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「AI Task Force」で変化を加速する。CTO @kimurasが描くメルカリの成長戦略

2025-10-17

「AI Task Force」で変化を加速する。CTO @kimurasが描くメルカリの成長戦略

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創業12年を迎えたメルカリが新年度テーマに掲げた「Back to Startup」と「AI-Native」。スタートアップ時代の高速な試行錯誤と大胆なチャレンジ精神に立ち返りながら、AIを全ての基盤として組織とプロダクトを抜本的に変えていく――。

こうした変革の中、その一翼を担うCTOはどのように受け取り、考えているのか。現在の構想を、さらに深堀りするため、インタビューを実施しました。

*この記事は取材時の音声をもとにAIツールで構成、執筆を行っています

この記事に登場する人

  • 木村俊也(Shunya Kimura)

    2007年より株式会社ミクシィにてレコメンデーションエンジンの開発やデータ活用に関する業務を担当。そのほか、機械学習を活かした広告開発やマーケティングデータ開発にも携わる。2017年よりメルカリにて研究開発組織R4Dの設立を担当し、AIを中心とした幅広い研究領域のリサーチを担当。その後、AIと検索エンジン領域のエンジニア組織を設立しDirectorに就任、メルカリへのAIの導入をリード。2022年7月より、社内のプラットフォーム開発を統括するメルカリ執行役員 VP of Platform Engineeringを担当。2024年7月より現職。

AI-NativeとBack to Startupの戦略的関係性

—— メルカリは新年度テーマに「Back to Startup」と「AI-Native」を掲げました。それぞれをどのように解釈されているかお聞かせください。

まず、Back to Startupの必要性から説明しましょう。メルカリが継続的に非連続な成長を続けるには、スタートアップ時代のような高速な試行錯誤と大胆なチャレンジ精神が欠かせない。ところが、規模が拡大し、2000人を超えるほどに成長すると承認や意思決定プロセスが複雑化し、スピード感が鈍化してしまいます。これは急速な成長に伴って、避けられない組織課題でした。しかし、AIの登場により状況が根本的に変わりつつあります。

重要なポイントは、AI-NativeがBack to Startupの延長線上に位置することです。単なるAIの技術導入ではなく、組織運営の前提としてAIを位置づける。これにより、Back to Startupで目指していた高速な意思決定と実行力を、規模を保ったまま実現できるのです。

これまでスタートアップが「小規模な組織だからこそできたスピード感」を、大企業でも可能にする力がAIにある。AI-NativeによってBack to Startupがより確実で持続可能なものになります。

—— 「状況が根本的に変わる」とは具体的にどのような変化をイメージされていますか?

AI-Nativeな企業では、職種の境界線が大きく変わります。バックエンドエンジニアがフロントエンドまで手がけたり、プロダクトマネージャーがデザインも担当する——こうした働き方が当たり前となる。従来は専門性の壁により、「フロントエンドは別の人に」「デザインは専門チームに」といった分業が必要でしたが、AIがコーディングやデザイン作業をサポートすることで、一人が徐々に複数領域を横断できるようになります。

その結果、「セルフコラボレーション」とも呼べる新しい働き方が生まれます。従来のコラボレーションは「特定のプロジェクトを共同で進める」形態でしたが、今後はプランニングフェーズで多くの人が議論し、実際の制作フェーズは少数精鋭で一気に進める——そんな二段階構造に進化していく。AIのサポートにより、Back to Startupがより確実で実効性のあるものになっていくでしょう

AIタスクフォース設立の背景と戦略

—— AIタスクフォースの組成と運営方法について詳しく教えてください。

スピードを優先し、数日で組成を決定しました。全社約2000名から100名ほどを選抜し、イネーブラー、オーナー、PGMという3つのロールを定義しています。

イネーブラーは各ドメインのAI推進役、オーナーは業務改善の意思決定者、PGMは全体調整を担当します。重要なのは、これが半年限定の集中投資であることです。事業成長への影響は軽微に抑えつつ、全社業務の棚卸しとROI分析を徹底的に実施します。

Quick Win(短期間で達成できる小さな成功)を創出してモメンタムを作り、各ドメインに自律的なAI活用文化を根付かせることが最大の目的です。完璧を目指すよりアジャイルに進めることが、これからの組織運営の核心であると考えています。

—— 立ち上げた背景と戦略について教えてください。

タスクフォースを立ち上げる約1年前からAIの導入を段階的に進めてきました。LLM活用を目的としたElizaチームから始まり、プロダクトにおける活用が大きく進展。イメージからのリスティング、検索エンジンでの検索結果、レコメンデーション機能などがLLMによって大幅に改善されています。

2024年に入ってからは、gomichanの推進も相まって、AIの活用が爆発的に向上。プロダクト活用だけでなく、業務プロセス全体を改善する大きなポテンシャルが見えてきました。しかし、個別のタスク改善だけでは全社のアウトプット向上にはつながらない。全社でAIを導入して業務プロセスを改善しなければ、Back to Startupのようなスピード感のあるAI活用も実現できません

そこで決断したのが、ビジネスの進捗に一定の影響が生じることを承知の上で、AIに相当量のリソースと予算を投入すること。全社で業務の棚卸しを実施し、特にROIが高いものからAI-Native化を進めています。

さらに、この棚卸し資料さえも今後の重要な財産となります。我々がどれほどAIを前提にリプレイスできるかを示すロードマップのような存在として活用し、半年間の棚卸し後も各業務、各ドメインで継続的に導入を進めていく予定です。なぜなら半年という期間で実現できるアクションは、棚卸しした中でも限られた領域になるためです。

体験の再定義とメルカリの競争戦略

—— 推進組織の立ち上げに留まらず、お客さま体験と働き方体験を見直すとも発表されました。これらは相互に影響を及ぼすものでしょうか?

そもそも働き方を再定義しなければ、全体のアウトプットは増加しない——これが基本的な考え方です。プロダクト改善だけでなく、生産性向上の両輪で進める必要がある。

お客さま体験では、ゼロタップな世界観を目指しています。従来のようにアプリを開いて、カテゴリを選んで、検索条件を設定するという段階的な操作ではない。「スマホをかざすだけで全ての出品が完了」「このブランドのバッグで、平均価格で、あまり使い古していないもの」といった自然な会話だけで商品探索が完結する——それほど大きく体験が変わる世界の実現を目指しています。

一方、働き方においては一人が複数のロールを担当することで、コミュニケーションコストを削減し、意思決定を高速化していく。例えば、開発チームにリーガルやセキュリティの知識を持つ人がいれば、その場でリスク判断が可能。仮説検証のスピードが劇的に向上します。

——様々な動きを刷新していく中で、メルカリ独自の競争優位性はどのように意識されていますか?

まず、マーケットシェアを持つサービスはAI時代においても強いポジションを維持できる。なぜなら、AI時代においてデータとユーザーを既に保有していることは強いアドバンテージだからです。しかし、それだけでは十分ではありません。

メルカリの真の強みは、新しいものに積極的にチャレンジする文化にあります。タスクフォースの働きかけとメルカリの新しいチャレンジを推奨する文化の相乗効果によって、全社でのAIツール利用率がさらに高まりました。これは他社では簡単に真似できない組織的な特徴です。

さらに、学習サイクルの強さとAll for Oneの精神が決定的な差別化要因となります。過去を振り返れば、US展開時は当時の社員の半分以上を派遣し、『メルペイ』設立時は2/3の社員がコミット。こうして大きな変革時に組織全体が一つの目標へ集中する力こそが、メルカリ独自の競争優位であると考えています。

AI時代に求められる人材像

—— 組織が変わり、仕事のやり方が変わっていく中で、これからの時代に求められる人材像やマインドセットについてどうお考えですか。

最も重要なのは「強いWillを持った人」が生き残り、成果を出していけるということ。Willとは、サービスをこうしていきたい、こういう価値をお客様に提供したいという強い思いです。

あらゆるものが最適化された時代になると、一人が10倍以上の成果を出せるような時代もありえます。その時、小さいチームは基本的にみんな強いWillを持った人たちが集まって働くことになります。

言い換えると、リーダーシップを持っていないと活躍しづらくなっていくともいえます。リーダーシップとは、意思決定ができること、将来的なビジョンを描けること。AI時代のスピードの中で成果を出すには、この能力はとても重要となります。

重要なのは、これまでのキャリアのような背景ではなく、こうした能力があるかないかで決まる、ということ。翻っていえば、強いWillさえあればAIが助けてくれるので、誰でも活躍できるようになります。受動的な人と能動的な人の二極化が進むことは避けられないでしょう。

今後は、これまでの経験に加えて、新しい能力を活かす姿勢が必要になってくる。AIとともに働くことで、強い意志を持った人には大きなチャンスが開ける一方で、取り組み方によって活躍の仕方に違いが現れていくことも考えられます。

既存アセットの磨き込みと成長戦略

—— AIがメルカリの成長をどう変えるか、そして描いている未来像について教えてください。

メルカリのような大きなアセットを持つ企業は、そのアセットをとことん追求する方が費用対効果が高い。世の中へのインパクトも大きいと考えています。新規事業の創出も重要ですが、持っているアセットの一つひとつを洗練させたものを丁寧に進めていくことが今後の時代に適しています。丁寧かつ戦略的に新規事業を展開していく——この方が費用対効果も世の中のインパクトも大きい。

では、どのように磨き込むのか。答えは業務効率性の劇的な向上にあります。まず必要なのはマインドの再インストール。「人数がかかるからできない」「予算がかかるからできない」といったこれまでの常識による思考停止から脱却しなければなりません。これからの時代に備えるには「今後は実現可能」という思考への転換が必要です。

例えば、これまで国際展開をする際に、一つの国への展開に30人必要だったものが、現在なら6人で実現できるようなこともあるかもしれません。世界同時展開や全商品への真贋判定など、効率改善によって従来「不可能」とされていたことが次々と実現可能になることがあると思います。

この発想の転換こそが、成長への核心。単なる効率化ではなく、思考の枠組み自体を根本的に変えるインパクトこそ、一つの大きな戦略だといえます。

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