『事業運営を担う皆さんが出会い、学び、実行していくヒントのあふれる場』を目指した「THE BUSINESS DAY presented by Mercari」。
レポート第三回目となる本稿では、高宮 慎一さん(グロービス・キャピタル・パートナーズ)、長澤 啓 (メルカリ)をスピーカーにお届けした「メガスタートアップのファイナンス事情」についてご紹介します。
高宮 慎一(グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー/Chief Strategy Officer)
コンシューマー・インターネット領域のベンチャー投資を担当し、投資先に対してハンズオンで成長を支援。支援先はアイスタイル(東証3660)、オークファン(東証3674)、しまうまプリントシステムなど多数。戦略コンサルティング会社アーサー・D・リトル、東京大学経済学部卒(卒論特選論文受賞)、ハーバード大学経営大学院MBA(二年次優秀賞)。
長澤 啓(株式会社メルカリ 執行役員 CFO)
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、三菱商事において金属資源分野における投資及び主にエネルギー、リテール、食品分野等の領域におけるM&Aを担当。2007年にシカゴ大学経営大学院を卒業の後、ゴールドマン・サックス証券にジョインし、東京及びサンフランシスコにおいて主にテクノロジー領域におけるM&AやIPOを含む資金調達業務を担当。2015年6月にCFOとして株式会社メルカリに参画。
投資判断を左右した、期待感ある事業ドメインとチームアップ
2016年3月、メルカリが実施した84億円の資金調達。この事実に対して、
高宮:
100億円近い調達が行なわれたことは、本気で世界を狙えるベンチャーの出現を予感させてくれましたね。日本の悲願だった大きなファイナンスが、ビットバレー以来やっと出てきたという印象で。ファイナンス金額でも事業そのものでも、ようやくシリコンバレーと比して戦えるところまできたなと。
と最大限の賛辞を贈るところからセッションがスタートしました。
二人のやり取りから、スタートアップのファイナンス事情と大型資金調達の可能性、コーポレート部門による事業牽引について紐解いていきます。
長澤:
グロービスが最初にメルカリに投資したのは、シリーズBのラウンドでした。どのような判断で投資を決めたのかをお聞かせください。
高宮:
シリーズBといっても、実際にはプロダクトが出て直後くらいの、一般的にはシリーズAのタイミングでした。そう考えると、「けっこう高いな」というのが正直なところで。
それでも投資に踏み切れたのは、チームが良い、狙っている事業ドメインが良いという、ポテンシャルの高さでした。
社長の山田 進太郎のことはウノウ時代(2001年にメルカリ代表の山田が設立したウノウ株式会社)から知っていて、投資したいと思ってたんです。そんな起業家としてすごい彼がいるだけではなくて、そうそうたるメンバーがいて、一騎当千のシリアルアントレプレナーばかりの組織だった。
事業ドメインについても、フリマというCtoCの市場がいつかは来ると思っていたんです。ところがこんなに早く立ち上がるとは、良いサプライズでしたね。
チームが強い、ドメインに期待できる、世界に出られる可能性があるというポテンシャルへの投資だったと言っても差し支えありません。
とはいえ、フリマアプリが新しいかというと、メルカリよりも以前からあったサービス分野。提起した高宮さん自身でも
高宮:
「良い事業と良い投資は違うよね」とか言いがちだなと思いながら投資委員会に上げました。
と語るように、投資委員会で議論があったとか。
高宮:
でも、僕もVCをやって結構経ちますが、印象的だったのが、うちの投資委員会メンバーの一人が「ベンチャーキャピタルを20年やってると、その時代ごとに象徴的な案件がある。メルカリはそんな臭いがする」とコメントしていたこと。
ベンチャーキャピタルをはじめとした投資家たちは、ロジカルな判断だけでなく、可能性や直感にかけることもあるようです。いかにして「投資家に可能性を感じさせるか」が、ファイナンス成功に向けたひとつの鍵になることがわかりました。
市場環境が上向きないまこそ、ファイナンスは事業に従え
メルカリが実現した大型調達は、事業とチームの可能性にかけられたものでした。今後もこのような、ベンチャー企業に対する大型投資が実行される可能性はあるのでしょうか。
昨今のファイナンス市場の変化について議論を交わしています。
長澤:
ベンチャーのファイナンス環境がかわってきたように思います。育ってきた後のレイターステージにも、VCや投資家がファインディングするような世の中になってきたんじゃないかと。
調達後においても、上場するだけじゃなくプライベートでい続けるという選択肢の変化も出てきたと思いますし。
高宮:
大きなトレンドとして大型ファイナンス、50億~100億のファイナンスができるようになりましたね。メルカリの功績は大きいですよ。成功パターンを作ったという意味で。
これまではベンチャー投資をやってこなかったような、ひと声で数十億というような投資家が投資するようになりました。
調達の選択肢が増えたのも事実でしょう。長く未上場でいるか、上がれるときに上がるか。どっちも真なりで、事業戦略と密に連動するものだと捉えています。ファイナンスは事業に従うべき。株式市場が良いとき、悪いときなど気にしていたら何もできなくなっちゃいますから。
その視点だとメルカリが累計で125億円、個別のラウンドでも数十億円調達してこられたのは、資金調達することでレバレッジを効かせて、競合と差をつけるという戦略があった。攻めの事業戦略があったからファイナンスできたわけです。
プロダクトを改善してオーガニックに成長する戦略のときに、数十億円を調達しても意味がない。事業をどのように伸ばすかという説得力のある資金の使い方があれば、投資家は乗りやすいですよ。
レイターステージで数十億円~100億円を投資する機関投資家の出現、IPOをしないという選択肢の出現など、ベンチャー企業にとってファイナンスの手段が増えたと語る高宮さん。
未上場の段階で調達するか、IPOで調達するかの方法についても、事業運営がやりやすい方を選べば良いとおっしゃっていました。
重要なのは、事業を伸ばすための燃料として調達を実行すること。もう一回り大きく成長するために調達する、資本市場での知名度を得て採用を加速するなど、事業の目的に照らし合わせて調達をするべきだと。
これまで以上に戦略的な調達が求められる時代になったともいえそうです。
ファイナンスは、事業にレバレッジをかける手段
市場環境が順調な今だからこそ、いかにして投資家から選ばれるかを考える必要性が生まれました。では、投資家が可能性を感じるポイントはどこにあるのでしょうか。
二人は「事業自体が魅力的であること」「組織に期待できること」に加えて、投資家選びや関係性構築も見逃すことのできない要因だと語ります。
高宮:
事業をしていれば、顧客セグメントみたいなものを考えますよね。どういうニーズのセグメントだから、こう攻めるとか。投資家も同じでセグメントがあると考えると分かりやすいと思います。
VCだとファンド期間があって、そのなかであれば許容してくれる。上場後に入ってくる機関投資家だと、金額は大きい。その中でも短期的なリターンにセンシティブな人もいれば、長期的にホールドする人もいるみたいなことです。
良い悪いではなく、投資家をお客さんと捉えて、どういうニーズをもっている、だからどういう投資家が自社にとってフィット感があるかを考えると、事業をやってる人にもファイナンスがピンとくるんじゃないですかね。
長澤:
調達相手を見極めることは重要だと思います。メルカリにおいても、非上場で調達するという選択をできたのが大きかった。プライベートでいられるメリットでレバレッジを効かせたからこそ、現状があると思っているので。
海外で大きな挑戦をしているなかで経営戦略の自由度を担保するためには、未上場のほうがフレキシビリティが高いわけです。アグレッシブなことは投資家の目が強いとなかなか踏み込めない。
この選択肢を自分たちで持つためには、資金調達の準備が大事だと思っています。ファイナンスをやる状況じゃなくても、投資家と会う時間をつくる。事業をアップデートし続けて、必要なときに声をかけられるような関係を作っておくことです。
ベンチャーとファイナンスの関係性において、もっとも重要なのは選択肢と柔軟性だという意見が一致していました。
資金調達の方法がIPOであれば大手の投資家とリレーションを構築する。未上場ならレートステージの投資家とコミュニケーションをとる。この選択肢を得るためには、コーポレート部門の働きが欠かせないと語る二人。
高宮:
ファイナンスのみならず、事業上の選択肢を増やすためには、コーポレートが果たすべき役割が多きいですよね。
日本企業だと事業の成長が先立ち、それについていく形で組織、特にコーポレートがついてくるケースが多いけど、メルカリはコーポレート組織がしっかりしていて、コーポレートが一歩先にいっていますよね。ファイナンスの力によって事業の成長にレバレッジを効かせているんです。コーポレートの使い方がうまいなって。
長澤:
本当の意味で、事業をコーポレートが引っ張っていける状態にしたいですね。グローバル含めて拡大するなかで、プロダクトがあってこその成長なんですけど、それを下支えするだけじゃなくて加速させたり牽引したり。
そのためには採用を加速させて、コーポレート部隊を強化しなくちゃいけません。
海外展開を進めていけば、当然たくさんの課題が出てくるわけで。迅速に解決して事業を前に進めるためにも、コーポレートが担うミッションはたくさんあると思っています。
事業を牽引するコーポレート部門となるために、「他社と同じことができているからここまで」という妥協を許さず、「自分が良いと思ったことは、前例がなくてもやってみればいい」という組織を作りたいと語る長澤。
これからのコーポレート組織には、保守的になりがちな役割でありながらも、既成観念にとらわれない攻めの姿勢が求められるのだと感じられたセッションでした。