2024年6月、メルペイに新たなVPoE(Vice President of Engineering)として常樂諭(@joraku)がジョインしました。Sansanで長年エンジニアリングリーダーとしてキャリアを積んできた彼が、なぜメルペイを選んだのか。そして、メルペイが目指す「新しい資本主義の形」とは何か。
執行役員CTO・木村俊也(@kimuras)との対談を通じて、メルペイが見据えるエンジニアリングの未来に迫ります。
この記事に登場する人
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常樂諭(Satoru Joraku)株式会社メルペイVPoE。2007年にSansan株式会社を共同創業し、クラウド名刺管理サービス「Sansan」のプロダクト開発を統括。取締役/CISO/DSOCセンター長として社内のセキュリティ施策を推進した。2024年6月より現職。
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木村俊也(Shunya Kimura)執行役員 CTO。2007年より株式会社ミクシィにてレコメンデーションエンジンの開発やデータ活用に関する業務を担当。そのほか、機械学習を活かした広告開発やマーケティングデータ開発にも携わる。2017年よりメルカリにて研究開発組織R4Dの設立を担当し、AIを中心とした幅広い研究領域のリサーチを担当。その後、AIと検索エンジン領域のエンジニア組織を設立しDirectorに就任、メルカリへのAIの導入をリード。2022年7月より、社内のプラットフォーム開発を統括するメルカリ執行役員 VP of Platform Engineeringを担当。2024年1月より現職。
グローバルテックとしての可能性と成長できる環境に惹かれた
@kimuras:SIerからファウンダー、組織づくりまで、さまざまな経験をされてきたjorakuさんが、次なる挑戦の舞台としてメルペイを選んだのはなぜでしょうか。
@joraku:メルカリやメルペイのミッション、そしてグローバルテックカンパニーとしての可能性に強烈に惹かれたからですね。特にメルペイが掲げる「信用を創造する、なめらかな社会を創る」というミッションには、経済の在り方を変える、大きなポテンシャルを感じています。
海外展開を目指すスタートアップ企業は日本にもたくさんありますが、メルカリは“本気度”が違う。「Go Bold(大胆にやろう)」というカルチャーのもと、日本から世界を変える挑戦をしようとしている。ここなら、これまでのキャリアを活かしながら、さらに成長速度を上げられるんじゃないかと思ったんです。
常樂諭(@joraku)
@kimuras: そう言ってもらえるのは嬉しいです。メルペイは、Fintech事業でグローバルを視野に入れて3年計画を立てて取り組んでいますし、ペイメントはメルカリグループ内でもあらゆる新規事業に絡むので、成長できる可能性は大きいと思います。
実際、メルカリには世界中からプロフェッショナルな人材が集まっています。多様な言語が飛び交う環境は戸惑うこともあったんじゃないですか?
@joraku:コミュニケーションの仕方がこれまでと全く異なるので、驚くことはありますね。ただ、Go Boldに海外展開を目指すなら、言語や文化の壁は当然乗り越えなければいけない。メルカリグループにはメンバーの多様なバックグランドを尊重しつつ、能力を最大化していきやすい環境があると思います。
そういう意味では、メルペイは「成長意欲」を掻き立ててくれる場所でもあります。私の中にはかねてから、「一生成長し続けないといけない」という強迫観念に近いものがある。でも実は、保守的で安定を求める性格でもあるんですよ。
@kimuras:安定志向だけど成長意欲は強い、ということですか?
@joraku:はい。私が定義する“究極的な安定”とは、「世の中が変化しても一人で生きていく力を持つ」こと。激しい時の変化に追いつき、むしろそのうねりを生み出す側にいないといけないと考えているんです。
@kimuras:なるほど。「成長できる環境」という観点でもメルペイを選んでくれたんですね。
「信用」を循環させ、新しい資本主義をつくる
@kimuras: 先ほど「経済の在り方を変えるポテンシャルを感じている」とおっしゃっていました。少し抽象的な話題になりますが、「資本主義の在り方が変化している」という実感はありますか?
@joraku:強く感じています。世の中はかつてないぐらい豊かになっているはずなのに、自分のやりたいことを抑制する傾向が強くなっているように感じるんです。変化が大きい時代だからこそ、昔よりも人々が不安を感じやすくなっているのかもしれません。
そういう意味でいうと、「本当の豊かさとは何か」という問いに向き合う必要があるとも思っています。
@kimuras:なるほど。私は、「豊かさ」には“主語”が要ると思っているんです。「心の豊かさ」なのか「モノの豊かさ」なのか。
@joraku:そうですね。「豊かさ」とひと言で言っても、人や場面によってさまざまな側面があると思います。だからこそ、私はメルカリグループの「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」というグループミッションに強く共感したんです。今よりモノもなく豊かではなかった江戸時代の文化に、「宵越しの銭は持たぬ」という価値感があります。一方で、先行きの見えない現代は、どうしても経済やモノの循環が停滞してしまいがちです。メルカリがより豊かな循環の仕組みをつくることで、経済や資本主義の在り方をパラダイムシフトさせる可能性があるのではないかと思います。
そして、「信用の循環」も重要です。これまでお金を借りる場面などでは肩書や収入だけで判断されがちでした。でも、本来「信用」とはもっと多角的な視点があるはずです。
@kimuras:そうですね。AI与信はそこが面白いんです。一般的な金融の与信と違い、メルペイでは売買での信用をもとにしている。既成概念を打ち破る「信用」をつくることで、人々の可能性を広げられると考えています。
木村俊也(@kimuras)
@joraku:まさにそこがメルペイで実現したいところですよね。与信だけでなく、これまで触れることがなかった層に対して、いかに簡単かつ「安心・安全」に新しい可能性を提供できるか。それが「新しい可能性をUnleashしている」と感じた理由です。
最適な意思決定に必要な「仕組み化」と「言語化」
@kimuras:ここからは、jorakuさんがマネジメントにおいて大切にしていることを伺えればと思います。
@joraku:もっとも重視しているのは「意思決定のタイミング」です。
私は、現場のエンジニアがミッションに集中し、前に進める環境を整えるのがマネージャーの重要な役割だと考えています。「許可より謝罪せよ」という考え方がありますが、組織内で「仕組み」を作ることで、意思決定や判断にかかるコストを最小限に抑え、エンジニアたちが開発にコミットできる環境を作りたいですね。
@kimuras:非常に共感します。少し近いですが、私はマネジメントにおいて「言語化」を大切にしていて。カルチャーを醸成するには、組織の中に漠然とある概念を言葉にし、可視化していく必要があると思っているからです。
原理原則を定めることで、進むべき方向性が明確になり、メンバーの意思決定や判断に掛かる負荷を減らせるのではないか。そう考えて、2023年には約1年かけて『Engineering Roadmap』を作成しました。こうした指針は「一度作成したら完成」ではなく、組織や事業の成長とともに進化させ続けていくべきだと思っています。
@joraku:おっしゃる通りですね。
また、もう1つ大切にしているのは「フルガリティ(倹約)」という考え方です。事業を行うにあたっては、十分なリソースがあればいいわけではなく、ある程度の制約の中で考えることも大切ですよね。スタートアップ企業である以上、リソースが充足することはないでしょうから。
「XXがないからできない」ではなく、制限の中でどうバリューを発揮するか。そういった観点にも、徹底的にこだわっていきたいと思っています。
テクノロジーの力で顧客体験と開発の生産性を向上させる
@kimuras:最後に、技術面での展望も伺いたいです。最近はLLMをはじめ、技術の発展スピードが加速する中で、VPoEとしてどんな挑戦をしていきたいですか?
@joraku:大きく2つあります。
1つは、お客さまの体験をもっと高めること。例えば、『メルカリ』の匿名配送の仕組みはお客さまの体験価値を飛躍的に高めたと感じています。テクノロジーの力を最大限に活かして出品の手間を劇的に軽減することで、お客さまに驚きや感動を与え、より一層「価値の循環」に繋がっていくのではないでしょうか。
@kimuras:出品の簡易化については、まだまだ改善の余地がある領域です。こうした技術を用いた革新は、jorakuさんにもお力添えいただけたら嬉しいです!
@joraku:もちろんです!もう1つVPoEとして取り組みたいのは、開発の生産性を上げることです。技術の急速な発展に伴い、開発のスタイルやプロセスも変わってきています。
AWSやGoogle Cloudなどのパブリッククラウドの出現によってインフラエンジニアの役割が変わったように、今後さらにエンジニアの仕事の形は変化していくでしょう。私はAGIやAIエージェントの登場によって究極的にはエンジニアがコードを書かずにものづくりができる時代が来るはずです。メルペイがエンジニアの働き方を抜本的に変えるリードをしていけたら嬉しいですね。
まだ着任して間もないですが、メルカリおよびメルペイの開発組織の強みは「スクラップ&ビルドの速さ」にあると感じています。
組織規模が大きくなっても、常に高みを目指して変化を厭わない。私自身も失敗を恐れず、新しいことを貪欲に吸収していきたいです。そしてメルペイをグローバルテックカンパニーに押し上げるべく、VPoEとして力を尽くしていきたいと思っています。
@kimuras:大変心強いです。一緒にがんばりましょう!
執筆:安心院彩 編集・撮影:瀬尾陽(メルカン編集部)