
スキマバイトサービス「メルカリ ハロ」は、「だれでも、すぐに、かんたんに」働けるをコンセプトに、いますぐ働き手が欲しいパートナー(求人企業)といますぐ働きたいクルー(求職者)をつなげるサービス。2024年3月のサービス開始から約1年間で登録者数は1,000万人を超え、直近1年のスキマバイトサービス新規登録会員数は業界No.1となりました。
「メルカリ ハロ」には、働き手を探したいパートナーの負担を軽減する「かんたん求人作成」機能があります。かんたんなボタン操作や文章登録だけで、パートナーごとに特化した魅力的な求人を作成できます。この機能の裏側には、AIやML(Machine Learning)、LLM(Large Language Model)等の最新技術が使われています。
「メルカリ ハロ」の「かんたん求人作成」機能ができた背景や機能のこだわりを、求人品質のプロジェクトをリードする檜山麻衣子(@michael)と、生成AIに関連するプロジェクトに携わる土生智之(@t-habu)、矢田宙生(@arr0w)の3人に聞きました。
この記事に登場する人
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檜山 麻衣子(Maiko Hiyama)
メルカリ ハロ Sales Ops Director。2001年より株式会社ソニーファイナンスインターナショナルにて、カスタマーサービスおよびクレジット審査センターの運営・育成を担当。2010年からは株式会社リブセンスにて、HR系サイトのカスタマーサポート、カスタマーサクセス、債権回収オペレーションチームのマネジメントを経験。2019年4月よりメルペイに入社し、不正対策、加盟店審査、債権回収などのオペレーション領域のディレクションを担当。2024年5月よりメルカリ ハロに異動し、AI × Sales Tech × Operational Excellence、Contents & Trainingを活用したSales Enablementを推進中。
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土生 智之 (Tomoyuki Habu)
メルカリ ハロ PM。JCBやメルペイにてFinTech領域の新規事業開発/PMを経験。キャディ株式会社にて製造業向けSaaS事業のCADDi DRAWERの立ち上げを実施。2023年にメルカリ ハロに参画。立ち上げ時のクルー向けAppをローンチし、その後は事業者向けサービスのProduct開発、外部企業とのアライアンス推進/API開発担当。直近では生成AIを活用したProduct開発に従事。
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矢田 宙生(Yuki Yada)
2024年4月にML Engineerとしてメルカリに入社。学生時代は機械学習の応用に関する研究や、フロントエンドやMLのエンジニアとして複数社でのインターンを経験。メルカリのAI専任チームであるElizaを経て、現在はメルカリ ハロの生成AI導入の技術周辺をリードする。
課題解決のため、利便性とワクワク感を追求したら実現した「三方よし」
——「かんたん求人作成」の機能について、魅力や開発経緯を詳しく教えていただけますか?
@michael:「メルカリ ハロ」の「かんたん求人作成」を使うと、たった数秒で魅力的な求人を作れます。パートナーの作業は、選択式の質問に答えてシンプルな文章を登録するだけ。長い文章を書いたり、魅力的になるよう表現に悩んだりする必要はなく、かんたんにオリジナルかつ応募されやすい求人文章をつくれます。
@t-habu:実際、求人文章を人間がゼロから作ると30分から1時間近くかかると思います。不慣れな人だともっとかかりますね。「かんたん求人作成」を使えば、数秒程度で下書きが出力されるので、1分程度で高品質な求人をつくれます。人件費を考えると、コストも100分の1くらいまで減るはずです。
——他社が提供する求人作成機能との違いはどのような点なのでしょうか?
@t-habu:他社サービスの求人作成は、テンプレート方式が主流です。テンプレートだと、業種等の共通要素によって同じような求人内容になってしまうという難点があります。仕事を探すクルーから見ても、求人内容で差別化されていないので、時給や勤務地までの距離等の条件でしか判断できなくなってしまうんですよね。
我々はやっぱり、求人を見ているクルーにもワクワクして欲しいと考えました。バラエティに富んでいた方が面白いし、サービスへの滞在時間も長くなります。だから、AIやLLMの仕組みを使って、パートナーの個性を引き出した求人をかんたんに作れるようにしました。
@arr0w:「かんたん求人作成」の大きな特徴は、自社にパーソナライズされることですね。任せたい業務やその店舗の雰囲気等の定性的な情報をテキストで登録することで、それらを反映した魅力的な求人が作られます。かんたんなのにこの体験ができるのは強みだと思います。
@michael:結果的に、求人を作るパートナーも、仕事を探すクルーも、全体の求人品質を高めたい我々も、みんなが喜ぶ機能ができました。まさに「三方よし」が実現しましたね。
イシューに対するベストソリューションはたまたまAI/LLMだった
——AI/LLMを使った「かんたん求人作成」をつくる話になるまでにはどのような経緯があったのでしょうか?
@michael:もとはと言えば、AI/LLMチーム(社内通称:Elizaチーム)と「メルカリ ハロ」のコラボレーションプロジェクトだったのですが、現在は独立して進行しています。
そもそも「メルカリ ハロ」として、人間がつくる求人の品質について3つの課題がありました。
一つは、禁止表現*を使ってしまい、掲載できる品質になるまでに修正の時間がかかってしまうこと。もう一つは、応募率に影響するような高品質な求人を作れる人が限られるので、属人化してしまうこと。最後に、テンプレート式で求人を作る仕組みでは、業種等の共通点があると同じような求人になってしまうこと。
*クルーが安心・安全して働けるように、法令で禁止されている表現をはじめ、メルカリ ハロで禁止としている求人作成時のレギュレーション等のこと
https://help.hallo.mercari.com/–656ba2b874f4b4002423379a
この3つの課題を全部解決できるのが、たまたまLLMだったというわけです。2024年の春頃に、まずはマイナスをゼロにしようという目的でLLMを使うことになりました。
@t-habu:AIが盛り上がっている昨今なので、どうしても技術が前に出てしまいますが”AI感を出さない”ということにはプロジェクト内でも一貫してこだわってきましたね。「かんたん求人作成」を実際に使う人の中には、ITやAI等のテクノロジーに不慣れな人もいます。ポチポチかんたんな操作をするだけで求人が作れるというUXの裏に、技術的にはAIやLLMがあるという理解です。
@arr0w:LLMは、要望に沿った文章を生成できるような賢い技術です。せっかくだから、この技術を活用してプラスの価値を創出していこうという流れになり、タスクフォースのようなものがボトムアップで走り出しました。
——「かんたん求人作成」の求人の品質をどのように高めていったのか、詳しく教えてください。
@t-habu:そもそも「いい求人」とは何かをまず定義する必要がありました。当時出ていた求人の中で、マッチング率が高い求人に共通する要素を分析するところから始めましたね。文章の構成や、評価されやすい項目等、さまざまな要素にセグメントを分解しました。
コンバージョン率やマッチング率に影響を与えるのは、求人内容だけではありません。当たり前ですが、時給や条件等、より影響を与える要素は多分にあります。待遇等の定量情報を排除した時にどうなるかを見るために、過去求人の分析を行いました。
@michael:いろいろ仮説を立てながら絞り込んでいきましたよね。従来の方法でパートナーに作ってもらった求人と、私たちが良いと評価した書き方をもとにAIで作成した求人とで比較検証をして、より優れたパターンを生かすというテストをしました。
はじめはどの指標を見るのがベストか全く分かりませんでした。多方面から影響を観察して、時間をかけてQAを重ねながら求人定義を落とし込んでいったんです。この辺は本当に、人間が頑張りましたね。
@arr0w:最終的に、求人の評価軸を3段階に定義しました。その中で一番上の基準を満たせる品質の求人を出せるように、「かんたん求人作成」のロジックをチューニングしました。最終的に、LLMを使って求人を自動で評価するLLM as a Judgeなども導入し、精度を上げるための試みを行いました。
何よりも重要なのは、広がり続ける「体験」
——「かんたん求人作成」について、今後手掛けていきたい機能や展望を教えてください。
@t-habu:求人のトップ画像の生成ですね。タイムラインに並ぶ画像で応募率にも大きく影響する重要な要素になります。画像自体をLLMで生成することはすでに可能ですが、品質向上や顧客体験をもっと良くするためにチャレンジしていきたいです。
@arr0w:あとは、入力項目の拡充ですよね。入力項目の中で選択できるのは、デフォルトで提供している待遇等の項目だけです。「任せたい業務」等のフリーテキストで入力する項目も、カテゴリ選択からサジェストされるとか。もっと便利にできると思います。
@arr0w:私は、クルーの選択肢をさらに広げるようなレコメンド機能を作りたいなと思っています。
例えば、「カフェの仕事をしたいな」と考えて、カフェの仕事を探している人がいたとしますよね。その人は気づいていないけど、実はバーの仕事がその人に合うかもしれない。バーの仕事が合っているけどバーの仕事を探していないクルー候補者にも情報を届けて、マッチングできたらいいなと思うんです。
@t-habu:コンサル的な提案をAIができたらいいですよね。パートナー側にも、こういう書き方をすればコンバージョンしやすいですよ、とか。
@michael:そうですね。私がいつも思い浮かべるのは、音楽フェスに行って、目当てのバンドの前後のバンドもすごく好きになってしまう、みたいな体験。AIが今までになかった選択肢を提示してくれる、そんな体験を提供できたらいいなと思ってます。