2025年9月10日、メルカリ東京オフィス25Fイベントスペースにて、ChatGPTにまつわるハッカソンが開催されました。テーマは「業務に役立つカスタムGPT生成」。
当日は、メルカリグループ各社から、多様な職種の約50名のメンバーが集合。OpenAI社による最新アップデート情報、作成のコツなどの解説のもと、実務に活用できるカスタムGPTの作成に取り組みました。
このレポートでは、ハッカソン当日の様子をダイジェストでお届けします。
当日の流れ
14:00-14:10 イントロダクション
14:10-14:30 カスタムGPTのおさらい
14:30-17:00 議論・プロトタイプ開発
17:00-17:55 成果発表
17:55-18:00 表彰・まとめ
当日は、カスタムGPTの解説からスタート。その後は、個人ワークで各自アイデアを練り、4〜5人のチームに分かれてディスカッションを行い、作成するカスタムGPTを決定。約2時間の開発時間をとり、実際に手を動かしながらカスタムGPTを作り上げていきました。
OpenAI Japan直伝 GPT-5の最新情報
GPT-5の新機能
まずは、OpenAI Japan 出口氏による、カスタムGPTの解説からスタート。GPT-5の最新情報を惜しみなく教えてくれました。

「以前はGPT-4o miniなど、どのモデルを選ぶか悩むことがありましたが、アップデートにより、GPT-5と会話するだけで済む『Autoモード』が搭載されました。会話をしながら、難しい問題は裏側でしっかり考える。簡単な問題なら素早く返す。そんな自然な形で利用できます」
ただし、特定の用途では、意図的にモードを選択することも可能です。じっくり考えてもらいたい戦略的な課題や、カスタムGPTで推奨モデルを設定したい場合など、状況に応じて以下のモードから選択できます。
- GPT-5 (Auto):内容に応じたスピードと思考の自動調整
- GPT-5 Thinking:複雑な課題に対する高度な思考プロセス
- GPT-5 Pro:戦略的課題向けの最高レベルの思考能力
プロンプト作成の新たなポイント
GPT-5へのアップデートに伴い、プロンプトの書き方もこれまでとは異なる注意が必要です。今回出口氏は、次の2つのポイントを解説しました。
・矛盾除去の重要性が増した
「GPT-5は人間の指示により忠実に動きます。そのため、指示が矛盾していると、その部分について深く考えすぎてしまい、動作に影響が出てしまうことも。指示に矛盾点がないか、ChatGPTを使ってチェックしましょう」
・自己評価による品質改善
「事前に設定された評価基準に基づいて、自身のアウトプットを評価し、その精度を繰り返し改善する仕組みが構築されました。この自己評価サイクルを繰り返すことで、より高品質なアウトプットを生み出せるようになります」
カスタムGPT構築のポイント
最新のアップデート状況を把握できたところで、今回のメインテーマ「カスタムGPT」の話題に移っていきます。出口氏は、カスタムGPTの3つの構成要素について解説。
指示(Instructions):反復業務の自動化
同じタスクや依頼が繰り返し発生する場合、その内容をカスタムGPTに記憶させることで効率化を図ります。
知識(Knowledge):専門情報の組織化
ChatGPTが把握していない社内情報を、ファイル形式で知識として蓄積します。
アクション(Actions):外部連携の実現
外部システムとの連携機能です。現在のメルカリでは使用できない機能となります。
知識ファイル作成のポイント
カスタムGPTに取り込む知識ファイルの品質は、カスタムGPTの質向上に大きく関わってきます。出口氏は、実際の開発現場で蓄積された具体的なノウハウを共有しました。
ファイル形式の選択
- 表データ:CSVまたはExcel推奨、説明的な列ヘッダーが重要
- テキストデータ:JSON、Markdown、txt、Word形式を優先、PDFは制約あり
- 情報配置:重要な情報は先頭に配置(約11万トークンまで直接認識)
なぜ先頭配置がそんなに重要なのでしょうか。出口氏は技術的背景を説明しました。
「各ファイルの情報のうち、先頭から順番にダイレクトにテキスト認識され、認識しきれなかった残りの部分はベクトル化されて意味検索に回される仕組みです。そのため、大量の情報がある場合は、重要な情報が先頭にまとまっているとAIにとっても理解しやすくなります。また、傾向としては人間が初見で理解できるようなファイルはAIも理解しやすいと言えます」
カスタムGPTハッカソンスタート!
技術解説の後は、いよいよハッカソンのメインパートへ。参加者は4〜5人のチームに分かれ、3段階プロセスで、実際の業務に使えるカスタムGPT開発に取り組みました。
・個人ワーク(15分間)
各自でアイデア出しからスタート。OpenAI社が用意した「ChatGPT Use Cases for Work」という壁打ち用カスタムGPTを活用し、参加者それぞれが業務の課題を洗い出していきました。
・チームディスカッション(15分間)
続いて、各メンバーが出したアイデアをチーム内で共有・統合し、実際に取り組むテーマを1〜2つに絞り込みます。短時間での議論でしたが、多様な職種のメンバーが集まることで、個人では気づけなかった課題や解決策のアイデアが次々と生まれていきました。
・開発・試行錯誤(120分間)
いよいよ本格的な開発タイムです。チームで決定したテーマに基づき、実際に手を動かしてカスタムGPTを作成していきます。単に動作するものを作るだけでなく、実務で使えるレベルまで試行錯誤・改善を重ね、成果発表の準備も並行して進めていきました。


約2時間で生まれた、業務効率化を実現するカスタムGPTたち

約2時間の開発時間を経て、各チームが作成したカスタムGPTの発表が行われました。1チーム4分の持ち時間で、課題、解決方法、期待される効果を中心に発表。
その中から、特に優れたアイデアとして、参加者投票で決まる「ピープルズチョイス賞」、AI- @markによる「審査GPT賞」、そしてこの回を進行した新卒内定メンバーの@Yurinoが自身のカスタムGPTである”Yurino bot”を使って評価した「Yurino賞」の3つが選出されました。
早速、ピープルズチョイス賞の発表から。
①ピープルズチョイス賞
- 選考方法:参加者投票
- 評価理由:実用性の高さ、属人化解消、多職種での利用可能性
受賞したのは…
リーガルレビュー自動化(Team 4)
マーケティング施策のリーガルチェックプロセスを自動化。CSとリーガルチームの混合チームが、「双方の負担解決」という共通課題に取り組んだと発表しました。これにより、年間130時間/人の削減が実現できる想定(!)。

今回作ったカスタムGPTで担う作業は以下の通り。
- 法律・社内ポリシー・顧客理解の3観点での自動評価
- OK/NG/判断保留の3段階判定
- 改善提案とエスカレーション用資料の自動生成
単純な合否判定だけでなく、具体的な改善提案まで自動生成してくれるうえ、担当者が次のアクションを取りやすいよう、Slackでの連絡用メッセージまで作成できる設計となっています。
②審査GPT賞
カスタムGPTで作成した@markの審査による今回のイベントらしいこの賞では、以下の点に重きを置いて評価されました。
- 選考方法:CEO思考特性を反映したカスタムGPT評価
- 評価理由:安全性重視の設計、大幅な作業時間短縮効果
受賞したのは…
新規事業会計要件整理(Team 7)
新規ビジネスの会計処理要件を整理できるシステム。現在は特定のメンバーに依存している業務を、経理経験1~2年などの経験の浅い担当者でも対応できるように設計されています。これにより約2時間かかっていた業務が、30分に短縮できる想定だと続けます。開発されたシステムでは、以下の機能が実装されました。
- 質問形式での要件定義ガイド
- 網羅的な会計処理パターンの提示
- 後戻り作業の防止
開発途中で要件の見落としが発覚すると、大きな手戻りが発生するリスクがあるため、こうした課題を解決するべく作られたカスタムGPT。「抜け漏れをなくし、網羅的に検討できるシステム」と評価されました。
③Yurino賞
審査GPT賞と同じく、新卒内定メンバーの@Yurinoが自身のカスタムGPTである”Yurino bot”を使って評価した「Yurino賞」も選出。
- 選考方法:新卒内定者(フレッシュ)の視点
- 評価理由:実務即時活用可能性、業務知識の形式知化
受賞したのは…
他社交流会アシスタント(Team 6)

社内での利用頻度が高い、他社を交えてのイベント準備業務をサポートするツール。他社交流イベントの企画から終了後のフォローまで、一連のプロセスをサポートしてくれるものです。利用者が会社名やイベント形式を回答することで、Web検索を通じての企業調査、具体的なToDoリスト、スケジュールが自動設定されます。
これにより、属人化しがちな業務の発生を防ぎ、漏れなく準備を進められるようになると評価されました。
こんなアイデアも
さらに受賞アイデア以外にも、たくさんの実務に活用できるカスタムGPTが誕生したので、いくつか紹介していきます。
市場調査効率化
国内外の事例を横断分析し、標準化されたレポートを出力。金融業界の複雑な規制環境での調査業務効率化を目指したカスタムGPTです。このカスタムGPTを使うことで、従来は月680時間を要していた調査業務を、340時間に短縮できるように。また、海外事例の分析において、言語の壁により参考にできなかった情報を活用可能になった点も評価されました。
SNS運用効率化
160万フォロワーを持つメルカリ公式アカウントの運用を支援するカスタムGPT。過去の反響が大きかったツイートをデータベース化し、メルカリらしい「親しみやすい」コミュニケーションを再現できるシステムを開発しました。ウェブ検索機能を活用し、スマートフォンの新モデル発売など、最新トレンドを即座に反映したツイート生成が可能。さらに画像生成機能との連携により、投稿に添付する画像まで自動作成できる点が評価されました。
仕様書作成支援
PMやPMOメンバーが直面する仕様書作成の品質格差と時間コストを解決するカスタムGPT。Fintech分野のテンプレートを組み込み、対話形式で高品質な仕様書を作成できます。作成時間を30%削減する効果に加え、「書き出しのハードルを下げる」「見落としがちな視点をサポートする」といった定性的価値も提供します。完成後はConfluenceやNotionへの直接転記が可能で、実務での即座活用を実現しました。
イベント準備標準化
他社とのイベント開催に必要な準備工程を標準化してくれるカスタムGPT。準備から当日運営、事後フォローまでの全工程をカバーし、初回開催でも「漏れなく」進行できる仕組みを構築しました。参加企業数やケータリング有無、開催場所などの基本情報に基づき、適切なタスクリストとスケジュールを自動生成。「Move Fastに、漏れなく実施できる」ことを重視した設計となっています。
おわりに
今回のハッカソンでは、約2時間という限られた時間で、10個の実用的なカスタムGPTが誕生。出口氏は当日の挨拶としてこう締めくくりました。
「今後の拡張も視野に入る多様なアイデアが生まれ、皆様に実際に使っていただける状態に近いものが数多く完成していることを心から嬉しく思います。今日解決できなかった課題や疑問点もあるかと思います。メルカリとOpenAIで連携しながら、機能拡張の開発なども検討していく予定です」(出口氏)
あらためて、今回のイベントを実施してくださったOpenAI社の皆様、ありがとうございました。今回紹介した10個のソリューションは、各業界・職種での実用的なAI活用のヒントとなっていくはず。このイベントを通して、カスタムGPTの開発に取り組んでいただければ幸いです。






