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効率化と“寄り添い”を両立させる。メルペイが目指す、AIを活用した債権回収の新たなあり方

2024-10-28

効率化と“寄り添い”を両立させる。メルペイが目指す、AIを活用した債権回収の新たなあり方

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メルカリグループでは、「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」というミッションを掲げています。その実現に向けて、メルペイではAI技術を駆使した与信モデルを進化させ続けています。AI技術を駆使することで、様々な理由からこれまで与信を受けられなかった人たちに、その価値を届けられる可能性が高まるからです。

今回は、メルペイで債権回収・管理のオペレーションに携わる吉田伊織(@yotta)、債権回収関連の開発を担当する足助安國(@asuke-yasukuni)、与信スコアモデルの開発・運用に従事する和田拓弥(@phi)の3名に、メルペイの強みであり独自性である「AI与信」、そしてAIを活用した「債権回収」について詳しく聞いていきます。

この記事に登場する人

  • 吉田伊織 (Iori Yoshida)

    2007年にテーラーメイドゴルフに入社。ビジネスアナリスト・IT Managerとして業務改善やシステム導入に従事。2022年1月にメルペイに入社しオペレーション戦略を担当。現在はCollection Ops とSpecial Debt ManagementチームのManagerを務める。

  • 足助安國(Yasukuni Asuke)

    2017年までSESのエンジニアとして従事した後、自身の会社を設立。2019年から会社を運営しながらメルペイに業務委託として参加。メルペイのあと払いやメルペイスマートマネーの開発に関わったのち債権回収関連のシステム開発をメインで担当。2023年より正社員としてメルペイに入社。2024年よりAIを活用した業務効率化プロジェクトのメンバーとしても活動中。

  • 和田拓弥(Takuya Wada)

    2021年にメルカリグループが開催している、トレーニングとインターンシップのオンラインプログラム「Build@Mercari」のインターン生として参加。北海道大学大学院工学院を卒業後、2023年にメルペイに新卒入社。現在はCredit Modelingチームに所属。

多面的な分析による「AI与信」なら、より多くの人に適切な与信を届けられる

──まずは、おひとりずつ債権回収における役割をうかがっていければと思います。

@yotta:現在、債権回収のCollection Opsと債権管理のSpecial Debt Managementの2つのチームのマネージャーを務めています。債権回収の最大化やお客さま対応におけるリスク管理、そして債権管理における安全で安定的なオペレーションの構築がメインのミッションです。

@asuke-yasukuni:Credit Backend チーム所属のエンジニアで、『メルペイ』の債権回収まわりの開発や、Collection OpsとSpecial Debt Managementが使用するシステムの構築・改修などを行っています。また、債権回収とはまた違うのですが、AIを活用して業務効率化するチームでも活動しています。

@phi:Credit Modeling チームに所属しています。MLエンジニアとして、「メルペイのあと払い」をはじめとする、与信サービスにおける与信スコアモデルの開発と運用を担当しています。

──メルペイは、「AI与信」を活用する「認定包括信用購入あっせん業者」の第1号として、経済産業大臣より認定を受けていますよね。そもそも、認定包括信用購入あっせん業者とはどういったものなのでしょうか?

@phi:「利用者の支払実績等の膨大なデータに基づいて、各社の創意工夫により与信審査を行う」(経済産業省)ことを可能にする制度のことです。認定された企業は、サービスを提供する中で取得した膨大なデータ、いわゆるビッグデータをAIで分析し、与信審査を行うことになります。そのため社内では「AI与信」とも呼ばれています。

これまでは、クレジットカードの利用限度額について、年収や債務額、生活維持費などを確認する「支払可能見込額調査」の結果によって行われていました。でも、この認定を受けると、従来の支払見込可能額調査を行わずとも、各事業者が独自に開発した審査ロジックを用いて、お客さまの与信枠を決定できるようになるんです。

和田拓弥(@phi)

──メルペイが独自に与信枠を決定できると、お客さまにはどんなメリットがあるのでしょうか?

@phi:いくつかありますが、他社が与信していない層に対しても与信できる可能性が広がることが、大きな違いです。

『メルカリ』は、専業主婦や学生の方など、さまざまな層のお客さまに広くご利用いただいています。そのような方たちは、年収が審査基準となるこれまでの方法だと、与信を受けられなかったり、受けられたとしてもごく少額だったりすることがよくありました。

でも、「信用力」はそれだけでは測りきれないはず。『メルカリ』を使っている方なら、出品しているものやそれによって得た利益も、収入として考えられます。AI与信を活用すれば、メルカリグループのサービス全体で蓄積してきたビッグデータを活用して、これまでとは違う角度から「信用力」を調査できます。そうすると、先ほど例にあげたような専業主婦や学生の方も、実情にあった適切な与信が受けられるようになります。

AI与信は、メルペイのミッションである「信用を創造して、なめらかな社会を創る」とともに、メルカリのグループミッションである「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」手段として、有効なものだと思っています。

回収にかかる時間をAIで予測し、お客さま一人ひとりにあった対応を

──与信で債権を付与したあとは、その「回収」がありますよね。債権回収では、どのようにAIを活用するのでしょうか。

@yotta:債権回収で私たちが注力しているのが、延滞したお客さまが清算までに要する時間を予測する「回収難易度モデル」の開発です。このモデルで算出した値を基にアプローチ方法を変えることで、運用側の業務負荷も減りますし、何より「すぐ返済するつもりだったのに電話がたくさんかかってくる…」というようなお客さまの負担を減らすことができるんじゃないか、と期待しています。

例えば回収難易度モデルの値が低いお客さま、つまりこちらから督促をしなくても自発的に返済される可能性が高いお客さまに対しては、返済が遅れていても一定期間こちらからは架電をしない、といった選択を取っても全体の回収率に大きく影響しません。一方で、値が高いお客さまには早めに直接連絡を取り、状況を確認したりお支払いの相談に乗ったりということができます。

──回収難易度モデルの精度はどの程度なのでしょうか?

@yotta:実際の運用状況を見ていると、かなり高い精度で予測できていると言えます。例えば、モデルの値が高いお客さまに対して早めにオペレータが直接連絡する取り組みを行ったところ、全体の回収率が向上したという結果も出ています。

@phi:この精度の回収は、多様なビッグデータを持つメルカリグループだからこそできることだと思います。最初に話が出てきたように、メルペイでは与信の時点で、年収以外のさまざまな切り口で「信用度」を審査しています。だから、「延滞するお客さま」についても、期日が過ぎてしまっても自然と払っていただける方、督促をしたら払っていただける方、そして何らかの事情でお支払いが難しい方など、細かいスコアリングができます。

@asuke-yasukuni:回収難易度モデルは、現状はうまくいっていますが、より詳細な回収に関するデータをフィードバックする仕組みがまだない、という課題もあります。仕組みを作るとしたら、僕の所属するチームがその担当になるので、今後はフィードバックにも力を入れていきたいですね。フィードバックの仕組みが実装されたら、さらに回収難易度モデルの精度は向上していくはずです。

足助安國(@asuke-yasukuni)

品質をさらに高めるために、AIによる効率化を進めていく

──回収業務の効率化以外にも、AIを活用して業務改善やお客さま体験の改善を行っていることがあれば教えていただけますか。

@asuke-yasukuni:「返済相談チャットボット」の開発ですかね。延滞したお客さまが、返済について相談するのはとても心理的に負担のかかるものだと思うんです。なので、できるだけお客さまに寄り添った形で、それを行えるお問い合わせ対応がAIを使えばできるんじゃないかと考えました。RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)を活用してメルペイ特有の質問に回答できることはもちろんですが、「AIは文章から感情分析を行うことができるのでは?」という仮説を立てて、お客さまの感情を問い合わせの文章から読み取り、お客さまに寄り添った適切な対応を判断して返信まで行う、という仕組みを考えモック実装まで行いました。

このモックでは、実際にかなりうまくAIが感情を分析して対応を柔軟に変化させることができて、AI技術を活用したメルカリ内のコンペ「ぐげん会議」で最優秀賞も獲得したんです。但し、各種リスク(リーガル、コンプライアンスやレピュテーションなど)の観点からクリアすべき課題があり、実装には至っていない状況です。

@phi:債権回収の分野では、AIが間違った情報や不適切な対応を提示してしまうと、お客さまに損害を与えてしまうリスクがあります。ただ、開発を諦めたわけではありません。今はリスクを最小限に抑える方法を模索しつつ、どこまでAIを活用できるか慎重に検討を進めているところです。

@yotta:「返済相談チャットボット」から、いろんな可能性が見えてきましたよね。お客さまとの交渉のバリエーションは本当に多種多様で、一筋縄ではいきません。そんな複雑性の高いコミュニケーションに対して、より良いお客さま体験を提供しながら、効率よく回収も進められる可能性を示してくれたというか。お客さまによっては、アプリで返済の相談を進められるなら、電話よりもそちらを選びたい方も多いと思いますからね。

──他にも、お客さま体験の向上のために、AI活用を検討していることがあれば教えてください。

@phi:架電予測ができると業務効率が上がることが予想できます。現状、オペレーターの方々は、いつお客さまから電話がかかってくるか分からない状況で待機しています。ビッグデータを活用すれば、「このお客さまがこの時間帯に電話をかけてくる」とAIが予測できるかもしれない。そうなると、管理者からするとシフトが組みやすくなりますし、オペレーターも準備や心構えができるようになりますよね。

@yotta:私はよりお客さまのペルソナを作成して、より緻密に与信改善やプロダクト改善にフィードバックしていきたいですね。ペルソナを細かく設定するのはすごく大変です。でも、お客さまの取引履歴、コミュニケーション履歴、返済パターンなど、『メルカリ』が持つビッグデータを活用すれば、不可能ではないんじゃないかなって。

@asuke-yasukuni: yottaさんの話を聞いていて思ったのですが、AIを使ってお客さまの情報から最適なものをオペレーターに提示できるといいですよね。

お客さまが問い合わせをするときに期待していることって、オペレーターが必要な情報を把握していて、その情報を元にいかにスムーズに対応してくれるかだと思うんです。特にメルカリの場合、お客さまはアプリにいろんな情報を入力しているし、取引や支払いに関する情報も持っています。なのに、問い合わせをしたら、オペレーターに対して改めて全部説明を求められたり、今までの『メルカリ』内の取引情報を全く考慮されない対応をされたりすると、なんだかちょっとがっかりしますよね。

お問い合わせが入ったら、AIが『メルカリ』内のデータを上手くまとめて、今回のお客さまのお問い合わせ対応に必要な情報を瞬時に表示して、かつそれを元に対応方法を判断し、オペレーターに適切な対応のアドバイスを提示してくれる。そこまでできたら、お客さまにも「良い体験をした」と思っていただける可能性が高くなるんじゃないかな。

ただ、債権回収の督促と、通常のカスタマーサポートは問い合わせの性質が大きくことなるので、そこは注意が必要ですね。

──2つの問い合わせの違いについて、詳しく聞きたいです。

@phi:通常のお問い合わせが「コミュニケーション」であるのに対し、督促は「交渉」なんですよ。単にお客さまの要望に応えるだけでなく、「債権回収」という目的を達成しなければ、成功事例にはなりません。

@yotta:だからといって、効率的に回収することにフォーカスしすぎるのも違うなと思っていて。例えば、一時的な資金難で返済が遅れているのか、それとも病気などが理由で長期的な資金難に陥っているのか、延滞の状況はお客さまによって様々です。私たちは、お客さまに寄り添いながら、最適な返済方法を考えなければいけません。そこに、AIが活躍する可能性があると思っています。ビッグデータからお客さまの状況を判断し、過去の類似ケースと照らし合わせて、どんなアプローチなら返済できる可能性が高いか分析する。この一連の流れが、AIを使うことでなめらかにオペレーションに組み込むことができるんじゃないかなと

AI技術を使って、回収の効率化を進めるのはもちろん大事。でもそもそも、お客さま体験のためのオペレーション品質を高めるために効率化が必要だということは、忘れてはいけない視点だと思っています。

AIか人なのか分からない、けれどスムーズで気持ちの良い体験だった

──最後に、メルカリグループがさらなるAI活用を推進していくにあたって、なにを目指していくべきでしょうか?

@yotta:やはり、AI活用を強く推進している会社としては、「ファーストペンギンでありたい」とは思っています。社内で効果のあったAIの活用事例は、積極的に社外にも情報発信していきたいですね。

そのためには、さらに社内で積極的にAIを活用していく必要がある。例えば、お問い合わせなら「相手がAIなのか人なのか分からない」とお客さまが思うくらい、精度の高い状態まで仕上げたいですね。「どっちかは分からないけど、すごくスムーズで気持ちの良い対応をしてくれた」と思っていただけるのが理想です。

吉田伊織(@yotta)

そうした事例が他社にも広まっていくことで、日本のみならず世界中のカスタマーサービスの質が向上し、社会が「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」状態により近づけるんじゃないかな、と思っています。

@phi:もうまさにその通り。ベストアンサーですね(笑)。

執筆:仲奈々 編集・撮影:瀬尾陽(メルカン編集部)

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