2025年11月13日、メルカリグループの技術の粋と未来への挑戦が一堂に会したテックカンファレンス「mercari GEARS 2025」が開催されました。

TODA HALL & CONFERENCE TOKYOを舞台に、2018年の実施から7年の時を経て開催された本イベントは、従来のカンファレンス形式をアップグレードし、一方的な発表ではなく「交流」に重きを置くことを最大のコンセプトに。交流を促すため、ディスカッション形式のセッションやアンカンファレンス、ポスターセッションなど、多様なコンテンツを展開しました。

社内外のエンジニアが活発に知見を「交換」し、議論を通じてメルカリの技術の未来を進化させる、熱気に満ちたオフラインイベントの様子を詳細なレポートでお届けします。

メルカリCTO 木村俊也による〈Keynote〉

「Passion Stage」で最序盤に設けられたのは、木村の〈Keynote〉。満員の会場を前に、メルカリのエンジニアリング組織が辿ってきた歴史を振り返りつつ、現在の最重要戦略である「AI-Native Company」への進化について語られました。

その一部をダイジェストしてお届けします。

過去の挑戦と、AI-Nativeへの決意

2017年のメルペイ設立以降、私たちはマイクロサービス化、グローバル採用の推進、そしてモバイルとWebのフロントエンドをゼロから作り直したプロジェクトなどを通じ、常に開発基盤を強化してきました。木村は、この積み重ねの上に立って、AIという巨大な波に挑むと宣言しました。

すでに社内のAI活用は進んでおり、コード生成の約70%をAIが担い、開発スピードは64%も向上しています。しかし、木村は「この状態はゴールではない」と断言。AI-Nativeとは、人間の時間や集中力といった制約を前提とした従来の設計を捨て、実現したいビジョンから逆算して組織と仕事を再設計することだと定義。

変革の前提：「コンテクスト」の整備

AIを真の「創造的なパートナー」にするために、私たちはまずナレッジマネジメント、すなわち「コンテクスト」の整備に取り組んでいます。意思決定の背景や目的といった散在した暗黙知を、AIが活用できるようNotionへ全社的に集約・構造化し、AIによるタスクの再現性と速度の向上を目指しています。

開発プロセスを変えるプロジェクト群

AIのポテンシャルを最大限に引き出すため、開発プロセス自体を根本から見直しています。

1. ASDD（Agent-Spec Driven Development）の導入：生産性を2倍にすることを目標とする「Doubleプロジェクト」では、ASDDという新しい開発標準を推進しています。これは、AI Agent向けにAIフレンドリーな仕様書フォーマットを定義するもので、API定義、テストシナリオ、具体的な実装手順までを細かく明示します。これにより、個人の感覚に頼る”Vibe Coding”から脱却し、誰がAgentを使っても同じ品質が担保される「再現可能なプロセス」を確立します。
2. PJ Aurora：ASDDのSpecを入力として、メルカリ独自のデザインシステムを活用し、UIを自動生成するAI Agentの開発がPJ Auroraとして進行中です。

全社ワークフローのAgent化

開発速度が上がっても、リーガルやセキュリティチェックがボトルネックとなっては意味がありません。全社のワークフローをAI Agent化することが必要不可欠です。

このAgenticな働き方の可能性を、いち早く社内に示したのが、社内BIのAI Agentである「PJ Socrates」です。専門知識が必要だった複雑なデータ分析を、自然言語で依頼するだけで実行できるSocratesは、AIが意思決定をサポートできることを証明しました。

この流れを受け、全社的なAI化を担う「AI Task Force」が2025年7月に発足しました。リーガル、ファイナンス、HRなど33の専門領域を対象に業務の棚卸しを実施し、約4,000のワークフローを定義。このタスクフォースからは、「Mercari Review Assistant」（GPTsで構築）というキャンペーンの法務・CSレビュー時間をおおよそ2日かかっていたものを瞬時に完了させるような具体的な成果が生まれています。

未来の顧客体験：Mercari MCP

最後に木村は、メルカリのサービス自体を進化させる「Mercari MCP」（共通の接続基盤）を紹介しました。

これは、ChatGPTやClaude Codeのような外部のAIエージェントが、自然言語でのリクエストを受け取り、裏側でMercari MCPを介してメルカリの機能（認証、検索、出品など）を操作できるようにする仕組みです。デモでは、AIに「実家のおばあちゃんにニット帽をプレゼント」と指示するだけで、AIが文脈を理解した検索結果を返す様子が示され、メルカリに慣れていないお客さまでも簡単に利用できる大きなポテンシャルを強調しました。

木村は、AI-Native Companyへの変革は「Customer Centric（お客さま中心）の究極の形」であり、より本質的な価値創造に集中するためのものだと結びました。

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最後にMercari MCPを体験できるQRコードを紹介したのち、挨拶へ。

「この『mercari GEARS 2025』は”発表者だけでなく、参加者全員が主役になれる場”を目指しています。コミュニケーションエリアやポスターセッションを通じて、ぜひ発表者との対話を深めてください！」と講演を締めくくりました。

当日の模様を写真でレポート

ここからは、当日の熱気に溢れた会場の様子を写真とともにお届けします。

開幕早々、人で賑わう「ポスターセッション」コーナー。研究テーマにまつわる質問も、技術的な問いかけもあり常に踏み込んだ会話が飛び交っていました。

さらに、セッション以外の工夫も充実。会場で配布されたノベルティやスタンプラリーはぜひ以下と合わせてチェックしてください。

「Unconference Area」は、参加者が持ち寄ったトピックを中心に置いて、自由に言葉を交わす場所。トピックを通じたコミュニケーションが盛んに行われていました。

「COLLABORATION Lounge」内で常に賑わいを見せる「Ask The Speaker」コーナー。登壇者とカジュアルに会話を交わせるこのエリアでは、発表が終わるたびに人が押しかけ、次々に質問する姿も。壁に描かれた言葉一つひとつにもその熱量が刻まれていました。

さながらニュース番組のセットのような「Grow Stage」と、コンパクトながらも様々なプロジェクト・取り組みが次々と発表される「MECHANISM Stage」。どこへ移動しても熱心に聞き入る人の姿と、発表後に楽しげに会話する様子で溢れています。

…

あっという間にカンファレンスも終了の時刻に。
総勢70名以上で集合写真を撮影し、7年ぶりのカンファレンスは幕を下ろしました。

最後に

今回カンファレンスに参加して最も感じたのは、会場全体の「熱量」でした。 「交流」に重きを置いたイベントだったこともあり、ただ話を聞くだけではなく、私たち参加者自身が主役となって、会場のいたる所で新しい「つながり」が生まれる瞬間に立ち会えました。

イベントは終わりましたが、ここでの出会いや会話はゴールではなく、むしろここからが新しいスタートだと感じています。また次回のカンファレンスで、皆さんと再会できることを楽しみにしています！