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「Must」を「Fun」に!メルカリCPOとCXOが語る、“AI-Led Growth Company”としてのAI活用の未来

2024-11-8

「Must」を「Fun」に!メルカリCPOとCXOが語る、“AI-Led Growth Company”としてのAI活用の未来

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AIが企業の成長戦略を根本から変える時代が到来しています。そんな壮大かつチャレンジングな営みに「プロダクト」の観点から挑戦するのが、メルカリCPOの篠原孝明(@unryu-in)とCXOの成澤真由美(@narico)。彼らが描くビジョンは、AIがサービスの隅々にまで浸透し、ユーザー体験と企業価値を同時に高める未来です。

メルカリは、これまでに国内企業ではいち早くAI活用に価値を見出し、プロダクトへの実装に積極的に取り組んできました。その間、AI/LLMの技術も飛躍的な進化を遂げています。

いま、メルカリはこれまでの基盤も活かしながら、40億点以上の商品の画像を有する「画像ドリブン」のプラットフォームという強みを活かし、AIの可能性を最大限に引き出そうとしています。しかし、フィンテック領域における規制やガバナンスの課題など、乗り越えるべき壁も少なくありません。

「マストな機能をいかに楽しいものにできるか」と語る成澤。

「偶発的な出会いがもたらす蚤の市的な魅力を大切に」と強調する篠原。

彼らが目指すのは、単なる「AIカンパニー」の枠を超えた存在です。AIを戦略的に活用し、飛躍的な成長を遂げる「AI-Led Growth Company」への進化。それは、ユーザーの期待を超える体験を提供しつつ、社員一人ひとりにとっても「人生の原体験」となるような挑戦の場を創出することを意味します。 メルカリが描く、AIが牽引する近未来のビジョンに迫っていきます。

この記事に登場する人

  • 篠原孝明(Takaaki Shinohara)

    フリーランスのWebディレクターを経て、2012年にグリー株式会社へ入社。2014年に株式会社ビズリーチへ入社し、転職メディアを立ち上げる。2017年9月にメルカリに入社。Director/Head of CREを務め、2020年4月よりメルペイへ異動しアライアンスプロジェクトの責任者を務める。その後、2021年1月にソウゾウを設立し、Head of ProductとしてPM/BD/CS/QAを管掌。2022年7月よりメルカリおよびメルペイの執行役員 VP of Trust and Safetyとして、メルカリグループの安心安全な利用環境構築に従事。2024年1月よりメルカリ執行役員 CPO Marketplaceに就任。

  • 成澤真由美(Mayumi Narisawa)

    執行役員 CXO Japan Region。音楽大学卒業後、音楽教育事業を通じてITに転身。株式会社ディー・エヌ・エーで多くのモバイルサービス事業のService Design/ UIUXDesignに携わり、その後、株式会社Kyashにて物理カードの体験設計を担当。2018年よりメルペイに入社、Product Designerとして、新機能誕生のたびにメルペイ画面を最適化(リニューアル)するUX Leadを担い、メルペイの立ち上げからGrowthまでを牽引。Head of Designを経て、2022年1月に株式会社メルペイ 執行役員 CPOに就任。2023年6月より、執行役員 VP of Loyalty Programを兼務。2024年7月より現職。

メルカリが捉えてきた“AI”という波

── まず、メルカリにおけるこれまでのAI活用と、現在の取り組みについてお聞かせください。

@narico:私はメルペイCPO時代からAI与信を推進するチームも管掌しており、プロダクトとAIの距離をできるだけ近づけるべく、組織のマネジメントをしてきました。その中で、次なる大玉はなにかを考えたとき、債権回収のチャットボットに着目しました。AIによる感情分析の性能もとても上がってきたので、返済に関するお客さまそれぞれの心情に寄り添って返済をサポートするところまでできるのではないかと考えたのです。

ただし、課題もありました。チャットボットが言ってはいけないことを言ってしまうと一発アウトになってしまう。たとえば、「暗号資産で返済できるよ!」と不可能なことを言ってしまったら大変です。最終的に精度を上げたときのインパクトは大きいのですが、リスクも無視できません。

実際、2線(リスクマネジメント、財務、法務およびコンプライアンスなどを含む間接管理部門)の関係者に相談をしに行ったこともあります。なぜダメなのかという説明を受けましたが、なにか良い方法はないかとすぐには諦めきれませんでした。最終的には当時のCEOと話をして、「これで精度を上げても、さまざまなリスクを回避すると特定エリアのお客さまにしか使ってもらえないかも知れない。そうなったときに、僕らの出せるインパクトってなんですか?」と問いかけられました。半年後、1年後にすぐに大きなインパクトを出せるかと言われたときに、正直まだ出せないなと感じ、いったん諦めることにしました。

成澤真由美(@narico)

この7月にCXOになってからは、12月末までにプロダクト組織を「AIネイティブ」なカルチャーにしていくことを目標にしています。これまでいろんな組織を束ねてきた経験を活かし、今回チャレンジしたいのは「デザイン×AI」です。きちんとロードマップを引いて進めていきたいと思っています。

具体的には、社内のAI絵師エンジニアやAI Labのメンバーと「pj-ai-creator」というプロジェクトを実験的に立ち上げました。最初は「メルカリらしい」バナーの生成から取り組んでいます。これはデザイナーのタスク負荷軽減にもつながります。

AIは感情分析と画像分析が得意なので、そう遠くない将来デザイナーが作ったようなデザインもAIができるようになると考えています。特にグラフィックデザインの分野では可能性が高いですね。まずは自分自身のラーニングも兼ねて、画像生成AIにメルカリのデザイナーがこれまで作成した大量のデザインデータを学習させ、3Dモデル風のイラストを作成しました。最初は手が変な形になったりしましたが、学習を進めるうちに徐々にちゃんとかわいらしいイラストになり、うちのデザイナーが作っているような3Dモデルのイラストになってきていて…AIの成長率には本当に驚かされます。

将来的には、Sellerに提供したいと考えています。まだまだ構想段階ですが、BtoC、CtoC両方のユーザーが自分のバナーを作れたり、商品をカスタマイズできたりするサービスも考えています。最初は何パターンかのテンプレートを当てはめる形になると思いますが、LLMの進化によってより柔軟な対応ができるようになっていくはずです。

また、最終的にはUIデザインにも展開できると思います。アプリのUIは突き詰めると画像とテキストの組み合わせですからね。メルカリでUIをAIで生成できるようになれば、そのツールを外販することも可能かもしれません。

@unryu-in:まず、私たちの目標はProduct Roadmapで言語化・可視化しています。このRoadmapで描いた未来を実現するにあたって、複数あるアプローチの中から世の中のトレンドを掴んだ最もワクワクする方法を選択します。

例えるなら、六本木から広尾に行くのに歩いても行けますが、電動マイクロモビリティのような新しい乗り物を使うことでより効率的に行けるようなイメージです。

次にAIの活用シーンですが、お客さまが『メルカリ』を使ううえで、やらなければならないこと(Must)と、よりよくする・より売れやすくするための工夫(Better)があります。この両方においてAIができることがあると考えています。

ただし、お客さま同士のコミュニケーションを完全に自動化するつもりはありません。自由入力をゼロにして自動でキャッチボールさせるようなことは考えていません。

お客さま同士でコミュニケーションを取ったり掘り出し物を探すなど、メルカリらしいひと手間や面白さに集中するために、やらなければならないこと(Must)をAIを活用して作業コストを極小化したり、偶発的な出会いを最大化させるために活用していきます。究極的には、お客さまのFun(楽しさ)を最大化するためにAIを活用したいと考えています。

@narico:AI導入には課題もあります。一例を挙げるとコストの問題。AI導入にはめちゃくちゃお金がかかります。コスト削減のためにAIを導入したのに、逆にお金がかかってしまいかねないというジレンマがあります。それでは本末転倒です。

しかし、メルカリはお客さまのFun(楽しさ)のためなら投資をする会社でもあります。Mustな部分はUI/UXでがんばりますが、ユーザビリティの課題は多岐にわたります。単に操作性を良くすることだけが解決策ではありません。むしろ、出品や発送などMustな部分をいかにFunにできるか。そこにAIの可能性があると考えています。

『メルカリ』はお客さまの40億以上の商品の画像によって成り立つ、「画像ドリブン」なサービスです。この強みを活かさない手はありません。今年9月に提供を開始した、写真を撮ってカテゴリーを選ぶだけで商品情報が作成され、最短3タップで出品が完了する「AI出品サポート」はその最たる例です。

また、LLMを使ってお客さまの感情を捉えて便利にするような方向性に可能性を感じます。これまでのようにカテゴリやキーワードからの検索性を上げるだけでなく、なにか曖昧な感情やシチュエーションから欲しかった情報にたどり着けるようなレコメンデーションをしたりすることで、Funの総量を増やしていけるのではないでしょうか。

AIが織りなす新時代のフリマ体験

── AIを活用して、『メルカリ』のプロダクトをどのように進化させていきたいですか?

@unryu-in:『メルカリ』の醍醐味は、偶発的な出会いによる「蚤の市」的な楽しさだと思います。そこで、バイヤー側のディスカバラビリティ(発見可能性)の向上と、Seller側の掘り出し物をフィールドに持ってくるサポート、この両面でAIを活用していきたいです。

いかに簡単にフィールドに商品を持ってこられるか、そこの改善にAIを活用できると考えています。イメージしやすいのは出品者さま向けで、カメラを向けるだけで「これはいくらで売れます」「求めている人がいます」といった情報を提供することです。

購入者さま向けにも活用できると思っており、カメラをかざすだけでおすすめのコーディネートや家具をサジェストするなどの活用もできますね。

篠原孝明(@unryu-in)

@narico:そうですね。リスティングの際に、背景に子どものおもちゃなどが散らかっているリビングが映っていたりしたとき、それを自動でぼかすなど、AIやLLMを活用してフィールドに持ってくるための改善活動ができると思います。

── では、逆にAI活用における課題はありますか?

@unryu-in:カスタマーサポートでのAI活用にはまだ課題があります。2018年頃から適切なガイドのサジェストを始めましたが、どの情報をソースにするかで問題が生じます。世の中の回答を集めると、グレーな回答を出してしまうリスクがあり、メルカリの公式回答としては適切でない場合があるんです。公式の立場でどこまでAIを活用するか、慎重に判断する必要があります。

@narico:フィンテック領域でのAI活用は特に難しさを感じています。先ほどお話しした債権回収のチャットボットの件もそうですが、現状では、比較的リスクの低い領域での活用に落ち着いてしまう傾向があります。Boldな取り組みをしようとすると、法令に触れるリスクが高くなってしまうんです。

また、unryu-inさんも言っていたように、法人格としてAIを活用することの難しさもあります。お客さまから見れば、AIの発言は「社員」と同じ扱いになるんです。AIが誤った発言をすれば、それは会社の公式見解として捉えられてしまう。このリスクをどう管理するかが大きな課題です。

メルカリが描く“AI-Led Growth”の世界とは?

── 最後に、メルカリが「AIカンパニー」を目指す上でのビジョンをお聞かせください。

@unryu-in:私たちが目指すのは、単なる「AIカンパニー」ではありません。AIを活用して成長していく「AI-Led Growth Company」だと考えています。

ただし、Mustのゾーンに全振りするとつまらなくなってしまいます。『メルカリ』のファンとなってくれるお客さまを取り込みつつ、不便さをいかに感じさせないようにするか。それがAI活用の重要なポイントだと思います。

@narico:そうですね。基盤を作る時代はもう終わったと言われています。これからはAIを活用して、いかにGrowth(成長)を加速させるか。そこが重要だと思います。

@unryu-in:エンジニアにとっても、ワクワクする技術を駆動させていく。そんな環境を作っていきたいですね。トレンドを掴んだ開発環境が優秀なエンジニアを惹きつけることが多いですが、これからは「AI-Led Growth」が、エンジニアを惹きつけるキーワードになると信じています。

@narico:私たちは以前から自分たちのことを「IT企業」と言ってきました。それと同じように「AIカンパニー」と言うこと自体に違和感はありません。ですが、そこからもう一歩踏み込むと「AI-Led Growth Company」がもっとも目指す姿を表す言葉だと思います。それくらいAIを活用していきたいと考えています。

エンジニア採用の観点からも、次の時代のキーワードになりそうです。自分たちの技術力を活かしてグロースを実現していく。そんな熱いビジョンを掲げることで、エンジニアにとってもワクワクする環境を作っていけると信じています。

ただし、AIはあくまでも手段です。目的はお客さまにより良い体験を提供すること。そのためにAIを活用し、成長を加速させる。それが私たちの目指す「AI-Led Growth Company」の姿なのです。

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