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GOT AIハッカソン活動報告:通訳・翻訳業務におけるAI活用の実践と今後の展望

2025-11-12

GOT AIハッカソン活動報告:通訳・翻訳業務におけるAI活用の実践と今後の展望

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皆さん、こんにちは!

Global Operations Team (以下、GOT) のShuです。

全社的にAIの活用が加速する中で、私たちの働き方は変化の時を迎えています。日々の業務が効率化されることへの期待がある一方、専門的なスキルが今後どのように活かされるのか、という懸念を持つ方もいるかもしれません。

私たち通訳・翻訳を専門とするGOTも、このテーマに正面から向き合いました。そして、AIは私たちの専門性を代替するものではなく、その価値をさらに高め、業務の可能性を拡張するための有効なツールになり得ると考えています。

この記事では、その具体的な第一歩として開催した「GOT AIハッカソン」の全貌をご報告します。私たちの取り組みの記録が、皆さんのチームでAI活用を考える上での参考になれば幸いです。

なぜハッカソンだったのか? – 実践から学ぶカルチャーの醸成

AI活用に向けて、私たちは研修やセミナーではなく、「ハッカソン」という形式を選びました。その理由は、AI時代においては、知識のインプット以上に、実際に手を動かし、試行錯誤する中で実践的な知見を得ることが重要だと考えたからです。

そのため、このハッカソンの目的は、完璧なツールを完成させることではありませんでした。

  • まず、AIに「慣れ、親しむ」こと。
  • 次に、AIとの対話を通じて、自分たちの業務の可能性を「発見する」こと 。
  • そして、そのプロセスと学びをチームで共有し、組織全体の力に変えていくこと 

一般的なハッカソンでは、期間中はその開発に集中することが多いかもしれません。しかし、メルカリの通訳・翻訳サポートは1日たりとも止めることができない重要な業務です。そのため、今回のハッカソンは、各メンバーが通常業務と並行しながら、2週間という限られた時間の中で挑戦するという形式を取りました。

ハッカソンから生まれた、具体的な取り組みと成果

このハッカソンからは、日々の小さな改善から、業務プロセス全体に関わる大きな構想まで、多様なアイデアが提案されました。ここでは、その具体的な事例と、そこから得られた学びをご紹介します。

ハッカソンから生まれた全社展開ツール:専門ノウハウが組織の力に

ハッカソンでのプロトタイプが、改善を経て実際に全社で利用されるツールへと進化した事例は、今回の取り組みの大きな成果です。

  • 議事録翻訳ツール(@mandrill)
    • 課題:多言語が飛び交う会議で、日本語と英語の両方で議事録を作成・共有することは、メルカリの透明性とI&Dを支える上で不可欠ですが、リアルタイムで両言語の議事録を作成することが大きな負担となっていました。
    • アプローチ:この課題を解決するため、Google Docs上で動作する翻訳ツールのプロトタイプを作成。App ScriptのコードをGOT-4oを使用して生成し、ドキュメント内のテキストを日英併記スタイルに自動で整形・翻訳する機能の実現可能性を検証しました。
    • 成果:ハッカソンでの成果と学びを元に、セキュリティ要件などをクリアし、現在このツールは正式に社内リリースされ、全社員が自身のGoogle Docsにインストール可能な状態になっています。これにより、議事録作成者の工数が大幅に削減されただけでなく、これまで言語の壁のために詳細な議論を追いづらかったメンバーも、迅速に内容を把握できるようになりました。
  • バイリンガルスライド作成ツール(@mandrill, @celeste)
    • 課題:特にAll Hands(全社会議)などで使用されるスライドを、日英両言語で体裁を整えながら作成する作業は、非常に手間のかかるものでした。
    • アプローチ:スライド内のテキストの横、または下に翻訳を生成し、簡単にスライド上で日英両言語を表示させるツールの開発に挑戦。Apps Script、「Ellie (GPT-4)」、Gemini 2.5 Proなど複数の技術を駆使し、プロトタイプを構築しました。
    • 成果:ハッカソン後、特に課題であったレイアウトの維持について改善が重ねられ、この機能はAll Hands用の公式Googleスライドテンプレートに標準搭載されるに至りました。これにより、発表者はコンテンツを作成した後、メニューから機能を選択すると、最小限の労力でバイリンガル版スライドを生成できます。
  • 社内用語を反映したスプレッドシート翻訳(@celeste)
    • 課題:スプレッドシートの翻訳、特にメルカリ社内の用語集を正確に反映させながら効率的に行う、という高度な課題がありました。
    • アプローチ:Apps ScriptとGeminiを用いてこの課題に挑戦。セキュリティやコストの観点から外部の翻訳APIは選択せず、社内のセキュリティチームが開発した新しいLLMプロキシサービスを実装しました。
    • 成果:用語集をスクリプトで直接活用することに技術的な難しさがありましたが、ハッカソン後も改善が続けられ、現在では、スプレッドシート上で翻訳機能ボタンを押すだけで、社内用語集を反映した翻訳が行えるツールとして、全社向けに展開されています。

上記3つのツールの実現にあたっては、セキュリティやアクセシビリティ観点で、他のチームのメンバーからもたくさんのアドバイスをいただきました!

日々の業務プロセスを改善する多様なアプローチ

  • リサーチ業務の効率化と品質向上(@sherry)
    • 課題:専門用語の公式な翻訳を見つけるリサーチ業務には、多くの時間がかかっていました 。また、大規模な翻訳プロジェクトでは複数のメンバーが関わるため、訳語の一貫性を保つことにも困難がありました 。
    • アプローチ:この課題に対し、Gemini (2.5 Flash) を活用。Google DocsのURLをAIに読み込ませ、「専門用語」「その英訳」「翻訳の根拠となる公式サイトのURL」をリストアップさせるプロンプトを作成・検証しました。
    • 成果:このアプローチにより、AIがウェブサイトを検索し、情報源と共に訳語を提示できることが確認されました。一方で、出力される用語数が変動したり、手動での調整が必要だったりと、現状のAIの限界も明らかになりました。
  • 情報発信のサポート(@sherry, @emma)
    • 課題:メルカリの取り組みを伝える長文の記事から、LinkedInのようなSNSに適した、簡潔で魅力的な投稿文を作成するには手間がかかっていました。
    • アプローチ:Gemini (2.5 Flash) を用い、長いメルカリの記事を要約させてLinkedInの投稿を作成する試みを行いました。
    • 成果: AIは記事の要約自体は可能でしたが、内容が冗長になったり、企業の公式アカウントとして適切なトーンでの表現が難しかったりという課題が見つかりました。現状では、複数の草案をAIに生成させ、それを人間が組み合わせて編集するというアプローチが有効でした。
  • 依頼者とのコミュニケーション円滑化(@Eri)
    • 課題:Jiraでいただく通訳依頼に対し、担当者が手動でSlackの担当チャンネルで一次対応を行うプロセスは、手間がかかる上に、JiraとSlack間のユーザー名の照合なども難しいという問題がありました。
    • アプローチ:この課題に対し、「Ellie (GPT-4o)」やZapier、Slack API、Webhookといったツールを組み合わせ、Jiraの依頼をトリガーにSlackで自動的に一次返信する「Booking Bot」を構築しました。具体的には、Jira Webhookを通じて情報を受け取り、Slackのスレッドで依頼者にメンション付きで返信するよう実装しました。
    • 成果:このボットにより、依頼者への初期応答とリマインダーを自動化し、メンションで通知することに成功し、依頼者とのやり取りにかかっていた工数を大幅に削減することができました。
  • ハッカソンを起点とした、継続的な業務改善(@yuko)
    • 課題: 通訳依頼のワークフローが、Slack、JIRA、Googleカレンダーなど、複数のツールに情報が散在し、コンテキストスイッチの負荷やコミュニケーションコストが高いという、根深い問題がありました。
    • アプローチ: 特定のツール開発に絞らず、プロセス全体を俯瞰し、「通訳依頼のワークフローの改善」に焦点を当てました。
    • 成果:ハッカソンでは、JIRAを使わずにSlackで完結するワークフローのプロトタイプを作成しました。このアイデアを元に、現在もチームで理想的なワークフローの実現に向けて議論を続けています。このハッカソンで得た「まず試してみる」という勢いは、後日、AIに相談しながらGASを使い、Interactioで通訳を聞くためのコードが追加された案内スライドを自動作成するスクリプトを短期間で開発・リリースするという、具体的な成果にも繋がりました。ハッカソンでの学びが、その後の具体的なツール開発に直結した好例であり、チーム内でAI活用のモメンタムが続いていることを示しています。
  • AI活用で原文と訳文のフォーマット整形を効率化(@Miguel_RM)
    • 課題:過去に翻訳されたファイルは貴重な資産ですが、多くは翻訳メモリ(TM)で再利用しにくい形式で保存されています 。また、社内で機械翻訳(MT)の利用が広がるにつれ、新しいMTの翻訳と過去の翻訳との間で不統一が生じるという課題にも直面しています。
    • アプローチ:この課題に対し、生成AI(Gemini)を用いて古い原文(Source)と訳文(Target)のファイルを文単位で正確に対応付け、TMで利用可能な統一フォーマットに整形(アライン)するアイデアを検証しました 。これにより、人間の手で修正されたMTの成果物を含め、過去の翻訳資産をTMに効率的に取り込み、一貫性を管理することを目指します。
    • 成果:このアプローチは、手作業だと膨大な時間がかかるアライメント作業を大幅に効率化できる可能性を示しました 。一方で、現状のAIでは大量で複雑なデータを一度に処理することに技術的な限界があることも判明しました 。プロンプト作成には試行錯誤が必要であるという学びもありました 。
  • 働きやすさを考慮した通訳アサイメント業務の自動化(@Shu)
    • 課題:通訳アサイン業務は、チームで定めた稼働時間やアサイン方法などの細かいルールに基づき、日々変動する依頼に対し、限られた通訳者を最適に割り当てる、複雑なパズルを解くような作業であり、担当者の大きな工数を占めていました。
    • アプローチ:この複雑な判断ロジックを詳細な「ルールブック」として言語化し、AIとGASを用いて自動化スクリプトとして実装しました。
    • 成果:このスクリプトは、品質担保のための最低人数ルールや、会議の長さに応じた戦略的なリソース配分、さらには連続アサインの制限や休憩時間の確保といった、通訳者の働きやすさを守るルールまで考慮して判断します。この自動化により、ヒューマンエラーのリスクと工数の大幅な削減に繋がりました。

「効率化」のその先へ – GOTが描くコミュニケーションの未来

今回のハッカソンを通じて、私たちはAIが業務効率化の強力なツールであることを確認しました。私たちは、AIとの協働を通じて生まれた時間やリソースを、より本質的な価値創造へと再投資していきたいと考えています。それは、メルカリのI&Dをさらに強力に推進するコミュニケーション基盤を構築することかもしれません。あるいは、言語の壁だけでなく、文化的な背景やコンテキストの違いをも埋めるような、より高度なコミュニケーションサポートを提供することかもしれません。

今後も、GOTはチーム一丸となってAIの活用を継続していきます。日々の業務改善はもちろんのこと、これまで専門家でなければ提供できなかった価値を、ツールや仕組みを通じて全社に展開していく。そんな未来を目指して、これからも取り組みを続けていきます。

この記事が、皆さんのチームでAIという新しいツールとどう向き合っていくかを考える、一つの参考になりましたら幸いです。

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