メルカリが今年度のテーマに掲げた「AI-Native」。この組織変革を推進するため、2025年7月に発足したのが、100名規模のAI Task Force(AIタスクフォース)です。
あれからおよそ100日。社内では一体どのような変化が起こり、どのような未来が見えてきたのか。
メルカン編集部の小笠原 弥優(@omiyu)が聞き手となって、タスクフォースと全社のチェンジマネジメントをリードする浅井 宗裕(@mune)に変革の内側から見える景色を聞きました。
この記事に登場する人
-
浅井 宗裕(@mune)
ヤフー社でGYAO!、トップページなどのプロダクトマネジメント、全社戦略策定・社長交代プログラムマネジメントなどを経て、メルカリでグループ戦略・人的資本経営戦略・CEOサクセッション・AI利活用を推進。プロコーチとして、2,000時間超のビジネスコーチング実績も積む。現在はAI戦略推進室長として、タスクフォースと全社のチェンジマネジメントをリード。
-
小笠原 弥優(@omiyu)
Webマーケティング会社でオウンドメディアやコンテンツマーケティング担当を経て、2022年メルカリ入社。メルカンの企画・編集担当を軸として、社内外向けのコミュニケーションプラン策定とプロジェクトマネジメントに従事。PR領域のオーナーとしてAIタスクフォースに参画。
「驚くほど変わった」─急速に進んだAI-Native化
@omiyu: 7月の経営方針発表会で「Back to Startup」×「AI-Native」がテーマとして発表されてから、AIが組織に浸透している実感はありますか?
@mune: あります。omiyuさんも感じていると思いますが、会社全体が驚くほど変わりました。AIタスクフォース(以下、AITF)以前にも社内でAIを活用する動きはありましたが、今ではどのチームも当たり前のようにAIを使っています。
以前は「AIってハルシネーションがあるから怖いよね」といった声もありましたが、今は「その上でどう活かすか」という論調に変わりました。AIを“得体の知れないもの”として扱う人は、もうほとんどいません。
AITF以外でも、社内でAIを使い倒す動きが次々に生まれています。正直、私たちもキャッチアップするのが大変なほど(笑)。それだけ、会社全体がAI-Nativeな状態へと加速していると感じます。

@omiyu: 私も最近、AIを“育てる”ことにハマっています。AIがもう、心の相棒みたいな存在で(笑)。
自分の思考タイプや愛読書を読み込ませることで、ビジネス上の判断軸を理解した回答がもらえるようになりました。「こういう企画を、こういうタイプの人に伝えるには?」といった壁打ちも、夜な夜な付き合ってもらっています。
@mune: わかります。AIはもはや便利なツールではなく、相棒ですよね。そしてこのやりとり会話そのものが、象徴的だと思いますよ。
1年前のomiyuさんなら、やっぱり「ハルシネーション対策はどうするんですか?どこまで情報を入力していいんですか?」とリスクを中心に聞いてきたと思いますが、今では「AIを育てるのにハマっている」ですから(笑)。
@omiyu: たしかに!実際、メルカンの記事制作フローにAIを組み込んだら、編集にかかる作業時間を大幅に削減できました。この記事も、もちろんAIとの共著です。そう振り返ると、私自身もAI-Nativeになってきた気がします(笑)。
@mune: 間違いなくそうですよ。
@omiyu: 私に限らず、AIを過剰に恐れず、共存していこうという空気が社内に広がりましたよね。私が特に驚いたのは、Notionの全社導入です。(編集部注:メルカリはAITF発足の翌月である2025年8月に、「AI-Native」を実現するためのツールとしてNotionの全社採用を決定しました。)
メルカリには長くGoogle Docs文化が根付いていたのに、あっという間にNotionへの移行を判断し、経営の根幹である「経営会議運営」から塗り替えていくとは思ってもいませんでした。
ここまで変化が進んだ理由は、どこにあると思いますか?
@mune: 一番大きいのは、やはり経営陣が本気でAI活用に取り組むと決め、明確な方針を示したことです。
次に、現場がそれを面白がって「やってみよう」と盛り上がったこと。
そして最後は、その挑戦をしたメンバーがしっかり報われる「人事制度」を整えようとしていること。
チェンジマネジメントに必要な3つの要諦(「行動」「醸成」「報酬」)を、愚直に押さえていることだと思います。
33領域のロードマップからみる生産性向上ポテンシャル
@mune: AITFとしては、まず会社全体を33の領域に分け、業務を棚卸ししました。自分たちの業務をあらためて俯瞰し、本来あるべき姿から逆算し、「AIに任せることでレバレッジが効く領域」を特定。全領域について”AIロードマップ”を9月末までに策定しきりました。
メルカリは毎年経営ロードマップを策定していますが、ここまで細かい領域ごとに、まんべんなくロードマップが描かれたのは初めてのことです。
すべての領域で「AIという変革の時代に、自分たちはどうありたいのか、そのためのキーアクションと排除すべきブロッカーは何か」を言葉にし、共通認識にできたことが、大胆なチェンジマネジメントの確かな原動力になっています。
@omiyu: AIに任せることでレバレッジが効く領域として、特にポテンシャルが高い領域はどこだったんですか?
@mune: やはりソフトウェア開発領域ですね。メルカリはもともとエンジニアの人数が多く、まずはコードアシストツールの導入によって開発生産性が飛躍的に向上します。さらに、AIを前提にすることで、ものづくりのプロセス自体が抜本的に進化すると考えています。
今まさにエンジニアたちが、夢中になってこのプロセス再構築に取り組んでいます。具体的には、コード生成においてはすでに約70%をAIが担っていて、その結果、開発スピードは前年比で64%も向上しました。
ほかにはカスタマーサポート領域でも、組織を上げた変革が進んでいます。
@omiyu: PR領域でもロードマップを作るときに、「せっかくならネジを外して発想してみよう」とブレストから始めました。結果的に思考が整理されただけでなく、自分の想像以上に大きな理想像を描くメンバーもいて、たくさんの発見がありました。
私たちにとっては「イネーブラー(Enabler)」の存在も大きかったです。AIのバックグラウンドを持つプロダクトサイドのエンジニアが全領域に配属され、業務理解からAI代替の設計、PoCの実装までリードしてくれました。
AIがなければ関わらなかったようなタレント同士が混ざり合い、新しい化学反応が生まれたと感じます。
社員一人ひとりが複数のAIエージェントを従える世界へ
@omiyu: これから、さらにどんな変化が待っているのでしょうか?
@mune: これからのメルカリは、社員一人ひとりが複数のAIエージェントを従え、AIと協働しながら、より速く、より質の高い意思決定を行うようになります。もともとメルカリは、「質」と「スピード」を両立させた意思決定を目指している組織です。
しかし、これまでの多層的な承認プロセスや分散したナレッジは、判断の遅れや調整コストを生む要因にもなっていました。
AIは、こうした構造的な課題を根本から変える力を持っています。膨大な情報を瞬時に整理し、背景や根拠、複数の選択肢を提示することで、組織全体の判断をより速く、より的確に導けるようになります。
これまでの「メンバーが提案し、上長が決める」という役割分担は、これからは「AIエージェントとメンバーが協働して決める」スタイルへと進化していくでしょう。
その中で、上長の役割も変わります。「不確実性に向き合うこと」や「人間同士の信頼を紡ぐこと」こそが、これからのマネジメントの本質になります。すでにAIは、会議内容の自動文字起こし・要約・共有を担い、情報の透明性を飛躍的に高めています。
今後は、財務や人事といった機密性の高い領域も、セキュリティとガバナンスを確保したうえで「AI-Readable(AIが読める状態)」にしていきます。それが実現すれば、経営やマネジメントのあり方は、よりダイナミックで、エキサイティングなものへと進化していくと思います。
@omiyu: なるほど、これが、私たちがAIタスクフォース発足100日後に見据えている景色ですね。これからの変革が、ますます楽しみです。
@mune: やっていきましょう!






