
2024年8月、台湾から日本の『メルカリ』の商品が購入できる越境取引が実現しました。その裏には、特別編成された越境取引(XB=CrossBorder事業)チームの尽力と、他国にアジャストするためのスピード感あふれる取り組みがありました。
さらに、2025年5月7日には香港との越境取引も開始。『メルカリ』を通した体験を、世界のより多くの人に楽しんでもらうための取り組みが進んでいます。
では越境取引の裏ではどのような苦労があり、何が焦点となったのか。XB Risk&Legalチームのマネージャーである末永 麻衣(@mai)と、同チームで法的なサポートを行うChiungyi Shao(@shao)、Privacy OfficeからXBに携わった佛坂 貴絵(@Kie)とYurie Kim(@Yuri.K)に話を聞きました。
この記事に登場する人
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末永 麻衣(Mai Suenaga)
弁護士登録後、大手法律事務所、金融機関を経て2017年にメルカリにジョイン。メルカリ、メルペイ、ソウゾウで数多くの新規事業の立ち上げに携わり、現在はメルカリでXB Risk&Legalチームのマネージャー。
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Chiungyi Shao
台湾弁護士資格取得後、台湾の大手法律事務所や日本の大手IT・外資系動画配信業界で知的財産、事業法務、コンプライアンス業務に携わり、2024年にメルカリに入社。現在はXB Risk & Legalチームで海外展開の法的サポートを担当。
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佛坂 貴絵 (Kie Hotokezaka)
弁護士登録後、ネット証券、暗号資産交換業者等の法務部門にて、リーガル・コンプライアンス業務を経験。メルコインでの暗号資産交換業立ち上げを経て、現在はメルカリでPrivacy Officeに所属。
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Yurie Kim
ニュージーランド弁護士資格取得後2017年に日本へ移住し、複数のITスタートアップで法務を経験。2024年にメルカリへ入社し、現在はPrivacy Officeチームで海外のプライバシー法を主に担当。
ーまずはじめに、それぞれのチームの領域について教えてください。
@mai:XB Legalは2024年6月に新しいチームとして発足しました。それより前からXBのプロジェクトは存在しており、私もメルカリのHD Legalというチームの一人として担当していたのですが、会社として今まで以上にXBに注力する方針が決まり、専任のLegal担当者がほしいと相談を受けたことがきっかけです。
最初は私一人のチームでしたが、昨年8月に台湾の弁護士資格を持つ @shaoさんに続き、今年の5月にもう一人メンバーが入社したことにより、現在は3名体制のチームになりました。
@Kie:2021年に立ち上がったPrivacy Officeですが、台湾XBのリリース前は、もっぱら国内の個人情報保護法を遵守することが主な業務内容でした。
当時はチーム内にも海外の個人情報保護法制に詳しいメンバーがいなかったので、台湾リリースまでは私が外部の弁護士の力も借りながら進めていきました。昨年の8月からは、海外個人情報保護法についての業務経験のある @Yuri.Kさんがチームに加わり、XBを担当しています。
ーでは次に、XBプロジェクトの話に移りたいと思います。昨年8月29日にリリースされた本プロジェクトはいつ発足し、どのような過程を経て進めていったのでしょうか? それぞれのチームの携わり方を含めて教えてください。
@mai:私が最初にこのプロジェクトに入ったのは2024年2月頃だったと思います。それまでのメルカリの越境事業は、メルカリと提携関係にある購入代行事業者が外部ウェブサイト上で海外のお客さま向けに購入代行サービスを提供する形式でした。ですが、本プロジェクトは『メルカリ』のウェブサイト内に購入代行サービスを組み込み、海外のお客さまにシームレスにお買い物体験をしていただくという新たな取組みでした。
そのため、『メルカリ』と購入代行事業者の間の役割や法的責任の切り分け、データの持ち方、リスク分析など、これまで以上に踏み込んだ整理と検討が必要になると思ったんです。そこで、Privacy Officeをはじめ、経理や知財、Public Policyのチームなど、いわゆる管理部門のチームが一同に集まり、定例会を組成し、論点やリスクの洗い出しをしてきました。
ープロジェクト立ち上げから現在まで、特に印象的だった瞬間はありますか?
@mai:本プロジェクトには、日本の『メルカリ』内の取引と、台湾にまたがる取引がいずれも存在し、また、メルカリによるサービスと、提携パートナーである購入代行事業者によるサービスも同時に存在します。そのため、どのサービスに、どの国の法令が適用されるのかを特定する必要があり、簡単な作業ではありませんでした。
外部の弁護士も起用して法令調査を進めましたが、費用もかさんでしまうため、重要なポイントに絞って進めることにも苦労しました。さらに、外国では法律のみならず、文化や商慣習なども異なるため、調査結果から判明したリスクをどう見積もるかという点も、実際に取り組んでみると難しいものでした。
例えば、日本では一般的に販売されているが、ある国では政治的、国民感情的にセンシティブに受け止められかねない商品について、メルカリの越境事業においてはどう取り扱うべきかといったような点です。
@Kie:そうですね、どの程度調べるか悩んだという点は、プライバシー保護の観点も同じです。また、どの国に展開するかについては、ビジネスの状況に応じた方針転換もあったので、二線として今何をすべきかタイムリーに判断する必要がありました。特に、プロジェクトの初期の頃は、プロダクト側からやりたいことをヒアリングして洗い出したり、論点の確認以前の前捌きや整理に時間を割くことも多かったです。
ー何をどうすべきかある程度の勘所がある国内でのビジネスとは違う悩みがあったということですね。途中から参加された@Yuri.Kさん、@shaoさんは今回のプロジェクトについてどのように感じられましたか?
@Yuri.K:私は前職でグローバルエクスパンションの経験がありましたが、今回のプロジェクトは規模もスピード感もすごかったです。私が参加した時点ではすでにプライバシー関連の法令調査は主に完了してはいましたが、プロジェクトのブロッカーになり得る部分については法的要件を洗い出した上で、さらなる深掘りが必要でした。
こうした取り組みを進める中で最も大きな課題となったのは、コンプライアンスとUXの間で良いバランスを探していくことでした。
@Shao:そうですね、XBのプロジェクトが実現しようとしていることが国内も海外も事例がなく、参考となる例が少ないなか、進め方や実行の可能性を探りながら進めていたと思います。その中でも、プロダクトやプロジェクトの内容は日々刻々と変わり、それに応じてリーガルが進める調査も変わることがある。個人的には、変化の早い環境には慣れているタイプだと思いますが、とはいえ最初はそのスピード感に驚きました。変化の速さに合わせて動くことが求められるため、週単位で方針を定めて、業務を進めています。
ー状況が変わるなかで、課題をどのようにクリアしていったのでしょうか?
@Kie:プロジェクトの中盤以降は、論点が絞れてきましたし、「まずは台湾でリリースする」という会社の方向性が決まったので、やるべきことがクリアになりました。またPMの方がうまくハンドリングしてくれたので、業務がやりやすくなったと思います。
@mai:調査については社外弁護士など専門家の助けを借りましたが、実際のサービスの方向性やプロダクトの仕様、リスクテイクの方針については、最終的には社内で決定しなければなりません。Legalチームだけではなく、Privacyはもちろん、Public PolicyやTnS(Trust and Safety)など、関連するチームの皆さんとオープンにディスカッションし、毎週の定例会で繰り返し方向性を確認しながら、最終的な方針を決定しました。
ースピードも求められ、責任を感じる場面もあったとは思いますが、特に楽しく感じたり、やりがいを感じたりする出来事もありましたか?
@mai:私はリリース前に台湾へ出張し、お客さまインタビューに参加させてもらったのですが、実際に「日本の『メルカリ』の商品を台湾から購入している」という話を直に聞きました。日本のアニメやフィギュアなどが好きとのことで、日本の『メルカリ』で売られている商品がいかに良いかを熱く語られており、この人たちにもっと楽しく便利に使ってもらいたいという気持ちを強く持ったことは印象に残っています。
@Kie:私はやはり、初めての海外展開である台湾でのリリースが無事にできたということに、一番やりがいを感じました。今までもグループ会社であるメルカリUSとしてアメリカでサービスを展開していましたが、日本の『メルカリ』として外国のお客さまにアカウント登録してもらって直接サービスを提供することは、今回が初めてでした。
リリースまでには多くの論点を整理する必要があり、正直なところ、ここまで検討する必要があるのか?と思うこともあったのですが、リリース後に、事前に想定した事象が発生した時には、事前の整理が役立ったなと感じました。
また、リリース前に検討が足りなかった点は、速やかに改善していきたいと思います。まだメルカリとしての海外展開は始まったばかりですが、ゼロからイチにするという一つの山は超えたと思うので、今後はよりスムーズに、他の国でもサービス展開できるようになればと思います。
@Yuri.K:私がやりがいを感じた瞬間は、チームとしてハードルを超え、一緒に課題を解決していく時です。幅広いチームとコミュニケーションを行うことで、各チームが取り組んでいる領域について理解を深めることができました。それと同じように、連携したチームの皆さんも私たちが取り組んでいるプライパシーポリシーに関する認識を理解してくれたようにも感じます。
@Shao:個人的には、リーガルとして、サポートをしていたキャンペーンやイベントが無事に開催された時が一番嬉しいですね。XBのリーガルは事業部内に位置しているため、企画の段階から事業部が実現しようとしていることがわかり、最後にリリースされる場面まで見届けられるので、とても達成感があります。
ーチームとしてもより一層パワーアップしたような印象も受けますが、今後どのような点に力を入れていきたいと思いますか?
@Kie:プライバシーポリシーに関しては、様々な国を想定して調査や準備をしていたところ、当時は負担が大きいと感じたこともありました。ですが、各国の規制の温度感をある程度把握でき、結果的にそれらの準備が役立ったと感じている、というのが振り返りです。
方針が頻繁に変わることもあるので、それらに柔軟に対応する必要があることは変わりません。今後に向けて、法令調査やリスクアセスメントについて、型化できるところは型化して、社内の共有知としていくことを意識したいですね。
@Yuri.K:私は国内だけではなく、国外のお客さまも個人情報の取扱に関して安心して『メルカリ』を利用できるように、プライバシーファーストなイメージをしっかり作っていきたいです。
@Shao:これは自分への期待という面が大きいですが、事業部メンバーの国籍も経歴も様々なため、それぞれのニーズに合わせたリーガルサポートができたらと思います。法務はビジネスのブロッカーではなく、解決案を一緒に考えるパートナーであると思ってもらいたいです。
@mai:XBチームでは、今後も台湾、香港以外の複数の国へ展開する予定があり、また、既存のストラクチャーに限らず様々なプロジェクトを検討しているため、Legalとしてもかなりのスピード感での対応を求められています。次から次へと新しい展開があるので、台湾と香港のプロジェクトで得た知見や学びを踏まえて、Legalチームとしてのカバー範囲を高速で広げていく必要があると思っています。
@Kie:私は今後、Fintech領域のプライバシーポリシーについても担当する予定です。メルカリには今回ご紹介したXB以外にも、様々な領域の業務がありますので、一つの領域にこだわらずに、幅広い分野にチャレンジしていきたいと思っています。
写真:鈴木 渉
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