
メルカン編集チームでは、記事制作プロセスの抜本的な見直しを行い、CursorとNotebookLMを活用した新しいワークフローを構築しました。
特に、インタビュー形式の記事制作において、文字起こしや構成検討に多くの時間を要していましたが、AI技術を適切に組み合わせることで、初稿作成までの時間を90%削減することに成功。同時に記事品質の向上も実現しています。
本記事では、この効率化の具体的な手法と成果について詳しく解説します。また、記事末尾のAppendixでは、実際にメルカンで使用している記事生成プロンプトを全公開していますので、ぜひお見逃しなく!
*この記事はAIツールで構成、執筆を行っています
従来の記事制作における課題
従来の記事制作プロセスでは、以下のような課題を抱えていました。
- 文字起こし作業の負荷: 1時間のインタビューに対し3-4時間の文字起こし時間が必要
- 構成検討の時間: 文字起こしデータから記事構成を検討する工程で多大な時間を消費
- 文字数調整の手戻り: 執筆後の文字数過不足による大幅な修正作業
- 内容の均質化: 全てのトピックを網羅しようとすることで、メリハリのない記事になる傾向
新ワークフローの設計と実装
Step 1: NotebookLMによる音声処理の最適化
NotebookLMとは
NotebookLMは、Googleが開発したAI搭載のリサーチ・ライティングアシスタントです。音声ファイル、PDF、テキストなど様々な形式のソースを読み込み、高精度な要約や分析を行うことができます。
NotebookLMが音声文字起こしに最適だと判断した理由は下記です。
- 圧倒的な文字起こし精度: 従来ツールでは誤認識が多かった専門用語や固有名詞も正確に認識
- 優秀な話者分離機能: 複数人での対談やインタビューでも話者を自動で識別・分離
- 自然な日本語変換: 口語表現を適切な文章に整理しながら文字起こし
- コンテキスト理解: 単純な音声認識ではなく、文脈を理解した上での文字起こしが可能
- 熱量抽出機能: 話者の感情や重要度を判断し、盛り上がったポイントを特定
- 無料利用: 高機能でありながら無料で使用可能
1. 音声データの効率的な文字起こし
- インタビュー音声ファイルをNotebookLMにアップロード
- 高精度な自動文字起こしを実行
2. 重要トピックの抽出プロセス
NotebookLMに対して「もっとも熱量高く話されたトピック3つに絞って、500文字で要約して」という指示を行います。

▲実際のNotebookLMのスクリーンショット(完成記事:https://careers.mercari.com/mercan/articles/53732/ )
この「熱量抽出」アプローチにより、読者の関心を引く重要なポイントを事前に特定することが可能になり、記事にメリハリをつけることができます。
Step 2: Cursorによる記事自動生成
1. データ統合と入力
- NotebookLMで生成した文字起こしデータをCursorに入力
- 前段階で抽出した500文字程度の「熱量サマリ」も併せて読み込み
2. 専用プロンプトによる構造化された記事生成
プロンプトで以下の要素を指定:
- 見出し構成:3〜5個
- 見出しあたりの文字数:600〜900文字
- メルカン記事としての文体・フォーマット統一
この詳細な指定により、従来時間がかかっていた編集作業をほとんど必要としない高品質な初稿が生成されます。
3. Cursorの真骨頂:リアルタイム対話編集
Cursorの最大の強みは、チャットでAIと会話しながら改善・編集ができ、それが即座に原稿に反映される自由度の高さです。
Cursorならではの強み
- 直接ファイル編集: コピペ不要で、AIが直接ファイルを編集・更新。修正前後の差分も表示(Word感覚で簡単!)
- コンテキストの継続性: 会話履歴とファイル内容を同時に把握し、一貫した編集が可能
- 複数ファイル間の連携: プロジェクト全体を理解した上での横断的な編集・参照
- 開発環境との完全統合: エディタ内ですべてが完結するシームレスな編集体験
- ワークフロー構築力: 複数ファイルを同時に開いて編集しながら、記事制作プロセス全体を一つの画面で管理
初心者でも安心!具体的にできること
- 「この見出しをもっと具体的に」「この段落の論調を変えて」といった日常会話レベルの指示で編集
- 修正内容が即座にファイルに反映され、リアルタイムで記事が進化(プログラミング知識不要!)
- 複数のソースデータをシームレスに修正・ブラッシュアップ: 文字起こしデータ、プロンプトファイル、スタイルガイドなど、異なるソースを同時に参照しながら一つの記事に統合・改善
- 「プロンプトファイルの内容も参照して統一感を出して」といった複数ファイル参照指示も自然に実行
- 複数記事の同時進行: 3つの記事を同時に開いて、それぞれに異なる指示を出しながら効率的に制作
- テンプレート連携: スタイルガイドやプロンプトファイルを参照しながら、ブランド統一された記事を自動生成
この対話型編集により、単なる「生成」から「協働制作」へと記事作成プロセスが変革されました。編集者とAIが同じ画面を見ながら、まるでペアプログラミングのように記事を作り上げていく体験は、従来のワークフローでは実現できない革新的なものです。
実際、本記事でCursorの記事作成の良さをどう伝えるかという提案自体も、Cursorとの会話を通じて決定しています。このメタ的な活用例こそが、Cursorの柔軟性と実用性を物語っています。
Step 3: 精密な文字数管理ツールによる文字数制御
AIの文字数カウントの限界と解決策
記事制作において文字数管理は重要な要素ですが、当初Cursorに「文字カウントして」と直接指示したところ、正確な文字数をカウントできませんでした。実は、AIは一般的に文字数の正確なカウントを苦手としています。
これは、AIが文章を「トークン」という単位で処理するためです。日本語の場合、1文字が必ずしも1トークンではなく、また文字数を数える際にMarkdown記法や記号をどう扱うかの判断も曖昧になりがちです。さらに、AIは概算での回答を得意とする一方で、厳密な数値計算には限界があります。
そこで、Cursorと対話しながら専用の文字数カウントツール(character_counter.py)を新たに開発しました。このツールは、Markdown記法・見出し・空行・記号を自動除外し、日本語本文のみを正確にカウントします。
開発経験不要!ツール作成時のプロンプト公開
- Markdownファイルを読み込み、以下を除外して純粋な日本語本文のみをカウント
– Markdown記法(#、*、“`など)
– 見出し行
– 空行
– 記号類
- 結果を見やすく表示
Python実行環境のセットアップもCursorにお願いすることができたため、プログラミング経験がなくても簡単にカスタムツールを作成できました!これにより、執筆段階から目標文字数での記事作成が可能となり、後工程での調整作業を大幅に削減することに成功しました。
新ワークフローによって得られた成果
定量面
- 従来プロセス: 音声→文字起こし→構成検討→執筆→校正で8-10時間
- 新プロセス: 音声→NotebookLM処理→Cursor生成→目視微調整で1時間以下
- 工数削減率: 約90%の大幅な効率化を達成
品質面
記事の可読性向上
「熱量抽出」手法により、読者の関心を引く重要なポイントが明確化され、メリハリのある記事構成を実現。従来の網羅的なアプローチから、焦点を絞った読みやすい記事への転換が図られました。
品質の標準化
専用プロンプトによる文体・構成の統一により、執筆者に依存しない一定品質の記事作成が可能となりました。
精密な文字数管理
専用ツールによる正確な文字数カウントにより、執筆段階での文字数調整が可能となり、後工程での修正作業を大幅に削減しました。
成功要因の分析
1. プロンプト設計の重要性
効果的なワークフローの実現において、プロンプト設計が重要な要素となりました。
チームで継続的に改善を重ねた専用プロンプトには、以下の要素を組み込んでいます:
- 情報の取捨選択に関する明確なルール
- 話者表記の統一フォーマット(@話者名: で統一)
- 見出し数と文字数の詳細な指定
- メルカン記事としての文体・トーン指定
- メルカン独自のワーディングルール: 「マーケットプレイス」「フリマアプリ」「お客さま」など、メルカリ固有の表記統一ルールを自動適用
これらの詳細な指定により、メディアとしての一貫性を保った記事の自動生成が可能となりました。特にワーディングルールの組み込みにより、Wチェック時の表記揺れ修正作業工数を大幅に削減することができました。
2. 「熱量抽出」手法の効果
NotebookLMに対して「最も盛り上がったトピック3つの抽出」を指示することで以下のような効果が生まれ、読者価値を最大化させることができました。
- 記事構成に自然なメリハリが生成される
- 読者エンゲージメントの向上が期待できる重要ポイントの特定
- 編集者の主観に依存しない、客観的な重要度判定の実現
今後の展開と改善計画
応用可能性の検討
本ワークフローの成功を受けて、以下の領域への応用を検討しています:
- 他コンテンツ形式への展開: 対談形式のみならず、イベントレポート等への適用
- PR部署への横展開: プレスリリース作成、コミュニケーションプラン策定など
- 他部署からのメルカンへの原稿持ち込みマニュアルの作成: 社内各部署が効率的にメルカン記事を依頼・制作できる標準化されたプロセスの構築・全社への展開
- github上でのレビュープロセスの構築
- 画像生成: 商用利用できるAI生成画像
継続的改善項目
現在のワークフローをさらに最適化するため、以下の改善を計画しています:
- プロンプト精度のさらなる向上
- Cursor内での完結型文字起こし機能の開発: NotebookLMに匹敵するクオリティーの文字起こしをCursor内で完結させ、よりシームレスな記事作成ワークフローの実現
- メルカン記事のスライド化: AIによって記事をビジュアル含めたスライド形式に一発変換し、テキスト以外の方法でも記事を読んでもらえるような工夫を実装中。読者の多様な情報摂取スタイルに対応し、より多くの人にコンテンツを届けることを目指しています
- 情緒性の担保と人間の介在価値の最大化: AIはあくまで記事の土台作成の最適化を助けてくれるツールです。そこからの目視での微調整や、真に読者に伝えたい内容になっているかのチェックは人間の手が入らないと、本当に伝わる記事にはなりません。メルカンが積み上げてきた丁寧な企画・取材・執筆のメディアとしての価値を蔑ろにせず、読者の心を掴むストーリー構成や感情に訴えかける表現力、行間を読み解く独自の視点を加える人間の力を最大限に活かすことが、私たちの編集方針です
AI Task Forceとの連携による技術推進
2025年、メルカリでは全社的なAI-Native化を推進する「AI Task Force」が発足されました。この100名規模の横断組織により、すべてのチームにAI適用可否の判断や技術提案・導入プロセス推進を担当するイネーブラーが割り当てられています。
このイネーブラーの主なミッションは以下の通りです:
- 技術判断とソリューション提案
- 導入プロセスのアドバイザリー
- AI技術の再利用設計と横展開
この体制により、メルカン編集部とイネーブラーとの密な連携が実現しています。今回のCursor記事作成ワークフローの構築においても、ツールの使用方法や機能追加に関する相談など気軽な相談先があったことで、心理的・技術的なハードルを感じることなく新しいツールにチャレンジできました!
まとめ:AIを編集部の仲間に。これからのコンテンツ制作の可能性
CursorとNotebookLMを組み合わせた新ワークフローにより、記事制作工数の90%削減と品質向上を同時に実現しました。
しかし、私たちが最も大切にしているのは、AIを単なる効率化ツールとして使うのではなく、編集部の心強い「仲間」として位置づけることです。
AIにコンテンツ制作における文字起こしや情報整理、土台作りを任せることで、人間はより多くの人にコンテンツを届けるための「魂を宿す作業」に、より多くの時間を注げるようになりました。読者の心を掴むストーリー構成や、感情に訴えかける表現力、そして行間を読み解き独自の視点を加える力—これらは人間だからこそ発揮できる価値です。
この「AIと人間の協業」こそが、コンテンツの質と量の両方を向上させる鍵になると確信しています。今回のPoCで得られたナレッジを、全社的に横展開することで、メルカン編集部発信でAI-Nativeカンパニー実現に貢献できるように邁進していきます!
この手法で作成されたメルカン記事はこちらのページでご覧いただけます。
Appendix: メルカンで使用しているプロンプト全公開
【一発で完成させるためのプロンプト】
あなたはプロの文字起こし編集者です。 アップロードされたソース(文字起こし原稿)だけを情報源として、その場の熱量が伝わる、社外公開を想定した「ライブ感のある書き起こし記事」を作成してください。
#### **\# 必ず守るべきルール**
##### **\#\# コンテンツに関するルール**
* **情報の取捨選択:** 話者の発言の意図や議論の核心部分は、絶対に要約・省略しないでください。
ただし、会話の自然な流れを損なわない範囲で、明らかな繰り返しや、本筋から外れた短いやり取り、過剰な相槌など、記事として読んだ際に冗長と判断できる部分は、自然な形で割愛・編集してください。
* **ボリュームの調整:** 上記のトピックをカットした上で、記事全体のボリュームが元の会話から極端に短くならないよう、他の面白いエピソード(例:技術的な問題の詳細、ビジネスモデルの変化、個人のスキルに関する考察など)を元の原稿から深く掘り下げて記事を再構成してください。
* **情報の正確性:** ソースの内容に基づいていない情報を勝手に追加しないでください。
* **話者表記:** 話者の発言は「@話者名:」の形式で、名前をボールド(太字)にして表記してください。話者が変わるごとに改行を入れてください。インタビュアーを@インタビュアー、回答者を@XXXXXとしてください。
##### **\#\# スタイルとフォーマットに関するルール**
* **タイトルと見出し:**
– 記事全体の内容を的確に表すタイトルと、話の大きな展開ごとに読者の理解を助ける、明瞭で適切な見出しを設けてください。
– 見出し自体の数は3〜5個、1つの見出しごとの文字数は600〜900文字としてください。
## **冒頭文と全体のテイスト:**
– 記事(ファイル名:XXXXXX)を参考にして、冒頭文を作成してください。また、文章のテイストも揃えてください。
## **文字数カウント方法:**
– 専用の文字数カウントツール(character\_counter.py)を使用して正確な文字数をカウント。
– このツールはMarkdown記法・見出し・空行・記号を自動除外し、日本語本文のみをカウントします。
– 使用方法:
“`shell
python3 character_counter.py “記事ファイル.md” [最小文字数] [最大文字数]
- 使用例:
# デフォルト文字数制限(5000-6000文字)でカウント
python3 character_counter.py “作成した記事.md”
# カスタム文字数制限でカウント
python3 character_counter.py “作成した記事.md” 3000 4000
最終出力は「(本文文字数:3502字)」など、実際のカウント値を明記。
ワードルール:
このプロンプトで作成した記事は、以下のワードルールを必ず適用する
※mdファイル化したワードルール※
