メルカリでは人事組織であるPeople & Culture部門の中にD&Iチームが存在し、「組織運営」と「プロダクト・サービス開発」におけるD&I課題の解決に取り組んでいます。
2021年1月に発足したD&I Councilに加え、各カンパニー・チーム単位でD&I推進や課題解決に取り組む有志で結成されたタスクフォースやプロジェクトチームがあり、D&Iチームはその伴走者という役割で後方支援をしています。
今回取り上げるのは、メンバー間のコミュニケーションを促進するための施策「Workstyle Sync(お互いの働き方を話し合う会)」です。お互いの働き方を話し合うことが、D&Iとどう関連するのでしょうか?このプロジェクトをつくり上げたHD D&I タスクフォースのメンバーに、Workstyle Syncはどのような課題意識から生まれたのか、そして「話し合う」ことの意義はなんなのか、改めて聞きました。
文末には、付録として、Workstyle Syncの質問リストと実施マニュアルを特別公開します!
この記事に登場する人
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落合由佳(Yuka Ochiai,@Yuka)総合電機、通信、ハードウェア(スタートアップ)、ウェブサービス等のIT系企業で法務を担当してきた。ニューヨーク州弁護士。2020年メルカリ入社。ペンギンおたく。夢は南極旅行。 -
緒方史乃(Shino Ogata,@shino)新卒で証券会社に入社。その後IRコンサルティング会社で海外リサーチ業務やスマホ向けゲーム会社でIR業務を担当し、2018年メルカリに入社。 -
小池綾(Aya Koike,@aya)株式会社サイバーエージェントのインターネット広告部門コンサル営業職やWEBPR部門の立ち上げを経て、同社広報・IR室に異動しIR・SR業務に従事。2017年メルカリ入社。シリーズE調達やIPO準備時よりIRを担当。
必要なのはGuessではなく話し合うこと
──Workstyle Syncの話に入っていく前に、どのような課題感があったのかを聞いていきたいと思います。
@Yuka:メルカリは、国籍・民族・言語だけにとどまらず、多様なバックグラウンドの社員が在籍しています。組織としてのダイバーシティはありますが、お互いの違いを受け入れられる環境という意味でインクルージョンはまだまだこれからだと思っています。
様々なバックグラウンドを持つ人々が、お互いに協力して仕事を進めていくには、まず、それぞれの「こういう環境であれば、私は力を発揮できる、働きやすい」という「Workstyle」を知る必要があるのではないかと感じていました。
2021年9月から多様な働き方を尊重した「YOUR CHOICE」がはじまり、国内どこからで働けることによる自由度が上がる一方で、組織・チームとして一体感を持って働くという意味では、それぞれがより一層意識をして働く必要があると考えました。
@shino:私も他のメンバーのことを知る機会が少なく、話し合う「場」が必要だと思っていました。一緒に働くメンバーのことを考えて、先回りして気遣うことはできますが、それが必ずしも本人の希望と沿わないことがあると思います。例えば、それがマミートラック(出産した女性が職場復帰した際、自分の意思とは関係なく出世コースから外れてしまうこと)につながったりもします。
個人がどうすれば働きやすいかということについて、必要なのは、Guessではなく、話し合いです。なぜなら、Guessはあくまで推測でしかなく、外れることがあるからです。特にリモートワークでのコミュニケーションだと、相手の状況を知りにくいので、ちゃんと話し合いの場を設ける必要性がありました。
@Yuka:Workstyle Syncのコアメンバーであり、D&Iチームに所属するJuanさんは「インクルージョンを感じるためには、働く環境の“心理的安全性”が必要不可欠」だと当初から言っていましたね。そのためには、そもそも自分の中の多様性や、働き方について共有できる機会が必要だとメンバー全員が考えるようになりました。
パフォーマンスを上げるためのWorkstyle Sync
──では、改めてWorkstyle Syncについて詳しく教えて下さい。
@Yuka:ひと言でいうと、一緒に働くチームでお互いの働き方(ワークスタイル)を話し合う会です。ちなみに、当社では情報共有の会やミーティングのことを「Sync」と呼んでいます。
対面で一度もあったことがないメンバー同士が働く状況で、お互いが大切にしている考え・働き方などの「人となり」を相互理解し、気持ちよく働くことができる環境の基礎づくりとして、2021年9月に『あなたのYOUR CHOICEはなんですか?』というワークショップをAnzuさんが中心となってつくりました。それがWorkstyle Syncの土台となっています
Workstyle Sync自体は2021年11月にスタートしました。36個の質問からなっており、各質問に答えながら働き方の好みや、お互いに知っておいてほしいことについて共有していく、というアクティビティです。
質問項目は、以下のようなものがあり、それぞれ答えたいものだけ選んで答えます。
質問項目(抜粋)
・ 自分の生産性が上がる時間帯
・ やる気の出る環境
・ ミーティングするのに最適な時間帯
・ ミーティングで積極的に発言できるか。ファシリテーターに話を振ってほしいか
・ 仕事する上で大事にしてること
・ 好ましい出社頻度(出社どんどんしたい/週1回くらい/月1回くらい/必要最低限にしたい)
・ 家族や体調のことで共有したいこと
・ フィードバック(評価時に限らず、日々のコミュニケーションでの指摘を含む)の方法は、甘口・中辛・辛口のどれがいいか。
また、Workstyle Syncの設問を考えるときに工夫したのは、「勤務時間」や「ミーティング」など目に見えやすい事項の質問だけではなく、「仕事をする上で大事にしていること」「やる気の出る環境」など仕事観に関する質問を入れたことです。仕事に対する姿勢も多様性の一つですからね。「この人はこういう信念を持って仕事をしている」と分かると、相手の行動や振る舞いの意味に腹落ちするものです。また、私たちが気をつけたのは、Workstyle Syncは、あくまで「パフォーマンスをあげるための施策」であって、個人の要求に応えることが目的ではないということです。
──実際、Workstyle Syncを実施してみていかがでしたか?
@aya:なにかしら「場」が設定されていない状況で、自分だけが働き方について意見を言うというのはハードルが高いものです。改めて、Workstyle Syncという「場」を設け、みんなが自分の状況やリクエストをオープンに話す機会をつくれたことで、話しやすくなったと思いますし、お互いの理解が進みました。
また、Workstyle Syncを始めた当初は「申し訳ないんですが…」と無意識に付け加えてSyncをしてしまっていました。ですが、同じ部署の外国籍メンバーが「それぞれにそれぞれの異なるスタイルがあるのだから、それは申し訳ないことではないし、申し訳ないと言う必要はないよ」と言ってくれて、はっと気付かされました。そこから、自分自身のStyleをSyncする意識が変わりました。
@shino:私は、4月から夜間の大学院が始まりました。授業の時間帯は働くことはできないのですが、以前に比べて「申し訳ない」という罪悪感が軽減されていますね。
@aya:感覚的には「申し訳ない」から「お互い様」になったと思います。「自分の状況を言ってもいいんだ」という雰囲気です。他の人から状況の説明やリクエストがあっても、自然に受け止められて、特別な感情を抱かなくなりました。
@Yuka:「申し訳ない」と思わなくていいのが、インクルージョンですよね!Juanさんとも話していたのですが、「自分の状況についてオープンに話し、周りのメンバーの状況を理解する機会」があることで、ダイバーシティ&インクルージョンについて話すきっかけにもなります。そうすると、仕事以外の話も自然にできるようになり、チームの心理的安全性を高める取り組みにもなっていると感じます。
@shino:お互いの状況を正しく理解することが第一歩ですね。Workstyle Syncによって、お互い、悪気なく食い違ってしまっていたり、相談するきっかけを失っていたところが解消されていきます。例えば、IRチームの外部との会議で、ヨーロッパの投資家の方は日本時間の夕方遅めの時間を希望されます。お子さんがいるAyaさんには育休復帰当初ヨーロッパ投資家以外をお任せした方が働きやすいのではと考えていました。でも、実はAyaさんはお子さんがいることで活躍の場が制限されることを懸念していて、ヨーロッパの方も含め、エリアを問わない対応を希望していることが分かりました。
@aya:Workstyle Syncは、普段の業務上では話さない自分の根本に関わる考え方や想いと向き合い、お互いに伝え理解し合うという作業なので、Syncをした後は、その相手との壁がなくなるという効果もあります。自分の状況を発信するということへの抵抗感がなくなったと感じています。心のハードルがなくなったことにより、これまで以上に心理的に健全に業務に取り組めるようになったとも思います。
@shino:当社のYOUR CHOICEやWell-beingも同じ考え方ですよね。いずれも、パフォーマンスを上げるために実施しています。
@Yuka:アンケートでは、なんと100%の人が「お互いの働き方への理解が深まった」と回答してくれました。このような働くスタイルを話し合う機会はほとんどの方が初めてだったようです。「心理的安全性が高まった」「仕事に対する姿勢とか思いも知れて、パーソナルな面も気づきがあったのがよかった」「新しいメンバーが入ったら絶対やったほうがいい」との声を頂きました。
──では、Workstyle Syncの実施で苦労したことは何でしょうか?
@Yuka:会社全体を巻き込むことですね…。直接、成果につながらないと感じる人を説得し、実施してもらうことがかんたんではありませんでした。仕事以外について話す機会が少ないチームこそ、実施してもらうことが重要ですね。
プロジェクトに関わっているメンバーが、自分のチームで提案したときも「なんのためにやるの?」と返されることもあったようです…。やはり新しい試みなので、忙しいチームにはなかなか実施してもらえませんでした。なのでいちプロジェクトというより会社の意思として示すべく、役員やマネージャー間で実施してもらい、発信していきました。進太郎さんがツイッターで発信してくれたり、日経新聞にも掲載されたことで、少しずつ実施してくれるチームが増えていきました。大事なのは「パフォーマンスをあげるために実施する」ということを、継続して発信することだと思います。
@aya:他には、Workstyle Syncの初回には「どこまで自分の状況をさらけ出していいのか、出すべべきなのか」とさじ加減に迷いました。ただ、蓋を開けてみたら「こんなことまでさらけだしていいんだ。さらけ出すことが自分の働きやすさに繋がり、さらにはパフォーマンスをあげることにつながるんだ」と、安心感が高まりました。
@shino:初回から心理的安全性を確保することはなかなか難しいと思います。このハードルを下げるのが大切です。「人は不寛容な人に寛容になるのは難しいので、お互い寛容になることを意識しよう」と呼びかけたりしました。
──Workstyle Syncを実施してみて、どのようなポジティブな変化がありましたか?
@aya:私は、早朝の役員会議に参加するために、子供の保育園において延長保育を利用する必要がありました。以前は「延長保育の費用補助の制度はありません」と却下されていたのですが、キャリアを築く上でのチャンスを失いたくないという思いから、D&Iチームを巻き込んで働きかけをさせていただき、役員会参加時の延長保育費用を会社がサポートしてくれることになりました。おかげで、なにかを諦めることなく育児と仕事を両立できています。このような変化からも着実に、会社のD&Iに対する雰囲気が変わりはじめていると感じています。ボトムアップでこのような声が上げられることが健全だと思いますし、心理的安全性が高まっているからこそですね。
@shino:私は、Workstyleをシェアして、お互いに寛容になろうという雰囲気を感じています。
@aya:そうですね。自分の中の受け皿も大きくなった実感があります。他のメンバーからのリクエストにも、より寛容に受け止められるようになっています。
@shino:そうですよね。自分の状況やリクエストを聞いてもらえたから、自分も相手に対して寛容にならなければと思うようになりました。
@aya:それぞれのWorkstyleを尊重して、それぞれが工夫して業務に取り組んでいるからネガティブな感情が生まれないのだと思います。
@Yuka:私はマネージャーという役割ということもあり、Workstyle Syncを通してチームメンバーに「あなたの状況について聞く用意があります」と示せたことが大きいと思います。以前より、チームメンバーが「ペットの体調が悪いので出社が難しいです」「この時間帯は子供のお迎えで勤務できません」など、言い出してくれるようになったと感じています。
ダイバーシティはある。インクルージョンはまだまだこれから
──最後に、D&Iの観点から、メルカリはどのような会社になっていくべきですか?
@aya:個人的には、メルカリはすでにかなり働きやすい状態になっていると感じています。しかし、別の立場の方から見たら、まだ成果を出すにあたってハードルになっている部分もあるかもしれません。今後は、多様性のある従業員全員にとって働きやすく、パフォーマンスを発揮できているという会社にしていきたいですね。
@shino:メルカリがよいモデルケースになるといいですね。こういう会社が増えていくと良い社会になっていくと思います。
@Yuka:Workstyle Syncを通して、みんなが「インクルージョンされている」という気持ちになり、心理的安全性を築いていければ、多様な意見がどんどん出てくる組織になると思います。メルカリがこれから世界にビジネスを広げていくに当たって、多様な意見が社内にあるということは大きな「強み」になると思います。
このプロジェクトは様々なチームのメンバーが力を合わせて進めてきたものなので、インタビューに参加できなかったメンバーの声を一部紹介させてください。
今後、多様なバックグラウンドのメンバーが増えるほど、その時々の多数派の意見に左右されがちになると思います。私たちは、その都度、「どうやってインクルージョンしていくか」を考えていく必要があると思います。たとえば、英語を話す人が多数派になったとき、日本語しか話せない人をどうするのか、という課題などです。「自分で学ばない本人が悪い」と、切り捨ててしまってよいのかという問題があります。従業員に対して、「パフォーマンスを出すために、どんなスキルを求めるのか」ということは、会社として明確に決めていく必要があると思います。
(@haiero Management Strategy Team)
多様な人・多様な働き方が受け入れられ、尊重される会社にしていきたいです。色んな人にとって働きやすい会社になれば、多様なお客さまのニーズも理解できるし、変化に対応できる組織になるので、ビジネスの成長にもつながるはずです。
(@Juan Diversity & Inclusion Team)
今後もメルカリでは、Workstyle Syncをはじめとした様々な施策でD&Iを進めていきたいと考えています。それがメルカリの成長をドライブしていくのに不可欠な要素だと信じています。そして、メルカリだけではなく、より多くの企業でWorkstyle Syncを実施していただき、多様なバックグラウンドを持つ人々が本来の力を発揮しやすい社会になっていくことを願っています!