
2026-3-30
積み上げた暗黙知をAIに載せ、仕組みで届ける(データエンジニア @hira)ーYurinoの「先輩、ちょっといいですか?」vol.6
メルカリが掲げる「AI-Native」の実現に向けて、すでにほとんどのメンバーがAIを日常業務に取り入れはじめています。しかしながら、メルカリが真に目指したい「AI-Native」はどのような状態・人を指すのか、理解しきれていない方もいるのでは。
メルカリの「AI-Nativeな人」は一体どのようにAIを活用しているのか。内定者でAI Task Force運営にも携わる @Yurino のインタビュー企画『Yurinoの「先輩、ちょっといいですか?」』で、第6回に話を聞いたのは、2026年1月からJapan Businessのエンジニアリング組織に異動し、現在はデータエンジニアとして「貯める・整える・使えるようにする」仕組みづくりを担う @hira。 AIを活用しながら見えてきたのは、「分析する人」から「分析思考をパターンに変える人」への進化でした。単に効率を上げるのではなく、思考の「パターン」を仕組みに載せる。その挑戦の背景と現在地を聞きました。
この記事に登場する人
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平山 智香子(@hira)
2018年東京大学経済学研究科マネジメント専攻を修了後、株式会社コロプラに入社し、新規事業開発としてバーチャルYouTuber事業に従事後、データアナリストに転身。株式会社ミラティブを経て、2023年より『メルカリShops』のデータアナリストとして入社。以降2年ほど『メルカリShops』および、配送やマーケットプレイス事業のデータ分析を担当。2025年夏頃からチーム全体のAI・データ活用の仕組みづくりに専念し、2026年1月からはエンジニア組織のデータエンジニアとして従事。
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堀内 ゆり乃(@Yurino)
上智大学外国語学部英語学科4年。2026年度新卒としてメルカリに入社予定のインターン生。2024年10月に新卒採用チームでインターンとして入社後、現在はAI/LLM OfficeにてAI Task Forceの運営に関わる。趣味はドラム演奏。
単に数字を出すだけの役割ではない、データアナリストの仕事
@Yurino: hiraさんは普段、アナリストとしての業務の中でどんな場面でAIを活用されていたのでしょうか?
@hira: 一番AIを使っていたのは「正しい問いを立てるための思考整理」です。
よく「このデータを出してほしい」という依頼をもらっていたのですが、そのリクエストに対して、なぜその数字が必要なのか/どんな意思決定につながるのか、を捉えることを大事にしていました。そのため、AIでNotionやSlackのやり取りを整理し、施策の背景や文脈を理解した上で、本当に必要なデータを提案していました。場合によっては、「この施策に本当に必要なのは、別のデータなのではないか?」と整理することもありました。まず「何を実現したいのか」を理解することが、アナリストとしては欠かせないと考えていました。

@Yurino: AIで文脈を素早く理解できるようになったからこそ、一歩踏み込んだ分析の提案ができるようになったんですね。hiraさんがAI活用を始めたきっかけも教えてください!
@hira: きっかけは、クエリ(データを抽出するためのコード)の書き間違いなど、ケアレスミスを減らしたいと思ったことでした。GitHub Copilot(コードを提案してくれるAIツール)を使うことでコードの補完ができ、ミスの削減だけでなく作業自体も効率化されました。そこからコーディング以外の背景把握やドキュメント作成などの業務全体にも活用を広げていきました。
@Yurino: AIによって、分析の進め方や成果にも変化がありましたか?
@hira: 大きく変わったのは、アウトプットのわかりやすさです。これまでは、自分の頭の中だけにある伝えたい内容を、そのまま書いたり話したりしてしまい、相手にとってわかりづらい伝え方になってしまうことがありました。AIツールを使って、PdMのメンバー向け、セールスのマネージャー向けと、相手に合わせて文章の構成や表現も調整することで、伝わりやすさが向上しました。AIが苦手を補ってくれることで、より本質的な分析や提案に集中できるようになったと感じています。
@Yurino: 個人でAIを活用するだけでなく、組織としての活用も推進されているとおっしゃっていましたが、生成AI推進の取り組みの中で、特にインパクトが大きかったものはどのようなものでしたか?

@hira: 最もインパクトが大きかった取り組みは、ABテストの自動化です。新機能をリリースする際には、「新機能を追加した画面」と「これまでと同じ画面」を同一条件で比較し、購入率などの主要指標が改善しているかを検証します。従来のABテストは、指標作成やモニタリングを手作業で行っており、多くの時間がかかっていました。そこでアナリスト自身が指標を登録できる仕組みが提供されていたのですが、非エンジニアには取っ付きづらいものだったので、私がAIを使って使いやすくする仕組みを用意しました。さらに、その指標をもとに、深掘り分析用のクエリ(データ抽出用の指示文)もAIで自動生成できるようにしました。「指標を登録すれば、判定から深掘り分析まで一気通貫で実行できる」状態を実現できたことが、最大の変化だったと考えています。
データアナリストとして積み上げた知見を、データエンジニアとして組織の「仕組み」に変える挑戦
@Yurino: AIがここまで分析をサポートできるようになると、データアナリストの存在意義も変わってきそうですよね。今後アナリストの役割はどう変わっていくと思いますか?
@hira: アナリストの役割は、「分析する人」から「分析のパターンを仕組みに載せる人」へ変わると思っています。AIにより誰もがデータを扱えるようになると、これまで積み上げてきた「アナリストの考え方のパターン」が活用されないまま、質の低い意思決定に使われてしまうリスクがあります。そうなると、一見素早く物事が進んでいくように見えても、必要な意思決定に辿り着けない以上、結果的な効率は落ちてしまいますし、知見も活かされません。
例えばGMV(流通取引総額)分析にも、分解の切り口や仮説の立て方など暗黙の「パターン」があります。この思考プロセスこそが分析の価値なので、それをパターンとして言語化し、再現可能な形にすることが重要です。AIにできない思考を磨き、それをAIに載せられるパターンに変換し、個人の武器ではなく組織の共有財産にする。それが、これからのアナリストの役割になっていくと考えています。
@Yurino: 頭の中にあるパターンを「AIで再現できるように変換する」ことが重要になっているのですね。AIにできない思考とは、具体的にどのようなことでしょうか?
@hira: 大きく分けると3つあります。
1つ目は、「データをつくること」。 AIは与えられたデータしか扱えないため、そもそもデータがない場合は、データ収集の仕組みから設計する必要があります。たとえば、お客さまの気持ちを知りたいなら、アンケートを設計して取得する、といったところから始まります。
2つ目は、「何をどう測るかを定義すること」。 データをどの指標で分解・評価するかを定義しなければ、AIも正しく分析できません。 例えば目標自体はGMVでも、それを伸ばすためには、人数と一人当たりの額のどちらが大事なのか……とネクストアクションを検討するには、まず指標を分解できていなければいけません。
3つ目は、「優先順位をつけること」。 AIは結果を示すことはできますが、何を最も重視するかという判断は人が担うべき役割です。 例えば、違う部署の目標同士がぶつかった際に、どう落とし所をつけるか、などです。 この3つが、AIに教えなければいけない思考だと思っています。

@Yurino: 分析の前段、つまり「何を集め、何を重視するか」が重要なのですね。
@hira: そうです。今までアナリストが培ってきた暗黙知をパターン化し、AIに載せる仕組みを作る必要がある。そう思って、今年の1月にエンジニア組織に異動しました。「データをつくる・定義する・優先順位をつける」のがアナリストの仕事だとすれば、それをパターン化した上で仕組みに落とし込み、組織全体が使えるようにする。それがいま自分が担っているデータエンジニアの役割だと思っています。
@Yurino: データエンジニアとして、これから挑戦したいことは何ですか?

@hira: 大きく言うと、「データの定義」だけでなく、「どう考えるか」までを仕組みに載せることです。現在は、『メルカリShops』の個々のセラーさまの売上の変動の原因を自然言語でレポートする仕組みづくりを進めています。ただ数値を出すだけでなく、「このような数値変動の場合には、このネクストアクションを検討する」という評価の基準まで組み込み、誰でも同じ視点で判断できる状態をつくりたいです。
例えば、セールスのメンバーが『メルカリShops』で数百店舗を担当している場合、すべてのセラーさまの動きを毎月細かく確認するのは難しい。そこで、注視すべきセラーさまとその要因を自動で抽出し、次にセラーさまに提案するべきアクションを提示する。「どこを見るべきか」まで提示できれば、現場の意思決定はもっと速くなるはずです。ポイントとしては、データエンジニアとして提供するのは仕組みだけで、注目するべき点や提案の仕方については、セールスやサポートするデータアナリスト自身で改善していけるように支援しています。思考の「パターン」をAIに渡し、組織全体で再現できるようにする。それが、データエンジニアとしていま挑戦したいことです。
AI-Nativeとは「思考のパターン」を再現可能にすること
@Yurino: @hiraさんにとって「AI-Nativeな人」とはどんな人でしょうか?
@hira: 自分の思考や判断の「パターン」を言語化し、AIで再現できるよう仕組みに載せられる人です。AIは、与えられた枠組みの中では非常に心強い存在です。だからこそ大切なのは、まずAIにできない思考の部分を磨き、それをAIありきのパターンに落とし込む。そして、自分だけでなく他の人や他部署でも使える形に広げられる人。それが本当の意味でのAI-Nativeだと思います。
@Yurino: 最後に、これからAI活用に挑戦しようとしているメルカリメンバーに、メッセージをお願いします!
@hira: まずは、自分の業務を「AIに任せるとしたらどう分解できるか?」と、考えてみてほしいです。日々の繰り返し作業や判断基準をパターンとして言語化するところから始めるのがおすすめです。その上で、ぜひそれを、AIを使って他の人にも再現可能な形にしてみて欲しいです。他の人に使ってもらうと、意外と言語化が足りていなかったポイントにも気づいたりします。
メルカリのみんなでAI-Nativeになっていきましょう!

撮影:タケシタ トモヒロ




