
小野:
メルカリが苦労するポイントは、社内外の調整にあって。社内と社外で、期待感と熱量がシンクロしないことが多い。
内部リソースが余裕を持てるときだと、提携先がいろんな理由で準備が整っていないとか。逆に外部の熱量が高くていまがその時ってなると、内部リソースがほかのプロジェクトにロックされてるとか。
そういうことって、お二人はありますか?
福島さん:
あります。特にベンチャー企業に対しては、開発リソースやプロダクトを作ることが期待されてる傾向がありますが、社内と社外での捉え方に温度差が生じることがあります。
重要なのは、優先順位を決めておくことだと思います。新たな機能追加の要望が出てきたとしても、最大優先事項はユーザーの満足度にしましょうと決めておく。そのほかはフェーズを切って、進めていく状態にしています。
ありがちな失敗として挙げられるケースは、「できます、できます」と言って期待値を上げてくること。でも実際には、開発リソースが空いていなくて間に合わないとか、品質が低くなってしまうことが良くあるんじゃないですかね。
宮原さん:
自分はまさに「なんでもやります派」なんですが(笑)。超一流企業との大きな提携ができそうだと興奮して持ち帰ったんですが、社内はそこまで盛り上がらない…といった経験がありました。
でも仕方ないと思うんです。BizDevの人間は頻繁に社外と提携による世界観とかを大きく描いて共有している。でも社外の方と接する機会が少ないエンジニアに、同じようなレベルのコミュニケーションを求めるのは難しい部分もあると思うんです。
10名くらいの組織の頃は、みんなでわいわい議論できた。会社が少しずつ大きくなってくると、ギャップが生まれてくるのは仕方ないことなんだろうなと考えています。
意識しているのは、「なんでもやります」を言わないのはもちろんですが、実現したい世界観を社内にも随時共有すること。
具体的には、提携が決まる前から、エンジニアを交渉の場にアサインすることもあります。そうすると、自分が何を作るのか、どういうことを期待されているのかを、顧客からインプットしてもらえるんです。
具体的な案件の起こり方と社内外の調整方法の具体論が語られました。
合わせて福島さんからは、アライアンスにおける優先順位の付け方として、「大企業の組織や文法、お作法を知ってる人を充てる」「事業にとって何が大事かを理解して、どこから手を付けることが一番、事業を伸ばせるか。優先順位は事業が伸びる順」というヒントも。
大企業とのアライアンスの鍵は、お金よりも世界観
セッションの後半では、アライアンスに関わる人がもっとも気になる、「交渉術」が語られました。
案件の種類や提携先によって異なる方法論が存在しますが、どのような「口説き方」が効果的なのでしょうか。具体的事例による交渉術が披露されました。
小野:
まず前提としてトリッキーな方法はないと思っていて。オーソドックスな、いわゆる王道な営みなんですが、ちょっとだけ特徴があるんです。メルカリの場合は配送と決済という柱があると先にお話しましたよね。この領域ってそれぞれで明確に方法論が分かれてます。
まず、配送のヤマト運輸さんの場合は「提携によるアップサイド」を説く。ひとつが世界観や夢なども含めたの戦略的な意義を語ること。もうひとつが、そろばんを弾いた結果を見せる、つまりP/L収支を語ることです。この2つがこの順番でヤマトさんには刺さります。先方の理念になんでも運ぶ『コモンキャリア』というのがあって。そこをくすぐって戦略的な意義で語ることに意味がありました。お金の話はその次にくるという。
対して決済系の会社さんは何よりもまずリスク回避なんですよ。大事なものが。なので、ヤマトさんとは違って「考えてらっしゃるような、提携によるダウンサイドリスクは、実は心配いらないんだよ、ヘッジできるし、そもそもそんなリスク無いんだよ」というメッセージを伝えるようにしています。メルカリみたいなCtoC事業者と組むのは前例もない、どんなリスクがあるかわからないと漠然と感じられているんです。そんなことはないというのを伝えるのがキーになっていて。
メルカリはここで強いんですけど、それはなぜかというと強いCSがあって、かつその強さを数字で伝えられるんですね。データを見せてしっかり納得いただくというケースが非常に多い。
福島さん:
相手の気持ちを理解するのが、本当に大事だと思います。ベンチャーがやりがちなのは、自分たちがサービスについて良く知っているから、「こうやれば上手くいくよね」という雑なコミュニケーションをしてしまうこと。相手の気持ちを理解して提案することが重要です。
最後は、お互いが少なからずリスクをとって実行するので、一緒にやりたいと思えるかどうか。僕らのケースは、役員がコミットをみせて「本気でやります。一緒にやりませんか」というある種の男気をみせています。部下じゃなくて事業部長や役員が熱意をもって語ることですね。
宮原さん:
世界観に共感していただくことと、相手の課題にテクノロジーをミートさせることが重要だと考えています。
プロセスとしては、大きな提携であるほど、トップ同士で握ることが重要だと思います。事例としてご紹介したヤマト運輸やアスクルの社長に対して「儲かります」と言う話を持っていっても、当たり前ですが興味を持っていただくことはできません。
当社と組むことで世界がこうなっていくという未来の話をしっかりとお伝えする必要があります。例えば、フィンテックでいうと、アメリカが凄く進んでいて日本は後進国だと言われています。だからアメリカを超えるようなサービスを一緒に創りたいので、そこに協力していただけませんかとご相談することもひとつだと思います。
BizDevの定義に始まり、提携先の選び方や案件の起こり方、社内外との調整方法、そして具体的な交渉術まで惜しげもなく語られた当セッション。
注目のスタートアップ企業が大企業と協業を発表する裏側には、多くの苦労と戦術があったと知れる時間となりました。
ベンチャー企業ならではの技術力と描く夢の大きさが、日本を、そして世界を変えていくのでしょう。