2016年11月30日に開催された、「THE BUSINESS DAY presented by Mercari」のトークセッションの模様を全7回にわたってご紹介します。
「THE BUSINESS DAY」とは、ビジネス/コーポレート業務に携わる方々のコミュニティをつくりたいという思いから生まれたイベント。たとえば経営者やエンジニア向けのイベントは、毎日のように至る所で開催されています。しかしビジネス/コーポレート部門においては、扱う情報の機密性の高さから、どうしてもコミュニティやイベントを開きにくいという課題感がありました。
このハードルを乗り越えて、業務に関する最新トレンドや知見を共有することができたなら――。
普段は表に出ない情報やソリューションがオープンになることで、業界全体のレベルアップにつながることでしょう。
『事業運営を担う皆さんが出会い、学び、実行していくヒントのあふれる場』を目指した「THE BUSINESS DAY presented by Mercari」。
レポート第一回目となる本稿では、青柳直樹さん(元グリー取締役)、小泉文明(メルカリ取締役)をスピーカーにお届けした「最強のコーポレート組織の作り方」についてご紹介します。
青柳 直樹
ドイツ証券を経て、2006年3月にグリーに入社。同年7月に取締役に就任し、2008年より最高財務責任者経営管理部長として、東証マザーズ上場とその後の東証一部への市場変更に尽力。その後、北米事業本部長やネイティブゲーム事業本部長、広告・投資事業統括本部長など歴任。2016年9月同社取締役執行役員常務 退任。
小泉 文明
早稲田大学商学部卒業後、大和証券SMBCにてミクシィやDeNAなどのネット企業のIPOを担当。2007年よりミクシィにジョインし、取締役執行役員CFOとしてコーポレート部門全体を統轄する。2012年に退任後はいくつかのスタートアップを支援し、2013年12月株式会社メルカリに参画。2014年3月取締役就任。
グローバルへの挑戦権には、組織作りの落とし穴がある
二人のセッションは、グリーの創業期とIPO前後のコーポレート組織の変化から始まり、グローバル展開における組織作り論が展開されました。
グリーがアメリカや中国、韓国、南米、中東への進出を目論んだ理由を「プラットフォーム事業を展開する以上、面を取れる地域で戦う必要があった」と語る青柳さん。
同時に、「グローバルにチャレンジしたことは、やるべくしてやったと納得しています。でも同時に、自分たちのできる範ちゅうを超えていた」と振り返ります。
小泉:
「たられば」ですけど、もっとフォーカスして1個(一カ国)ずつやったほうが良かったと思いますか?
青柳さん:
本当に「たられば」ですけど、自分が日本の管理部門を離れちゃったんですね。古参役員として統制をとるような役割だったのがいなくなった。
そこから海外ビジネスの失敗というよりも、足元の日本のビジネスとか会社の有り様というところで苦しい局面があったというのはあります。
アメリカでゼロから組織を作るとしても、人事制度からなにから日本とはぜんぜん違う。それを一つひとつ、日本のボードに説明しないと進まないんですね。理解してもらうために、2週間ごと日本と往復してました。
日本で上手くいったからこそ得られるのが、グローバルへの挑戦権。ただしグリーが伸びていた時代を振り返ると、全員が東京でひとつのことをやっていたことが成長の要因だったといいます。
青柳さん:
競合が真剣にやってるなかで、自分たちも集団になったから勝てる。拠点ごとのシナジーって薄いんですよ。
マーケティングから人事まで、その国のカルチャーに合わせて組織や仕組みを作ります。多事業展開するよりも、よっぽど戦力が分散しちゃうんです。
グローバルに向かう会社は輝いて見えるから、求心力や採用が強くなるのは事実。優秀な人材が入ってくれて好循環みたいだけど、目先のメリットがあるから大きな罠に気が付けないんです。
ここで青柳さんから投げかけられたのは、「メルカリは本当にグローバル展開をしなくてはいけないのか」という質問でした。
小泉:
メルカリは、グローバル展開しないわけにいかないですよね。スマホというオープンな競争環境において放っておいたら海外のサービスが日本に入ってきちゃう。
現時点では、アメリカでCtoCのフィールドが空いてるのに、どこも強者になってないない。eBayはもう古くなってるし、可能性のある3〜4社で争うような状態です。
でも、最後の1社にならないと意味がない。勝ったらバラ色、2位以下は撤退しかないというプレッシャーのなかで戦ってます。
逆にいうとチャンスがあるし、組織作りにおいても注意するポイントは理解しているつもりです。上の世代の方々をみているから、日本を疎かにしないと肝に銘じてチャレンジしています。
未上場プレミアムは、採用の武器になり得るか
グローバル展開時の組織論の延長で、国内外の採用難易度と上場における情報開示の関係についてお二人の持論が展開されました。
メルカリにおいては、未上場であるがゆえの利点があると語る小泉。ここで再び青柳さんに「たられば」の質問をぶつけ、失敗から学ぶプラクティスを紐解いていきます。
小泉からの「上場前のグリー時代に戻ったら、未上場を選ぶなど、いまだから考えられる選択はありますか」という質問に対して、
青柳さん:
(上場を)先送りにしたとして、資金的にはぎりぎりなんとかなったと思ってます。ただライバルのモバゲーがテレビCMをやるなど、戦い方に変化がありました。そのときの競争環境が上場を選ばせたというのはあるでしょうね。ただ、覚悟を決めて上場を選んだからこそ、経営者の目線が上がったというのはありますね。
グリーの成長には経営陣の成長を含めた、組織作りが起因しているということでしょう。続いて青柳さんから小泉に対し、こんな助言がなされました。
青柳さん:
メルカリだったら、上場時期を引き伸ばしたほうが良いと思う。社内に意見を聞いたら、大多数が早く上がろうって言うでしょうけど、未上場プレミアムってありますよね。ストックオプションに価値があって、採用上の利点にもなります。ことグローバルにおいては、上場後だと採用がやりにくくなる。本気でUSやUKの勝負をするなら、遅らせたほうが良いんじゃないですかね。
小泉自身も経験則として、IPO後になると保守的な人材が増えるという感覚を持っていました。対してミクシィ時代を振り返ると、上場後に優秀な人材のジョインが増えた経験もあるそう。
大切なのは上場前か後かではなく、フェーズごとで魅力的な会社であることだと。
ミッションやバリューで、社員が遊びだしたら勝ち
セッションのなかで一番興味深かったのは、メインテーマと関連の強い「強い組織の作り方」。青柳さんからはグリーでの経験を基に、「採用と組織文化の醸成が重要」というお話をいただきました。
青柳さん:
グリー時代の反省も含めてですが、会社や組織を作るときに大切だと思っているのが、採用や企業文化の醸成に先行投資することです。グリーの採用を振り返って思うのは、上場から3年くらいで2,000人規模になったんですけど、逆算して採用をしておく必要があったなと。事業計画は大事ですが、それ以上にどんな人材が集まるかのほうが重要で。世の中の動きが早いので、最適な人材を集めて早くパフォーマンスを発揮してもらうことが必要ですよね。
企業文化という面では、会社が大きくなると社会性が求められます。グリーでいうと、未成年に対する誤課金とかコンプガチャの問題があって、それぞれの局面で大変な思いをした。会社として大切にすることを、全員で共有できてなかったのかもしれません。
少数時期には言語化しないで分かり合えていたことも、人が増えると実は浸透していなくて。途中からいろんなバックグラウンドの人が入ってきますからね。
組織拡大においてよくダイバーシティが重要視されますが、会社のミッションやバリューについては譲ることなく、脈々と受け継いでいく必要があると語られました。
具体的な方法としては、1on1による情報の吸い上げと考え方の共有。500人、1,000人という規模に応じた組織のあり方を教えていただきました。
企業文化を醸成する手段として、小泉が紹介したのがメルカリに入社してすぐに取り掛かった「ミッションとバリューの見直し」の話。
小泉:
プロダクトが強い時期って、それ自体がカルチャーのベースになっていきます。経営者がいちいち言わなくてもプロダクトが社風を作り、社員が理解してる。
ところがプロダクトが上手くいかなくなると、元気がなくなっていくんですね。「うちってこんな感じだよね」の「こんな感じ」がずれていく。だからメルカリにジョインして最初にやったのは、ミッションとバリューを作り変えて浸透させていくことだったんです。
セッションテーマの解答ともなる「最強の組織を作る方法」として紹介された、ミッションやバリューといった企業文化の浸透。
参加者から「組織制度におけるバリューの浸透という話がありましたが、どういう状態だったら浸透してると判断できるのでしょうか」という質問が投げかけられました。
青柳さん:
経営陣では振り返りにくいものですよね。測るとしたら、重要な意思決定をするときに、通常であれば経済合理性でなされるんですが、現場からバリューに従ってこういう判断をしたという声が上がってくるとか。
正解がいくつもあるなかで、現場がバリューを解釈していくことで深まっていく状態が理想ですよね。現場が言葉にして発するようになる。言霊の力って強いですから。
そのためには、人事制度に組み込むことも必要でしょうね。明確に評価や昇進の指標になっているか。もちろんパフォーマンスとしての業績達成という指標があって、バリュー体現度をどのバランスで入れるかも設計が必要です。
小泉:
まさに青柳さんのおっしゃったとおりなんですが、メルカリの事例として補足させていただくと、バリューの見える化をしています。
今日のイベントでも社員が『Go Bold』っていうパーカーやTシャツを着ていますが、あれはメルカリのバリューのひとつなんですね。社内でのコミュニケーションツールとしてSlackを使ってるんですけど、リアクションボタンをバリューの文言にしてみたり。
評価軸にも当然はいっていて、柱となるものを明確にしています。バリューに基いて評価をして、セットでフィードバックをしていく。
質問への解答としては、ギャグみたいですけど、業務外でバリューが出てきたら勝ちかな、と。社員がバリューで遊びだす組織をつくれることが、とても大事だと思うんです。
「最強のコーポレート組織の作り方」としてお届けしたセッションは、二人の経験から「採用」と「組織風土の醸成」が重要という解が導き出されました。
確かに国内外の強い組織を思い浮かべると、明確なミッションやバリューを浸透させています。人が集まって出来上がるのが組織だからこそ、必要な人にジョインしてもらい、企業文化を浸透させることが鍵になるのだと感じられるセッションでした。