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オフィスは「カルチャーを作る場所」であり「願い」──メルカリ経営陣が考える新オフィス「Mercari Base Tokyo」の“在り方”

2022-10-3

オフィスは「カルチャーを作る場所」であり「願い」──メルカリ経営陣が考える新オフィス「Mercari Base Tokyo」の“在り方”

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2021年9月、働く場所やスタイルを従業員が自由に選択できる「YOUR CHOICE」を導入したメルカリ。以降、個人と組織のパフォーマンスおよびバリュー発揮がもっとも高まるワークスタイルを、自ら選択して決めることができるようになり、必然的にオフィスの「在り方」そのものにも変化が求められるようになってきました。

そんな中、2022年9月にアップデートされたメルカリ新オフィスの「Mercari Base Tokyo」コンセプトは、どのように形づくられたのでしょうか?オフィスアップデート企画第二弾となる今回は、Workplace部門も属するManagement Strategy Officeを率いてグループ全体の戦略とまとめるメルカリ上級執行役員 経営戦略室長の河野秀治(@shuji)と、オフィスのあり方、D&Iの観点などからWorkplace部門へ多彩なアドバイスを提供したメルペイCEOの山本真人(@mark)、経営層の二人の視点からお届けします。

この記事に登場する人


  • 河野秀治(Shuji Kawano)

    メルカリ上級執行役員 経営戦略室長。ライブドアの投資銀行部門、ゴールドマン・サックス証券とSBIホールディングスによる合弁の投資ファンドを経て、戦略コンサルティング会社である経営共創基盤(IGPI)に入社。その後、起業を経験。さらにスタートアップ企業で上場を経験し、2018年7月メルカリ入社。


  • 山本真人(Masato Yamamoto)

    2004年 東京大学大学院 学際情報学府 修士課程修了。NTTドコモを経て、2008年よりGoogle JapanのEnterprise部門 Head of Partner Salesを務める。2014年にはSquare JapanにてHead of Business Development and Sales、2016年からはApple JapanにてApple Pay 加盟店事業統括責任者を務める。2018年4月にメルペイに参画し、CBOとして金融新規事業(Credit Design)や加盟店開拓など、ビジネス全般を担当。2022年1月よりメルペイ代表取締役CEO。2022年7月よりメルカリ執行役員 VPに就任、メルコイン取締役を兼務。

オフィスは「カルチャーを作る場所」であり「願い」

──まず、メルカリにとってオフィスという「場」が持っていた価値をどう考えていましたか?

@shuji:メルカリが急成長できた理由の根幹にあるのは、人と人の関わり合い方や個人の行動に影響を与える「カルチャーという無形資産」です。ここに強みを持つことによって、簡単には真似できないメルカリ独自の競争力を高められ、お客さまや社会にとって必要不可欠なサービスへと成長させることができると考えています。リモートワークが浸透しつつある今の時代でもなお、オフィスという場は、そのカルチャーを作り、体現する場所だと思っています。Workplaceの仕事は、競争力の源泉である「無形資産」を作り育むことだという大義を掲げて取り組んできました。

もう一つ、オフィスは行動デザインを考えることも大切です。例えばGoogleではオフィスの出入り口にお菓子を置いたら社員の健康や生産性が悪化したというエピソードを聞いたことがあります。解決のためにレイアウトを変え、オフィス内にミニキッチンを点在させ、そこにフルーツやサラダバーなどカロリーや成分に配慮したものを置いたそうです。そうすると、健康が良化するのはもちろん、コミュニケーションが促進されて、様々な組織スコアが改善していったという分かりやすい行動デザインの事例があります。どうやったら良い行動デザインをもつオフィスになるか、それをどうサイエンスに基づいてデザインするかがオフィスアップデートの課題でした。

河野秀治(@shuji)

@mark:僕はGoogleにいたときにオフィス移転プロジェクトに参画した経験があって、それ以外にもAppleやSquare、Facebookなどのシリコンバレーの様々な企業のオフィスを訪問したり、オフィスツアーに参加してきました。これらの会社に共通していたのが「どうしてこういうデザインにしたか」を言語化できるということ。オフィスを作る上では、そういった裏側にある考え方がとても大事なのだと思っています。

漫画『キングダム』の法の番人と言われる李斯が「法とは何なのだ」と尋ねられて、「“法”とは願い! 国家がその国民に望む人間の在り方の理想を形にしたものだ!」と答えているのですが、僕も同じように「オフィスは願い」であると思っています。会社が社員にこうであって欲しいと望む理想が実現できるように形にしたものがオフィス。「YOUR CHOICE」が導入されて、働く場所を自由に選択できるようになりました。その上での「どういうオフィスでありたいか」という理想も改めて考える必要があると、チーム内で話していました。

──コロナ禍以降リモートワークが前提の働き方になり、「YOUR CHOICE」の実施によって、オフィスの在り方がさらに変化したと思うのですが、なにか顕在化した課題はありましたか?

@shuji:一番大きいのは信頼関係の構築・醸成が難しくなったことですよね。バーチャルな言論空間って身体性がないので、どうしても合理的なコミュニケーションばかりになりますし、言葉選びにも体温が無くなります。多くの無駄がなくなったことによって、人というものがすごく遠くなって信頼関係を築くのが難しくなったというのは、会社経営するにあたってクリティカルな課題だと思っています。それに対してオフィスは何ができるかを考えました。

@mark:Shujiさんが仰った通り、僕も信頼関係の醸成は課題だと思っていて。リモートワークは日常業務はそこまで問題ないことが多いですが、ゴールが決まってないことを議論する場合や、意見が対立している内容を詰めて議論するのは難しい。チャットなどの文字ベースでのコミュニケーションの量が増えている状況下だと誤解が生まれやすかったり、議論が深いところまで到達しにくい、そういう課題はありますよね。特に新しく入社された人は、どの程度踏み込んで意見をしていいか分からないという声もありました。

山本真人(@mark)

──リモートワークの課題が見えてきた一方で、何かポジティブな変化は見られましたか?

@shuji:コロナ禍になって、既存のルーチンの無駄がかなり浮き彫りになったことでしょうか。「YOUR CHOICE」が仕事の成果を出しやすい環境であるのであれば、きちんと自分たちのものとして定着させて、もっとインパクトを出しやすい、進んだ働き方ができるようにしていきたいですよね。こういった環境の変化に即座に対応できるのはメルカリの強みだと思いますので。

@mark:リモートワーク中心になって良くなったのは、オープン性が上がったことでしょうか。オフラインよりMeetsやSlackなど記録が残りやすくなっています。ミーティングの議事録や動画の視聴数も格段に増えました。経営による次期のOKR議論は以前から誰でも参加可能としていましたが、物理的な会議室で行っている関係上少し敷居が高く、また物理的な限界がありました。リモートになった事で参加のハードルが下がり、200人以上が傍聴している状態が当たり前となりました。そういうオンラインの良さをオフラインのオフィスでも取り入れたいと考えました。

大切にしてきた文化を継承しつつ、可変的かつ包摂的なオフィスを追求する

──オフィスアップデートについてコンセプトを固めていく中で、おふたりはどういう要望や意見を出されましたか?

@shuji:議論に時間をかけたのは、どうすれば社員にオフィス内で理想的な使い方をしてもらえるか。そして、変化の早い組織に対応してオフィスはどのように対応できるのかということです。「この導線を引いて、ここに溜まりをつくって社員のコミュニケーションを誘発させたい」や「オフィスも極力可変的がいいよね」とか「メルカリらしく再利用可能で意味のあるものを使おう」など、いきなり仰々しいオフィスを作るのではなく、少しずつアップデートしていった方がいいのではないかと伝えていました。

例えばセキュリティゾーンがどれぐらいの広さで、どれぐらいの要件を求められるかは、会社のフェーズによって変わります。そのため、会社のレイアウトも含め、可変的に決めたいと思っていました。

もう一つ、オフラインの人たちがオンラインの人がいない場面でいろいろ決めてしまい、ともすれば排他的な状況を生み出してしまうのではないかという課題もあって。こういった格差をなくしていくには、易きに流れがちな業務スタイルを変えていかないとならない。新しいオフィスがお披露目されて、ハイブリッドになった後の課題として、如実に浮き彫りになってくるのではないかと思っています。

@mark:僕はWorkplaceのメンバーにうるさすぎるほど意見してしまったのですが(笑)、その中でも何度もお伝えしたことがありました。一つは、メルカリがそもそも大事にしてきたカルチャーを醸成できるオフィスにして欲しいと言うこと。メルカリをメルカリたらしめてきたカルチャーや習慣は数多くあり、例えばオールハンズで集まってみんなの前で率直な質問や回答をしてきたこと、オフサイトで普段の業務から離れて時間をかけてゼロベースの議論をする、チームビルディングや部活、シャッフルランチなどで部門を越えた人が交流を深める、など。そういうものがメルカリを作ってきた。そういう機会が自然と増えるようなオフィスをデザインしてもらいたいと伝えましたし、そうすることでメルカリの文化を継承し、強めていくことができるようにしたかった。

もう一つは、変えなければいけないことは変えてもよいということ。当たり前ですが、以前とは働き方が変わってしまっているので、以前と同じでは十分ではない。特に、オンラインとオフラインというハイブリッドな状況下においては、オフィスにいる人もいない人も受け入れられる環境が必要になっている、と。いろいろな性別、国籍、職種、オンライン・オフラインなど多様な働き方をしている人がいる状況で、インクルーシブな環境を作って欲しいと伝えました。実際に新しいオフィスを使っててみると、いろいろな状況とか環境とか考え方とか働き方を緩やかに繋ぎつつ、受け止められることができているな、と感じましたね。

──では、現実的な予算やスケジュールで要望を出した点はありましたか?

@shuji:結構厳しい予算の中でやってもらったと思うのですが、Workplaceチームの方も制限があればあるほど、クリエイティビティが高まると理解してくれて。メルカリの強みの根幹はカルチャーですが、その中でも推進力の源泉となっているのは強烈なPDCAの力なんですよね。PDCAがガンガン回るカルチャーなので、変化にも対応できる。プランニングがある程度できたらPDCAを回すので、オフィスもいきなり最終形態を想定して作るようなことはしませんでしたね。オフィスもわれわれが生み出すプロダクトの一つなので。

@mark:一度に作りきって、10年そのまま完璧でありつづけるオフィスなんてないですよね。変化している状況の中でオフィスも変化していかないといけない。やってみた結果「やっぱりこうした方がいいね」と、変わっていくことが前提になる。どちらかというと、その後どう継続的にオフィスを変えていけるかという考え方でオフィスづくりをしようと話していました。

──排他的にならないよう配慮されたということですが、地方に住んで働くメンバーにとって、オフィスの意味や意義をどう感じてほしいと考えましたか?

@shuji:ちょっと表現するのが難しいのですが、「心の聖地」になればな、と。聖地とはカルチャーを生み出した重要な場所のはずです。東京の六本木に物理的なオフィスがあって、そこに同じ目的を持った人たちがいる。そういったことで所属感や安心感が生まれてくる、そんな心の拠り所にしたいと考えています。

@mark:物理的にたまに行くという関わり方でも構わないですし、極論オフィスに行かなくても繋がりを感じられる状態を作るのが理想ですね。

だから、いざオフィスに来たときに象徴的な瞬間を作りやすくするのは、結構大事なことだと思います。例えばメンバーにメルカリでの印象的だった出来事を思い出して欲しいとお願いしたときに、1人で家にいるシーンを思い浮かべる人はあまりいないと思います。僕の場合だと、メルペイをローンチするときにオープンスペースに集まってアプリのリリースを待機していたあの時や、大きいディスプレイの前で利用者何万人突破の瞬間をみんなで見たりとか、そういう象徴的な瞬間って物理的な場と結びついていることが結構多い気がするんです。そういう体験をオフィスで生み出しやすくすれば、普段、在宅ワークをしている人にとっても心の支えや共通項になったりして、組織としても財産になっていくのかな。そういう瞬間を作る装置としてのオフィスという位置づけもあると思います。

どのように使われるか観察し、PDCAを回して進化させていきたい

──最後に新オフィスにどのような進化や変化を期待するか、オフィスがアップデートされて感じたことがあれば教えてください。

@mark:アップデートされたオフィスでかなり特徴的なのが、オープン性が上がってること。会議室のように見えるけど、ドアや壁がなくオープンになっていて、緩やかに全体が繋がっていて話しやすいデザインになっています。

個人的にまずはメンバーに来てもらって、どういうコミュニケーションが発生するのかを見てみたいですね。コンセプト通りにみんなが使うのか、もしくは予想を超えた使い方が生まれるのか気になります。実際のオフィスの使われ方を早く見て、改善していきたいですね。

@shuji:Markさんと全く一緒です。多くの会社で起きている事例ですが、利用者である社員との間で最初の要件定義ができていなかったり、そして完成後にフィードバックをもらっていないと、独りよがりのタコツボ化したものが生まれます。Workplaceのメンバーが作りたいものを作ってしまって長期間そのままというのは、カルチャーづくりにとってリスクが高いと考えています。そのため今回のオフィスアップデートでは、Markさんはじめ多くの人に「どういったものがいいか」をヒアリングし、要件定義をきっちり行いました。今後課題になるのは、どうフィードバックをもらうか。アンケートだけに限らず、どういうデータを収集するとPDCAが回っていくかが工夫のしどころですね!

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