2024-6-12
営業と広告の力で、メルカリのさらなる事業成長を実現させる——Meet Mercari’s Leaders:江川嗣政(VP of Mercari Business Solutions)
「デジタルの力で日本を元気にしたい」。
楽天、グリーと名だたるIT企業で活躍してきた江川嗣政(@tsugu)は、自身のキャリアの選択軸をこう振り返ります。楽天ではファッション領域の事業戦略責任者、グリーではマーケティング事業の責任者や子会社の経営を経験してきた江川。現在はメルカリの営業体制強化や広告事業の立ち上げを牽引しています。江川はメルカリにどのような可能性を感じたのか。また、営業と広告の力でメルカリにどのような変化をもたらそうとしているのか。キャリアの変遷と現在の仕事について聞きました。
この記事に登場する人
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江川嗣政(Tsugumasa Egawa)楽天株式会社にて支社の立ち上げやファッション領域における事業戦略の責任者を歴任し、グリー株式会社に入社。ゲーム事業やマーケティング事業の責任者を経て、グリーライフスタイル株式会社の代表取締役社長に就任。各種メディア事業やSNSマーケティング支援事業を経験したのち、2024年メルカリ入社。VP / Mercari Business Solutions として主に法人向けの営業強化を担当。
4ステップで営業体制を強化し、各事業のさらなる成長を実現する
——tsuguさんの管掌領域について教えてください。
VP of Mercari Business Solutionsとして、各事業の法人向け営業の強化や広告事業の立ち上げを行っています。これまでメルカリが磨いてきた素晴らしい各サービスを、より良い形でお客さまに届け、利用していただくために、営業や広告の力を最大限に活かそうとしているんです。
具体的には4つのステップで、各事業のさらなる成長を実現したいと考えています。1つ目は、各事業に営業チームを組織し、パフォーマンスをあげられる仕組みをつくること。2つ目は、現在各事業ごとに保管されているお取引先情報の統合と整理。まずはこの2ステップで、グループ全体で営業に取り組むことができる土台を整えます。
3つ目のステップは、グループをまたいだ営業戦略を実行できる体制をつくること。メルカリは、今立ち上げている広告事業を含めると、広告、EC(メルカリShops)、決済(メルペイ)、人材(メルカリハロ)の4つの事業領域があります。この4サービスがあれば、日本のほぼすべての業種にリーチが可能です。どの事業をフックにクライアントへアプローチをし、どのように他事業にも展開していくか、戦略的に考え実行するチームをつくろうとしています。
——「事業をフックに」とはどのようなイメージですか?
最近、とあるフードデリバリー企業にメルペイの導入を提案させていただきました。その際、「メルカリハロ」や今後始める広告事業についてもニーズを聞いてみたんです。すると、「配送員の募集の部分で連携できるかもしれない」、「広告効率が悪くなっているから新媒体で出したい」という話をいただきました。このように、たとえば決済サービスであるメルペイをフックにし、広告と人材までご提案することができれば、営業の生産性が高まると考えています。
他にも、例えばメルペイのテイクレートの交渉が入った際に、その会社のアルバイト募集に「メルカリハロ」の導入を条件にするといったことが可能になると思います。個別のサービスに閉じるのではなく、サービス全体としての収益性を高める。そんな戦略が取れるようになるのが第3のステップです。
——4つ目のステップを教えてください。
4つ目は、広告販売の体制を整えることです。3つ目とも重なりますが、各サービスの提案と並行して広告営業を行い、営業一人当たりの粗利率・生産性を高めていきます。そうすれば、さらに営業人員を増やしていくことができ、今後新たな事業を立ち上げる際も、スピーディーな展開が可能になる。メルカリ全体の営業力を高め、事業成長をもう一段加速させるようなシナリオを描いています。
——そのシナリオを実現する上で、tsuguさん自身が大切にしていることはありますか?
「いかにお客さまに提供する価値を高めるか」を何よりも大事にしています。メルカリのバリューで言うところの「Be a Pro」ですね。単に「売る」ということではなく、お客さまの課題を解決し、期待を超え続けていける営業を実現したいです。
日本を代表するIT企業の急成長期を体験
——tsuguさんが営業と広告の大切さや可能性を学んだ経験について教えてください。
営業もそうですが、なにより社会人としての礎を築けたのは、楽天で働いたころの経験です。2003年、入社当時の楽天はまだ300名程度で、今ほどの知名度はない中小企業でしたが、「ECで企業の売上を高め、日本をエンパワーメントする」という想いに共感して入社しました。
入社後は2ヶ月間ほど営業に従事したのですが、1日200件の架電を達成するまで帰れないような日々でした。目標を達成すると名前が書かれた垂れ幕が下げられることも。こうして笑い話にしていますが、今からは考えられない働き方ですよね(笑)。
しかし、そうやって何がなんでも営業目標を達成していくことや、楽天が大切にしていた「スピード!スピード!スピード!」「仮説→実行→検証→仕組み化」といったバリューは、とても勉強になりました。
——営業以外にはどのような経験を?
本当に様々な経験をさせていただきました。EC上でお客さまの開店をサポートする役割や、開店したいお客さまとフリーランスのWeb制作者をつなぐマッチングサービス、ファッション領域のECコンサルタントとして店舗の売上を高めるマーケティング支援などをしてきました。
特に印象的だったのは、企業同士のマッチングサービスに従事していたときの体験です。当時、楽天には、契約して月額利用料を払っているものの、Web制作のノウハウがなく開店できないお店が約3000件ありました。そこで、フリーランスのWeb制作者や制作会社に、オープンに必要な一連の業務をパッケージ化したプランの作成を依頼。3000店舗の潜在顧客に一気に展開し、多くのお店をオープンさせることができたんです。初めての成功体験でした。
また、ECコンサルタントとしてある程度の結果を出した後は、名古屋支社の立ち上げを2年間経験。その後、横浜支社の立ち上げも行いました。そこでは横浜市役所と連携しながら、行政イベントのマーケティング支援や、財団法人のEC活用のサポートなどに従事。東京に戻ってからはファッション領域の責任者として、アライアンス業務や企業買収なども経験しました。
——その後、グリーに入社されていますが、なにかきっかけがあったのでしょうか。
近い関係にあった同僚がグリーに転職し、半年後くらいに声をかけてもらったんです。ソーシャルゲーム自体に強い興味があったわけではありませんが、当時のグリーは単月で楽天の営業利益を抜くこともあるくらいの急成長企業で、単純に興味が湧き、入社を決めました。
広告について本格的に取り組んだのは、グリー入社後です。マーケティングの責任者として、テレビCMやデジタルマーケティングを経験。また、子会社の社長として、事業や会社の統廃合もしました。グリー時代の最後には、SNSマーケティングの子会社社長として、広告業界での経験を積んだんです。
楽天もグリーも急成長期だったからこそ、様々なことにチャレンジする機会がたくさんありました。その分、失敗することも多かったのですが、この2社で経験できたすべてのことが、現在につながっていると思います。
お客さまを“囲わない”メルカリの循環経済に感じた可能性
——その後、メルカリに入社された経緯を教えてください。
メルカリとの接点は知人からの紹介でしたが、事業内容を知るにつれて、広告事業との掛け合わせにより大きく成長するポテンシャルを感じ入社しました。当時、Amazon、楽天などのリテールメディアを持つ企業が広告事業に参入して収益を高める流れがあったので、メルカリにも同じ可能性があるだろうと。
加えて、当時のメルカリが「メルカリShops」の立ち上げを控えていたことも理由の一つです。BtoC領域は広告事業との相性がいいことは楽天での経験からもわかっていましたし、決済領域のメルペイもあることで、オフラインのマーケティングまで網をかけることができます。
さらに、「メルカリハロ」のリリースによって、人材領域もカバーできるようになりました。ECと決済と人材と、そこに広告が加われば、国内の事業者へのほぼすべての接点をカバーできます。既存事業と広告事業を組み合わせることで、メルカリが形づくってきた循環をもう一段加速させられると考えました。
——経済圏の行く末が気になりますね。tsuguさんから見た、メルカリの経済圏の特徴や可能性について教えてください。
個人的な見解ではありますが、既存のプラットフォーマーがつくる経済圏は、基本的にユーザーを囲い込むように設計されています。プラットフォームに求心力を持たせることで、内部でARPU(1ユーザーあたりの平均売上高)を高めようとするんです。
一方、「メルカリ」は囲い込むのではなく、「メルカリ」内外をお客さまが循環するように設計しています。お客さまが「メルカリ」を出入りすることによって、ARPUが高められるのがユニークな点です。
それが実現しているのは、「メルカリ」がモノを買うだけではなく、モノを売ったり、空き時間を活用することで収入を得られるプラットフォームであることが大きいと思います。たとえば、ある商品をAmazonで買ったとして、不要になったら売るために「メルカリ」に訪れる。そこで無理に囲い込もうとせず、出入りしやすい状態さえつくれれば、循環はさらに加速し、その分「メルカリ」が成長していくんです。
どうキャリアを築くかではなく、どんなインパクトを生み出すか
——ご自身のキャリアについての展望も教えてください。
今日に至るまで戦略的にキャリアを築いてきたわけではないですし、それはこれからも変わらないと思います。ただ、「デジタルの力で日本を元気にしたい」という想いはずっと持っています。
その想いが芽生えたのは大学時代。MBA留学をしていた兄を訪ねて、マイクロソフトやAmazonがすでに台頭していたアメリカに行った際に、インターネットの可能性を肌で感じたんです。日本に帰ってきて楽天で働いていたときにも、地方の小さな商店街や、後継者がいない農家さんなどが、ECによって救われた事例をたくさん見ました。グリーに入ってからも、ソーシャルゲームという新しい市場が生まれる瞬間を見たり、SNSマーケティングで企業が成長していく様子を見てきました。それらの経験を通じて、デジタルの力で社会が変わっていくことを確信したんです。
これからもそうしたアセットを持つ企業に携わりながら、社会を元気にできるビジネスをいろんな人たちと一緒につくっていきたいと思っています。キャリアをどう築くかというよりも、そうしたインパクトを生み出すことのほうが自分にとっては重要なんです。
番外編:私のメルカリ活用術!
「メルカリ」は本の整理に使っています。本をよく買うのですが、一度読んで面白かったものは残して、それ以外を「メルカリ」で売るようにしています。新書で買ってすぐに売りに出すと、少しのディスカウントで済むんです。読む本の種類もビジネスから教養に至るまで様々あって、有名な本やみんながお勧めする本はすぐに買っているので、「メルカリ」がなければうまく管理できていないと思います。
執筆:佐藤史紹 編集・撮影:瀬尾陽(メルカン編集部)