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“BoldなAI活用”から1年。人間の限界を超えていく、メルカリの「AI-Native」な現在地

2025-12-9

“BoldなAI活用”から1年。人間の限界を超えていく、メルカリの「AI-Native」な現在地

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2024年10月、メルカリはAI/LLMによる技術革新を事業の中心に据え、「AI-Led Growth Company」を目指すビジョンを掲げました。あれから約1年。AI活用は着実に進展し、今や全社を巻き込む大きな波となっています。

この間、技術的な進歩はもちろん、組織としての考え方、働き方、そしてプロダクトのあり方まで、メルカリを取り巻くあらゆるものが変化してきました。具体的な構想が実行フェーズに移り、トップダウンとボトムアップが融合し、専門性を持つ全てのメンバーがAI活用に取り組む——そんな新しいフェーズへと突入しています。

前回の対談から、約1年。メルカリのAI活用はどこまで進んだのか。そして、これから目指す「AI-Nativeな組織」とは何か。株式会社メルカリ 執行役SVP of Japan Businessの山本真人(@mark)、執行役員 CTO Japan Businessの木村俊也(@kimuras)、そして「生成AI頑張るぞ担当」として推進に尽力し現在はAI Strategyチームのハヤカワ五味(@gomichan)に、これまでの軌跡と、これからのビジョンを聞きました。

この記事に登場する人

  • 山本真人(Masato Yamamoto)

    2004年 東京大学大学院 学際情報学府 修士課程修了。NTTドコモを経て、2008年よりGoogle JapanのEnterprise部門 Head of Partner Salesを務める。2014年にはSquare JapanにてHead of Business Development and Sales、2016年からはApple JapanにてApple Pay 加盟店事業統括責任者を務める。2018年4月にメルペイに参画し、CBOとして金融新規事業(Credit Design)や加盟店開拓など、ビジネス全般を担当。2022年1月よりメルペイ代表取締役CEOに就任し、2022年7月よりメルカリ執行役員 CEO Fintech、2023年11月よりメルカリ執行役員 CEO Marketplaceを兼務。2024年1月よりメルカリ執行役 SVP of Japan Region 兼 CEO Marketplaceに就任。2025年3月よりメルカリ執行役 SVP of Japan Region。2025年7月より執行役 SVP of Japan Business。

  • 木村俊也(Shunya Kimura)

    2007年より株式会社ミクシィにてレコメンデーションエンジンの開発やデータ活用に関する業務を担当。そのほか、機械学習を活かした広告開発やマーケティングデータ開発にも携わる。2017年よりメルカリにて研究開発組織R4Dの設立を担当し、AIを中心とした幅広い研究領域のリサーチを担当。その後、AIと検索エンジン領域のエンジニア組織を設立しDirectorに就任、メルカリへのAIの導入をリード。2022年7月より、社内のプラットフォーム開発を統括するメルカリ執行役員 VP of Platform Engineeringを担当。2024年7月より執行役員 CTO Japan Region 兼 General Manager Japan Region Platform。2025年3月より執行役員 CTO Japan Regionに就任。2025年7月より現職。

  • ハヤカワ五味

    2015年頭に株式会社ウツワを創業後、ランジェリーブランド『feast』、フェムテック事業『ILLUMINATE』など、多数の事業を展開。2022年3月にはユーグレナグループに参画し、はたらく女性向けの新規事業開発に取り組む。24年4月に退職後、2024年7月にメルカリにジョイン。生成AI推進を担当。

生成AIが「イチ機能」から「全員の日常」へ

@gomichan:去年10月の記事から約1年が経ちました。振り返ってみて、どんな変化がありましたか?

@mark:大小さまざまなものが変わったという感じがしています。AIの技術的な進歩という意味でも、この1年は大きく変わった期間でした。それに向けて、組織としての考え方を変えていくという部分でも変わったし、会社の方向性として決めたロードマップも変わった。この領域を取り巻く大きなピースが動いた感じがしますね。

@kimuras:当時話した時は、AIの導入で盛り上がり始めたタイミングでしたが、まだ具体がなかなか伴いにくかった時期だったと思います。でも今年に入って、その内容が具体的に決まってきて、全社でどう導入していくかという構想が、実行できる段階になってきました。全社になかなか浸透しきれなかった盛り上がりが、トップダウンとボトムアップが揃ってきたことが一番大きな変化だと思います。

@gomichan:実際、昨年末の段階では「ここからどうなるんだろう」という感じもあったんですが、年末年始を開けてから、すごい勢いで動き始めましたよね。

@kimuras:年末年始のタイミングで、一人ひとりが自分ごとに考えるようになったからこそ、Slack上でも、X上でも、社内外含めて、利用を感じさせる投稿が増えたり、新しい情報をシェアしたりすることが増えました。環境的なものと社内的なものが複合的に絡んで、盛り上がっていったんです。

@gomichan:実は弊社内のAIトレンドって、これが1回目ではないんですよね。社内のSlackに、過去のAIトレンド時に作られたスタンプが残っているのを見かけました。以前から在籍している方の中には、過去のAIブームを経験していることもあり、「今回も一時的な盛り上がりなのでは」という見方もあったかもしれません。
しかし、今回の動きはこれまでとは明らかに様相が異なっています。過去のAIトレンドと比べて、今回はどのような点が大きく違っているのでしょうか?

@kimuras:一番最初の盛り上がりは2017年後半です。ディープラーニングが話題になって、AI出品やTrust and Safetyでの違反出品検知など、プロダクト活用という意味では一定のモメンタムは保っていたんですが、全社として見た時にはやはり一部だったんです。

当時のAIは、マシンラーニングエンジニアなど専門知識がないと活用しづらいもので、専門的な知識がないと活用しきれなかった。そういう意味で、全社的な共感を得るのは難しかった時代でした。

@mark:今回は取り組み方や取り組む対象自体が大きく変わっているんです。過去にはAI与信やAI出品など、プロダクトサイドでは積極的にAIを取り込んでいました。でも今起きているのは、それとは違う。社員、お客さま、みんなのものになっているんです。会社全体を巻き込むうねりが起きている、というのが大きな違いだと思います。

@gomichan:これまではプロダクトを支える一技術でしたよね。それも重要ですが、あくまでお客さまに向けてのもので、我々の働き方の話ではなかった。今回は自然言語でやり取りができる生成AIだから、お客さまも、メルカリを作る側の私たちも、全然体験が変わってくる。だからこそ、この大きなうねりができているんだと思います。

トップダウンの意思、ボトムアップの熱狂

@gomichan:特に大きく流れが変わったタイミングは今年の2月くらいだと思っています。ChatGPTのDeep ResearchやClaude 3.7 Sonnetなど新しいモデルが出て、「便利だけど嘘をつく」という状況から「これは結構いけるかもな」という感じになった。技術の変化によって、業務に明確に耐えるようになってきたのが大きなターニングポイントでした。

@gomichan:3月にCursorの全希望者への配布がありましたが、あのタイミングはどうでしたか?

@kimuras:去年の時点で不安があったのは、やはりハルシネーションです。重要な意思決定では使えない、重要な要約で内容を間違えるリスクがある、コーディングでも問題がある——そういう声がありました。ですが、使っていくうちにみんな慣れてきたんだと思います。LLMは今でもハルシネーションがありますが、それでも便利に使えるようになったり、ハルシネーションのリスクを理解したうえで生成し業務に活用させることに慣れてきた。
3月の段階でCursorをみんなで使おうと提案した時は、そこまで使ってくれるのか、ちょっと不安でした。まだ信頼していない人も多かったし、業務に取り込むことに一定のリスクがありましたから。ただ、100%使うぞという目標を立てて、全員に配布してみたら、思いの外、みんなかなり使い始めてくれたんです。

@gomichan:私も想定外でした。それ以前は、エンジニアの方でも「自分が書いた方が早くない?」という声が多かったように思いますが、いざ始めてみたら結構活用されていて、すごいことになっていると思いましたね。

@mark:これは本当に驚きでした。トップダウンが効いたというよりは、ボトムアップもすごく強かったんです。

あらゆるロールの人——エンジニアも、エンジニアマネージャーも、VPも、みんなが使っていこうというモメンタムが、このタイミングでがっちりはまった。今までの準備と、技術がたまたまこのタイミングで整ったことで、ほぼ100%に近い人たちが一気に使い始めました。さらに驚いたのが、いろんなハッカソンが自発的に始まったことです。

@gomichan:自発的な勉強会があらゆるところで起きていた時期でしたね。

@mark:当時、LLM のみを使用して開発を行うイベントなどが、自発的に実施されていました。あそこから得られた学習は、あまりに大きかった。課題がわからないと有効活用できないので、現場で推進が始まったのは嬉しい驚きでしたね。

また、急にみんながバッと使い出したように見えますが、実は非連続ではないんです。昨年の10月以降、地道にエンジニアだけでなく、営業やカスタマーサービスなど各部門の人たちに「AIってこういうもので、こう使えるんだよ」と伝えてきました。そういった問いかけが積み重なっていった結果、ボトムアップとトップダウンが同時に揃って、うねりができたんだと思います。

数年越しの「倫理」と「基盤」が武器になった

@gomichan:実際の活用が注目されやすいですが、それ以前の仕込みも重要だったと思います。セキュリティチームのガイドライン整備、AI倫理の取り組み、データ整備など。木村さんから見て、どういった仕込みがあったと振り返られますか?

@kimuras:AI倫理については、生成AIが出る前からかなり議論していました。生成AI登場後、リスクについての議論が世界的にさらに盛んになりましたが、メルカリでは4年ぐらい前から取り組んでいたんです。

AIが差別を助長してしまったり、マシンラーニングの判定結果に公平性がないといった議論は世界中でありました。そのため、メルカリでも、プライバシー侵害をしないためにAIをどう使うか、リスクがあった時にチェックする体制をどう作るか、ずっと議論を重ねていたんです。そうして、理論を作り、ガイドラインも作ってきた。このような下地があったから、今、Open Door(社内に開かれたイベントのこと)でAIのリスクやメリットについて議論が盛り上がっているんです。

下地がなかったら、いきなり「AIのリスクについてオープンドアやります」と言っても、人が集まらなかったと思います。継続的にやってきて、将来を見越して諦めずに続けてきた担当メンバーたちには感謝しています。

データ基盤の整備も同様です。何年もかけて整備してきた基盤があったからこそ、今、ビジネスでAI活用を推進しているSocratesのようなツールが一気に会社で使われるようになったんです。

メルカリではマシンラーニングが流行っていた時代から、ずっとAI活用を推進してきました。何年もかけた連続的な取り組みによって、全社を巻き込むうねりから波ができたのではないかと思います。

ROIは罠、人間中心からAI中心に組織を再設計

@gomichan:ではその波は、どのような変化を起こすと予想されているのでしょうか?

@mark:現在は、AI-Nativeという言葉を用いて、大きなテーマとして取り組んでいます。AIをただの表層的なツールとして使うのではなく、AIを基盤にして考えるとどうなるかというアプローチです。小手先でツールとして使おうとすると、今のやり方に合わないということで終わってしまう。発想を全く逆にするアプローチが重要だと思っています。

大きい波にするには局所ではなく全体にしなければいけない。プロダクトを変えよう、人を変えよう、そして組織を変えよう——この3つの大きな柱を、AI-Nativeに作り替えていきます。

@kimuras:各種取り組みによって、現状でも数字としてはかなり成果が出始めています。 例えば、今年7月時点で社員の95%が何らかのAIツールを使用していますし、開発スピードは前年比で64%も向上しました。でも、私たちはこの状態をゴール、つまり “AI-Native” だとは考えていないんです。むしろ、ここからが本当の変革のスタート地点だと捉えています。

@gomichan:ここからがスタート、ですね。「本当の変革」とは、具体的にはどのようなことを指していますか?

@kimuras:はい、「本当の変革」とは、発想の根本的な転換のことです。 これまでの仕事や組織って、どうしても人間の処理能力などを前提とした「人間中心(Human-Centric)」で設計されてきたじゃないですか。

でも、AIが前提にある世界では、その出発点が根本的に変わり「私たちが実現したいビジョン」や「お客さまに届けたい価値」から逆算して、組織や働き方を設計できるようになる。

つまり、AIを単に既存のワークフローに当てはめるのではなく、「何を実現したいのか」を出発点にして、最適な仕組みやチーム、意思決定プロセスを再構築していく。 これが、私たちが目指す本当の意味での “AI-Native” な姿なんだと思います。

@gomichan そうやって我々が目指すべき姿に焦点を当てつつ、変革を進めていくと。逆に注視している点もありますか?

@mark:波の高さをどうやって高めるかを明確に意識したいと思っています。波は逆の波が来ると打ち消し合ってしまいます。だからマイナスの波や逆の波をいかに作らないようにするかが、波を高く保つ意味では大事です。

短期的には、AI推進の予算を事業が出さなくて良いようにすること。そして、プロダクトの優先順位とAI導入の優先順位を明確に分離することです。AI導入は絶対やらなくてはいけないし、やることで既存事業に悪影響を及ぼさない状態にする。「やるかやらないか」という判断はしないでいいという状態にするのが、マイナスの波を作らない意味で重要な意思決定です。

@kimuras:ROIは罠なんですよね。短期的にやる・やらないを決めるのではなく、もうやるのは決まっている。どうやるとよりうまくいくのかということしか考えない状態でやらないと、「やめた方がいいんじゃない?」とマイナスの波ができあがってしまいます。この1年を通して、PoCや確認すべきところはしっかり丁寧に確認した上での「AI-Native」です。その決断がある以上、最後までやりきるという意思を感じます。

「楽しさ」が加速させる、AIとの共創環境への変革

@gomichan:最後に、メルカリとして今後「更なる変革」を起こすために、重要となってくるものは何なのでしょうか?

@mark:「AI中心(AI-Centric)」に様々なものを捉え直す、ということなのだと思います。AIを何かとの置き換えで考えている限りは限界があるんだと思います。そうじゃなくて、AIベースで組み立てると、そもそも組織としても、仕組みとしても、人がやることとしても全部変わるという前提で組み上げ直すことが重要です。

その時にやはり社内のアセット(=専門知識)を使いきらないと次のステージには行けない。メルカリにアドバンテージがあると思っているのは、全社を巻き込んで進められている点です。例えばリーガルやファイナンスの専門知識”だけ”では、次のステージになかなか行けない。そこにエンジニアの専門知識を活かしてうまく組み合わせることで、抜本的に仕事のやり方を変えられるような仕組み作りができるようになります。

@kimuras:さらに前へ進めるためには、楽しさも結構重要だと思っています。勉強と一緒で、分かってくると楽しくなる。苦しい時期を乗り越えて、初めて全社でツールとして使ったり楽しめるというところに至ったのが、一つのポイントでした。これからもトップダウンだけで締めつけるのではなく、一人ひとりが生成AIのメリットを感じたり、それを楽しんで新しい業務体験を考えてもらうことが重要です。

@mark:実際に楽しんでいる人の事例がすごく出てきていることが、すごくいい現象だと思っています。楽しい人ほどそれを言いたくなるし、宣伝して沼に沈めようとしてくれますからね(笑)。エンジニアだけじゃなく、HRやカスタマーサービス、リーガル、デザインなど、直接エンジニアリングをやっていたわけではない人たちから「自分でこれやったらこんなことができた」という熱量や楽しさが出てきているんです。

@gomichan:結局、楽しんで没頭して興味を持つのが一番の近道ですよね。メルカリ社内の人がこの技術に興味を持って存分に楽しめたというのが今に繋がっていると、あらためて認識できました。

写真:タケシタ トモヒロ

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